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月を知ろう

月に関する研究発表
第1回パネルディスカッション「月の氷」


No. 26 2000年11月26日【日】17:37 川勝康弘(NASDA)
発言No.17から「月の氷で何が嬉しい?」という議論が進んでいます。出村さん(No.17)、私(No.18)の発言で、期せずして、「利用」と「科学」の2つの観点がある、という点で一致しました。

確認ですが、「利用」と「科学」のどちらを優先しよう、という議論ではないと思うのです。「月の氷」があることのメリットを「利用」「科学」の2点に分けて考えようということだと思います。

「科学」の方は春山さんをもう少し待つことにして、、。

「利用」の方については、焦点が絞られてきたような気がします。発言No.25の金森さんがおっしゃるように、
 >ただ,現地(月)の資源を利用する場合の本質は,その場所と
 >その時期においてもっとも経済的でなければなりません.
ということ、これに尽きると思います。
 月の氷を用いることで、地球から水を運ぶよりもコストメリットがあるならば利用される。

これに対して、以下の懸念(メリットを減じると考えられる懸念)が金森さんから出されました。
  • 永久陰にある氷をどのように取り出すか。
  • 極地で取れた氷をどのように運ぶか。
また神奈川の女性の方からは、
  • 大量としても無限ではないから、いつかは無くなる。
という意見が、また私の方から
  • 人間の月面活動のフェーズによる
とも述べました。ここらへんも、「コストメリット有りや無しや」に関連する議論だと思います。

原油や、他のエネルギー・鉱物資源でもそうですが、『埋蔵量』という言葉を使いますよね。石油のページで調べてみると、確認埋蔵量とは、
 「すでに発見されている油田に埋蔵されている原油のうち、現在の技術と経済性で回収できる量」
のことだそうです。技術と経済性から回収に適すると判断される量、という議論は、今回の「月の氷の利用可能性」に通ずると思いませんか。

さて、議論に戻って、「コストメリット有りや無しや」についてですが、当然ここでは、結論は出ないと思うのです。というより「場合による」という結論になるのでは、と思うのです。今、意見が出た範囲でも、氷を利用しようという「場所」と「時期」によるとなっています。
「極地で取れた氷をどのように運ぶか」「人間の月面活動のフェーズによる」がそれぞれ対応すると思います。
  • 極付近で5〜10人で運営される月面天文台
  • 赤道付近の10000人規模の工業・農業をともなうコロニー
では状況がだいぶ違いますよね。

 では、「場合」が特定されれば、現段階で結論が出せるか、というと、それもないと思うのです。
 「極付近で5〜10人で運営される月面天文台を作ろうと思うが、月の氷を利用する方がよいか」と聞かれても、「わかりません」と答えるか「わからないことが多いのでやめた方が良いでしょう」と答えるしかない。
 つまり、「わからない」ことがある(多すぎる)。
 「わからないこと」の中には、「地上で」よく考えてみればわかることも含まれるのかもしれませんが、「地上で」いくら考えてもわからないこと、つまり、「月で調べてみないと」ということがあると思うんです。「永久陰にある氷をどのように取り出すか。」のためには、どのような形態で氷が存在しているか、などが重要になりますよね。

これから、おいおい「探査」の方に議論が移っていくと思いますが、「月の氷を利用する可能性」という立場から探査要求を出すときに重要になってくると思います。
 「利用可能性」の観点から、月の氷について調べておかなくてはならない項目を挙げていただけますか、金森さん。

あと、まったく別の議論ですが、No.21の金森さんの発言に、
 >ただし,水をそのまま水として利用することもできるのですが,それを
 >さらに電気分解して,酸素と水素の形にした方が,より使い勝手が良くなります.
とあります。これは、月で水を利用するにあたって、
  • 地球から運ぶ
  • 極の氷を活用する
以外の方法を提示しているような気がするのですが。つまり、月の酸素(レゴリス中にごまんとある酸素)を取り出し、地球から運んだ水素と反応させる。H2O中の水素の質量割合は1/9なので、酸素を月で調達するだけでも、その運搬量削減の目的は9割がた達成される。
安直すぎるかもしれませんが、どう思われますか。

No. 27 2000年11月26日【日】21:47 金森洋史(NASDA)
川勝さんのご質問について考えてみます.
「利用可能性」の観点から月の氷について調べるということは,「純粋な水を取り出すために必要な情報を得ること」に結び付けられます.先般の議論にもありましたように,
  1.  どのような形態(塊か霜状か)で氷がレゴリス中に存在しているか.
  2.  どの程度の割合(水平および深さ方向の分布)で氷が含まれているか.
    は,非常に重要なことです.まず氷と砂を分離しなければなりませんので,その方法を検討するためにこの情報が必要になります.もう少し欲張りますと,
  3.  氷が比較的多く含まれる部分のレゴリスには,何か特別な特徴があるか.
    も知りたいところですね.効率良く水を採取するためには,ある程度採取目標が絞れた方が良いですから.
  4.  氷を含んだレゴリスの機械的・熱的性質.
    これは,氷を取り出す工程に用いる装置の仕様(所要エネルギなど)を決めるために必要な情報です.
    次に,水が分離できたとして,
  5.  水に溶け込む可能性のある物質
    も知る必要があります.氷の状態でレゴリスと分離するか,水の状態にしてレゴリスから分離するかによって,得られた水の中に含まれる物質が異なると考えられます.
いずれにしましても,水からさらなる不純物を取り除く工程を決めるための情報です.
...と,取り敢えずはこんなところでしょうか(足りないことも多いでしょうから,どなたか補足してください).
初期段階の科学探査から得られる情報もあるでしょうし,現地に乗り込んで試験をする必要のある情報もあるかと思いますが,腹をくくってプラントの設置を考えるのならば,この程度のことは調査しておく必要があると思います.

