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月・惑星へ


カッシーニ/ホイヘンス トピックス

日時に「発表」とあるものは、オリジナルのプレス発表文の日付です。

2006年1月〜12月

この間のトピックスは作成中です。

カッシーニ、探査の折り返し点に到着 (2006年6月29日22:00更新)
カッシーニ探査機が、探査の「折り返し点」に到着しました。2004年から始まった探査は、2008年の6月まで続けられる予定ですが、そのちょうど中間地点に到着したのです。この2年間の発見で、科学者たちは、探査の第2幕に何が待ち構えているかを知るために総力を挙げて頑張っています。
カッシーニ探査機が土星系を周回する軌道に入ったのは2004年6月30日(アメリカ現地時間)のことでした。これまで2年間にわたって、土星本体、輪、そして衛星などの調査を続けています。
「これまで15回にわたるタイタンへのフライバイを通じて、探査機は多くの時間をタイタンの探査に費やしている。2008年までの基本探査期間中には、あと30回以上タイタンのそばを通り過ぎることになる。この2年間はまさにウォームアップのようなものだ。」(カッシーニ計画の責任者、JPLのロバート・T・ミッチェル(Robert T. Mitchell)氏)
「特に私たちがタイタンに注目したのは、初期地球について何らかの手がかりが得られるかと思ったからだ。」と、ハワイ大学マノア校のトビー・オーウェン (Toby Owen)博士は述べています。「この氷に閉ざされた世界を調べることで、私たちは、タイタンの誕生を印すメタンとアンモニアの大気が、初期の地球にも存在したのではないかという証拠を見つけつつある。我々は太陽に近いところにいたため、液体の水の海を持つことになったが、タイタンにはそれはなかった。地球という温暖な環境下での化学反応が生命を導き出したが、タイタンでは、遠い太古の地球の凍った名残だけしかみることができない…メタン、窒素、そしていくつかの有機物分子だ。地球は非常に微妙なバランスを保っており、この全体に暖かい地球の環境こそ、私たちがタイタンを調べる根本的な理由なのだ。タイタン人が地球を調べる代わりに、だが。」(オーウェン氏)
カッシーニの土星系ツアーは、新しいペースで進もうとしています。カッシーニの制御担当主任のジェリー・ジョーンズ(Jerry Jones)氏によれば、「この夏には、私たちは『特急券』を得ることになるだろう。11ヶ月で17回ものタイタンへのフライバイを行う。そして、51回の軌道修正を行う。週に1回以上のペースでの軌道修正だ。」
これらの接近のうち最初は7月2日に行われますが、その次の22日のタイタンのフライバイでは、最大(最小?)950キロメートルまで接近することになります。
7月終わりには、カッシーニの軌道の傾きを、太陽に対してほぼ180度ひっくり返します。これにより、土星の輪の鳥瞰図を作ることができるようになります。この軌道の変更は約1年かけて行われる予定です。
「カッシーニの観測でみつかった大きな謎の一つは、土星が放射する電波の変化だ。」と語るのは、アイオワ大学のビル・カース (Bill Kurth)博士です。「私たちは電波の周期をずっと観測して、周波数の変化からこの惑星がどれくらい速く、あるいは遅く自転しているかを突き止めようとした。その結果、10年間で1パーセント程度、自転時間に直して数分程度ずつずれていることがわかった。なぜこうなるのか、私たちはまだその答えを知らない。土星の自転周期を突き止めることは、他の事象、例えば土星の風速などを突き止めるために欠くことができないものなのだ。」(カース博士)

カッシーニには、前半の探査で見つけたさまざまな発見に見合うだけの仕事が、後半の探査にも待ち構えています。
カッシーニ探査機、そしてタイタンの濁った大気の中を降下し無事着陸に成功したホイヘンス突入機に寄りもたらされた多数の情報からみて、タイタンは地球によく似ているということがわかってきました。メタンの雨や(それによる)浸食、川のように液体が流れた跡、干上がった湖床、火山と思われる山や何キロも続く広大な砂丘地域などもみつかっています。
タイタンにおける発見だけではなく、カッシーニ探査機は新たに3つの土星の衛星を発見し、既に知られていた衛星についても驚くべき発見を次々に成し遂げました。その中でももっとも奇妙な発見は、衛星イアペタスの赤道をぐるりと一周とりまく巨大な山脈の存在でしょう。この山は、火星のオリンポス山(高さ26キロメートル)にも匹敵し、地球でもっとも高いエベレスト山(チョモランマ)の3倍はあります。また、他の衛星は岩石が緩やかにつながった構造(ラブルパイル構造=rubble pile)をとっているようにみえます。

カッシーニは、またこれまでにない高い解像度で、土星の輪の画像を取得しました。このカッシーニの探査の1日目で、輪の中にある奇妙な構造が明らかになりました。波状の構造が輪を引き裂き、結び目のような構造とバンドのような構造がそれらを形作っています。数キロメートルの大きさの氷の塊が、姿を表してきました。科学者たちは、また土星の衛星が、輪にも影響を与えていることを発見しました。衛星プロメテウスは、Fリングから粒子を奪い取っていますし、エンセラダスは土星のEリングが幅広くなるのを手助けしているようです。まったく新しい大きさの小型の衛星(moonlets)が土星の輪の中に存在するかも知れません。土星の新しい輪も発見されたことから、それらの小型衛星の存在が示唆されています。
まさに人目を惹く発見といえたのは、エンセラダスの表層に存在する巨大な氷の間欠泉でした。このことから、科学者の中には、エンセラダスの表層に近い地下には液体の水が存在すると考えている人もいます。
こういった2年間にわたる数多くの発見にもかかわらず、カッシーニ計画に携わる科学者たちが、次の2年間でどのような発見がなされるかを心配げに待っているということは、驚くには当たらないことでしょう。

