第1回パネルディスカッション「月の氷」
No.
31 |
2000年11月29日【水】17:22 |
金森洋史(NASDA) |
このパネルディスカッションをご覧になった数人の方からの意見として,
「月の氷を使ってもいいのでしょうか?」という疑問が寄せられました.
資源(特に氷)は貴重なものであり,使えばすぐに(あるいはいずれ)無くなってしまうので,単にそこにあるからといってそれを使ってしまうことに疑問を感じているのでしょう.
そうなんですよ.私自身も実は同じ疑問を持っています.
ただこの疑問を追求してしまうと,「環境との共生とは?」にも似たものすごく深い議論にはまってしまいそうなので,このシンポジウムでは避けたいと思います(すみません).どんな動物も周囲の環境に影響を与えずに生きることは不可能です.ただ,どこまでの影響ならば許容できるかの基準が,人それぞれの立場や考え方によって違うので,議論が難しくなってしまうのです.
...で,少なくとも月の氷あるいは月で製造した水を使えると認められた場合の話ですが,地上と同じようには使えないことは,間違いないでしょう.
特に,蒸発して宇宙空間に消えてしまうような使い方はできません.人が生活する限り空気中にはある程度の水分が存在しますが,このような水も含めて全て回収・精製処理する設備が必要です.もちろん,用途に応じて中水道や下水道などのような利用方法を採用するでしょうね.尿も回収・利用するのではないでしょうか.
宇宙開発のメリットの一つとして,このようにして開発された技術を地上にスピン・オフし,地球のリサイクル技術として活用できると良いのですが... |
No.
32 |
2000年11月30日【木】00:06 |
川勝康弘(NASDA) |
月に氷があることの意義について、「利用する」という観点からの議論はだいぶ深まったと思います。
月で人類が活動するにあたって必要な水をどのような調達するかは基本的に「調達コスト」をもとに評価され、
という他に
- 地球から水を運ぶ
- 地球から水素を運び、レゴリス等に含まれる酸素と反応
が考えられる。
どの方法が良いかは、水が使用される「時」と「場所」に強く依存するが、「月の氷」については未知の部分が多く、その利用可能性評価にあたっては以下の項目を明らかにする必要がある。
- レゴリス中の氷の存在形態
- レゴリス中の氷の割合・分布
- 氷が多く含まれるレゴリスの特徴
- 氷を含むレゴリスの機械的・熱的性質
- 月面で水に溶け込む可能性のある物質
かなりいろいろな議論がなされて、上述では表現しきれているとも思いませんが、もう一方の「科学的意義」に移る前に簡単にまとめておきました。 |
No.
33 |
2000年11月30日【木】00:07 |
川勝康弘(NASDA) |
もう一方の科学的意義の方です。
春山さんの発言No.15がベースになると思うのです。月の氷の起源としては、
1)レゴリス(月の砂)中の鉄による太陽風の還元
2)水を含む宇宙塵による供給
3)彗星による供給
4)内部からの噴出
などが考えられる、という話でした。逆に考えれば、月の氷を調べてみると、いろいろな科学的発見につながる可能性があるのでは、ということだったと思います。
まず、私の方から、あまり体系できないのですが、それぞれについてサイエンスのお二方に質問をしたいと思います。
垣見さん、金森さんからも何かあれば、お願いします。
まず1)についてです。「水素・ヘリウムからなる太陽風粒子が月レゴリス中に打ち込まれている」という話は、出村さんの発言No.28にも出てきました。この太陽風粒子にHe-3が含まれており、月面に蓄積されているHe-3が将来の核融合に使える、という話もありますね。
もし、月の氷(の一部?)が太陽風粒子起源とした場合、何か科学的な成果が期待できるでしょうか。
まったくの素人考えですが、太陽風粒子がレゴリス中の酸素と反応してH2Oとなって場合、そこが永久陰の場合だと、単に水素が吹き付けるのままの場合より定着率が高くなり、太陽活動の歴史がよりよくわかるとか。
次に2)、3)ですが「宇宙塵」と「彗星」、大きさはだいぶ違うと思いますが、「水の起源」という観点では同じような意味合いと考えてよいのでしょうか。それとも「より大きな塊である彗星では内部が太陽風にさらされておらず昔の状態が保存されやすい」などの違いがあるのでしょうか。
それはそれとして、彗星起源の氷については、出村さんが発言No.19で「彗星探査で遠くまで観測機器を送らなくても、月に行くだけで済みます。」とおっしゃってます。ただ、衝突時の衝撃・高温等で、それまでの様々な痕跡がどの程度保存されるのかが心配なのですが、ここらへんはどうなのでしょう。
最後に4)なのですが、春山さんの発言の中では「水分子は、月の形成時には非常に微量だが存在し月が形成した後に、月の内部から噴出した」と述べられています。水の起源がこれだとすると、この水を調べることにより、月の起源についてなにかしらの制約が与えられることになるのでしょうか。 |
No.
