石澤: |
はい、どうもありがとうございました。月に関する観測で地球の観測とは違った面があるということがよくわかりました。ありがとうございます。それでは次に月のエネルギー利用につきまして、池田先生からお話いただきたいと思います。
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池田: |
原研の池田と申します。今回、原子力と月ということで、この中には宇宙、月の専門の方が多いと思いますので、若干、原子力と月にどういう関係があるかをご紹介したあとに、月にありますヘリウム3という非常に貴重なものについて話したいと思います。
この図はよくわれわれの世界で核融合のおもて表紙に使われるんですが、核融合の世界でも宇宙がよく出てきます。皆さんご存知のように、月、宇宙の星のエネルギーが核融合から発生しているということがあって、われわれの世界でもよくこういう写真を使わせていただいております。
そういう意味で、一見、月と原子力は関係ないように思えますが、私自身も含めまして、子供の時に、空を見上げて月を見たり星を見た時に、その宇宙の神秘とかに惹かれて核融合に入った方は私の周りにも多いと思います。今日の話は宇宙から原子力に行った時に、月が有効な資源の星だということを述べたいと思います。
まず原子力の応用ということで皆さんよくご存知なのは原子力発電、それからいま私が話したい核融合発電というか核融合があります。この図は上が核分裂、下が核融合についてポンチを示しています。通常、エネルギーを原子核から取り出す場合、原子核の質量が多い場合はそれをわけたほうが安定になります。一方、小さい原子核の場合は、くっつけた場合、融合した場合が安定となってきます。安定になった過程に、おのおの質量変化が発生しまして、その質量変化はよく有名なアインシュタインのE=MC2という質量の損失分だけがエネルギーとなって、われわれの目に見えるものになってきます。それで今回は核分裂よりは核融合について若干話したいと思います。われわれが現在進めています核融合というのは、通常、陽子と中性子を1個ずつ持っている重水素と、陽子1個と中性子2個を持っている3重水素。この原子核どうしを衝突させて、そこから発生するエネルギーを取りだそうとしています。しかしながら原子核どうしの陽子の反発力で、通常はすぐにくっつかないというのが大きな問題です。これをくっつけるためには、運動エネルギーを与えてより高速でぶつければいいわけですが、それを達成するためにいろんな工夫があります。一方、自然界では太陽の場合は重力によって、こういう高速のものがかなり高密度になりますので、自然と核融合が発生しています。しかしながらわれわれの人工的方法にはそういう重力はありませんので、それをいろいろな工夫によって実現するのがわれわれの研究テーマです。
現在、われわれの進めている方式の1つですが、ヨーロッパ連合、ロシア、アメリカ、そして日本で協力して設計活動をしているイーター(ITER)という装置ですが、右の下に人間が見えますが、現在われわれが持っているイメージの、ある意味では人工太陽がこういうようなものです。これを実現することによって2010年前後にだいたい150万kWくらいの核融合出力が得られるのではないかと計画しています。
前置きはそんなところなんですが、われわれが、いま話しましたように、この核融合をやろうと思う際に、使うものは重水素、3重水素というもの、この燃料を使うと中性子が発生します。その中性子の出る反応というのは、やはり材料に対していろんな問題を生じるという課題がありまして、何とかならないかという話が以前からありました。物理実験的にはいろんな核融合反応があったわけですが、1つの有力な候補としては、先ほど理事が話された質量ナンバー3のヘリウム3というのを使いまして中性子の発生しない核融合があるということがわかっていました。しかしながらヘリウム3というのは地球上にほとんど存在していません。風船でお祭りなんかでよく見掛けますが、ヘリウムボンベの中はヘリウム4で、通常ヘリウム3はそのうちの100万分の1しかありません。したがってヘリウム3の核融合は不可能だろうと思われたわけです。しかしながらアポロ計画がいろいろ進みまして、月の表面の探査が進んだ結果ですが、太陽風からヘリウム3が月にかなり降り注いでまして、月表面にヘリウム3が大量に存在していることがわかってきました。そこで従来考えられていなかったヘリウム3を用いた核融合が、最近、脚光を浴びてきているわけです。
いろんなヘリウム3を用いた核融合の方式は、現在まだ検討段階ですが、これはその1つの方法で、日本の名古屋大学の方が提唱している装置です。中のほうに10mのスケールがあるように、かなり大きなものですけれど、こういう装置を使うことによってヘリウム3を用いて、かつ中性子が非常に少ない核融合発電ができるのではないかと提案されています。またいろんな方法がありまして、核融合反応を起こすにあたってはレーザーを使ってやるという方法も、日本では大阪大学でかなり先駆的にやっています。これは同じようにレーザーの力を用いて燃料を爆縮して核融合を起こすという方式です。これについても、いまいろいろ検討をしています。いちばん最初に示した国際熱核融合炉イーターの装置でもヘリウム3を入れることによってある程度の各融合出力が出ると思いますが、ただもう1つヘリウム3で問題なのは陽子が2個あるので、反応を起こすためにはより高い温度を保持する必要があります。そういう意味では現在いろいろ提案されていることに、さらにいろんな基礎研究を含めて進めることが必要だと思っています。
