カッシーニ/ホイヘンス トピックス
トピックスは過去のものも含め、順次追加されます。 日時に「発表」とあるものは、オリジナルのプレス発表文の日付です。
更新の日付は最新のトピックスをご覧ください。
2005年1月〜12月
この間のトピックスは準備中です。
カッシーニ、土星の衛星エンセラダスに大気を発見 (2005年3月16日発表)
カッシーニ探査機が行った2度のエンセラダスへのフライバイ(そばを通り過ぎること)での観測結果から、エンセラダスに大気があることがわかりました。科学者は、磁力計を使ったこの観測について、大気の起源は火山、間欠泉、または内部から吹き出しているガスなのではないかと推測しています。
第1回のフライバイは2月17日に行われ、このときには高度1167キロメートルまで接近しました。この接近のときに、カッシーニ搭載のの磁力計が、かなり強い磁場の存在を確認しました。
さらに3月9日、カッシーニはふたたびエンセラダスへ500キロメートルまで近づき、さらに観測データを採ることができました。
この観測により、エンセラダスの存在により、土星の磁場のプラズマが曲がって、動く速度がゆっくりになったりしていることが確認されました。さらに、磁場が振動していることも確認されました。この原因は、電気を帯びた粒子(荷電粒子)が、磁場に影響を与えているためと考えられます。この振動の仕方は、荷電粒子の性質によって変わりますので、振動の仕方を調べることで、その荷電粒子の正体を知ることができます。そして、エンセラダスのフライバイでの観測により、この荷電粒子の正体が、イオン化された水蒸気であることがわかりました。
「これは、エンセラダスの表面、あるいは内部からガスが出ていることを示すはじめての発見である。」と、ロンドン王立大学のミシェル・ドーティ (Michele Dougherty)博士は述べています。博士は、この磁力計に関する主任研究者です。1981年にボイジャー探査機がエンセラダスの上空9万キロを通過した崔には大気を発見できませんでしたから、今回の発見は、カッシーニがボイジャー探査機を越える能力を持っていることを実証するもの、あるいは、ボイジャーからカッシーニに至る20年の間に何かが起ったことを示すものとも考えられます。
タイタン以外の土星の衛星で大気が発見されたのはエンセラダスがはじめてです。エンセラダスはタイタンなどに比べると小さく、直径が500キロしかありません。重力が弱いため、長い時間大気を引き留めておくことができません。そのため、大気にガスを定期的に補充するような何らかの仕組みが、エンセラダスには存在しているものと思われます。
このような仕組みとして考えられるのが、まず火山や間欠泉です。もし火山や温泉の噴出のようなことが起きているとすれば、エンセラダスは、木星の衛星イオ、海王星の衛星トリトンに続いて、3つ目の「活火山を持つ衛星」ということになります。「激しい噴火を起こすイオに比べると、エンセラダスはより温和な兄弟のような衛星といえるだろう。」と、磁力計の共同研究者であるドイツ・ケルン大学のフリッツ・ノイバウワー (Flitz Neubauer)博士は述べています。
ボイジャー探査機の土星フライバイ以降、科学者たちは、土星のEリングの起源としてエンセラダスから何らかの物質が噴出しているのではないかと考えてきました。エンセラダスの反射率は90%と、太陽系の天体の中でももっとも高いものです。もしエンセラダスに火山が存在するなら、この高い反射率は、火山噴火によって生じた氷が、表面に定常的に降り積もっていることが原因かも知れません。
(注) エンセラダスは、日本語では「エンケラダス」「エンケラドス」「エンセラドス」と表記されることもあります。
カッシーニの画像でわかったタイタンの地球のような世界 (2005年3月9日発表)
※原典は以下の通りです。Jet Propulsion Laboratory / Space Science Institute
土星最大の衛星タイタンの表面には、地球のようにテクトニクスや侵食、風による地形、さらには火山と思われる地形などもあることがわかりました。この発見は今週発行の科学雑誌「ネイチャー」に論文として掲載される予定です。
タイタンは、長い間地球の「凍った兄弟」と思われており、その表面には水ではなく、メタンの海が存在すると思われていました。今回の探査で新たに発見されたものとしては、長さ1500キロにも達する長大な河川があります。また科学者は、タイタンでは自転の速度よりもはるかに速い風が表面に吹いていることを発見しました。これは長い間予想されていたことではありますが、その事実は確かめられてはいませんでした。