衛星の「バレエ」を捉える (2006年6月22日発表)
土星系の冷たい、氷の球体たちが、カッシーニ探査機から送られてきた新しい多数の映像の中で、この輪の衛星の中での動きをみせています。
もちろん、映画としても面白いのですが、科学者たちはこの映像を利用して、土星の衛星の軌道をより正確に決定しようとしています。JPLの科学者たちは、同じ映像を利用して、カッシーニの軌道制御に役立てようとしています。探査機は4年にわたる探査の中間点に近づきつつあります。
いくつかの衛星を同時に撮影した写真は特に美しく、それが赤、緑、青の三原色のフィルターを通されたあとはなんともいえない雰囲気になります。科学者たちはこの三原色のフィルターを通った写真からカラー写真を合成します。最近撮影されたカラー写真には、土星の特異な衛星エンセラダスと、オレンジ色の巨大衛星タイタンが写っていました。
なお、以下のページで衛星の「バレエ」をごらんいただけます(いずれも英語)。
JPLの記事へ (英語)

衛星エンセラダスはひっくり返っている (2006年5月31日発表)

※記事の出典は、次の通りです。Jet Propulsion Laboratory / University of Santa Cruz, Calif. / University of Colorado, Boulder.

土星の衛星エンセラダスは、太陽系で最も明るい(反射率が高い)、間欠泉を持っている、薄い大気があるなど、これまでの氷衛星の常識を破る数多くの特徴を持っていることが明らかになってきましたが、NASAが支援した研究により、さらに変わった特徴が明らかになりました。このエンセラダスの内部はちょっと変わっていて、「ひっくり返った」構造になっているというのです。これにより、エンセラダスのもっとも暖かい部分が南極にある理由が説明できるのだそうです。
エンセラダスが最近の探査で注目された理由は、なんといっても、南極地域から噴き出している間欠泉が発見されたということです(前トピックス参照)。
「この謎を説明するために、われわれはまず、間欠泉が南極に集中している理由を考えることにした。」(カリフォルニア大学サンタクルーズ校の地球物理学助教授、フランシス・ニンモ (Francis Nimmo)博士)。
エンセラダス内部の想像図これを説明するために出されたモデルが、暖かく低密度の物質が、エンセラダス内部から上がってきているというものです(左の絵の黄色の物質が、この暖かい物質の移動の様子を示しています)。同じような過程は天王星の衛星ミランダでも起こっているとみられており、この発見について書かれた論文は、今週号の科学雑誌「ネイチャー」に掲載されることになっています。
「カッシーニによる発見は本当に驚くべきものだった。普通だったらいちばん冷たい領域(南極)がもっとも暖かいのだから。私たちは、エンセラダスがひっくり返っていて、暖かい物質が内部から出てきているのだろうと考えている。」(ジェット推進研究所の研究者で、コロラド大学でも研究しているロバート・パパラード (Robert Pappalardo)博士)。 惑星や衛星のように自転している天体は、赤道付近にその質量の大部分が集まっていれば安定します。「天体の中で質量の流動があるということは、その天体が不安定になることを意味し、自転軸のふらつきをもたらす。方向の変化は、赤道付近に余分な質量をもたらし、極地域を軽くする効果がある。」(ニンモ氏)。これがまさにエンセラダスで起こっていることだというのです。
両氏は、エンセラダスの地下にある低密度の塊の効果を計算し、エンセラダス自体を30度ほど傾け、低密度の塊を極地域にもたらしたと結論付けました。
パパラード博士は、このエンセラダスの傾きについて、次のような例えで説明しています。「回転しているボーリングの玉は、穴の方向に向けてひっくり返る傾向にある。つまり、最も質量が軽いところだ。同じように、エンセラダスも、質量が最も軽いところを自転軸として自転しているのだろう。」
上昇する低密度の塊(ダイアピル=diapir)は、エンセラダス内部の氷の外殻、あるいはその下の岩石質のコアの部分にあると考えられています。どちらにしても、物質が暖められると密度が軽くなり、表面に向かって上昇していきます。この暖かい物質の塊により、間欠泉や、テクトニックな原因でできたと思われる「虎縞」のような模様なども説明がつけられます。
エンセラダスの内部で発熱が起きる理由は、その(土星を回る)楕円形の公転軌道にあると思われます。「エンセラダスは土星を公転する間、潮汐力で押し縮められたり引き伸ばされたりし、その運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて内部にたまっているのだろう。」(ニンモ氏)
将来のカッシーニによるエンセラダスの観測では、今回提案されたモデルを検証する予定です。また、科学者は2008年に予定されているカッシーニの観測で、より多くのことがわかるのではないかと期待を寄せています。
なお、この研究はNASAの資金により行われました。

タイタンの海は砂だった (2006年5月4日発表)

※この記事の原典は以下の通りです。University of Arizona, Tucson.