最後にアメリカのNASAの絵を拝借したんですが、これは月の表面にヘリウム3が存在していることがわかってきましたので、月にある程度基地を作り、表面を削ってヘリウム3を取り出すというプロジェクトのポンチ絵です。この図では表面を削る装置としては太陽エネルギーを使いまして、それによって電力を受けて表面を削る。ヘリウム3を獲得してそれを地球に送り返すという案です。
全体的に、核融合についてはまだ現実的には数年かかると思われていますが、月の開発とともに同じように核融合も進みますのでヘリウム3を使うことによって、中性子が発生しなくて材料的には問題のないような新しいエネルギー開発ができると考えています。
以上です。 |
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石澤: |
どうもありがとうございました。月のエネルギー利用は、ただいまお話にあったヘリウム3の利用のほかに、月の上で太陽光を集めて、それを地球へと伝送していく光、マイクロ波電送という研究も世界ではなされているようです。
それでは次に、われわれが検討した時に1つの月の利用の可能性として地球規模の危機監視というのがあります。これは昨年の夏、シューメイカー・レビー彗星が木星に衝突して、たいへんに話題になったわけですが、あれは木星だったから、われわれは観測のいい機会だと他人事のように、別天体の話として見ていたんですが、あの1つでも地球に衝突すれば、これは地球の非常な危機になることは目に見えています。これらのことに関しまして、国立天文台の磯部先生からお話をうかがいたいと思います。
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磯部: |
国立天文台の磯部でございます。地球規模の危機監視というタイトルをいただいたんですが、お話することは、この中ではいちばん最後の小惑星衝突ということです。地球規模の大災害、人口爆発も含めて人類にとって非常に大きな影響があるというのは、まだあるかも知れませんがこんなところだと思います。ただ地球内の原因については人間の努力、直接の現代の努力で防げるものであったり、火山・地震というレベルならローカルですむわけですが、地球外起源のものは、1番の地磁気の消滅によって宇宙線が振り込むという話は、いままでの人類の長い歴史の中で経験してますから、それで人類が絶滅するわけじゃありませんが、2番、3番、4番に関しては、もしそういうことが起これば、人類の滅亡につながるということになるわけです。ただ、超新星の爆発、そういうキャンディディトな星が太陽の近くにないので1億年くらいは大丈夫だろう。太陽の膨張も、ご存知のようにあと50億年くらいは大丈夫だろう。
ただ小惑星の衝突が問題になるわけですが、これも衝突頻度としてはそんなに大きくないわけですが、これはランダムな現象であるということで、いつそういう現象が起こるか予想できないわけです。しかもそれを場合によっては10の5乗年くらいに1回、グローバルカタストロフィになる可能性がある、人類絶滅を引き起こす可能性のあるものがあるかも知れないということです。それに関して中身をお話しさせていただきますと、これがアメリカのミサイル防衛網に引っ掛かった地球上空、大気上での広島型原爆程度の爆発の17年ほどの間のものです。これはだいたい直径10m〜20m程度のものが地球大気に突入して作ったもので、その間に136個ですから、毎月1個ずつその程度のものが起こっているということです。小惑星は現在のところ発見されているのは1万何千個ですが、軌道がよくわかっているのは6000個くらいで、今夜、夜空を見上げていただくとこれだけ小惑星が本来なら見えるはずという絵です。ですが、そのうちのいくつかは地球の軌道の内側まで入ってくるわけです。そうすると衝突の可能性があるわけです。そういった地球の軌道の内側に入ってくる小惑星の発見はどんな感じになっているかといいますと、1989年以降、急速に増えています。これはスペース・ウォッチ・プログラムというのが完成しまして毎年50個程度の発見がなされています。現在、250個を越えております。これはいままで、そういうものを見つける地上のいい観測装置がなかったために、今まで見つからなかったのが、いまジャンジャン見つかっているということです。
逆に地上に衝突してクレーターができるわけですが、それの世界での分布がどうなっているかを示したものです。地球の場合は月と違ってできたものが侵食によって削られて消えていますから、残っているものは数があまり多くないんですが。そういうものが衝突するとどのくらいのエネルギー解放になるかという輿石さんが計算なさったものですが、だいたい10m規模のものが衝突すると広島型原爆に相当する0.02TNTメガトンということになるわけです。500mサイズのものが衝突すると全面核戦争、核の冬といわれたレベルのエネルギーを放出すると。1kmサイズになると、1億メガトンと。これが6500万年前に地球に衝突したのではないかといわれているものです。
