全文検索 総合案内 サイトマップ
> 月を知ろう > 月に関する研究発表 > シンポジウム「ふたたび月へ」 > 第2回シンポジウム(1994年) > 6.月利用の可能性ラウンドテーブル
月を知ろう

月に関する研究発表
6.月利用の可能性ラウンドテーブル
司会: 宇宙開発事業団 石澤禎弘
出席: 日本原子力研究所 池田佳隆
国立天文台 磯部秀三
地質調査所 古宇田亮一
通信総合研究所 富田二三彦


石澤: 石澤でございます。それではこの月利用、アプリケーションの面におきましての月利用のコメンテーターの先生がたをご紹介させていただきます。
いちばん左の端から、まず富田二三彦先生です。富田先生は現在、郵政省の通信総合研究所・平磯宇宙環境センターの宇宙環境研究室の室長をやっておられます。大学時代からのご専門は、地球の超高層大気物理学、特にレーザーレーダーなどを使った観測の研究等をしておられました。電波研究所にお入りになって以来、平磯宇宙観測センターで1988年から始まりました宇宙気象予報プロジェクトに参加しておられます。現在の興味の中心は、何とか太陽フレア粒子の予測ができないかということで研究を続けておられます。本日は宇宙放射線環境の予測ということで、宇宙天気予報といわれておりますが、その辺りのお話をしていただけるのではないかと思っています。
次におられますのは古宇田先生でございます。古宇田先生は工業技術院の地質調査所の国際協力室に、現在、主任研究官としてお勤めでございます。先生のご専門は、鉱物資源部におきまして、いろいろな精密検査の資源の評価研究をご専門としてやってこられました。資源のリモートセンシングの研究もあわせて行なっておられます。現在は、宇宙規模での資源評価にご関心がございまして、本日も月の資源についてのお話をいろいろ聞かせていただけるのではないかと思います。
私の右側は磯部先生です。磯部先生は現在、国立天文台の助教授をしておられまして、専門は初めは星の誕生と太陽系の誕生の環境、その辺りから派生いたしまして惑星空間の塵の研究等を進めておられます。本日の先生のお話は、地球に小惑星が衝突するといろいろな災害が起きてくるのではないかということで、その小惑星の地球衝突の観測と対策に対するお話をお聞かせいただけるのではないかと思っております。
いちばん最後に左側は池田先生でございます。池田先生は日本原子力研究所本部の企画室で核融合計画室の室長代理で現在お仕事をしておられます。先生のご専門は核融合実験、高温プラズマの加熱実験等のプラズマ関係のご専門でございまして、本日は月にあるヘリウム3、これらのエネルギーとしての利用のお話が聞けるのではないかと思っています。
それではスタートするにあたりまして、月利用の長期展望ということで、私のほうから簡単にアプリケーションの面における月利用のお話をしたいと思います。
アプリケーションの面での月の利用ということになりますと、午前中にサイエンスの面での利用の話がありましたが、じゃあサイエンスの利用の面とどう違うんだろうかということをお話したいと思います。まず月の利用といいましても3つの面があると思っています。これは人間の社会活動と密接に関連しているのではないかということで、1つはサイエンス的な活動、経済活動それから文化的な活動、この3つの面から見て月がどう使えるかということを考えてみますとサイエンスの面から見たアプリケーションは午前中に話がありました。次に経済活動から見たアプリケーション、これは何かといいますと、最終的には地上の人間がどんどん増えていきましてエネルギー危機が叫ばれております。このエネルギーを月から持ってくる。このような話がよくございます。これは経済活動に対するアプリケーションではないかと思っています。ただ経済活動のアプリケーションに対しまして、これは何か使えるんではないかという話ができるかできないか、卑近な話で「儲かりまっか」という言葉がよくございますが、これは何を表しているかといいますと、投資に対して得られるゲインが、プラスの面があるんではないか。このプラスがない限り経済的なアプリケーションとして実施する意味がないということになりますと、実は月の利用をそこまで考えてみますと、現在はこれをやれば絶対にプラスになるという答えがなかなか出ないというのが現状でございます。これは技術的な難しさが1つあるということと経済的な活動まで含めたゲインを考えると規模の大きさといいますか、これがプラスになるかマイナスになるかに大きく影響を与える。こういうことが絡みまして午前中の松尾先生の基調報告にございましたように、応用面でのアプリケーションでは、なかなかこれがいいんだというハッキリしたヴィジョンが描き出せないというのが現状です。