特に、タイタンの表面を形作る上で重要な役割を果たしているのが、テクトニクス(地表の破砕、断層運動)であることがわかりました。「大規模な直線状の模様を月・惑星の表面に作る運動として知られているものは唯一、テクトニズムである。特に、内部の力が近くの一部を引き裂いたり、上昇させたり、下降させたり、水平に移動させたりする。」(アリゾナ大学で、カッシーニの画像解析チームのメンバーであるアルフレッド・マキューエン (Alfred McEwen) 氏)。「液体による侵食が、このテクトニックにより生み出される地形にアクセントを添えている。侵食により、低い場所には暗い色の物質が堆積し、また、裂け目自身を広げる役割をしている。この、内部の力と液体による侵食の相互作用は地球とよく似たものである。」(同氏)
カッシーニがフライバイの際に撮影した画像からは、各所に暗く曲がりくねった、あるいは直線的なさまざまな模様がいろいろな場所に観測されていますが、多くは南極の付近に集中しています。そのうちのいくつかは長さ1500キロメートルにもわたります。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の突入機ホイヘンスが撮影した映像でも、数キロメートルの小さな溝があるのがはっきりと撮影されています。これは、おそらく液体のメタンによる作られたものであろうと思われます。カッシーニの画像担当の科学者たちは、この暗く曲がりくねった、あるいは直線的なパターンも溝であろうと考えていますが、液体により削られたという直接的な証拠はありません。もしこれが液体によってできたとすると、タイタンの南極付近には、アメリカ合衆国にあるスネーク川(ワイオミング州に源を発し、4つの州をまたいで流れる川)ほどの流れがあることになります。
カッシーニにより観測された雲については、大体が南極付近に発生していることがわかったので、科学者たちは、この南極領域が、メタンの循環(雨→侵食→流水→蒸発)がもっとも盛んに起こっている場所で、それによりこの領域に多数みられる溝のような地形についても説明できるだろうと考えています。タイタンの下層大気の雲を分析することで、科学者たちはタイタンの風が、自転速度よりも速いということを発見しました。このように自転よりも速い風が吹いている現象を「スーパーローテーション」(超回転)といい、金星などでも発見されています。これに対して、地球のように自転より遅い風が吹くジェット気流のような風は、タイタンではまれなようです。
「タイタンの大気のモデルによれば、スーパーローテーションは金星のようになっているはずだと思われていた。しかしいまのところ、それを予想する直接的な観測が行われていなかった。」と語るのは、NASAのゴダード宇宙科学研究所所属で、カッシーニの画像担当の1人でもあるトニー・デルゲニオ (Tony DelGenio) 博士です。デルゲニオ博士は、約10年前に、コンピュータ・シミュレーションにより、タイタンにもスーパーローテーションがあることを予想した人物です。
タイタンの風速は、雲の動きで測ります。雲自体はタイタンではまれで、大体の雲は追跡するにはあまりにも小さく、また地球から観測するにはあまりにも小さいのです。カッシーニの観測により10の雲が追跡され、その結果風速は東向きに秒速34メートルと測定されました。タイタンの下層大気には、台風並みの風が吹いていることになります。「この結果はタイタンの気象モデルから予測した結果と一致している。また、私たちはゆっくりと自転する天体についての気象学についての基礎的な知識を得ようとしている。」(デルゲニオ博士。なお、金星も自転が243日と非常に遅いことで知られています)
「私たちはタイタン表面の探検を始めたばかりだが、いまのところいちばん衝撃的だったのは、私たちが見ているような表面のさまざまなパターンだった。表面は非常に複雑であり、さまざまな過程が働いてこのような表面ができあがったと考えてよいだろう。」(アリゾナ大学月惑星研究所所属で、カッシーニ画像チームの準メンバーであるエリザベス・タートル (Elizabeth Turtle)博士)。
「太陽系の中で、私たちは非常に地表が地質学的にバリエーションに富んだ固体天体をみつけることができた。片方の半球がもう片方と非常に違うということもありうるだろう。」(キャロライン・ポルコ (Carolyn Porco)博士。カッシーニ画像チーム長で、アリゾナ州ボールダーの宇宙科学研究所所属)。
