市川です.
神奈川県在住の男性から次のコメントをいただきました.
『月面ローバには、想定外や異常時も含め様々な運用状態での自律制御化が必要であり、NASAがDeep Space 1でフライト実証したリモートエージェント技術と類似の技術が不可欠になると思います。
この人工知能(AI)技術の宇宙への応用は、日本では進んでいない分野であることや、産・官・学の結集が必要な分野であることから、如何にこの分野を開拓するかのアプローチも含めた議論が必要です。』
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AIに関連して,DS1のことにも触れられていますので,本来は日本の今後の探査衛星開発についても話が広がらなければならないのでしょうが,残念ながら私自身,このような広範な知識を持ち合わせていません.そこでJPLでMPFとか色々な探査ミッションで通信関係の仕事に従事されていたGordon
Woodさんから聞いたDS1についてお話を紹介したいと思います.
Deep Space Networkは現在,稼動中の多くの惑星探査機を支援するため,新しい探査ミッションに時間的な割当をするのが非常に難しくなっているとのことです.また,DSN自体の設備を拡充することも予算的な制約から・・・.このような状況の中で,DS1は衛星自体の自律化を進めることで,衛星の運用に必要な時間を短縮することをひとつの重要な目的としているとのことです.これが実現できれば,現状のDSNの能力を拡大することなく,将来,予定される多くの惑星探査ミッションの運用も可能になるとのことです.
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さて,ローバと制御を考えますと,ミッションの内容により,様々な要求レベルがあります.次のミッション要求と,探査システムの観点から少し述べたいと思います.
[ミッション要求]
・ 月の表側/裏側
・ 稼動時間
[探査システム]
・ 通信リレー衛星の配置
・ データ伝送量
探査地点が月の表側の場合,地球と直接,通信することが可能ですが,月の裏側の場合,通信リレー衛星を配置して,月面のローバと通信を行うことになります.月の平均半径は約1738.2kmでリレー衛星が高度100kmの周回軌道を1周するのに6,863秒(1.9時間)かかりますので,火星探査ローバSojournerを操縦した時より,時間遅れの面ではかなり条件が悪いことになります.このような状況では,先に話題にあがりましたMoon
Rakerのように自立性の高いローバが必須となります.
しかし,月の裏側でも「国際協力のもとに」3機の通信リレー衛星が夫々の通信リンクの確保される配置・軌道に投入される場合,その中継での時間遅れは生じますが,地球からのローバの操縦はリアルタイム性が確保されます.(「このような国際協力が現実のものとなり,ローバに限らず,月の裏側の本格的な探査が実現されたら」というのが私の夢なのですが)
月の表側のミッションの場合は地球と直接,通信が行えますので,通信の時間遅れはネットワーク上の遅れなどで,10秒位が想定されます.ローバの走行速度が速い場合は障害物回避などのために自律性が要求されますが,遅い場合や遠方の障害物まで検出できるセンサーを搭載する場合はこの要求は低くなります.
なお,日本単独のミッションの場合,通信は臼田で行うことが想定されますので,通信ができない残りの時間,ローバがお休みとなってしまいます.ローバの自律性が高ければこの間も有効に探査に費やすことができることになりましょう.
このようにローバに対する探査ミッション要求,また,実現されるシステム構成によって自律化のレベルは様々なものとなると考えられます. |