さて,川勝さんのもう一つのご指摘(地球から水素を運んで行って月で水を製造すること)についてですが,
実はその通りなんです.
私自身個人的には,たとえ極地の水がある程度利用できたとしても,地球から水素を運び,その水素で月の鉱物を還元して水を製造することも考えた方が良いと思っています.以前にも述べましたが,水は酸素と水素になります.そしてこの水や酸素は,有人活動には欠かせない重要な物資となります.ですから,月のどの場所にいても生命維持に結びつく重要な物資(すなわち水と酸素)が得られるように,体制や技術を確保した方が良いと思うからです(もちろん,この技術はさらなる将来における金属の抽出などにも応用されます).
また,このようにして製造された酸素を月ー地球間の宇宙機の燃料(酸化剤)として役立てれば,一番の問題である輸送コストの低減にも結びつくので,月での活動がよりいっそう活発化することも期待できます....と,これは少し先走った話題になりました.この辺にしときます.

No. 28 2000年11月28日【火】21:48 出村裕英(NASDA)
出張から戻ってきました。

(本パネルディスカッションは11月一杯という予定ですが、開始が11/13でした。半月ずれると理解してよいでしょうか?)

茶々を入れるようで恐縮ですが、週末、同僚からの示唆で、永久影は極だけではない、ということに気付かされました。月の「海」の玄武岩平原には溶岩チューブがあって、その中は「永久影」です。富士山の氷穴のように、永久影に近くに衝突した彗星物質の一部が捕獲・凍結されていても良さそうですが... そんな話は聞いたことがありますか?もし赤道域の海で氷が取れると、いろいろ都合が良さそうです。

またまた、

> これは、月で水を利用するにあたって、
>  ・地球から運ぶ
>  ・極の氷を活用する
> 以外の方法を提示しているような気がするのですが。つまり、月の酸素
> (レゴリス中にごまんとある酸素)を取り出し、地球から運んだ水素と
> 反応させる。H2O中の水素の質量割合は1/9なので、酸素を月で調達する
> だけでも、その運搬量削減の目的は9割がた達成される。

確か、太陽風粒子(水素・ヘリウム)が月レゴリス中に打ち込まれていて、加熱回収しやすいと聞いています。水を作るのに問題なのは、水素をいかに持っていくかというよりも、いかに酸素を調達するか(珪酸塩:Si珪素と酸素の化合物、鉱物から酸素を分離するか)、という方が大問題な気がします。珪酸塩の分解では、普通に考える化学分解よりも大きなエネルギーが必要だったと思いますが、御確認下さい。

No. 29 2000年11月29日【水】09:54 金森洋史(NASDA)
出村さんのご質問にお答えします.
...といっても今手元に資料が無いので,定性的なことしか言えません.
酸素や水を取り出すための原料となる月資源として,もっとも期待されている鉱物はイルメナイトです.
これはいわゆるチタン鉄鉱で,チタンと鉄の酸化物です.アポロの時の調査結果では,月の海の部分に比較的多く含まれているようです.多いところでは,質量比でレゴリス中に15%以上も含まれているところがあるそうです.
イルメナイトを水素で還元することは,直接的には酸化鉄を還元して鉄と酸素を得ることと同じ反応になります.
この酸化鉄の還元反応は,珪酸塩の還元に比べて遙かに低いエネルギを投入することで可能となります(この辺が定性的ですみません.ちゃんとギブスの自由エネルギなどを持ち出して説明すれば良いのですが,ちょっと専門的になり過ぎますし).
具体的には,イルメナイトを多く含んだレゴリスを約1000℃(それでもこの程度の温度は必要になりますが)に加熱し,そこに水素を吹き込んでやれば水(水蒸気)が生成されます.1000℃の加熱はレゴリスの量にもよりますが,太陽集光鏡を使えば比較的容易に得ることができます.
氷の話からはずれてすみません.この辺にしときましょう.

出村さんの言うように,溶岩チューブの下に氷があるとちょっとシナリオが変わってくるかもしれませんね.ただ,氷の起源が彗星だったりすると,溶岩チューブは破壊されてしまうような気がします.(氷が打ち込まれた後に溶岩チューブができるとは考え難いですよね.)

No. 30 2000年11月29日【水】10:37 出村裕英(NASDA)
金森さま、ありがとうございます。定性的な話で十分です。

> 酸素や水を取り出すための原料となる月資源として,もっとも
> 期待されている鉱物はイルメナイトです.
> これはいわゆるチタン鉄鉱で,チタンと鉄の酸化物です.

ilmenite FeTiO3

確かに、よく聞く鉱物名です。そうした背景で注目されているとは知りませんでした。

> 出村さんの言うように,溶岩チューブの下に氷があると
> ちょっとシナリオが変わってくるかもしれませんね.
> ただ,氷の起源が彗星だったりすると,溶岩チューブは破壊
> されてしまうような気がします.(氷が打ち込まれた後に
> 溶岩チューブができるとは考え難いですよね.)

おっしゃるとおり、溶岩チューブに彗星が直撃して壊してしまっては駄目ですし、溶岩チューブの起源も彗星とは関係ありません。

月面上、日の当たるところで気化した水分子は、真空下を弾道軌道で飛び、地面ではね回って(反跳)移動します。春山氏のまとめにあったとおり、移動中に光分解されたり月脱出軌道に乗ったりした分子は失われてしまいますが、極低温領域に飛び込んで捕獲されたものはそこにとどまります(コールドトラップ)。これが水(氷)が集積する機構なので、永久影領域が地面に口を開けてさえいれば、氷の「鉱床」になれると考えていました。

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