以上の結果は、カッシーニがここ8ヶ月に撮影した遠距離の南極地域へのフライバイ、および3回の赤道地域への近距離フライバイから見出されたものです。カッシーニのカメラは、タイタンの表面の30%をすでにカバーし、1〜10キロメートルの地形を識別することができています。カッシーニは、あと3年間の間にさらに41回のフライバイを行うことを予定しています。
この間のトピックスは準備中です。
土星の波状の模様 (2005年2月3日 16:30)
土星の表面にみえる、波状の模様を捉えた写真が公開されました。この波状の模様は、雲の帯でできていると考えられます。
撮影したのはカッシーニ周回機で、昨年の12月14日に撮影されました。土星からの距離は59万5000キロメートルで、1ピクセルあたりの解像度は約32キロになります。
Photo: NASA/JPL/Space Science Institute
タイタンにロックを (2005年2月2日15:30)
「世界中で音楽はいつも文化の中心だった。これから何千年にもわたって、音楽はそのような重要な役割を担いつづけるだろう。」
いきなりこんなミック・ジャガー (Mick Jagger)の言葉からこのトピックスは始まります。彼はもう説明の必要がないほど有名なミュージシャンですが、また、タイタンに音楽を送り届けようという、「ミュージック・トゥ・タイタン」 ( MUSIC2TITAN)というプロジェクトの一員でもあります。
「音楽は、地球や境目を超えようという、私たちが生きている時代の科学や技術と同じような役割を担っている。」(ミック・ジャガー氏)
今回、ホイヘンス突入機に搭載された音楽は、「ラララ」(Lalala)、「バルド・ジェームス・ディーン」(Bald James Dean: 日本語に直訳すると、「禿げたジェームス・ディーン」)、「ホットタイム」(Hot Time)、「ノー・ラブ」(No Love)の4曲です。作曲したのは、ジュリアン・シバンジュ氏 (Julian Civange)とルイ・ヘーリ氏 (Louis Haéri)の2人です。タイタンに音楽を送り届けようというこの試みには、ロックの神様と呼ばれるミック・ジャガー氏をはじめとしたミュージシャンが結集しました。
ホイヘンス突入機計画主任のジャン-ピエール・ルブルトン博士は、「科学探査で我々が貴重な科学データを集めるのと同じように、私たちは私たち自身の人間性の足跡を残したかったし、特定の科学の領域を越えて、特に若い人たちに今回の冒険に興味を持って欲しかった。」とコメントしています。
Music2Titanのロゴ (Photo: Music2Titan)
ESAが選んだ作曲者たちは、それぞれの方法で曲を作ってきました。シバンジュ氏はこう述べています。「ある意味専門的だったし、とても公的なことだったし。でも私たちの音楽はもっぱらロックなのだ! ちょうど密航者みたいなものだが、みんながその航海を体験できる。」
面白いことに、この4曲のアルバムは、探査のそれぞれの段階に合わせて作られています。1曲目の「ラララ」は最初の、探査機が準備される段階です。音楽はシンプルで縦のり系。ロックの基本的な調和で成り立っています。2曲目の「ボールド・ジェームス・ディーン」は、カッシーニ周回機との分離を表現したドラマティックな展開です。3曲目の「ホットタイム」はタイタンの探査、そして、4曲目の「ノー・ラブ」は、その探査の後に残った疑問を、静かでメランコリックな曲調で表す、といった具合です。
何が残ったか? でも間違いなくいえることは、この4曲の音楽は、ホイヘンス突入機と共に、タイタンの表面に永く残ることでしょう。
メディアもタイタン着陸に注目 (2005年1月31日17:10)
いまさらいうことでもないかも知れませんが、タイタン着陸は世界中のメディアによって報道されました。ヨーロッパやアメリカの新聞の1面で、タイタンへの着陸が報じられました。ヨーロッパのテレビ局に限らず、アメリカや日本、さらには中東やオーストラリア、ニュージーランドに至るまで、世界中で何百ものインタビューが放送されました。
多くのメディアは、14日(ヨーロッパ標準時)の着陸時に、ヨーロッパ衛星運用管制センター(ESOC: ドイツ・ダルムシュタット)に集まりました。メディアの数は323にも達しました。ホイヘンス突入機からの最初の信号が到達した際には、メディア関係者と、350人にも及ぶ招待客が、拍手で祝福しました。
