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月を知ろう

月に関する研究発表
6.月利用の可能性ラウンドテーブル
司会: 宇宙開発事業団 石澤禎弘
出席: 日本原子力研究所 池田佳隆
国立天文台 磯部秀三
地質調査所 古宇田亮一
通信総合研究所 富田二三彦


石澤: はい。どうもありがとうございました。人類が地球上で安心して暮らせるようにというのは、月からの小惑星の監視というものが重要だということがよくわかると思います。
最後に、これからわれわれが月あるいは地球外で活動する時に、いろいろな放射線等の影響を予測しなければいけない。ということで、ここでは宇宙天気予報ということですが、通信総合研究所の富田先生からお話をうかがいたいと思います。
 
富田: 通信総合研究所の富田です。通信総合研究所から参りましたけれど、今日は宇宙通信じゃなくて宇宙環境ということでお話させていただこうと思います。まず宇宙天気予報のための月利用ということですが、月面での宇宙放射線のモニタリング、それから地球周辺のモニタリング。これらを合わせて、先ほどの磯部先生のお話も合わせて地球あるいは地球人を守るためのモニタリングステーションとして、月は非常に有用であるというお話をこの順にさせていただこうと思います。
まず月の放射線環境についてですが、太陽と地球を大雑把にマンガで描いてありますが、いままで数十年に亘って宇宙科学研究所あるいはNASA等の科学的な探査によって、地球の周りがどのようになっているかということが、だいたいわかってきました。いまのところ目で見ることはできないんですが、地球の周りにはバン・アレン帯として有名な放射線帯がありますし、銀河宇宙線は常に起源はまだわからないんですが銀河の彼方から降ってくる。太陽の表面で特に大きな太陽面爆発が起きますと、それによって高エネルギーの粒子が降ってくる。いわゆるこうした放射線、高エネルギー粒子線が宇宙の中を飛び回っているという環境に宇宙ステーションあるいは静止衛星が飛んでいるわけです。
ですからこれから人間が宇宙に出て行くということもあるかも知れませんけれど、それ以前の問題として、例えば放送衛星、通信衛星、気象衛星、そういうような宇宙利用に対しても、この宇宙は大きな影響を及ぼしているわけですから、そういうものを常にモニターしていく、できれば予報していくということが重要な課題になっていくわけです。
このうち月面について見ますと、月面はもちろん地球のすぐ近くを飛んでいるわけではありませんから、このバン・アレン帯の影響はないんですが、太陽からのフレア粒子あるいは銀河放射線によって放射線環境は決まってきます。その様子を表したのが次の図です。いちばん左側の棒グラフにあるんですが、だいたい年間50±20センチシーベルトくらいの放射線量を月面で浴びることになります。±20と申しますのは、低い時は太陽活動が活発な時、高い80センチシーベルトになる時は太陽活動が極小の時ということになります。こういうように非常に大きな変動をしているということになります。これを地上の放射線環境と比べてみますと、もちろん宇宙の放射線は陽子を中心とする粒子線ですから、地上の放射線のx線、γ線と直接比較することは難しいんですが、とりあえずメジャーのために比べてみますと、地上の放射線従事者の被曝限度が1年間に5センチシーベルトというレベルです。NASAの決めた宇宙飛行士の年間被曝限度が50セントシーベルトですから、だいたいNASAの決めた宇宙飛行士の年間被曝限度くらいは、月面にいると平均的に浴びてしまうことになるわけです。しかもこの放射線量が大きな周期では11年、小さな周期では分あるいは時間の単位で変動しますから、そういうものを常にモニターしなくてはならないということがあります。これはもちろん地球周辺の宇宙利用の安全を守るというだけではなくて、月面上でのあるいは人間の安全を守るという意味でも、月面上の放射線モニターは重要になってくると思います。ちなみに先ほどありました太陽面での比較的大きな爆発、10年に1度の爆発がありますと、1度に500センチシーベルトというような放射線を浴びることに、シミュレーションの結果では、なります。このレベルはどういうレベルかと申しますと、人間の生命の危険もあるというレベルになります。こういう意味からも月面で常に放射線、高エネルギー粒子線のモニターを続けることが重要な課題になってくるわけです。そういう意味で月面の放射線モニタリングステーションとしての使い道があると考えます。
それからもう1つ、地球の方向を月面が常に向いているということで、この利用についてですが、皆さんよくご存知の気象衛星の地球の写真、あるいは地球観測衛星による地球の写真ですが、こういう画像によって私たち非常に恩恵を受けているわけです。これによって地上の気象予測あるいは地上の気象を知るということが非常に進歩したわけですが、これと同じように、もしも地球の周りの宇宙環境を目で見ることができれば、もちろん最初は科学的に非常に重要な成果が得られますが、そのあとは実利用でも非常に大きな成果が得られるであろうというお話を次にいたします。
これは有名な、月面から地球を見た図です。これは普通の可視光で撮っているので、こういう状況になるんですが、もしも現在宇宙科学研究所や東京大学で開発が進んでいる紫外線撮像というようなことで地球の周りの様子を見るということができると、いったいどういうことになるかというのを次にお見せします。
これはシミュレーションの画像と先ほどの画像を合わせたものです。例えば地球の周りにプラズマがこういうふうに広がっていて、時々刻々どういうふうに変動するかということが、こういう画像で観測できる。こういうことができれば、あるいは地球上、あるいは地球の外に出た衛星にいろいろ影響を及ぼす環境というものを直接目で調べて予測することまでもできるようになると考えられます。ですからそういう意味で、結局、地球人あるいは地球を守るためのモニタリングステーションとして、月面というのは重要な拠点であると考えられます。以上です。
 
