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月を知ろう

月に関する研究発表
第1回パネルディスカッション「月の氷」


No. 16 2000年11月23日【木】19:49 川勝康弘(NASDA)
春山さん、出村さん、ありがとうございます。
とくに、春山さん、とても突っ込んだ分析をありがとうございます。

まず、永久陰について。
  • 月の自転軸は黄道面にほぼ垂直である。したがって月の極域では、一年中太陽高度が低い(1.5度程度)。
  • 太陽高度が低いと、わずかな凹地でも、底面には太陽光があたらない。一年中太陽高度が低い極域の凹地の底面には一年中太陽光があたらない。
  • これが永久陰。
ということですね。クレータの分布や形状などを考えれば、極域では永久陰はたくさんありそうですね。

次に永久陰に氷がある可能性について。
  • H2Oの供給源としては、「太陽風の還元」「水を含む宇宙塵」「彗星」「内部からの噴出」などが考えられる。多量にあるとすれば「彗星」?
  • 水分子は「適度に」暖められると、月の表面を移動していくことが考えられ、うまい具合に移動を重ね永久陰に到達する可能性がある。
  • 太陽光にあたると、気化するだけでなく光乖離で水素と酸素に分解してしまう。その意味で太陽光があたらない永久陰はH2Oの存在場所として有望。
  • ただ、永久陰の中も100Kくらいに暖まることがある。氷があった場合でも、少しずつ昇華していき、億年単位ではなくなってしまう可能性がある。
これは、いろいろ驚きました(勉強になりました)。私は、永久陰に彗星がぶつかって、それを構成していた氷がそのまま残っていたんだろう、と安直に考えていましたが、いろいろな可能性があるわけですね。

 氷の存在形態については、「これまでの観測結果の解釈」や「氷の利用可能性」などの議論につながっていくんではないかと思います。
 が、そちらを展開する前に、もうひとつ基本的なところを抑えておきたいのです。それは「月に氷があると何で嬉しいの?」ということです。

No. 17 2000年11月23日【木】19:50 出村裕英(NASDA)
川勝&春山氏の整理と、疑問への回答を通じて、月の氷についての現在の理解が、パネラーと読者間で共有されたこととおもいます。

そろそろ、パネルディスカッションの本筋として、パネラー同士の議論に移りませんか? >垣見さま、金森さま>

月に水(H2O)は無い、というのが、ある程度知っている方の常識です。もしかすると極域の永久影に彗星等外来起源の氷があるかもしれない、という「期待」を持つ人が、結構沢山いるわけです。

ここで、何で月に水があると嬉しいのか、議論させてください。

大雑把には、科学と資源利用、2つの観点があると思います。

前者は春山氏らの興味である、彗星(および地球海洋)の起源を組成から理解しよう、というもの。H2Oだけでなく、簡単な有機化合物等の揮発性成分も、英語では一括して ice と表現されることが普通です。 Lunar Ice、とは、生命の材料物質も含めた、極めて意味の深い語でもあります。
   →この話題は、春山氏が出張から復帰したところで、改めて。

後者は、月面有人活動で一々地球から水を持っていくのは大変だ、現地調達したい、という「切望」の一言に尽きると思います。地球上の活動では、ありふれた水の利用が大前提となっています。生命維持、は言うまでもありません。生活用水に至っては何リットル?建築材料の基礎、コンクリートが固まるのは、水と化学反応(水和)するからです。水がなければ建物(月基地)もできません。
各種工業プラントでは、冷却水、化学反応の場、搬送(廃棄)の溶媒として大量の水が使われます。月で完全自給するのなら、工業用水だけでなく、農業用水も確保しないといけません。再利用するにせよ、人類活動の規模に応じて、水と空気が大量に必要です。

でも、地球から水を月まで運ぶとなると、莫大なコストがかかってしまいます。地球環境問題で共通理解が得られつつありますが、まさに、「水と空気は決して無料ではない」のです、月面上では。

金森さんは、この辺の背景にお詳しいと思いますが、水のコストと利用(採取?)方法についてなど、御意見・話題提供いただけませんか?