数年前まで、科学者は、タイタンの赤道付近の暗い領域を、液体の海だと考えていました。
レーダによる最新の探査結果では、それらは海だが---アラビアやナミビアの砂漠のように、砂の海であることがわかってきました。アリゾナ大学のカッシーニのレーダ探査メンバーが、このほど(5月5日)発行される科学誌「サイエンス」に発表します。
昨年10月にタイタン上空をカッシーニが飛行した際得られたレーダデータを解析したところ、高さ100メートルくらいの砂丘がタイタンの赤道付近に数百キロメートルにわたって並んでいることがわかりました。
アリゾナ大学の月惑星研究所所属で、実際に解析を行ったラルフ・ローレンツ (Ralph Lorenz)氏によると、砂丘の中には長さ1500キロにも上るものがあったそうです。
「奇妙だ。タイタンから得られたレーダデータは、まるでナミビアやアラビア上空のようなものだった。タイタンの大気は地球よりも厚く、重力は地球より小さい。だから砂は地球のものとは根本的に違う…砂丘とその結果としての光景を作り出す物理的な過程を除いては、全てがまったく地球と異なるのだ。」(ローレンツ氏)

10年前、科学者たちは、タイタンは太陽からあまりにも遠いため、砂丘を刻むような風の動き(大気の循環)を十分に起こせないと考えていました。また、タイタン赤道部の暗い領域は、砂を含んだエタンの海であるという理論を立てていました。
しかし、科学者たちはその後、土星の強い重力によって、タイタンの大気に強い潮汐を起こすことができることを明らかにしました。タイタンにおける土星の潮汐力は、地球における月の潮汐力の400倍にも達するのです。
数年前に最初に大気循環モデルをみた研究者として、ローレンツ氏はこう述べています。「潮汐は明らかに表面付近の風の主要な原動力となっている。大気全体にわたって、上層部から下層部まで強く風が吹いているからだ。太陽エネルギーによる風は大気の高いところでしか起きていない。」
カッシーニのレーダによって捉えられた砂丘は、非常に直線的か、経線に沿ったもので、これは異なった方向から吹く風による特徴的な砂丘です。ローレンツ氏によると、赤道に向かおうとする風を、潮汐力が変化させるということです。
そして、レーダ画像が示すように、この潮汐による風がタイタンの西から東への風と合わさったとき、東西に並んだ砂丘を作り出すのです。ただ、近くに山がある場所では、風が乱れることによって事情は異なります。
「この砂丘をレーダで見たとき、わかり始めた。砂丘をみたとすると、潮汐による風がタイタンの周りを何周かして、赤道の回りに砂丘を作り上げる。潮汐による風は、暗い物質を高緯度地域から赤道領域に運び込むことも可能だろう。これが赤道付近の黒い帯の正体だろう。」(ローレンツ氏)

潮汐による風は、科学者の計算によると秒速0.5メートルほどの弱いものです。「風としては非常に弱いものだが、タイタンの低重力で濃密な大気の中で、砂を動かしていくには十分な速さだ。」(同氏)。タイタンの砂は、火星や地球の砂よりも少し粗く、しかしやや薄い(軽い)ようです。「ちょうどコーヒーの出しがらのような感じだろう。」(同氏)
潮汐による風は変化しつつ、タイタンの西から東への風と合わさって、地表で秒速平均0.5メートル程度の風を作ります。この平均風速はちょっと誇大かもしれません。というのは、地球や火星では、この程度の風速では砂丘を形作ることはできないからです。
砂粒が有機物でできているか、氷なのか、あるいはその混合物なのかは謎です。カッシーニに搭載された可視光・赤外スペクトロメータがその謎を解くかもしれません。

どのように砂が形成されたのか、という点も奇妙な謎です。
砂は、メタンの雨が氷でできた岩を削ってできたのかもしれません。研究者たちは以前、タイタンでは岩を削るほどの(メタンの)雨は降らず、平均雨量に換算して考えていました。
観測とタイタンのモデルによると、タイタンでは雲の発生や雨はまれです。ローレンツ氏はこの点について、個々の大雨はかなりの量になるものの、平均雨量は少ないということになるのだと説明しています。
タイタンに2005年1月突入した「ホイヘンス」に搭載された降下カメラ/スペクトル放射計が取得した画像によると、地表の風景の中に「ガリ」(gully)と呼ばれる小渓谷や河床、谷などがみえました。同じような特徴もレーダで捉えられています。
このような地形は、タイタンに確かに雨が降ることを意味するものです。そしてその雨は非常に強力な作用を及ぼし、アリゾナの砂漠のようなところに雨が降るのと同じ作用をもたらすと、ローレンツ氏は述べています。
このような激しい雨が洪水を起こし、それが砂を作るメカニズムと関係しているとも、ローレンツ氏は述べています。
あるいは、砂はタイタンの大気の中で、光化学作用によって作られた有機物が降り積もったのかもしれません。
「主にタイタンの表面を調べるためのレーダで、タイタンで風がどのような作用をもたらしているのかについて非常に多くの知識が得られるというのは実に面白いことだ。これは我々が再びタイタンを訪れるときに非常に重要な情報になるだろう。多分、気球を持って。」(ローレンツ氏)

カッシーニ、土星の1日の長さに新しいヒントを与える (2006年5月4日発表)
地球の1日の長さが約24時間であるということを知らない人はまずいないでしょう。しかし、科学者たちは土星の「1日」がどのくらいの長さなのかを知るために、困難な努力を重ねてきました。このほど、カッシーニ探査機に搭載された磁力計が、はじめて土星の磁場の周期的な変化を検出することに成功し、土星の1日の長さ、そして土星そのものの進化のなぞに迫ることに成功しました。
最新の研究によると、土星の「1日」の長さは10時間47分6秒(誤差はプラスマイナス40秒)であることがわかってきました。これは、1980年代初期にNASAのボイジャー探査機が測定した結果よりも約8分ほど短い値です。また、カッシーニ探査機の他の測定装置から割り出した結果よりも、やはり短い値となっています。磁力計の値は、現在までのところ、もっとも精確な値であると考えられています。なぜなら、磁力計は土星の内部の動きを捉えているからです。
このカッシーニの結果は、本日発行の科学誌「ネイチャー」に掲載されることになっています。
「地球のように、岩石でできた惑星の自転周期の測定は簡単だ。しかし、土星のようにガスでできた惑星となると、問題が生じる。」こう語るのは、掲載論文の主著者であり、NASAジェット推進研究所(JPL)の研究者である、ジャコーモ・ジャンピエーリ (Giacomo Giampieri)博士です。
惑星は、太陽の周りを公転しながら、自らも回転(自転)しています。地球や火星のように岩石質の惑星は、大陸のような表面の特徴を追いかけることによって、自転周期を比較的簡単に図ることができます。しかし、木星や土星のように、ガスで(少なくとも表面が)できている衛星は、追いかけられるような特徴を持つ固体の表面がありません。
一方、磁場は土星の奥深く、中心部にある(と思われる)金属質の核(コア)の流動により作られます。従って、磁場を測ることによって、研究者たちは土星の1日の長さを知ることができるというわけです。
「1日の長さを決めることは、科学的に重要な成果の1つである。はっきりとした磁場のリズムを捉えることにより、土星内部の構造を知ることができ、やがてはそれがどのようにしてできたかを知ることができるのだ。」(ロンドン、インペリアルカレッジのミッシェル・ドハーティ (Michele Dougherty)教授)
1日の長さを知ること、すなわちどのくらい速く惑星が自転しているかを知ることは、土星の内部構造を理解するために重要であると同時に、土星の天気のパターンを知るためにも重要な要素になります。