さらに、14日午後5時半(ヨーロッパ時間。日本時間では15日午前0時半)に、ESAのジャン・ジャック・ドルダン長官と、ドイツ科学教育省のエデルガルド・バルマン大臣が、最初に科学データが到着したことを確かめると、興奮はクライマックスに達しました。科学者や招待客の中にはうれし涙を流して喜ぶ人もいました。午後9時(ヨーロッパ時間。日本時間では15日午前4時)頃には、データが待ち構えていた報道陣や招待客に公開されました。
左の写真は、ホイヘンス突入機の模型を前に、成功を喜ぶ長官たちの写真です。左から、ESAの科学プログラム部長のデビッド・サウスウッド教授、エデルガルド・バルマン大臣(女性)、NASAの科学担当副長官のアルフォンゾ・ディアズ (Alphonzo Diaz)氏、そしてESAのジャン・ジャック・ドルダン長官です。(Photo: ESA)
タイタン着陸はウェブでも注目を集める (2005年1月31日12:50)
ホイヘンス突入機のタイタン着陸という歴史的なイベントは、ウェブの世界でも注目を集めたようです。
1月15日の1日だけで、ESAのウェブサイトには919000人の訪問者が訪れ、合計で約680万ページビューのアクセスを記録しました。14〜21日の1週間では、訪問者数は363万6000人、アクセス数は約2940万ページビュー(約3億4000万ヒット)、そして約6テラバイトのデータがダウンロードされました。
ピーク時には、毎秒約3000ヒットものアクセス、そして毎秒309メガビット(約40メガバイト)のデータ流量がありましたが、ESAのネットワークはこれをうまく捌くことができ、大体約1.4秒ほどで反応を返すことができました。
とはいうものの、やはり大量のアクセスはESAのネットワークにも問題をもたらしました。例えば、ヨーロッパ衛星運用管制センター(ESOC)に設置されているウェブカメラは、アクセスが殺到したため、画像配信を別のサーバに任せなければなりませんでした。
到着したメールも数百通に上りました。着陸に対して祝福するメールもあれば、ネットワークなどの混雑に苦情を寄せたメールもありました。これらのご意見は今後に活かす予定と、ESAでは述べています。
また、画像を独自に解析した、アマチュアやプロの天文学者からのデータもESAには届けられ、これはホイヘンス突入機の科学チームへ転送されました。
なお、月探査情報ステーションですが、1月14日深夜から1月16日いっぱいまでに、約130万ヒット(13万ページビュー)のアクセスがありました。こちらもかなりすごいアクセス量です。
地球のようなタイタンの地表 (2005年1月22日22:30)
タイタンの表面はまるで地球のように川や泉がある…但し、流れているのはメタンだ…このような、12億キロ彼方にある世界についての新しい情報が、次第に明らかになってきています。21日(ヨーロッパ現地時間)、ESAはパリ本部で記者会見を行い、これまでに分かってきているホイヘンス突入機による科学的な成果について公表しました。
この会見の中で、ホイヘンス突入機の 降下カメラ/スペクトル放射計 (DISR) の主任開発責任者、マーティン・トマスコ博士は、「我々はタイタンの表面の地形がどんな形であるか、それを知るための鍵を握っている。地質学的にみて、雨が降ったり、浸食現象があったり、岩石が削られたりものが流れたりしたような跡などをみつけている。タイタンの地形を形作った物理的な過程は、地球上の過程と全く同じだといえよう。」と述べています。
例えば左の写真は、ホイヘンス突入機が撮影した写真を何枚かつなぎ合わせたものです。川のような樹枝上の地形が、明るい(おそらくは地形的に高い)領域から、暗くて平らな領域に向けて流れているようにみえます。さらにこの「川」のような地形が流れこんでいる先の海、または湖には、海岸(湖岸)に沿った島や砂州などもみえます。これはまるで地球上でみる地形にそっくりです(本記事の写真は全て、Photo: ESA/NASA/JPL/University of Arizona)。
また左の写真は、上の写真にある暗い地形(海または湖)の中にある、島のような地形を示しています。
ホイヘンス突入機が搭載していた科学機器である、 ガスクロマトグラフ・質量分析器、及び 地表科学パッケージの観測結果からも、トマスコ博士の結論を支持するような結果が得られています。但し、ポイントは「流れているものは水ではない」ということです。タイタンの表面はマイナス170度という凄まじい低温の世界です。ここでは、地球上の常温ではガスであるメタン(都市ガスの主成分)が液体になってしまい、これがタイタンの地表を流れているということが考えられます。
