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突入機「ホイヘンス」

衛星タイタンに突入するホイヘンス
衛星タイタン大気中のホイヘンス突入機の想像図
(Photo by NASA)
(クリックすると大きな絵が表示されます。サイズ…1290KB)

■大気に覆われた衛星、タイタンに突入
土星の衛星タイタンは、直径約5150キロメートルで、地球の月や水星よりも大きな、太陽系でも最大級の衛星です。そして、分厚い大気を持っているという、他の衛星にはみられない特徴があります。
しかし、この大気があるため、表面の様子を外からうかがい知ることができません。そのため、大気に突入し、表面の様子を知るための探査機が必要になります。それが、今回のカッシーニ/ホイヘンスの目玉ともいえる突入機「ホイヘンス」なのです。
ホイヘンスの目的は、大きく分けて以下の5つになります。

  1. タイタンの大気の密度や圧力、温度などが、高さによってどのように違うのかを調べる。
  2. 大気がどのような物質で構成されているのかを調べる。
  3. 大気中にある有機物やエアロゾル(微粒子)の成因を調べる。
  4. タイタンの大気と気象の関係を調べる。特に、雲や雷、大気の大循環などを調べる。
  5. 表面がどのような物質でできているか、またどのような地形なのかを調べる。

■ホイヘンス突入機の構造

ホイヘンス突入機の構造
ホイヘンス突入機の構造
(ホイヘンスのプレス資料より、一部訳)
(クリックすると大きな絵が表示されます。サイズ: 536KB)

ホイヘンス突入機は、重さ319キログラムの小型の探査機です。この中に、各種の科学測定器が詰まっています。
突入機は、エアロシェル (aeroshell)という前部耐熱板と、降下モジュール(descent module)と呼ばれる本体部分からなります。降下モジュールには科学機器が積まれ、全体がエアロシェルの中に包まれた形になります。
エアロシェル
エアロシェルは、フロントシールドとバックカバーの2つからなります。フロントシールドは79キログラム、バックカバーは11キログラムです。
フロンとシールドはその名の通り、大気に突入する全面(フロント)で、突入機を熱から守る役割を果たします。そのため、熱に強い特殊な素材(AQ60と呼ばれる、ケイ素繊維で強化されたフェノール樹脂)で作られています。
バックカバーは、カッシーニ周回機との接合点として、探査機の振動などから本体を守る役割を果たしています。
降下モジュール
降下モジュールは、さらに前方ドーム(forward dome)と後方コーン(after cone)からなり、両者が実験プラットホーム(experiment platform)を挟む形になっています。トッププラットフォーム(top platform)はそのふたの役割を果たします。
前方ドームとトッププラットホームには、大気観測のためのセンサーやパラシュート展開のための設備を含みます。
なお、ホイヘンス突入機の電源は、バッテリーです。

■搭載される科学機器
ホイヘンス突入機には、6つの科学機器が搭載されています。

降下カメラ/スペクトル放射計 (Descent Imager/Spectral Radiometer)
降下カメラは、降下中に、タイタンの地表の撮影を行います。探査機自体が回転していることを行かして、着陸点付近の周囲の様子も撮影します。また、側方視(斜め側をみること)ができることを活かして、タイタンの大気中の雲なども撮影します。
スペクトル放射計は、アルゴンやメタンの量を測ります。また、着陸地点が海か陸かを測り、もし陸であれば、その地形を調べることも行います。
また、太陽光センサも搭載しており、大気中に浮遊している微粒子からの散乱光を捉えます。

大気構造測定装置 (Huygens Atmospheric Structure Instrument)
大気の温度、気圧、密度、風速を高度ごとに測っていきます。もし突入機が海に落ちた場合には、波の動きも測ります。大気中のイオン密度や電磁場の様子なども調べます。地表では、地表物質の電気伝導度を測ることもできます。また、突入機自身が搭載しているレーダー高度計からの電波を捉え、タイタンの地形を測ることができます。