そうはいいましても応用というものを考えていかなくてはいけないという上で、どういうことを現在、われわれは考えているかをお話ししますと、まず月を利用する時に基本的な利用の特徴といいますか、これを考えてみますと、これはもう非常に簡単な話です。1つはプラットホームあるいはステーションといいますか、地球の近傍、300〜500kmのところを回るものと月とがそれぞれどういう特徴を持っているか。重力的に考えますと、地球の周りを回るステーション等は無重力。これに対して月は一応1/6のGがある。このGがあるということは、ある意味では応用の害になりますが、人間が生活する等の意味では、あるいはプラスになるかも知れない。次に資源ですが、ステーション等は完全に資源がない。自分たちで持っていくしか資源を得る道はないんですが、月はいろいろな制限がありますが鉱物資源等の資源はある。この資源を使っての応用が考えられるのではないか。次にエネルギー。これは太陽エネルギーがある。これはステーションも月も太陽エネルギーを利用するという面からいえば同じではないか。距離にいたしますと地球から300kmないし400kmのステーションに対して月のほうは38万kmという距離にある。それから安定度と書きましたが、これはステーション等ではいろいろなものを機械的な震動とか姿勢の安定度とか、あるいは、そういう意味での主に姿勢ですが、月に比べると不安定だと。これに対して月は大きな基盤を持って、格段にステーション等よりは安定している。このような特徴を持っています。
この3つのものは、結局、資源の利用あるいは位置の利用という形で利用が考えられるのではないかと思います。まず月資源の利用では、1つは月面でそれを利用するという用途が考えられるのではないか。これは、月の資源でもって人間が活動する月基地を作る時に、建設資材等に利用する。あるいはそこで生活していく時の酸素等のガスをある程度抽出できるのではないか。月面の基地を建設して運用していくという時の利用が考えられる。もう1つは宇宙での利用です。これは中継基地として月を利用するという可能性も1つあるのではないか。それから月の資源を用いて、ほかの天体へ行く時、あるいはステーション等の宇宙の基地に対する資材の補給基地として使う。こういう使い道が1つある。それから地球上での利用というのは、エネルギーを地上に持ってくる。先ほど申し上げたヘリウム3を持ってくる。あるいは場合によると、将来の話としてマイクロ波あるいは光によってエネルギーを地上へ送ってきてエネルギー不足を補う。このような利用が考えられるであろう。それから月の位置の利用としては、午前中にあったように月の天文台として月に観測基地を作る。あるいはこれから磯部先生にお話しいただく小惑星の観測基地として使用する。あるいは富田先生がお話くださる宇宙環境の観測基地としての利用の仕方。それから、これは先ほど出た中継基地としての補給の基地。これは非常に将来の話で、こういうふうな使い方をして月はいろいろなレジャーの基地として観光、あるいは場合によると重力が低いので医療の基地として使えるのではないか。このようなアイディアが考えられています。
これらのことをもう少し、資源について書いてみますと、これは左の端に岩石とかレゴリスがあります。それからいろいろなものを中心に見まして、1つは素材をそのまま作りまして右上にありますように、建造材、設備や備品の素材として使う。あるいはエネルギー用の素材。これは月の上で使う自分たちの電力、あるいはいろんなものを動かすエネルギー用の素材。それから燃料、生命維持用のガスなどを作り出して月資源を使用する。これは1つのイメージですが、こんな使い方ができるのではないか。いまは資源の利用の流れから考えてきましたが、じゃあ時間的にはどのような発展が考えられるのかなということです。いちばん左端はフェイズわけしてありますが、これは無人の探査時代です。これらのことで月のいろいろな資源の調査、あるいは科学的な性質、あるいは新しいことを見つけまして、これから逆に応用というものを考えていくという時代です。無人を過ぎました時代には有人という形に帰ってくる。この有人、人が月の上で活躍するという時に、月の上での利用がスタートするわけです。この初期の頃はアプリケーションの利用ということと、それからサイエンスの利用の両方が、盾の表裏という形で進んでいくのではないかと思っています。人が活動しますと宇宙の天気予報、放射線等の予想が必要になってくる。それから人間の滞在が長くなり、また数が増えてきます。そうすると月面の本格的な基地の構築がはじまります。