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月を知ろう

月に関する研究発表
第1回パネルディスカッション「月の氷」


No. 36 2000年12月06日【水】22:38 春山純一(NASDA)
春山@NASDA 月研です。

月の極の氷について、2,3コメントしたいと思います。

● 極の氷は水素?
 最近出た論文に、
 「月の極には、氷があるのではなく、化学的に捕獲された水素がある(濃集している)のであろう」
 というものがあります。
 (L.V. Starukhina and Y.G. Shkuratov, ICARUS, 585-587, 2000)

 永久陰の水素は、太陽風が直接吹き付け(その後移動して永久陰にとらえられ)たものではなく、月が地球の磁気圏の反太陽側に入ったときに、太陽風の水素粒子が、地球の磁力線を通して月の極に打ち込まれたものであろう、というものです。

 個人的には、(研究をする者の立場としては)そこそこ説得有る話だな、と思います。
 ただ、一方でそれだとつまらないなぁ、と思うこともありますが。

● SELENEで極の氷の存在は分かるのか。
 SELENE搭載機器であるガンマ線分光計ですと、結論から言うと、水があるのか水素があるのかの判別は基本的に不可能です。
 ガンマ線分光計は、化学結合をみるものではありません。「水素があれば水があると見て良かろう」と仮定して、水の存在を論じる、ということです。
 ルナープロスペクターのガンマ線分光計より感度は格段によくなり様々な科学的成果が期待できますが、水の存在を断定できるかどうか、となると、仮定が必要です。

−以上−

No. 37 2000年12月06日【水】22:44 春山純一(NASDA)
月の氷についての科学についてですが、二つほど紹介します。

● 月の極の氷のD/H比(重水素/水素比)

 氷(水分子)が移動するとき質量によって、宇宙空間に逃げる確率がことなるはずです。(重い方が残る)。
 移動を繰りかえす時間が長ければ長いほど重い方(D2OやDHO)が残るはずです。
 この結果、永久陰にはDが多く残ってきているはず、、、ということになります。

 彗星のD/Hは、地球の全体のそれに比べて大きいと言われています。従って、もし月への水供給が彗星だとすると、永久陰のD/Hは更に大きくなるでしょう。

 もし永久陰のD/Hが期待ほど大きくなければ、それは内部から永久陰に直接噴出して、そのまま逃げ切れずにたまったものと考えられるかもしれません。
 この事実が発見されると、月の形成時に水がなくなったという話を再考する必要がでてきます。

 ただし、この考えには仮定が多くもう少し検討を深める必要があると感じています。

● 月の極の有機物

 極に氷があり、かつその中には炭素や窒素があると仮定します。(実際、彗星には炭素や窒素がある)。氷中をガンマ線や陽子線が通過すると、一瞬水の相ができて、H、C、O、Nが反応し、有機物が生成されるかもしれません。

 横浜国大の小林先生は、エタノールを凍らせて陽子線を当てて、炭化水素ができているのを確かめつつある、と聞いています。この実験を解釈するに、氷中を陽子線などが通ったとき一瞬水の相ができ化学反応が起こって、重合が起きているのではないかと思われます。

 こうした反応が繰り返しされれば、単純な有機物が複雑な有機物になっていくかもしれません。
 (注:小林先生の実験では、こうしたC、H、O、Nを含んだ氷、もしくはガス中に陽子線などを当てると、簡単な有機物ができる、というより、いきなり複雑な有機物が生成されるようです。)

−以上−

No. 38 2000年12月08日【金】10:54 川勝康弘(NASDA)
「月の氷」の科学的意義について、その起源を
 1)レゴリス(月の砂)中の鉄による太陽風の還元
 2)水を含む宇宙塵による供給
 3)彗星による供給
 4)内部からの噴出
に分類した上で、サイエンスの方々に意見をいただきました。まとめておきたいと思います。

1)については、No.34の出村さんの発言から「あまりおいしくなさそう」という話のようです。

2)、3)の「彗星」あるいは「宇宙塵」起源の氷については、やはりNo.34の出村さんの発言から「彗星」起源に絞れそうです。その上で、No.37の春山さん、No.17の出村さんとも
 「重水素/水素比(D/H比)」
に注目されています。この比が大きければ月の氷は「彗星起源の可能性が高く(No.37より)」、「彗星起源の氷だとすればここ数億年の間に月に落ちてきたものであり(No.17より)」「ここ数億年の間の地球・月が置かれた環境の履歴を保存しているはず(No.19より)」という可能性がある、という理解でよいでしょうか。
過去45億年の積み重ねの結果のみを表出している地球の海洋を(かなり大きなスケールとはいえ)時間方向に分解できる可能性がある、というのがNo.19の出村さんの意見でした。
(整理してても、結構難しかったので、何か違っていたら指摘してくださいね、春山さん・出村さん)

一方、彗星に存在していたかもしれない有機物が残っている可能性については「有機化合物も焼かれずに残っていると、いろいろ楽しい議論ができます(No.19の出村さん)。」とあり、やはり焼けてしまっている心配があるということのようです。しかし、No.37の春山さんの話では、彗星起源の氷中の物質が月面上でC、H、O、Nの元素レベルまでバラバラになっていても、宇宙線の照射により重合する可能性がある、とのことです。もし、月の氷の中から有機物が発見されれば、たとえそれが月面上で生成されたものであっても、上述の反応が「宇宙空間では頻繁に起こりうる」という証拠になるのかもしれません。

最後に4)ですが、D/H比を調べた結果、その比がそれほど大きくなければ、4)を起源とする可能性が出てきて、この場合「月の形成時に水がなくなった」という仮説を再考する必要がでてくる(No.37の春山さん)。