タイタンの川や海(湖)は、写真撮影の時点では乾いているようですが、そう遠くない昔に雨が降ったことは間違いないようです。
地表科学パッケージから得られた観測結果では、タイタンの地表のすぐ下にある物質は、ばら砂のような物質でできており、これはおそらくメタンの雨が長い間にわたって降ってきたことによるものか、あるいは、ろうそくの芯に液体になったろうが上がってくるように、地下から溶けた液体が上がってきたために起きた現象だと考えられます。
ホイヘンス突入機が着陸したことによって熱が発生し、それによりメタンが噴出したことが、ガスクロマトグラフ・質量分析器、地表科学パッケージの観測からわかりました。この現象は、タイタンの地形を形作る上でメタンが果たしている役割を図らずも示したことになります。メタンは雲を作り、雨となって地表に降り注ぎ、地表を削るのです。
さらに、降下カメラ/スペクトル放射計は、干上がった川床の中に、小さな丸い小石のようなものをいくつか発見しました。スペクトル測定によればこれは水の氷でできており、タイタンの極めて低い温度では岩のように硬くなっているということです。
タイタンの表面の土は、有機物が雨などによって降り積もったもので一部ができているようです。このくらい物質は、大気からまさに沈殿してくるようです。メタンの雨が降り、タイタンの高いところからこの物質が流されてくると、次第に低いところにたまってきて、それが今回観測されたくらい物質なのではないかとみられています。
さらに、大気中にはアルゴンという元素の同位体、アルゴン40が発見されました。このことは、タイタンにかつて火山活動があったことを示唆するものです。ただ、火山活動は地球上のように溶岩によって起こるのではなく、おそらくは水の氷、及びアンモニアではないかと考えられています。
タイタンは地球に似ているとはいっても、地球の常識では考えられないようなことが起こっているのです。水の代わりに液体のメタンが流れ、ケイ酸塩の岩の代わりに水の氷が地面を形作り、砂の代わりに大気中から凝結してきた有機物が表面に降り積もり、溶岩の代わりに冷たい氷が噴出する世界。それがタイタンなのです。
左の写真もその「変わった世界」を示すものの1つです。中央付近から右下に向かって流れた跡のようなものがみえます。中央は「泉」ではないかと思われますが、おそらく噴出しているものはメタンではないかと思われます。
ホイヘンス突入機計画主任のジャン-ピエール・ルブルトン博士は、今回のデータ解析結果について「この結果に大変興奮している。科学者たちはこの一週間、解析のために働きづめだった。それは、タイタンのデータがそれだけわくわくさせるものだったからだ。これは始まりに過ぎない。このデータは何年にもわたって解析が行われ、科学者たちを猛烈に忙しくさせるだろう。」と述べています。
これからもさまざまな手法でタイタンのデータが解析されることでしょう。また、カッシーニの観測も計画されています。謎の衛星のベールが1枚はがされた今、それを乗り越え、さらに多くの事実が科学者たちによって明らかにされる日を期待することにしましょう。
「泥地」に降りたホイヘンス
(2005年1月19日 14:10初回更新、1月19日16:40最新更新)
ホイヘンス突入機が着陸したと推定される地点を示した写真が公開されました(左。右下の白丸が着陸点と推定される範囲。Photo: ESA/NASA/JPL/University of Arizona)。
着陸が無事成功しても、科学者や技術者は、ホイヘンス突入機から届いたデータの解析に追われています。
中でも興味深い情報として、タイタンの大気の中の降下の様子が明らかになりました。ホイヘンス突入機のメインパラシュートが展開された後、突入機は秒速約50メートル(時速約180キロメートル)に減速し、下層大気に到達したときには秒速5.4メートル(時速約20キロメートル)になりました。また、風による影響で、水平方向に秒速1.5キロ(時速約5キロ)ほどのペースで流されたこともわかってきました。
「探査機の『乗り心地』は思ったより悪いものだった。」という感想を語ったのは、ホイヘンス突入機に搭載されていた 降下カメラ/スペクトル放射計 (DISR) の主任開発責任者、マーティン・トマスコ (Martin Tomasko)博士です。
実際、突入機は思ったより揺れました。上層大気のもやの中を降下しているとき、10〜20度ほど突入機が傾いたりしました。もやの層の下ではそれほどではなく、傾きは3度程度でした。
また、突入機が着陸したときには、どしんと降りたのではなく、「泥地」(とはいってもタイタンの表面はマイナス180度の低温ですので、地球でいう「泥」とはまったく違うものですが)のようなやわらかいところに着陸したとみられています。