エアロゾル収集装置・加熱装置 (Aerosol Collector and Pyrolyzer)
高さ20キロ、30キロ地点で大気のサンプルを採取し、そのサンプルを加熱することによって成分を調べる装置です。

ガスクロマトグラフ・質量分析器 (Gas Chromatograph/Mass Spectrometer)
タイタン大気成分の同定を行います。上記のエアロゾル収集装置・加熱装置によって得られたサンプルはこの装置に回され、測定が行われます。着陸直前には、入り口の部分が加熱され、着陸と同時に地表物質がこの装置に流入することになります。これによって地表物質の測定を行うこともできます。

ドップラー風速測定 (Doppler Wind Experiment)
非常に安定した2つの振動子からなります。片方はホイヘンス突入機、片方はカッシーニ周回機に搭載されます。周回機からは非常に安定した電波を送り、突入機側から返ってくる電波のドップラー変位を利用して、突入機の揺れ具合を精度よく知ることができます。

地表科学パッケージ (Surface Science Package)
タイタンの地表の組成や物性などを知るためのいくつかのセンサから構成されています。
  • 音波サウンダー (Acoustic Sounder)…降下速度、地表の粗さ、液体であれば音速を知ることができます。降下中には大気の音速を測定し、それによって大気の組成や温度などを解明します。
  • 加速度計 (Accelerometer)…地表着地の際の減速度を測定します。これにより地表の固さを調べます。
  • 傾斜計 (Tilt Sensor)…液体が詰まった容器に電極が入っています。降下中及び着陸時には、突入機に加わる振動を調べます。もし着陸地点が海であれば、密度、温度、屈折率、熱伝導率、熱容量、電気的特性など、その物質を特定できる物理的な特性を調べます。
  • 熱伝導計…プラチナの糸からできており、着陸地点の温度や熱容量、着陸地点の物質の熱容量などを調べます。
  • 振動子 (transducer)…海に着陸した場合、毎秒15キロヘルツの音波を出し、海の深さを測ります。

■切り離しから突入まで

突入シーケンス
ホイヘンス突入機の地表着陸までの流れ
(ホイヘンスのプレス資料より、一部訳)
(クリックすると大きな絵が表示されます。サイズ: 586KB)

大気突入から着陸までの詳しい時間の流れを追った表を用意しました。こちらをご覧ください。

ホイヘンス突入機は、カッシーニ周回機本体にくっついたまま土星本体の周回軌道を回り、2004年12月25日、本体から分離されました。分離の速度は秒速0.3〜0.4メートルほどで、しばらくは両者は同じ軌道を回ります。
タイタンへの突入は、2005年1月14日(世界時)に行われます。ホイヘンス突入機は、タイタンの大気に、時速22000キロメートル(秒速約6キロ)というとてつもないスピードで突入します。大気との摩擦でものすごい熱が発生しますが、エアロシェルは1500度の熱にも耐えられるような素材で作られています。
この時点でまず最初のパラシュートが開き、突入機の減速を行います。スピードが時速1400キロまで落ちた時点で、この最初のパラシュートはカバーと共に切り離されます。その次に、直径8.3メートルのメインパラシュートが開き、探査機はゆっくりと降下しはじめます。この時点で探査機の中の測定器も起動します。
ホイヘンス突入機は突入から地面到着まで2時間半ほどのため、メインパラシュートは大気圏突入後900秒で切り離されます。その後は直径3メートルの減速パラシュートで姿勢を保ちながら、ゆっくりと地面に近づいていきます。
地面が近づくと、突入機の地表調査パッケージが作動を開始します。そして、(地面がもしあれば)ホイヘンス突入機は、時速約25キロほどで地面に衝突します。もし着陸地点が海(液体)であった場合には、搭載している測定器が、沈んでしまうまでの数分間にわたって液体の組成を観測することになっています。
タイタン表面での突入機の作動時間は、バッテリーの持続時間にもよりますが、3〜30分程度とみられています。



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