以上、「」 は一段落です。

No. 39 2000年12月08日【金】11:39 川勝康弘(NASDA)
「月の氷」パネルディスカッションは、クレメンタイン、ルナープロスペクターの探査による「月に氷を発見」のニュース
(たとえば、http://moon.nasda.go.jp/ja/symp/2000/symp1/moon_ice.html
をもとに、
「そんなことが原理的にありうるの?」
「月に氷で、何がそんなにうれしいの?」
と、議論を進めてきました。

ところが、No.36の春山さんの発言の中で
> ガンマ線分光計は、化学結合をみるものではありません。
> 「水素があれば水があると見て良かろう」と仮定して、
> 水の存在を論じる、ということです。
> ルナープロスペクターのガンマ線分光計より感度は
> 格段によくなり様々な科学的成果が期待できますが、
> 水の存在を断定できるかどうか、となると、仮定が必要です。」
とあります。

「えっ?どういうこと?」という感じがするのですが。
クレメンタイン/ルナープロスペクターが見たものは何だったのでしょう。
 (1)どのような観測機器を使って
 (2)どのような観測結果が得られ
 (3)その結果は、どこまでが保証されて
 (4)それがなぜ「月に氷を発見」になったのか
出村さん、春山さん、教えていただけますか。

No. 40 2000年12月18日【月】10:43 出村裕英(NASDA)
出張後、子供みたいに扁桃腺&高熱で休んで、間が空いてしまいました。ごめんなさい...  今日未明のお湿りで、少し元気が出てきました。

> > 「水素があれば水があると見て良かろう」と仮定して、
> > 水の存在を論じる、ということです。
(中略)
> 「えっ?どういうこと?」という感じがするのですが。
> クレメンタイン/ルナープロスペクターが見たものは何だったのでしょう。

先日も述べましたとおり、これまで水が見つかったとする根拠で直接的なものはありません。以下の立項に沿ってまとめると、

>  (1)どのような観測機器を使って

クレメンタイン:
 通信用電波の極域エコーを、地球上で観測。反射能を調べた。
ルナープロスペクター:
 中性子エネルギースペクトル計測器で、宇宙線の極域反跳成分を調べた。

>  (2)どのような観測結果が得られ

クレメンタイン:
 第1報で、反射能が大きく、氷であることが示唆された。
 後解析第2報で、起伏の効果かもしれず断言できない、とされた。
ルナープロスペクター:
 極域で衝突散乱された中性子の速度が遅いことが示された。
 →散乱で中性子を効率よく減速させる、ほぼ同質量の水素原子(陽子)。
  減速の度合いから水素原子総量を求め、これが水分子起源と仮定して水の総量を算出した。

>  (3)その結果は、どこまでが保証されて

クレメンタイン:
 議論は色々あるが、事実上、次の探査結果待ち。
ルナープロスペクター:
 水素をすべて水分子由来と仮定して良いかどうか。
 また、クレメンタインの高反射能領域と水素濃集領域、および永久影領域との不一致が報告され、位置精度の問題なのか否か議論が継続中。

>  (4)それがなぜ「月に氷を発見」になったのか

月永久影には水の氷が存在できるとの理論的予言が「もともと」あり、それを支持する証拠を見つけた、という期待で関係者の頭はいっぱい。現状はすべて間接証拠or一方的仮定に基づく「上限値」であり、次の探査で直接検証することが必須。その呼び水にするために、NASAが積極的に宣伝している... というのが私の認識です。

本パネルディスカッションは、真空で不毛の月にH2Oが氷の形で存在するかもしれない、という状況を踏まえて、何が嬉しくて、何を我々が期待するか、という議論がなされてきたと思います。

あまり夢のある話にまでは持ち込めませんでしたが、まとめられますでしょうか? 川勝さま、みなさま>

No. 41 2000年12月22日【金】18:48 川勝康弘(NASDA)
出村さん、ありがとうございました。

さて、「月の氷」をテーマに11月13日以来、一ヶ月にわたりディスカッションをしてきましたが、そろそろ議論を閉じるときとなりました。

米国の探査機、「クレメンタイン」「ルナープロスペクター」により月の氷の存在可能性を示すデータが得られたことをきっかけに、このテーマでのディスカッションを企画しました。

11月の議論開始以来、まず
 「月に氷が存在する可能性」
 「永久陰の存在」
 「そこに氷が残るメカニズム」
と氷の存在可能性を整理しました。
次に月に氷があることの意義として
 「人間活動での利用可能性」
 「月の氷から科学的知見の得られる可能性」
が論じられ、最後の
 「米国探査機が検知したものは氷だったのか」
という議論で残念ながら期間終了となってしまいました。

コーディネータ(司会)としては
 「月の氷の存在を確実にする方法」から
 「月の氷の探査方法・探査計画」
まで議論を持っていければ、とも思っていましたが、これはまた次の機会にまわしたいと思います。

オンラインのディスカッションという形式で戸惑いと不安の中で始まった企画でしたが40件もの内容の濃い議論をしていただいたパネラーのみなさん、どうもありがとうございました。

また、期間中に一般の方々からのご意見もたくさんいただきました。
(一部はディスカッションの中に取りあげさせていただきました)
皆様からのご意見がパネラーを強く刺激し、議論の盛り上げに一役かったのは確実です。
ここに、お礼を申し上げます。

なお、第1回パネルディスカッション「月の氷」は、これで終了しますが、すぐに次のテーマ『月面車』についてのディスカッションが始まります。

『月面車』のディスカッションをコーディネートしてくださる寺薗さん、あとをよろしくお願いします。

では、皆さん、短い間でしたが、どうもありがとうございました。

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