DISRの研究者の1人、チャールス・シー (Charles See)氏は、「いちばん驚いたのは、着陸して、しかも突入機が相当長く持ちこたえたことだ。着陸の際に故障することもなかった。思ったよりも落ち着いた着陸だった。」と述べています。
DISRの下向きのカメラレンズには、表面の物質がこびりついていました。どうやら、突入機は着陸の際、地表に少しめり込んだようです。あるいは、何らかの原因で蒸発した表面の炭化水素が、レンズ表面に凝縮したのかも知れません。
また、DISRに搭載されていた20ワットのライトは、上空700メートルにいるときから点灯するように設計されていましたが、実際にそのように動作しただけでなく、着陸してからも15分間点灯していたようです。点灯していた時間は1時間以上にもわたっていたようで、このことからも突入機がかなり長い時間「持ちこたえていた」ことがわかります。
タイタン上空からみた地表の様子 (2005年1月18日14:10)
カッシーニが撮影した約30枚の画像をつなぎあわせて作成された、タイタン上空からみたタイタン地表の写真が公開されました(Photo: ESA/NASA/JPL/University of Arizona)。
写真は、突入機が降下中、高度13キロメートルから8キロメートルの間で撮影されたものです。
この高度では、ホイヘンス突入機はほぼ垂直に秒速5メートルほどの速度で落下していたものと思われます。風の影響で、水平方向に秒速1メートルほどの速度で流されていました。
写真の解像度は1ピクセルあたり約20メートルで、写真の範囲は、ほぼ30キロメートルほどの領域になります。
ESA長官は「協力の偉大な成果」 (2005年1月17日16:00)
ヨーロッパ、そしてヨーロッパ宇宙機関(ESA)にとって、今回のホイヘンス突入機の着陸成功は、画期的なことであり、喜びもまたひとしおだったのではないでしょうか。ESAのプレスリリースをもとに、もう一度、突入機の足跡をたどってみることにしましょう。
地球から7年かけて土星にたどり着いたカッシーニ/ホイヘンス探査機から、ホイヘンス突入機が切り離されたのは、昨年12月25日のことでした。そして、20日間をかけて400万キロの道のりをたどり、ホイヘンス突入機はタイタンへと向かっていきました。
タイタンへの降下を開始したのは日本時間で14日の午後7時13分でした。ホイヘンス突入機は、3分間で時速18000キロメートルから時速1400キロまで急減速して、タイタンの大気に突入しました。
さらにパラシュートの展開により降下速度は時速300キロまで減速し、高度160キロメートルで観測を開始、最終的に着陸したのは午後9時34分とみられています。
ESAのジャン-ジャック・ドルダン(Jan-Jacque Dordain)長官は、今回の着陸成功について、「ヨーロッパとアメリカが互いに協力しあって得た偉大な成果だ」と述べています。「ヨーロッパとアメリカの、技術者や科学者、機関、企業のチームワークは際立ったものであり、それが基礎となって今日のすばらしい成功に結びついた。」
ESAの科学プログラム部長のデビッド・サウスウッド(David Southwood)教授は、今回の成功についてこうコメントしています。「タイタンは、土星やその衛星の中でも、実際に着陸してデータを得ることが不可欠な天体だった。そしてタイタンは魅力的な世界であり、私たちは科学的な成果を非常に楽しみにしている。」
「ホイヘンス突入機に関わってきた科学者たちも皆、大喜びしている。長く待ってきただけの甲斐があった」。これは、ホイヘンス突入機の計画主任であるジャン-ピエール・ルブルトン(Jean-Pierre Lebreton)博士の言葉です。
NASA長官、着陸成功を祝福 (2005年1月17日11:30)
NASAのオキーフ長官は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が製作したホイヘンス突入機が無事タイタンに着陸したことについて、ESAに祝福のメッセージを送りました。
「タイタン大気中の降下、そして着陸は完璧だった。」と、オキーフ長官は述べています。「ESAのすばらしい成功を祝福したい。技術的、科学的な面で勝利を収めたカッシーニ/ホイヘンスのチームを誇りに思う。そして、このミッションの国際的なパートナーに対し、支援と献身的な努力について謝意を表したい。」