カッシーニが土星へと向かう途中、搭載されていた電波・プラズマ波観測装置が土星からの電波を捉え、この電波から、土星の1日の長さは10時間45分45秒と予測されていました。この時点では、非常によい推定値だったのです。
ボイジャーによる土星探査の頃(約25年前)、科学者たちは電波の変化により自転を測定していました。その頃科学者は、土星ほどの大きさ(重さ)を持つ物体が、回転をスピードアップしたりスローダウンしたりすることは事実上不可能であると思っていました。カッシーニが捉えた電波のリズムは少しずつ変化を続けており、科学者たちは、この電波が土星の内部構造の単純な反映ではないことを知ることになりました。突如として、土星の1日の長さは不明確になってしまったのです。
磁場を測定することで、科学者たちは土星の内部を「見る」ことができ、最終的にはこの謎を解くことができるのではないかと思われます。
「私たちの磁場の測定結果は、カッシーニが土星系の周回軌道に入ってから約2年間にわたって一定だった。しかし、ボイジャーの時代からの電波の測定には大きなばらつきがある。観測の残り期間にも磁場の測定を続けることで、この謎を解くことができるだろう。」(ジャンピエーリ氏)

タイタン着陸の新しい映像が公開される (2006年5月4日発表)

※この記事の原典は以下の通りです。ESA/NASA/JPL/University of Arizona

昨年1月のホイヘンス突入機のタイタン着陸は、これまででもっとも地球から遠くでの着陸となりました。その際の映像をもとにした新たな映像が、NASA、ESA及びアリゾナ大学から公開されました。映像では、ホイヘンス突入機のドラマティックな効果の様子が映し出されています。
映像データは、ホイヘンス突入機搭載の降下カメラ/スペクトル放射計によって撮影されたもので、タイタンの分厚いオレンジ色の大気への突入から着陸までの147分間に得られたものです。
データは着陸後何ヶ月もかけて解析され、このホイヘンス計画で得られた最高の映像作品として仕上がっています。ホイヘンス突入機の様子を最も身近に体感したいとすればこれが最もよい方法ではないでしょうか。「ホイヘンス突入機からみた2005年1月14日の眺め」(View from Huygens on Jan. 14, 2005)と名づけられた映像は4分40秒間の作品で、突入機が約2時間半にわたって実際に突入し、着陸しながらみた光景を再現したものです。

「最初にホイヘンス突入機のカメラがみたものは、霧の遠くに広がる地面だった」と語るのは、アリゾナ大学に所属し、この映像を作成したエリック・カルコシュカ (Erich Karkoschka)氏です。「霧が晴れ始めたのは高度60キロくらいになってからだった。この時点で地表の100メートルくらいの大きさの物体を識別することができた。しかし、着陸してからは、突入機のカメラはタイタンの何百万の何百万倍も小さな砂粒も識別できている。この映像は、こういうスケールの大きな変化を知るのにちょうどよい素材だ。」(同氏)
2つめの映像では、科学者たちは芸術的な自由を得て、1本めの映像とは別のデータから作ったことを表すために、音を付け加えました。すなわち科学者たちは、科学的に正しく突入機の状態を5分あまりで「再現」したことになるのです。
「この映像は、ホイヘンス突入機に搭載されたカメラが非常に目的にぴったりであったことをよく表している。映像は、タイタンの表面のほんのわずかの領域---表面積の1000分の1ほどの領域---にある、様々な地形を映し出している。この映像を見ていると、私は将来、この地球に似た美しく魅力的な世界を訪れることができるだろうか、という夢を抱いてしまう。」(ジャン−ピエール・ルブルトン(Jean-Pierre Lebreton)氏。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)側の「ホイヘンス」の計画責任者)
カッシーニ探査機は4年間にわたる探査を続けており、次のタイタンへのフライバイは2006年5月20日の予定です。今年だけで22回ものタイタンへのフライバイが計画されており、計画全体では45回のフライバイが行われる予定です。

カッシーニ/ホイヘンス計画のチームが宇宙探査賞を受賞 (2006年4月10日発表)

