冥王星
冥王星についてわかっていること
- 冥王星の軌道は海王星の軌道よりも(たいていは)外側です。公式な惑星のどれと比べても非常に小さく,
現在では“矮惑星(わいわくせい;dwarf planet)”に分類されています。
太陽系には冥王星よりも大きな衛星が7つもあります(月,イオ,エウロパ,ガニメデ,カリスト,タイタン,トリトン)。
- 太陽からの平均距離: 5913520000 km (39.5 AU)
- 直径: 2320 km
- 質量: 1.32e22 kg
冥王星は次の7つの太陽系内の月(衛星)より小さい:
月,
イオ,
エウロパ,
ガニメデ,
カリスト,
タイタン,
トリトン
- ギリシャ神話で,プルート(ギリシャ語でハーデス)は冥界(死者の世界)の王です。
この惑星の名前はおそらく,太陽から非常に遠く,いつも真っ暗であることと,“PL”がパーシバル・ロウェル(Percival Lowell)のイニシャルであることから,(そのほかたくさんの提案がありましたが)このように名付けられたものと思われます。
- 冥王星はある幸運な事件をきっかけに1930年に発見されました。
のちに間違いがあることが分かった天王星と海王星の運動に基づく計算が,海王星の後ろにひとつの惑星があることを予言したのです。この間違いを知らないままに,アリゾナのローウェル観測所のトンボー(Tombaugh)は注意深く空を観測し続け,ついに冥王星を発見しました。
- 冥王星の発見後,冥王星は非常に小さいので,計算のもとになった(天王星や海王星など)ほかの惑星の軌道のずれの原因にはならないことがすぐに判明しました。引き続き惑星Xの探索が続けられましたが,何も発見されませんでした。現在は存在しないと思われています。軌道のずれについては、ボイジャー2の海王星への接近によってわかった海王星の質量を使えば,ずれはないことがわかっています。
- 冥王星は宇宙船が訪れたことのない唯一の惑星です。たとえハッブル宇宙望遠鏡であっても,遠すぎてその表面の特徴を分析することが出来ません。
- 幸運にも,冥王星には衛星カロンがあります。幸いカロンはその軌道面の縁上を太陽系に向かう方向に動きだすちょっと前に発見されました(1978年)。したがって冥王星がカロンを通過したり,またその反対にカロンが冥王星を通過するのを何度も観測することができます。どちらかの天体のどの部分がいつ覆いかぶさるか,注意深く計算し,そして輝度曲線を観察することによって,天文学者は両方の天体の明暗領域のおおまかな地図を作ることができました。
- 冥王星やカロンの質量の和がよく分かっているにもかかわらず(これはその周期の注意深い測定やカロンの軌道半径やケプラーの第3法則から決めることができます),冥王星とカロンのそれぞれの質量を決めるのは難しいことです。なぜならそれらを知るためには,冥王星とカロンとからなる系の重心まわりのお互いの運動を決めることが要求され,ずっと精密な測定が必要となるからです。――これら二つの天体は非常に遠く小さいのでハッブル宇宙望遠鏡でさえ観測するのが難しいのに。
- この二つの天体の質量の比は,たぶん0.084から0.157の間です。さらに観測は続けられていますが宇宙船が送り込まれるまでは,正確なデータを得ることは難しいでしょう。
- 冥王星は太陽系で2番目に(イアペトゥスの次)コントラスト(明暗の差)がはっきりしています。このコントラストの起源を調査することは,冥王星高速接近計画で提案された最優先目的の一つです。
- 最近,冥王星の分類について重大な論争がありました。冥王星は発見後ほどなくして9番目の惑星として分類され,それから75年間は惑星とみなされてきました。しかし2006年8月24日の国際天文学連合(IAU)の総会で,冥王星を除外した“惑星”の新しい定義が決定されました。新しい定義では冥王星は“惑星”とは異なる“矮惑星(わいわくせい;dwarf planet)”に分類されるようになりました。これは,はじめのうちは論議を呼ぶと思いますが(そして,とりわけこのウェブサイトの読者のみなさんには混乱をもたらすことと思いますが),冥王星の状態について本質的ではない中身のない議論は早く終わりにして,物理的な特性や歴史を解き明かす本物の科学に取り組めるようになると良いと思っています。
- 冥王星の軌道は非常に風変わりです。ときどき冥王星は海王星よりも太陽に近くなります(これは1979年から1999年まで続いています)。冥王星は大部分の他の惑星とは反対の方向に回転しています。
- 冥王星は海王星と3:2の共鳴で結び付いています。すなわち,冥王星の軌道周期は正確に海王星の周期より1.5倍長いのです。このために,(軌道が交差しても)両者は衝突しません。