ホイヘンス突入機は、日本時間で14日の午後7時15分頃、タイタンの上層大気に突入しました。そして、2時間半かけてタイタン大気中を降下し、着陸後約90分にわたってデータを送信しました。データは上空のカッシーニ周回機によって中継され、NASAのジェット推進研究所(JPL)、及びドイツ・ダルムシュタットにあるESAのヨーロッパ衛星運用管制センター(ESOC)に届きました。
JPLのエラーチ所長は、「今回のホイヘンス突入機のすばらしい働きについて、ESAにいる私たちの同僚に祝意を表したい。そしてこの努力によって得られる科学的な成果を楽しみにしている。今回の成功は、太陽系探査における国際協力の輝かしい成功例となるだろう。」と述べています。
着陸地点付近のパノラマ画像 (2005年1月16日0:30)
ホイヘンス突入機着陸地点付近上空の360度パノラマ画像が公開されました。
左側(ホイヘンス突入機の後ろ側)には、明るい領域と暗い領域とが隣り合っている場所があります。この境目のところにみえる明るい筋は、地表近くでしか確認できないことから、メタン、ないしはエタンの「霧」ではないかと考えられます。
突入機は降下するにつれて、中央の高い場所から右側の暗い領域へと流されていきました。この右側の暗い場所は、液体がある流路のような場所と考えられます。突入機が流された速度から、タイタンの大気の風速は秒速6〜7メートル程度と推定されます。
画像は、上空約8キロメートルから撮影されたもので、解像度は1ピクセルあたり約20メートルになります。
Photo: ESA/NASA/University of Arizona
ホイヘンス突入機からの上空合成画像 (2005年1月16日0:20)
ホイヘンス突入機が上空から撮影された画像を元に、タイタンの地表の様子を捉えた写真が公開されました。陸地のようにみえる隆起した場所が広がっており、その中には流路のような地形もみえます。また手前には低く平らな場所が広がっています。
画像は、上空約8キロメートルから撮影されたもので、解像度は1ピクセルあたり約20メートルになります。
Photo: ESA/NASA/University of Arizona
ホイヘンス突入機からの画像(その3) (2005年1月15日23:30)
ホイヘンス突入機から撮影された画像(その3)です。高度約16.2キロメートルの地点からタイタンの地表を撮影しています。解像度は1ピクセルあたり約40メートルです。海岸線につながる、短くて太い流路のような地形がみえます。
Photo: ESA/NASA/University of Arizona
ホイヘンス突入機からの画像(その2) (2005年1月15日23:20)
ホイヘンス突入機から撮影された画像(その2)です。高度約8キロメートルの地点からタイタンの地表を撮影しています。解像度は1ピクセルあたり約20メートルです。着陸点となるべき場所を撮影しており、陸地と平原との境目(海岸線)などがみえます。
Photo: ESA/NASA/University of Arizona
タイタン地表のカラー画像 (2005年1月15日23:10)
タイタンの地表を捉えた映像に、スペクトルデータを加味して得られたカラー画像が公開されました。
タイタンの表面は当初考えられていたよりは暗く、水の氷と炭化水素の氷からなる混合物でできているのではないかと思われます。また、物体のまわりには浸食されたような跡があり、何かが流れたことを裏付けています。
写真にみえる岩は最初は岩か氷の塊と考えられましたが、どうやら小石くらいの大きさのようです。画像中央の少し下あたりにある岩のような物体の大きさは、左側が約15センチメートル、真ん中のものが約4センチメートルで、共にホイヘンス突入機から約85センチメートル離れた位置にあります。
左の図で、青い文字が突入機からの距離、赤い文字が岩の大きさになります。
ホイヘンスが捉えたタイタンの「音」 (2005年1月15日22:50)
ホイヘンス突入機が搭載していた 大気構造測定装置に内蔵されていた音響センサーが捉えた、タイタンの「音」が公開されました。(音はMP3フォーマットになっています)
(1) タイタン大気中を降下している際の録音
探査機が降下中に、音響センサーが捉えた音です。何回か異なるタイミングで捉えた音をつなぎあわせて編集しています。ちょうどタイタンの大気中を降下しているような感じが伝わってきます。
(2) レーダ反射