34 |
2000年11月30日【木】13:25 |
出村裕英(NASDA) |
川勝さま、締まったまとめ、ありがとうございます。
> 1)レゴリス(月の砂)中の鉄による太陽風の還元
にコメントしますが、太陽活動履歴復元については悲観的です。
> 太陽風粒子がレゴリス中の酸素と反応してH2Oと
なることは、光分解の速度と競争になりますが、どの程度水分子としてレゴリスの外に出てくるのかイメージがまだありません。仮に、幾らか損失はあるものの水が生成して外来起源彗星物質と区別できるくらい残るとして話を進めましょう。
> もし、月の氷(の一部?)が太陽風粒子起源とした場合、何か科学的
> な成果が期待できるでしょうか。
そもそも、太陽風履歴を知るには、損失のあるH2Oを使うよりも、打ち込まれた生の水素・ヘリウムを使った方が量も多くて正確です。履歴そのものは、月の海の溶岩が成層しているところを掘って、各層時間面での値を得ることで復元できます。
また、太陽風履歴から太陽活動にどうやって復元するかも問題です。
永久影にトラップされた水の情報は、太陽活動履歴の積分が反映されるので、時間分解能がなく、あまりおいしくなさそうです。
もし、永久影の度合い(時間?)なるものが定義できれば、
> そこが永久陰の場合だと、単に水素が吹き付
> けるのままの場合より定着率が高くなり、太陽活動の歴史がよりよく
> わかるとか。
も可能ですが、残念ながら具体案は思いつきません。
> 次に2)、3)ですが「宇宙塵」と「彗星」、大きさはだいぶ違うと思い
> ますが、「水の起源」という観点では同じような意味合いと考えて
> よいのでしょうか。それとも「より大きな塊である彗星では内部が
> 太陽風にさらされておらず昔の状態が保存されやすい」などの違い
> があるのでしょうか。
地球軌道付近の太陽放射フラックスはH2O氷を被った宇宙塵の存在を許さなかったと思います。飛行中に気化しきらないほどの水量を氷安定領域から地球近傍まで持ってこれるものは、彗星だけと理解しています。これは、現在の太陽活動度・太陽系空間ガスダスト密度では、の話です。
詳しくは、春山氏の復帰を待ちたいと思います。 |
No.
35 |
2000年12月01日【金】11:39 |
垣見征孝 |
みなさん、こんにちは。垣見です。
今の方向性とちょっと違ってしまうかも知れませんが・・・。
例えば月に利用可能な水(やその他の物質)があったとして、それらはどれくらい使うことができるんでしょうか?水があり、それを使うようになり、それを使った工業などが発達し、更に発展していき・・・と。
とか言っている間にあっという間に底を尽きて衰退・・・なんてことにはならないのでしょうか?
もちろん、量も何も分かってない状態での推論で、使い方にもよるんでしょうが、地球の今の科学技術の進歩を考えると月に人類が基地を作り、徐々に発展していった場合、数年単位なのか、数百年単位なのか・・・。
使うだけ使って使い切ったら「はい、おしまい」なんて使い捨ての状態では今の地球でやっていることと変わりません。
使い終わった後のことは現時点では、まだ考えられていない状態なのでしょうか?
どうなんでしょう? |
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