それで建築資材等の製造、あるいは生命維持用の酸素とか窒素、水の製造が大事業になってきます。ここにガラスの海の構想と書いてありますが、月には14日間の夜がありますが、この時のエネルギーを蓄積するために、先ほどありましたように月の珪素を用いましてガラス状のものを作って、それを月面下に埋め、そこに熱を蓄えてエネルギーにしようというものです。こういうもので人が活動するためのエネルギーを蓄積する。それがだんだん大きくなりますと、その余剰のエネルギーは逆に地球へ送るという考えも出てきます。これらのことからだんだん右のほうへいきますと、月面の基地の拡大ということで、いろいろな活動が出てくると思います。このような活動がどういう時期に展開できるかというのは、なかなか難しい問題ですが、われわれ希望といたしましては、このような月の利用が広がっていくことを希望しています。
それでは最初に、これらのもとになります月の資源につきまして、古宇田先生からお話をいただきたいと思います。
 
古宇田: 地質調査所の古宇田です。私はどちらかといいますと地球の資源の探査をやっていまして、こういう宇宙空間はそれほど経験がないといいますか、たぶん世の中、世界全体を見てもそれほど経験のある人がいるとは、到底思えないんですが、地球の資源から見て、こういった宇宙の資源をどう考えるか、あるいは先ほど石澤理事がいわれたような、産業の中でどのようにゲインがあるものとして考えていくか、ということをちょっとコメントさせていただきたいと思います。
我が国では、資源産業ということで、本当に純粋な資源そのものに限っていいますと、たぶん1%以下の大きさしかない。これが事実です。それが世界全体で見ますと、例えばチリとかカナダとか、一国の経済での2割以上とか、場合によっては8割以上が資源関連という国もあります。それは本当に千差万別ですが、日本のように経済が非常に発達してきますと、資源というのは小さな割合にしかならないというのは事実です。ただし我が国をもし歴史的に過去からたどってみますと、例えば江戸時代は銅とか、金もそうだったという話もあるんですが、世界の生産のたぶん1位、半分以上を日本が生産していたという時代もありまして、我が国は資源小国とは考えられているんですが、単純に現在のことでありまして、世界経済全体で見た場合には、けっこう大きかった時代もあったと。われわれそういう背景を引きずりながら、資源というものに取り組んでいるわけです。
ここで、資源というのは産業活動にとってなくてはならないものなんですが、もしこれが枯渇した場合にはどうかとか、あるいはいつ頃に枯渇するかとか、枯渇した場合にはどうしたらいいかという議論があります。その議論の延長として地球上になくなれば宇宙へという話はあるんですが、それほど悲観的になる必要はなくて、地球上の資源というのは、恐らく来世紀でもそれほど枯渇するということはないんですが、ただ地域的に何かが急に足りなくなるということはあると思います。それから人間の活動がもうちょっと拡大していった場合に、必ずしも地球上で得るより宇宙で得たほうがいい、これは経済的に見た話なんですが、そういう局面が出てくる可能性がある。そういう場合にある程度対処していかなければいけないだろうというのが私たちの観点です。
基本的に私たちが資源探査を進めていく観点というのは、見つけたらすぐに掘るのではなくて、こういうものが地球上に、世の中に存在しているということを明らかにすることが目的です。そういう意味からいきますと、例えば月は、現在はすぐにここに行って何か役に立つものを見つけるという話にはならないかも知れないんですが、資源としてどのように価値のあるものがそこにあるかを調査するということは少なくとも私たちの現在までの活動の延長上としては、当然のことではないかと考えております。
ここにお見せした図は、プロセスとしては先ほどの石澤理事のお話をもうちょっと詳しくしたものになっていますが、基本的にいちばん下の月面探査というのがまず資源の調査の最初にあたるものです。月面探査を目標にした場合には、これは科学探査とかなりオーバーラップいたします。その中でいちばん下にあります広域のマッピング。これは月面全体がどういう構造になっているか、あるいはどういうものがあるかを調べるためのものでございまして、全体を調べるには、やはり人が行ってノロノロと何か調べることは不可能ですからリモートセンシングという手段を使います。それからもうちょっと詳しいことを知りたいということでローバー等を降ろしまして深度方向の探査あるいは現地検証ということが、次に考えられるのではないか。さらにもっと詳しいことが知りたいということになってきます。特に、午前中の話でもちょっと触れられたかと思うんですが、月のような重力が低い、1/6の重力、かつ大気圧が非常に小さいという場で、どういう物質が形成されていくかということは、実際にものを取ってきて調べなければいけない。それもただめったやたらに取ってくるのではなく、きちっとした目的を持って取るというサンプルリターンが必要になるだろう。この3つを総合しましてどういう資源物質が考えられて、それをどのようにわれわれは資源として利用できるかどうかという資源評価というプロセスが考えられるだろうと思います。