受賞する探査スタッフ これまでにない土星と多数の衛星の高精度の写真を取得してきたカッシーニ探査機のチームが、雑誌アビエイションウィーク&スペーステクノロジー誌が主宰する航空宇宙探査賞(Aerospace Laurel award)を受賞しました。
アビエイションウィーク誌は、受賞理由として、ホイヘンス突入機のタイタンへの突入成功、カッシーニ探査機による非常に美しくまた多くの科学的な成果につながった画像、そしてそれを何年にもわたって地球へ送り返してきた努力に対して賞を授与しました。
アビエイションウィーク誌の一部から引用してみましょう。「NASAジェット推進研究所(JPL)のデニス・マットソン(Dennis Matson)氏、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の計画責任者であるジャン-ピエール・ルブルトン氏は、その計画の最初から、カッシーニ/ホイヘンス計画を造り上げ、守り、そして運用してきた。そしてこれは、より大きなチームが20年間にわたって計画を進めていくということを見事に証明したことも意味している。」 授賞式は4月7日、ワシントンDCで開催されました。
カッシーニ/ホイヘンスは、1997年10月15日(アメリカ東部現地時間)に打ち上げられました。探査機は2004年6月(同)に土星に到着し、土星とその衛星、特にタイタンの探査に乗り出しました。カッシーニ探査機に搭載されていたホイヘンス突入機は、探査機と共に3.5億キロの旅を行いました。そして、突入機はタイタンの濃く、霧に包まれたタイタンの大気に突入し、地球に似た循環過程があると考えられる、衛星タイタンの様子を明らかにしました。カッシーニは最近になって、土星の氷衛星エンセラダスで大きな発見をもたらしました。それは、暖かい内部から氷の粒を宇宙へむけて噴き出す、巨大な間欠泉の存在でした。
この探査は、アメリカ及びヨーロッパ17カ国から結集した260人の科学者の最善の努力によって支えられています。

土星のAリングは考えられていたより粒子が多かった (2006年4月6日発表)

※この記事の原典は以下の通りです。University of Colorado at Boulder

土星の美しいリングをカッシーニ探査機で上から観測したところ、輪の中でもAリングと呼ばれる輪が、従来考えられていたよりもより多くの粒子を含んでいることがわかりました。これは、コロラド大学ボールダー校の最新の研究によるものです。
1980年代のボイジャー探査機による観測では、輪はもっと透明で、それほど物質がないと考えられていました。しかし、2005年5月における、カッシーニ探査機の紫外線撮像装置(UVIS)の観測に基づいた計算によると、輪の不透明度は以前考えられていたよりも最大で35%も高いことがわかりました。
輪の中の物質は均等に分布しているわけではありません。サイズも、小さいものは塵くらいですが、大きいものではスクールバスくらいのものまであります。このようなことから、輪の透明度は、輪をどの方向から見るかによって変わってきます。観測データから作成されたモデルによると、粒子は基本的に糸状の塊になって平行に並んでおり、その大きさはさしわたし約20メートル、厚さ約5メートル、長さは約50メートルになることがわかりました。
論文と同時に発表された画像で、輪の物質の分布の様子がわかります。不透明なBリングの方が、すぐ外側にあるAリングより多くの物質を抱えており、Aリングはその内側の端で最も物質密度が濃くなっています。カッシーニ探査機によって新しく発見された塊は、全体的により多くの物質が存在することを示していると、研究者は考えています。
粒子は、絶えず変化する破片の集団の中に囚われていて、この集団は、惑星の重力を受けて、引き裂かれたり再結合したりを繰り返しています。この集団の大きさやふるまいは、星の前をリングが通過するときに光が瞬く現象(「星食」(stellar occultation)として知られています)を観測することで導き出すことができます。
コロラド大学ボールダー校の大気宇宙物理学研究所に所属するジョシュア・コルウェル (Joshua Colwell)氏は、この点についてこういう例えで表現しています。「(星食による)光の瞬きは、車のヘッドライトが杭垣の反対側から照らされているのを、低速度撮影したようなものだ。瞬きによって、その杭垣について詳しく知ることができる。」
粒子の集団の観測によって、Aリングは基本的に空っぽの空間であることが明らかになりました。Aリングをクローズアップで観測すると、「短くて平らな、ひものようならせん状の腕で、その間にはわずかな粒子しかない。」(同氏)

土星の輪の「ミッシングリンク」小衛星を捉える (2006年3月29日発表)
※この記事の原典は以下の通りです。NASA/JPL/Space Science Institute

カッシーニ探査に加わっている科学者たちは、土星の輪の中に、通常とは違うタイプの小衛星(moonlet)が存在していることを確認しました。こういった衛星は、土星の輪1つあたり1000万個も存在すると見積もられています。
この小衛星の存在は、土星の輪のでき方の2つの説、つまり、比較的大きな天体が破壊された跡なのか、あるいは土星やその衛星ができるときに残った物質が輪になったのか、という論争に対して答えを出すものになるか知れません。
「この小衛星は、古い天体が破壊されて輪ができたときに残ったものとみられる。」と述べているのは、コーネル大学のジョセフ・バーンズ (Joseph Burns)氏です。