石澤: はい。どうもありがとうございました。これでほとんどの時間を潰してしまいましたけれど、われわれのところのラウンドテーブルといいましても、それぞれの先生がそれぞれの専門分野でお話していただくということで、実は月探査の調査・検討において、われわれが議論したことをご紹介していただいたということですが、その場合でその場所で議論されましたアプリケーションの面での月の利用という奇麗なシナリオとか、これをやればいいという結論は出なかったんですが、これから月のデータを収集し、あるいは地上の技術のブレークスルーが出てきた時に、われわれが月を利用していく分野、資源の分野、エネルギーの分野、あるいはそれを資源あるいはエネルギーを使う時に、人間が月へ行って活動しなくてはいけない、その時の人の活動を助けるもの、あるいは月のポジションを利用しての人間の危機の監視。これらのポイントが洗い出されまして、これらを科学の分野の観測と車輪の両輪で並行して進めていけば、必ずやアプリケーションの面でも素晴らしい結果を得られるんじゃないかと感じられました。
多少時間がありますので、もしそれぞれ専門の先生方にご質問等あれば、1、2おうかがいしてもよろしいんですが。
 
会場: 持ち帰った月の石からヘリウム3はどこが検出したんですか。
 
古宇田: アポロのNASAと、それからルナ計画でも同じような結果が出ていると聞いております。
 
会場: ソビエト、いまのロシアの科学アカデミーは、それについて何かコメントしていますか。
 
磯部: ロシアのアカデミーからは特にコメントはないんですが、ロシアのルノホートの石を使ったヨーロッパのESAですね、エステックで計測したものも同じようなものです。実体はイルメナイトというチタン鉱物、チタンの酸化物ですが、その中に取り込まれているという状態でヘリウム3が存在しています。
 
会場: 日本にも若干、月の石が送られてきたと思いますが、日本でも検出しましたか。
 
磯部: 日本ではそういう論文はあまり見掛けておりません。
 
会場: 東大は持っているんですよね、月の石を。
 
磯部: あります。
 
会場: それからは検出できなかった?
 
磯部: その辺は本当にしたかどうかはわかりませんけれども、少なくとも論文としては出ていないんではないかと思います。
 
会場: 池田先生に質問なんですが、将来の核融合ロケットについての展望をお聞きしたいんですが。
 
池田: 一応あくまでも現在の考え方だけですが、古宇田さんの話にあったように月のヘリウム3を使う計画は、われわれが進めている次の段階に控えていると思います。われわれがいま進めている考えとしては、重水素、3重水素の実験で、先ほど示した図の装置は2010年くらいに建設を終えて実験結果を出そうとしています。それを受けた形で来世紀の中旬頃には電力を取り出すという形を考えております。たぶん、あとは、若干私の個人的な考えもありますが、その頃は平行して、いろんな物理が進みますので、ヘリウム3を使った核融合炉も見えてくるのではないかと思っています。
 
会場: 推進力としての利用。核融合の爆発力を使ったロケットエンジン。いわゆる水素と酸素の推力を考えたら、核エネルギーは大きいと思うので。イギリスの科学者がダイダロス計画でアルファ・ケンタウリに探査機を送るための核融合エンジン、それはまだ全然計画には……。
 
池田: そうですね。残念ながら私の知識では装置が大きくなってしまいますので、それをロケットに乗せるという展望を持つには、若干のブレイクスルーが必要と思います。
 
会場: じゃあ22世紀くらいの話になるわけですか?
 
池田: いや、あの、いままで私、自分の研究をやっていまして、ある日突然ブレイクスルーというのは起きますので、その延長上でいくとそういう話になるかも知れませんが、ある日突然よくなることを期待しています。いま私どもが狙っているのは、あくまでもエネルギーを取り出そうということなんで、宇宙ロケットという発想は、いまの私の中にはなかったんで、帰ってちょっと考えさせてください。
 
石澤: どうもありがとうございました。それでは時間がきましたのでこの辺で終わらせていただきたいと思います。どうも先生方ありがとうございました。

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