メキシコのユカタン半島にチクスブールというところがあって、そこを中心にして直径200kmのクレーターが作られています。これが6500年万年前ですからご存知のようにその時まで栄えていた恐竜が絶滅したという説もありますし、いずれにせよ、かなりのダメージを受けた現象がこれです。こういうのが、だいたい5000万年に1回くらい起こるということがいわれています。ちょっと余分な話ですが、その当時、われわれの祖先の哺乳類はこんなような存在で、夜行性でコソコソと生きていたのが、恐竜がいなくなったおかげで、だから小惑星衝突のおかげなんですけど、われわれがここで喋れるようなことなってきたということです。
そういうものが衝突すると困るということで、アメリカでは1989年代にスペースガード計画というのが提案されたんですが、残念ながらNASAの予算カットで実現されませんでした。先ほどお話がありましたように、昨年のシューメーカー・レビー彗星のおかげで予算を復活させようという話が出まして、来年度予算から既存の望遠鏡を使った観測が始まる。これで何がやろうかということですが、30年くらいかけて直径1km以上のものを90%程度見つけようというものです。この計画では10%のものが引っ掛からないで残ることになります。それから先ほどお話しましたが、直径500m以上になるとグローバルカタストロフィを起こすレベルになります。そういうものも、つまり500m〜1kmのものは地上観測では見逃される。これは地上観測を徹底して充実させれば大丈夫と思われるかも知れませんが、地球上では見える星の等級が限られていますので、無理なわけです。そういう意味ではスペースでの観測がなければ、それ以下のサイズのものは防ぎ得ないということになります。
小惑星が衝突する時には、地球軌道と小惑星の軌道とがありまして、地球軌道から小惑星が外に出てくる時に衝突するケースがあります。これはいままで見つかった地球のそばを通った小惑星ですが、左手に太陽がありまして、左手から右へ、地球のそばを横切っている。これは常に太陽方向からある。ということは昼間の間にその天体が見えていることになりますので、夜の観測では見つけられないということで、ある日気が付いたら小惑星がドンとぶつかっているということになります。こういうことに対してもスペースからの観測網をちゃんとしておかなければいけないことであります。
こういうことで、月面で観測網を常に保ってやっていくことが非常に重要なことになります。500m以下でも大陸レベルの被害が起こるわけですから、それが何万年に1回か何千年に1回か、いま評価を一所懸命しているところで、それが、それを見つけたとしてミサイルで撃ち落とすという発想もありますが、それも破片がどこに落ちるかという議論もしなくちゃいけなくて、非常にたいへんなことになります。
1つだけ、これが私と共同研究している通信総合研究所の吉川さんが計算してくれたわけですが、小惑星の軌道さえわかっていれば、いつどこまで近づくかというのはすべてわかります。縦軸にどこまで地球に近づいたか、横軸が西暦の4600年まで計算してあります。幸い、この期間でいままで見つかっているものは衝突しないということはわかりますが、まだ見つかっていないものがどうなるかは、これではわかりません。逆にいうと、すべてのものが見つかってしまえば、軌道を計算していつ衝突するかがわかります。そうすると、50年後に衝突することがわかれば、たかだか1cm/秒の速度変化を与えてやれば、衝突は回避することができる。これは現在の宇宙技術で十分できることです。それが来年ぶつかるとなると核ミサイル等を使っても、かなりしんどいプロジェクトになる。
月というのは小惑星が集まってできた天体ですが、小惑星を月から調べていくといろんな側面が得られる。資源のお話もありますし、サイエンスの話もありますが、それと同じことができるうえに、いま申し上げたような災害という問題があります。月というのは小惑星がどんどん衝突してできあがったもの、地球もそうですが。その小惑星の中に含まれている多量の水が、私たちの地球には幸い残って、幸い私たちは生命として存在しているわけですが、そういう存在がもっと先々の世代まで続けて、いま言いました水と小惑星の固まった月、それと花、これらを見ながら一杯飲むというのも非常にいいことだとおもうんですが、それが未来の世代にも続けられるような、人類の絶滅がないようなシステムのためには月面基地での監視が欠かせないものになると思っております。
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石澤: |
どうもありがとうございました。月のエネルギー利用は、ただいまお話にあったヘリウム3の利用のほかに、月の上で太陽光を集めて、それを地球へと伝送していく光、マイクロ波電送という研究も世界ではなされているようです。
それでは次に、われわれが検討した時に1つの月の利用の可能性として地球規模の危機監視というのがあります。これは昨年の夏、シューメイカー・レビー彗星が木星に衝突して、たいへんに話題になったわけですが、あれは木星だったから、われわれは観測のいい機会だと他人事のように、別天体の話として見ていたんですが、あの1つでも地球に衝突すれば、これは地球の非常な危機になることは目に見えています。これらのことに関しまして、国立天文台の磯部先生からお話をうかがいたいと思います。
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