プロペラ型の二重の輪カッシーニ探査機のカメラで捉えた高解像度写真の中に、4つの小さなプロペラ型の二重の縞が見つかりました(左の写真)。この構造が見つかったのは、土星の輪の中でも明るいAリングの中間にある、周りとは違ってあまり特徴のない場所です。カッシーニのこの発見は今週発行の科学雑誌「ネイチャー」に掲載される予定ですが、その著者によると、この「プロペラ型の構造」は、小衛星が近くの粒子に影響を与えていることを示す最初の例だということです。なお、写真が撮られたのは、カッシーニが土星系の周回軌道に入った2004年の7月1日です。
プロペラ型構造のクローズアップ左の写真は、そのプロペラ状の模様のクローズアップ写真です。1980年代初めに行われたボイジャー探査機による探査をはじめ、これまでの探査や観測では、土星の輪は小さな氷の粒子によってできていると考えられ、その大きさは1センチメートルから、大きいものでは家ほどのサイズがあるものと考えられてきました。科学者たちは、すでに輪の中に、2つに非常に大きな粒子---衛星を発見しており、それらはパン(直径30キロ)とダフニス(直径7キロ)と名づけられています。今回の発見は、100メートルサイズの物体が輪の中にあることを発見したものです。画像の中に見えるAリングの中の小衛星の数が非常に少ないことから、科学者たちはこのクラスの粒子の数は約1000万個ほどであろうと見積もっています。
「こういう中間サイズの天体が見つかったことで、パンやダフニスといった天体は輪の中でも非常の大きなサイズの天体であろうことがわかった。おそらくはどこかから潜り込んできたんだろう。」と語るのは、今回の「ネイチャー」論文の主著者であるコーネル大学のマシュー・ティスカレーノ (Matthew Tiscareno)氏です。
パンやダフニスといった大きさの天体になると、公転するたびに土星の輪の中に「ギャップ」と呼ばれる粒子が少ない部分を作り上げていきます。これに対し、今回見つかったような小衛星はそのような引力はないため、衛星の真ん中に部分的なギャップが生じ、これが「プロペラ型」に見える理由なのです。このような構造は、コンピュータモデルによって予想されていましたが、今回の発見によって、科学者たちにより強い確信を与えることとなりました。
「こういった見事でユニークな画像は、軌道に入ってからすぐ撮影された。というのは、これまでまだみたことがなかった輪の詳細な構造を、早く見たかったからである。この発見は、私たちの土星の輪や衛星の探査に新たな方向性を開くものであり、その起源や進化に迫るものである。」と語るのは、論文の著者の1人であり、カッシーニの画像担当のリーダーであるキャロライン・ポルコ (Carolyn Porco)氏です。

小さい粒子の中にこのような小衛星が点在しているという光景は、私たちの太陽系が形成されていくとき、太陽の周辺に広がった円盤状の粒子から惑星が形成されたというモデルを研究する機会を与えてくれます。「カッシーニで私たちが見ている構造は、惑星形成の初期の様子を模したコンピュータモデルでみられるものに非常に似ている。但し、そのスケールはずいぶん違うが。カッシーニは、惑星の起源についてもユニークな洞察を与えてくれるのだ。」(本論文の共著者の1人で、ロンドン大学のカール・マレー (Curl Murray)氏)

衛星エンセラダスに海が存在? (2006年3月10日14:50)
カッシーニ探査機が、土星の衛星エンセラダスに、間欠泉(定期的に湯を噴きあげる温泉)のようなものが存在する証拠を発見しました。表面に極めて近いところに液体の水が存在することを示唆するこの証拠は、土星の謎めいた月に新たな謎を加えることになりそうです。
「かなり過激な結論であることはわれわれも承知している…これほど小さく、これほど冷たい土星の月に、液体の水の証拠を見つけたというのだから。」と語るのは、カッシーニの画像解析チームリーダのキャロライン・ポルコ (Carolyn Porco)氏です。「しかし、私たちが正しければ、太陽系の中で生物が存在する可能性を著しく広げることになる。」
エンセラダスから噴き出す高速ガス流 カッシーニの高解像度画像(左)によると、氷のジェット噴流みたいなものや、大量の粒子を高速で吹き出している氷の噴出をみることができます。科学者がモデルを立てて、この過程を調べました。その結果、この細かい粒子は、暖かい水が水蒸気に変化するときに、エンセラダスの表面で作られたものか、表面の氷を吹き飛ばして作られたものであることがわかりました。それどころか、科学者たちはさらに驚くべき可能性を示しました。このジェット噴流は、表面近くの水がたまっている場所(水の温度は0度以下)から、まるで間欠泉が噴出するように吹き出しているというのです。
「われわれはいままで、活火山がある場所が太陽系に3ヶ所あることを知っていた。木星の衛星イオ、地球、そしておそらくではあるが、海王星の衛星トリトンである。カッシーニはこれを変えてしまい、エンセラダスがこのメンバー限定クラブの4つめのメンバーとして加わることになるだろう。そして、太陽系の中でももっとも驚くべき場所になるだろう。」(ジョン・スペンサー氏(サウスウェスト研究所・カッシーニ担当科学者))。
カリフォルニア工科大学で、カッシーニの画像解析チームメンバーでもあり、大気科学者でもあるアンドリュー・インガソル (Andrew Ingersoll)氏は、「太陽系の他の衛星にも、何キロメートルもの厚い氷の下に液体の水を蓄えているものがある。エンセラダスとの違いは、液体の水のたまり場が、表面から10メートル以内という極めて浅い場所にあるということだ。」
JPLでカッシーニのデータについて研究しているキャンディ・ハンセン (Candy Hansen)氏はこう述べています。「カッシーニが土星に近づいたとき、土星の衛星系には酸素原子が非常に多いことを発見した。そのときにはそれがなぜだかわからなかったが、いまや私たちは、エンセラダスが水の分子を噴き出していて、それが水素と酸素に分解されたと考えることができる。」
それでも、科学者たちは多くの疑問を抱いています。なぜエンセラダスはそれほど活動的なのか? エンセラダスには他にも活動的な場所があるのか? この活動は、衛星の内部に生命を育むのに十分なほど長く続いてきたものなのだろうか?
2008年春には、科学者がエンセラダスを詳細に調べるチャンスがもう1回あります。カッシーニがエンセラダスに350キロまで近づいて調査するのです。しかし、ほとんどの作業は、カッシーの4年にわたる探査が終わってからの作業として残されてしまっています。
「タイタンと共に、エンセラダスについても、非常に探査の優先度が高いことは疑問の余地はない。土星は私たちに、2つの驚くべき世界を示してくれた。」(カッシーニの分野間科学者、アリゾナ大学所属のジョナサン・ルニーン (Jonathan Lunine)氏)
なおこの研究結果は、今週発行の「サイエンス」誌に掲載される予定です。