タイタンの地表に向けて発射されたレーダ電波の信号を、音響信号に変換したものです。地表到達の最後の数キロメートルの部分にあたります。地表に近づくにつれて、レーダの反射時間が短くなってきますが、それが音程の変化(だんだん高くなっています)として現れています。このレーダ反射信号を利用して、タイタンの表面の様子を推測することができます。
ホイヘンス無事着陸、初画像公開 (2005年1月15日6:30)
衛星タイタンに突入したホイヘンスは、タイタンに無事着陸しました。そして、着陸後の初画像が送られてきました。
表面にみえる大きな岩のようなものは、氷の固まりと思われます。大きさなど詳細については今後、さらに他の画像などと比較した上で決定することになります。
ホイヘンスのタイタン突入を確認 (2005年1月14日23:20)
アメリカ・ウェストバージニア州にある国立電波天文台の電波望遠鏡が、ホイヘンス突入機からの電波を捉えました。
電波が捉えられたのは、日本時間で今日の午後7時20分〜7時25分の間で、ホイヘンス突入機がパラシュートを開き、タイタンの大気へ突入した直後のことです。非常に弱い電波が検知されました。この電波自体にはデータは含まれていませんが、少なくとも、ホイヘンス突入機が「生きている」ことを証明したことにはなります。
電波が捉えられたということは、ホイヘンス突入機のバックカバーが外れていることを意味します。おそらくはメインパラシュートも展開されているはずですが、データが地球に届くまでは安心できません。ホイヘンス突入機が降下中に取得したデータ自体は、カッシーニ周回機を中継して地球に送り届けられる予定です。ホイヘンス突入機からの電波自体は、降下中ずっと突入機から送信されますが、ちょうど電話の受話器を取ったときに聞こえる「プー」音のようなもので、その電波自体が情報を含んでいるわけではありません。
このアメリカ国立電波天文台をはじめ、オーストラリアや中国、日本、アメリカなどの16の電波望遠鏡がホイヘンス突入機の電波を追跡しています。この追跡の目的は、ホイヘンス突入機の位置を、キロメートル単位という極めて高い精度で追尾することにあります。この観測は、VLBI(Very Long Baseline Interferometry: 超長基線電波干渉法。2つ以上の電波望遠鏡で電波を受信し、その電波の干渉から極めて高い精度で相手や自分の位置を決める観測手法)の手法と、電波のドップラー変位(動く物体から発射される電波の波長が、物体の動きにより変化する現象)を使って行われます。これにより、タイタンの大気の動きなどが突き止められることが期待されます。特にタイタンの大気は、温度が極めて低いという点を除けば原始地球の大気に似ているといわれており、タイタンの大気の運動の解明は原始地球の姿を知る1つの手がかりになるかも知れません。
カッシーニが捉えた土星の衛星イアペタス (2005年1月10日17:00)
今年1月1日、カッシーニは土星の衛星イアペタスへ最接近しました。不思議な表面の模様は、これから科学的な議論を巻き起こすことでしょう。
このイアペタスの写真の特徴としては、ちょうど赤道付近に走っている尾根状の筋です。イアペタスの暗い半球を横切って走っているこの尾根は、高さが何と20キロメートルもあり、長さは1300キロメートルにも達します。太陽系の中にある他の衛星にも、こんな模様はありません。この尾根のところどころには山がありますが、この山の高さは、太陽系で最高の高さを誇る火星のオリンポス山に匹敵するもので、エベレスト山(地球でもっとも高い山)の3倍にもなります。イアペタスのような小さな衛星になぜこのような大規模な構造があるのか、非常に不思議です。イアペタスは土星の衛星の中で3番目に大きく、直径1400キロメートルくらいあるのですが、それでも火星に比べても5分の1くらいしかありません。
イアペタスは2つの面を持つ衛星です。公転方向側の半球は非常に暗い物質でできているのに対し、後ろ側の白い部分は、新雪のように真っ白です。ちょうど鳥の羽のように、暗い部分と白い部分の境目に、黒いすじ状の模様がみえます。これは、黒い物質がイアペタスに降り積もったことを意味しています。この物質がイアペタスの内部からやってきたのか、あるいは外から降り積もったのかは、議論があるところです。また、この物質の境目付近にあるクレーターには、極に向いた側に明るい壁があり、赤道方向に向いた側にくらい壁があるものもあります。
カッシーニが次にイアペタスに近づくのは2007年9月になります。このときの写真解像度は、今回の100倍にもなると期待されており、今回の発見でわかったイアペタスの不思議な表面の構造が、どのようにしてできたのかが解明できるかも知れません。
|