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月を知ろう

月に関する研究発表
第2回パネルディスカッション「月面車」


No. 16 2001年01月18日【木】15:05 市川 誠
市川です.

東京都在住の男性より,月探査ミッション,そしてローバによるミッションに関してコメントをいただきましたので,原文のまま,紹介させていただきます.

* * * * * ここから * * * * *

科学的、工学的目的それぞれ挙げられていますが、一般的な観点からしますと、これらの目的の前にまずこれまでの国内外の月探査ミッションで何がとこまでわかっているのかを整理しないとなかなか議論に参加できないなぁ、と感じました。実際、自分の浅薄な知識は議論できるレベルに達していないのです。

しかし、表層の探査にしろサンプルリターンにしろ、既に1960〜1970年代に人間が実際に月面まで足を運び地球まで岩石を持ち帰っているのに、何を今更、というのが(僕自身を含め)一般的な国民(否、納税者と呼ぶべきか?)感情だと思うんですよね。

もちろんアポロ計画にしても結局のところ月面のサンプルは最終は着陸した6地点とそのごく近傍のものでしか持ち帰っておらず、もっとほかの場所にある岩石や鉱物を調査することでより新たな科学的事実が明らかになることもあるのでしょうが…理由付けとしては弱いような気がしたのです。(上記のような感情に対する反論としては。)

#誤解の無きよう注記しておきますが私は宇宙開発ファンであり、推進派であり、月面探査大賛成派ですが。

ですから、民間ならともかく、国家(NASDA)主導でローバによる月面探査ミッションを計画することを想定しますと、まずそこらへんの動機をかなり明確かつ具体的にしなければなりませんね。

前置きはさておき、個人的には地下の探査、ローバで人工地震を起こすという内容に惹かれました。月の内部構造がアポロ計画を含めこれまでの全ての月探査を通じてなお変わらず謎に満ちているということもありますし。

以前市川さまのほうで爆薬を使い人工月震を起こすというアイデアがありましたが、あれは面白いなと思いました。ただ、実際のところ爆発点からどの程度移動すれば内部構造を探れるだけの人工月震データを獲得できるのか?が知りたいです。

これはローバの移動可能距離の設計上の制約とも絡んできますね。広い領域にわたる表層探査を実施するにしてもそうだと思います。

あるいは、オービターから何回かにわかて人工地震源となる物体を落下・月面にぶつけて月震を起こし、その都度別の地点で地震データをひろう、というのでも面白そうです。

ローバになにをさせたいか、その根源的な目的についての個人的な希望としては、やはり極域に存在すると考えられている氷の存在を確かめさせたいです。ただ、ローバを極域に下ろすにはローバをまずは月の極軌道に投入しなければならないのでそれが難しいだろうなということと、ローバの動力源として太陽光をほとんど利用できないというとことで「ボツ」なのですが。

No. 17 2001年01月18日【木】21:30 寺薗 淳也
 寺薗です。
 月の内部構造、となると俄然元気がでてくるものですね(専門だもの)。東京都の男性の方のコメントに、この点に集中してまず、お返事しましょう。

 地下構造を探査するという点ですが、アポロでは地下構造については、人工地震や不要になったロケットブースターなどを使った探査が、14、15号などで行われています(実は、不要になったロケットブースターの中では、例のアポロ13号のものもあり、この点ではアポロ13号の不要ブースターによる人工月震は、このミッションが月科学においてなしとげた唯一?の貢献ともいえると思います)。

 月の内部構造ですが、現在のところは、こういった人工地震や自然地震などからの解析が行われています。しかし、観測点が表側に限られていたり、観測期間が短かったり、何よりも月震があまりにも小さく、ノイズが大きいという問題点がありました。
 このため、月の内部構造についてはまだ確定したことはほとんどいえないというのが現状ではないでしょうか。

 ローバで人工地震を起こして内部構造を調べるという方法としては幾つかあり得ると思います。ローバ側に地震源を積み、動き回って調べるというやり方、もう1つはローバ側に地震計を搭載し、固定した地震源で起こした地震を調べる方法、さらには地震源、地震計側ともローバに搭載して動くというやり方です。

 なぜ人工地震かというと、内部構造を調べる場合、地震波が非常に役に立つのですが、震源がはっきりわかっている人工地震であれば、解析が非常にやりやすく、地震波の伝わり方を精密に調べることができるからです。
 また、地震源としては、火薬(市川さん、よろしくお願いします!)や振動装置(よく道路工事などでやっているような振動固め装置のようなもの)などがあります。振動装置では振動が小さすぎるかと思われるかも知れませんが、小さな振動のデータを何千回と足し合わせることによって、大きな地震のデータと同じ効果を得ることができます。