- 天王星のように,冥王星の赤道面はほとんどその公転面に対して直角です。
- 冥王星の構成物質は分かりません。しかしその密度(およそ2 g/cm3)は,たぶんトリトンに似ていて,80%の岩石と10%の氷が混じったもののようです。その表面はメタンや窒素,二酸化炭素の氷で覆われているように思われます。
- 冥王星の大気についてはほとんど分かっていません。冥王星の大気を構成する物質は近日点付近にいるときだけ気体として存在します。冥王星の長い1年間のうちの大半は,大気は凍っています。近日点付近では,いくらかの大気はたぶんカロンと相互作用して宇宙へ逃げてしまいます。冥王星高速接近計画の計画者たちは大気が凍っていない間に冥王星に到着したいと考えています。
- 冥王星やトリトンの公転軌道の変わった性質やおおまかな共通性は2つの天体が歴史的に関係していることを示唆しています。かつて冥王星が海王星の衛星だったかもしれないと考えられていました。しかし現在は,そうではないだろうと思われています。より一般的な理論は,トリトンは,冥王星のように,いったん太陽の公転軌道からずれてしまい,後になって海王星に捉えられたというものです。地球の月のように,カロンは冥王星と他の天体との衝突の結果,生じたのかもしれません。
- 冥王星はアマチュア(素人)の望遠鏡によっても見ることができますが,非常に難しいです。マイク・ハービーの惑星早見表によって,冥王星の(そして他の惑星の)現在の位置が分かります。しかし正確に冥王星を見つけるためには,もっと詳しい表や何ヶ月にも渡る注意深い観測が要求されるでしょう。
- カロンは冥王星に知られている唯一の衛星です。
- 冥王星からの平均距離: 19640 km
- 直径: 1270 km
- 質量: 1.47e21 kg
- 発音 "ケアレン"
- カロンは神話上の人物で冥界を流れる「三途の川」の渡し守の名にちなんで命名されました。
- カロンは1978年にJ.クリスティによって発見されました。それまで冥王星はもっと大きいと考えられていました。なぜならカロンと冥王星の像がお互いぼやけて重なっていたからです。
- カロンは太陽系のなかでは,その惑星に対して最も大きな月です(地球の月は別にされています)。冥王星とカロンは惑星と衛星というより,2重惑星と考えた方がよいと考える人もいます。
- カロンが同位相回転するだけでなく,冥王星もまた同位相回転しているという点で冥王星とカロンはユニークです。そのため、お互いに同じ面を向き合ったままでいます。
- カロンの構成物質は分かりません。しかし,密度が小さい(1.4g/cm3)ため,天王星の月(レア)のようなものでしょう。
写真
- (上) 冥王星 (地上から星食を測定)
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- (上)カロン(地上から星食を測定)11k gif
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- 冥王星とカロン(FOC;微光天体カメラによる、COSTAR;宇宙望遠鏡軸交換修正光学系の搭載後の写真)
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- 冥王星のハッブル宇宙望遠鏡による写真 (光学系修正前)
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- 地上観測写真と光学系修正前のハッブル宇宙望遠鏡による写真
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- ノルディック光学望遠鏡から見た冥王星とカロン
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冥王星とカロンをもっと知るために
未解決の問題
- 冥王星とカロンの質量,半径そして密度についてはかなり不正確です。
- 明らかに冥王星と似ているカイパー・ベルトの天体がいくつか最近発見?されました。冥王星と同じくらいの大きさのものはあるのでしょうか?
- 冥王星の大気の性質はどんなものなのでしょう?
- 冥王星やカロンにはどんな「地質学的な」特徴や作用が存在するのでしょうか?
- 冥王星の高速接近計画の予算はつくのでしょうか?
もし近日点近くで冥王星を観測するこのチャンスをのがせば,次のチャンスは23世紀までやって来ません。
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ビル・アーネット著;2006年 8月24日更新
猪股 亨 訳;高橋邦夫 補訳;2006年 8月25日更新