No. 18 2000年11月23日【木】19:51 川勝康弘(NASDA)
 2つの考え方があると思うんです。
 ひとつは「利用」という観点、もうひとつは「科学」の観点。

 まず「利用」について。
 そもそも地球には潤沢な水があるわけだから、わざわざ月から地上水を(利用のために)運ぶことは考えられない。
 次に、地球周回軌道上の宇宙ステーションに月から水を運ぶということも、私は考えにくいと思うんです。たしかに「1kgの水を運ぶためのエネルギー」で考えれば、宇宙ステーションに行くためには地上からよりも月面からの方が近いんです。でも「コスト」は「エネルギー」だけで決まるわけではないですからね。水を精製する装置を月に運び、それを月で運用する、というのはかなり大変なことです。コスト的にはまったくかなわないでしょう。
 やはり、基本的には月面で使うんでしょうね。用途としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。金森さんでよろしいでしょうか。

 次に「科学」について。
 春山さんの話の中でも、月の氷の起源にはいろいろな可能性がある、とおっしゃってます。ということは、月の氷を調べてみると、単にH2Oがあったというだけでなく、いろいろな科学的発見につながる可能性があるのではと推測しますが、春山さん、出村さん、いかがでしょう。

No. 19 2000年11月23日【木】20:17 出村裕英(NASDA)
あ、川勝コーディネーターの交通整理と重複してしまいましたね...
しかも、ほとんど同時、期せずして内容もおんなじ。驚きました。(ごめんなさい。ほんとの偶然です。)

>  次に「科学」について。
>  春山さんの話の中でも、月の氷の起源にはいろいろな可能性が
> ある、とおっしゃってます。ということは、月の氷を調べてみる
> と、単にH2Oがあったというだけでなく、いろいろな科学的発見に
> つながる可能性があるのではと推測しますが、春山さん、出村さん、
> いかがでしょう。

指名されてしまいましたが、まとめをされた春山氏の御専門です。
月の氷が彗星起源であると仮定しますと、彗星探査で遠くまで観測機器を送らなくても、月に行くだけで済みます。近い分、重いけれども、より高精度の分析機器を多種搭載して、色々調べられます。

いろいろありますが、多くの方の共通認識としては、

#質量分析計で、重水素/水素比を求める

これが最も実現性が高く、かつ重要です。地球と月は太陽系の中では同一地点とみなせます。地球海洋の同位体組成は、過去45億年の進化履歴&途中供給を背負った「積分値」です。春山氏のまとめ通り月の氷の寿命が〜10億年くらいしかないのならば、最近の寄与とそれまでの海洋組成とを分離できて、海洋の起源を議論する基礎データが入手できたことになります。

それに、そもそも、我々は彗星物質を手に入れたことはありません。ツングースの例にもあるとおり、今落ちてきても、地球突入時に爆発四散してしまいます。
水だけでなく、有機化合物も焼かれずに残っていると、いろいろ楽しい議論ができます。(?これは脇道かな?)

No. 20 2000年11月23日【木】20:25 出村裕英(NASDA)
他パネラーからの意見が届くまでに、おもしろい意見を紹介、コメントします。

> 生きてるうちに月に棲みたいのですが(笑)

そうですねー。私も老後、足腰が立たなくなったら、重力の小さい月で余生を送ってみたいです。私たちの生きているうちに一般の人が「普通に」行ける場所になると、いいですなぁー。

また、高出力レーザーで極の永久影を照らして、氷を気化させてそれを見よう、という意見がありました。日本の月探査SELENE計画は太陽を光源とした、受動型センサーで全球組成マッピングをします。
これに対して、「自前の制御された」光源で能動的にマッピングしよう、という野心的なアイデアが付けられていました。

「原理的には大賛成!」です。太陽光量は活動度に応じて日々変化しています。太陽光は無偏光ですから、円偏光させた光源を用意すると、電磁波の浸透深度に応じて、いくつか情報を得ることができます。例えば、電波は可視光より長波長ですから、より深部までわかります。

ただし...
衛星高度のセンサーで感知できるほど明るく照らす光源を用意することができるかどうか、が問題ですね。電波では合成開口レーダーという実例がありますが、よりエネルギー密度の大きい(短波長の)可視光は、発生させるのが大変そうです。工学的に可能かどうか、どなたか、御存知ありませんか?

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