 地震源と地震計の関係をいろいろと変化させることができれば、その地域の地下構造を精密に、しかも2次元的に広く調べることができます。その意味では、ローバと地下探査というのは非常に相性がいいものかも知れません。

 次の書き込みで、もうちょっと具体的にローバによる地下探査について触れてみることにします。

No. 18 2001年01月18日【木】22:24 寺薗 淳也
 寺薗です。水を1杯飲んでから(^_^)、続きにまいりましょう。

 内部構造を調べる場合には、4つの深さに分けてみるのがよいかと思います。
(1) 深いところ(深さ500km以上)の構造
 深いところ、とりわけ月の中心部に地球のようなコアがあるかどうかは、月の起源ともからんで重要な問題です。
 これは、ローバを用いた人工地震探査では難しいと思います。
(2) やや浅いところ(数十〜500km程度)
 月内部のマントルの構造がわかれば、月ができたときにあったと思われる、マグマオーシャンという溶岩の海のようなものの成り立ちがわかるかも知れません。そうしますと、月ができた当時の様子などを知る手がかりにもなるでしょう。
 これも、ローバでは難しいかも知れません。ただ、アポロのときのように、ロケットブースターを落とすなどの大きな人工月震が起こせれば、現実味があるかも知れません。ただその場合にも結局「一発勝負」となるために、ローバを使ううま味はあまりないと思います。
(3) 浅いところ(数十kmより上)
 月の地殻の深さはだいたい数十km(60kmくらい)といわれています。しかし、深いところもあれば浅いところもあるということが、アメリカの月探査機クレメンタインなどの調査でわかってきました。なぜなのか、またそれが月の進化などと関係しているのかどうか、興味深いところです。
(4) 地表付近(数km)
 月の表面はレゴリスという砂に被われています。少し下(1〜2km)に行くとメガレゴリスという、大きめの岩からなっていると考えられていますが、本当のところはわかっていません。また、海と陸の地下構造が違うのか、クレーターの形成によって地殻構造がどのように変化したのかなど、浅いところでも月の進化を知る上で興味深い内容がたくさんあります。

 地殻の構造については、今度のセレーネ計画でも「レーダサウンダー」という装置が調べることになっています。しかし、ローバ+人工地震の組み合わせは精密に調べることができますので、リファレンスとして使えるのではないかと思います。また、内部構造が特徴的な地域も興味深いところですね。
 ローバが現実的に使えるとすると、(3)か(4)くらいだと思います。月は地震波の減衰が少ないため、地震波自体はかなり遠く(深く)まで伝わると考えられますが、それでも持っていける振動装置などの性能を考えると、このくらいまでが無難なのではないでしょうか。これは、これからもっと調べなければいけませんね(…実は、2年間ほど放ってあるので、真剣に調べないといけませんね…)。

どんなところに行けばいいでしょうかね? 例えば、
  • マントルからの岩石が露出していると考えられている、サウスポール - エイトケン盆地中心部。
  • 地殻が異常に薄いというデータがクレメンタインの重力探査で得られている、東の海(Mare Orientale)地域。
などは、「なぜそのようになっているのか」ということを調べるという意味でも非常に面白いと思います。

 逆に、典型的な月の海や月の高地を調べるというのもあり得ます。セレーネやLUNAR-Aで調べた内容を、このミッションでの「標準月構造モデル」で補強してあげれば、精密な月内部構造の議論ができるようになるでしょう。
 また、科学的な観点でいえば、アポロでかつて、人工月震などで調査した場所へ行って、再度調べるというのも意味があるかも知れません。この30年で、地震波解析技術は飛躍的に進歩しましたから、アポロのデータと比較した、精密な月内部構造探査ができると思います。

 このテーマ、もう少し追いかけてみたいですね。

No. 19 2001年01月22日【月】15:33 市川 誠
市川です.

神奈川県在住の男性から次のコメントをいただきました.