そのあとで将来的な話なんですが、石澤理事の最初のOHPにもありましたように、宇宙開発での素材をどうしていくか。その場合にエネルギー供給とか資源開発あるいは酸素・水素の製造、金属・セラミック等の製造といったものに対する課題を解決するための資源調査あるいは探査といったものが必要になります。さらに人間が、先ほどのバイオスフィア2のお話にもありましたような、人間が月面に居住するという場合には、じゃあどういうような物質的あるいはエネルギー的な環境が必要であるか。それに対して当然探査の課題が設定できます。
この辺までが、うまくいけば来世紀の前半までにある程度は行くのかなというところなんですが、さらに将来、エネルギー、後ほど池田先生からお話があると思うんですが、ヘリウム3とかいうものを役立てようという場合には、いちばん最初に示した月面探査のデータを振り返りまして、さらに突っ込んだ探査が必要になるだろうと思います。そういう場合には、月面の人間居住を前提とした新しい探査が展開されるのではないか。それで例えば月面に発電所が建設されるとか、あるいは天文台が建設されるとかいった、いろいろな利用の仕方が考えられるのではないかと思われます。
ちょっととりとめのない話かも知れませんが、このようなことをプロセスとして考えています。
そこで、いちばん下の月面探査の広域マッピングだけを述べさせていただきます。午前中の話にも多少あったかも知れませんが、まず最初に月面全体を調べなければなりません。アポロ11号から17号まで月面に着陸していろいろ調べてるじゃないかといわれるんですが、ほとんどが赤道の前後というところにしか来ていません。例えば地球上でサハラ砂漠とかカラハリ砂漠とかネバダの砂漠とか、そういったところにたくさん宇宙人がやってきて探査船を降ろしていろいろ砂漠を調べて、その結果として地球という惑星には何の資源もないという結論を出すとしたら、それはおかしいのではないかというのと同じように、アポロの計画はあくまでも月面に人間が取り付くというのが目的でしたから、それ自体が月の科学を明らかにする、ないしは資源的な課題を明らかにするという目的はありませんでした。ですからそういう意味で、当然アポロの経験は引き継ぐわけなんですが、それに対してわれわれはもう少し突っ込んだ、月をもし利用するとすれば、こういう項目でいろいろやらなければいけないだろうと考えられます。
午前中の話にちょっと補足しますと、自分自身の位置というものをキッチリと調べなくてはいけない。例えばVLBIのようなものが恐らく必要になるだろう。それから月の地形を詳しく調べなくてはいけないので、レーザー高度計のような精度の高いものを持っていかなければいけない。地球観測でも紫外、可視、近赤外のイメージング・スペクトロメーターが使われているんですが、月の場合には大気がありませんので、たぶん紫外領域での観測が地球と違って非常に重要になると考えています。バンド数も、月の場合にはもう少しバンドを増やしても、それなりに鉱物同定の可能性が広がると考えています。地球上ではあまり問題とされていないんですが、分光分解能のほかに濃度分解能、濃度が13〜14bit以上の、つまり10の4乗以上のデータを取るとといことが、たぶん月の資源を考えるうえで非常に重要である。なぜかというと資源物質というのは非常に吸収効果が大きいために、あまり濃度分解能が低すぎると、それが捉えられないという問題があります。あと空間分解能等は地球観測では非常に大きな課題としてターゲットにされているんですが、たぶん月の上ではそれほど大きな問題にはならなくて、以上のようなスペックが恐らく実現されれば、それに付随したものとして二次的に考えていけばいいものと思います。
それからあとは、元素分析ということで蛍光x線、それから佐々木先生の話に出ましたがマイクロ波サウンダのようなもの。ただこれは恐らくあまり精度が高くないので資源的な価値というのを考えるうえで、月面に取り付いた人間ないしはローバーのようなもので観測するということが重要になると考えています。
以上で終わらせていただきます。

  次へ >>

▲このページのトップへ