タイタンのメタンは地下からやってきたのか? (2006年3月1日発表)

※この記事の原典は以下の通りです: ESA

ESAのホイヘンス探査機がもたらしたデータにより、タイタンの進化についての新しいモデルがわかってきました。これによると、メタンは、タイタンの地下にあるメタンに富む氷から供給されていると考えられています。
メタンがタイタンの大気に存在するという謎は、カッシーニ/ホイヘンス計画で解かなければならない大きな謎の1つになっていました。
タイタンは昨年、ホイヘンス探査機が撮影した画像により、何か流れたものが刻み込んだような地形が存在することが明らかになりました。また、この探査によって、タイタンの表面にはそれほど多くの液体のメタンが存在しないということもわかりました。従って、大気中のメタンがどこからやってきたのか、という点が謎だったわけです。
カッシーニ/ホイヘンス計画により発見された事実により、タイタンの大気中にあるメタンの源に焦点を合わせた、タイタンの進化モデルが完成しました。これは、フランス・ナント大学とアメリカ・アリゾナ大学の共同研究によるものです。
「このモデルは、ホイヘンス突入機により行われた観測と、カッシーニ探査機に搭載された機器によるリモートセンシング観測による結果と、いまのところ一致している。」(ナント大学地球物理学部惑星科学研究所のガブリエル・トビー (Gabriel Tobie)博士)。

地球上の火山活動と、タイタンで起きている「低温火山活動」(cryovolcanism)には違いがあります。タイタンの火山活動では、氷の溶解や、氷からのガス噴出などが起きているのですが、これは、地球で起きている(ケイ酸塩の)火山活動と一見似ているものの、関わっている物質が違います。
メタンは、タイタンでは地球の水に似た役割をしていると考えられますが、これは3回に分かれて大気中に放出されたとみられています。1回目は、タイタン誕生直後、集積と分化の過程。第2のタイミングは、約20億年前、タイタン内部でケイ酸塩のコアの対流運動が始まった頃。そして3つめのタイミングは地質学的には最近(約5億年前から)の時代の活動で、外側の地殻が固体の状態で対流することによる冷却の強化が起きた期間です。
これは、タイタンのメタンが、メタンに富む氷によって運ばれていることを意味します。科学者たちは、この氷(クラスレート・ハイドレートといいます。日本近海の海底にも多数あると考えられているので、耳にした方もいらっしゃるかもしれません)が、アンモニアの混じった液体の水の上に殻(地殻)を作っていると考えています。
「数千万年経つと、メタンは光化学反応によって壊れてしまう。従って、今大気にあるメタンは、タイタンができた頃の残りというわけではなく、非常に定常的に補充されているものであろう。私たちのモデルによれば、最後にガスが脱出した時期から、メタン・クラスレートの崩壊は始まっていたと考えられ、従ってメタンの放出は、内部の海が凍って固まった氷の近くの中の熱的な不安定により起きたと考えられる。

この海の氷結は比較的最近(5〜10億年前)に始まったと考えられるので、私たちは、アンモニアが溶け込んだ液体の水の海が数十キロメートルの深さに存在し、またメタンの放出活動も引き続き行われていると考えている。ガスの放出の割合は最近になって減ってきたと考えられるが(ピークは5億年前頃)、低温火山活動によるメタンの放出は現在も続いているとみられる。
メタンの氷(クラスレート)でできた地殻部分は、時折タイタンの『低温火山活動』で暖められることがある。そのためにメタンが大気中に放出される。こういう噴出はたまに地表に液体メタンの流れを作り、タイタンにみられる川のような特徴の地形ができ上がる元となるのだ。
カッシーニに搭載されている探査機器、特に可視光・紫外線スペクトルマッパーは、おそらくいくつもの低温火山活動の証拠を捉えるだろうし、もし幸運なら、メタンの噴出をも捉えられるだろう。」(トビー氏)
もし研究者たちがいうように彼らが正しいとすると、カッシーニ、そして将来行われるかもしれないタイタンへの探査計画では、地下にあるアンモニアと水の海の存在が明らかになるかもしれません。
探査計画の後半では、カッシーニはタイタンの地下の海の有無を探ることにしており、また中心部にあると考えられる岩石質のコア(の有無)を調べることにしています。
なお、これらの研究結果は、3月2日に発行される科学雑誌「ネイチャー」に論文として掲載される予定です。
また、下の記事にも同様の内容が記されています。

科学者たちが解き明かしたタイタンの大気中のメタンの謎 (2006年3月1日発表)

※この記事の原典は以下の通りです。University of Arizona, Tucson

国際的な惑星科学者のチームが、なぜタイタンの大気にメタンが存在するかという謎を解き明かしました。
メタンは、タイタンでは地球における水のような役割を果たしていますが、アンモニアが混ざった水の海の上に氷の殻のように覆いかぶさっており、その氷の中にメタンが混じっているというのです。メタンはタイタンの歴史上、約3回にわたって、タイタンの窒素主体の大気に放出された、ということも発見しました。
フランス・ナント大学のガブリエル・トビー (Gabriel Tobie)氏、アリゾナ大学のジョナサン・ルーニン (Jonathan Lunine)氏、ナント大学のクリストフ・ソティン (Christoph Sotin)氏の3人は、タイタンに大気に関する新しい進化モデルについて、この3月2日に発行される科学雑誌「ネイチャー」に論文を寄稿しました。
ESAのホイヘンス突入機は、2005年1月14日(アメリカ東部現地時間)、タイタンの大気に突入し、その地表に着陸しました。この突入機によって得られたデータと、カッシーニ本体によるリモートセンシングデータが実によい一致をみせていると、彼らは付け加えています。
彼らによると、タイタンにおけるメタンの存在は、今回のカッシーニの探査で真っ先に解明されるべき大きな謎であるということです。
科学者たちは、前からタイタンの大気にメタンやエタン、アセチレンやそのほかの有機物を形作る物質が存在していることを知ってはいましたが、太陽光が数千万年のうちにメタンを完全に破壊してしまうため、タイタンの45億年の歴史にわたって、何かがメタンをタイタンの大気に補充しているとしか考えられません。