『月面ローバには、想定外や異常時も含め様々な運用状態での自律制御化が必要であり、NASAがDeep Space 1でフライト実証したリモートエージェント技術と類似の技術が不可欠になると思います。
この人工知能(AI)技術の宇宙への応用は、日本では進んでいない分野であることや、産・官・学の結集が必要な分野であることから、如何にこの分野を開拓するかのアプローチも含めた議論が必要です。』

* * * * *

AIに関連して,DS1のことにも触れられていますので,本来は日本の今後の探査衛星開発についても話が広がらなければならないのでしょうが,残念ながら私自身,このような広範な知識を持ち合わせていません.そこでJPLでMPFとか色々な探査ミッションで通信関係の仕事に従事されていたGordon Woodさんから聞いたDS1についてお話を紹介したいと思います.
Deep Space Networkは現在,稼動中の多くの惑星探査機を支援するため,新しい探査ミッションに時間的な割当をするのが非常に難しくなっているとのことです.また,DSN自体の設備を拡充することも予算的な制約から・・・.このような状況の中で,DS1は衛星自体の自律化を進めることで,衛星の運用に必要な時間を短縮することをひとつの重要な目的としているとのことです.これが実現できれば,現状のDSNの能力を拡大することなく,将来,予定される多くの惑星探査ミッションの運用も可能になるとのことです.

* * *

さて,ローバと制御を考えますと,ミッションの内容により,様々な要求レベルがあります.次のミッション要求と,探査システムの観点から少し述べたいと思います.

[ミッション要求]
 ・ 月の表側/裏側
 ・ 稼動時間

[探査システム]
 ・ 通信リレー衛星の配置
 ・ データ伝送量

 探査地点が月の表側の場合,地球と直接,通信することが可能ですが,月の裏側の場合,通信リレー衛星を配置して,月面のローバと通信を行うことになります.月の平均半径は約1738.2kmでリレー衛星が高度100kmの周回軌道を1周するのに6,863秒(1.9時間)かかりますので,火星探査ローバSojournerを操縦した時より,時間遅れの面ではかなり条件が悪いことになります.このような状況では,先に話題にあがりましたMoon Rakerのように自立性の高いローバが必須となります.
 しかし,月の裏側でも「国際協力のもとに」3機の通信リレー衛星が夫々の通信リンクの確保される配置・軌道に投入される場合,その中継での時間遅れは生じますが,地球からのローバの操縦はリアルタイム性が確保されます.(「このような国際協力が現実のものとなり,ローバに限らず,月の裏側の本格的な探査が実現されたら」というのが私の夢なのですが)
 月の表側のミッションの場合は地球と直接,通信が行えますので,通信の時間遅れはネットワーク上の遅れなどで,10秒位が想定されます.ローバの走行速度が速い場合は障害物回避などのために自律性が要求されますが,遅い場合や遠方の障害物まで検出できるセンサーを搭載する場合はこの要求は低くなります.
 なお,日本単独のミッションの場合,通信は臼田で行うことが想定されますので,通信ができない残りの時間,ローバがお休みとなってしまいます.ローバの自律性が高ければこの間も有効に探査に費やすことができることになりましょう.

 このようにローバに対する探査ミッション要求,また,実現されるシステム構成によって自律化のレベルは様々なものとなると考えられます.

No. 20 2001年01月24日【水】19:43 寺薗 淳也
 寺薗です。
 既に市川さんの方から、技術に関して貴重なご発言を頂きました。その元となりました、神奈川県の男性の方、どうもありがとうございました。

 AI分野は、確かに日本が非常にリードしている分野であると思います。ところが、その宇宙への応用ということになりますと、どういうわけか日本ではあまり進んでいないように思われます。
 1つには、日本の技術者が「実学思考」が強い、つまり、自動車や家電製品などの「よく売れる品物」の開発意欲が強いために、宇宙関係にはこれまであまり関心が向けられてこなかった、ということがあると思います。
 もう1つは宇宙側の要因もあるのではないでしょうか。これまでは、探査機に搭載されるコンピュータは、宇宙用に安全が保証されている(つまり、激しい衝撃試験や放射線試験に耐えたもの)ものを積むことが普通だったため、どうしても私たちが使う最新型のものから、数世代遅れたものになってしまっていました。遅いコンピュータでは当然、自律処理は難しくなりますよね。

 しかし、日本のAI関係者も、宇宙への関心を向け始めているようですし、宇宙技術者からAIへのアプローチも始まっています。コンピュータについても、最近は私たちが一般的に使うようなCPUを探査機に積んだりしていますので(といっても、いまだPentiumクラスだったりしますが。個人的にはPentium IIIくらいは積んで欲しいなぁ)、自律的な制御に関しても若干のゆとりが出てきているように思います。

 市川さんがDS1について触れられていましたが、このような自律化技術は日本が「すぐに」アメリカに対抗できる、数少ない宇宙分野の1つだと思います。月面ローバなどにも応用ができますし、その発展を期待したいところです。

 なお、DS-1のホームページは、
http://nmp.jpl.nasa.gov/ds1/
です。(全て英語です…。)

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