メタンガスの放出の第一期は、タイタンの形成直後、重い岩石のコアと水でできたマントルが氷の地殻の下で構成された時期であると、ルーニン氏は述べています。
アンモニアはちょうど車の冷却水の不凍液のような役割を果たし、タイタンが形成されたときの余熱と、放射性物質の崩壊熱が、最初の数億年〜10億年ほどの間にメタンの放出を促しました。この最初のメタンの放出で大気中に出たメタンの大部分が、再びタイタン内部に取り込まれました。しかしいずれにしても大気中にはいくばくかのメタンが残り、それらは10億年で光の作用(光化学作用)によって分解されてしまったと、ルーニン氏は述べています。

約20億年前に起きた2回目のメタン放出は、より面白いものだったようです。タイタンの岩石質のコアが流動を始めたのが、そのきっかけです。
「コアは岩石でできているが、その中にウランやカリウム、トリウムなどの放射性元素を含んでいたために、だんだんと熱くなり続けた。地球ではこういった元素は表面の近くに集まっていたが、タイタンでは地下深くのコアに集中していた。そのため、コアはだんだんと熱くなり、ついに流動を始めるに至った。」(ルーニン氏)
対流は、熱を取り除くために物質が機械的に移動する現象です。20億年前前後のこの熱の放出で、集中した熱の流れがタイタンのマントルへ流れ込み、氷の地殻を薄くし、氷の中のメタンを大気に放出させたのです。

いちばん最近のメタン放出はおよそ5億年前に起きたとみられています。これは、タイタンの氷の地殻が対流することにより、惑星全体が冷えたために起きたとみられています。
それぞれの時期で、メタン放出の理由は異なりますが、結果は同じです。ルーニン氏によれば、「メタンの大気への噴出があった。私たちは十分にメタンが大気中に加わっている時代を過ごしている。しかし、広大なメタンの海を作るほどではない。」
今回の3度目の放出が、タイタンのメタン放出の最後であろうとみられています。ルーニン氏はこう述べています。「何十億年先まで、もはやこのようなできごとは起こらないだろう。メタン放出はあと数億年で終わる。そして光化学作用により、表面のメタンは破壊され、タイタンは乾き切ってしまう。大気は晴れ渡り、タイタンは今とはずいぶん違う姿をみせることだろう。」
2005年1月、大気との摩擦熱で温まったホイヘンス突入機がじっとりと湿ったタイタンの地表に着陸したとき、搭載された測定器がメタンの噴出を記録しました。突入機の熱が、表面のちょっと下にあった小穴に蓄えられていたメタンを蒸発させたのです。これはちょうど、地球上の河床でキャンプをするとき、キャンプ用のストーブを焚くとその下の水が蒸発して水蒸気になるようなものです。

この間のトピックスは準備中です。

ホイヘンス着陸から1年 (2006年1月12日発表)
1年前の今週、2005年1月14日(アメリカ東部現地時間)、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のホイヘンス突入機がタイタン大気の最上層部に到着し、それから2時間28時間後、ホイヘンスは大気を突き抜けて、無事タイタンの地表に着陸しました。
タイタン着陸の想像図NASAとESA、そしてイタリア宇宙機関(ASI)との合同探査として、ホイヘンスはカッシーニに搭載されて土星へと送られました。タイタンの有機物の様子は40億年前の初期の地球をほうふつとさせるもので、われわれ地球にどのように生命が誕生したかを知る手がかりが得られるものと期待されています。(左は着陸時の想像図)
ホイヘンス探査は、工学、科学の両面から見ても傑出した成功であり、これまでの科学探査の中でも、非常に複雑で、かつ科学的に大きな成果を得られた探査の1つだといえます。タイタンへの着陸は、人類が作った探査機による最も遠くの天体への着陸という記録を成し遂げました。
タイタンの表面の鮮明な映像が、高さ40キロ付近から得られました。これは地球にいろいろな意味で似ている、非常に変わった世界への扉を開くものでした。特に地球に似ているのは気象学及び地形学上の同一性、そして流体の振る舞いでした。しかし、その中の物質は大きく違っていました。得られた画像は、液体による侵食があることを強く示唆していましたが、おそらくこの液体はメタンだろうと考えられます。
ホイヘンス突入機によって、タイタンの大気と地表の研究が可能になりました。特に高さ150キロメートル以下でははじめて有機物やエアロゾルを収集することに成功しました。それによれば、複雑な有機物も発見され、タイタンが、地球で生命を生み出したであろう前駆的な物質である有機物を含む環境であることが確かめられました。
19カ国から集まった、260人の科学者と約1万人の技術者と他のエキスパートたちが、文化を超えて、また科学の枠を超えて結集し、この成果を生み出しました。ESAのホイヘンス探査責任者のジャン-ピエール・ルブルトン氏は述べています。「この探査には20年かかったが、科学的であれ技術的であれ、あるいは組織的な問題であれ、私たちの能力の限界をうんと押し上げることができた。科学者や技術者は彼らの熟達した技術と知識によって技術的、政治的そして宇宙における問題を打ち破り、目標に達したのである。最後に、彼らはすばらしい勝利を収め、驚くべき科学的な結果を別にしたとしても、この計画は組織の全てのセクション、全ての共に働く人々にとって刺激となり、教訓となった。」

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