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月探査機
スマート1 トピックス

日付の欄に「発表」とあるのは、その日に発表された記事であるという意味です。

2007年2月8日 14:00更新
探査終了から4ヶ月 (2007年1月31日発表)
月への独特な飛行経路、新しいテクノロジーのテスト、そして新しいサイエンス…スマート1の探査終了から数ヶ月経って、科学者や技術者たちが集まり、これらのテーマ、そしてヨーロッパ初の月探査についてのまとめを行っています。
先進的なスマート1計画は、ESAや研究機関に、探査をより効率的に行うための多くの事柄を教えてくれています。例えば、このスマート1のために開発された運用ツール、そしてその教訓は、現在進められているロゼッタ、そしてビーナス・エクスプレス計画にも活かされています。スマート1の経験は、水星探査計画であるベピ・コロンボ計画のような将来的なESAの計画にも活かされていきます。
「スマート1は、先進的かつ献身的な意味で、ヨーロッパが非常に複雑なミッションを効率的に行えることを証明した。計画の最初から、スマート1は新しいテクノロジーのテストと有用な科学的な発見を実施することの両方を行ってきた。」(スマート1の主任科学者、ベルナール・フォワン氏)
10年前、フォワン氏はジュセッペ・ラッカ氏(Giuseppe Racca)(スマート1の計画責任者)と共に、計画のデザインを始めました。「スマート1は先進的でユニークなものだった。私たちは先進的なテクノロジーを、探査機と搭載機器に対して実証することができた。」(ラッカ氏)。
おそらく、明らかに最も新しいテクノロジーは、スマート1が月へ旅するために用いた方法ではないでしょうか。スマート1に搭載された電気推進システムは、長期間にわたって噴射をし続けました。結果として、スマート1が月に到着するまでに1年以上、13ヵ月半もかかってしまい、さらに科学探査軌道に入るまでに4ヶ月を要したわけですが、飛行時間という点から見て、この電気推進という方法は通常のロケットよりも効率的なのです。
「スマート1は、新しい探査への扉を開いた。なぜならば、電気推進がより多くの探査機器をより少ない推進剤で運ぶことを可能にしたからだ。探査機器を機器を安いロケットに載せて、打ち上げや航行の制約をより少なくし、短い時間で到達させることができる。」(ジョルジョ・サッコチア氏(Giorgio Saccoccia)、ESAの推進システム部門長)。
電気推進技術を使えば、水星探査機ベピ・コロンボを6年で水星に送り込むことができます。これに対し、通常のロケットを使った場合には7年かかってしまいます。また、電気推進を使えば、通常のロケットよりも多くの科学探査機器を水星に送り込むことができます。「スマート1から、電気推進による探査機の航行方法を学んだ。」(フォワン氏)
「スマート1によって、我々の夢のいくつかが現実のものになった。予算と時間の制約によって、低コストにもかかわらず進歩が生まれたのだ。スマート1によって、我々は将来のESAのインフラに関係する、運用自動化の新しいコンセプトをテストすることができたのだ」(ヨーロッパ宇宙管制センターのオクタビオ・カミノ氏(Octavio Camino)。

スマート1のチームは、科学機器から成果を搾り出す方法についても見出しました。もともと、スマート1のチームは14時間半で1周するスマート1軌道の1周回の間に、カメラ(AMIE)で4枚の写真を撮る予定でした。探査が進むにつれて、チームはスマート1の軌道高度を下げ、スマート1が5時間で月を一周できるようにしました。
これは、カメラをより頻繁に動かすように、再プログラムをする必要が生じたことを意味しました。なぜなら、月の表面は以前よりも速いスピードで目の前を動いているからです。最終的には、カメラは1周回あたり100枚もの写真を撮影しました。スマート1チームによって開発されたこのカメラ操作用の驚異的なスケジュールをこなすためのプログラムは、ビーナス・エクスプレス、ロゼッタにも応用されています。
大量のデータが得られたことで、チームでは非常に詳細な月の表面の地図を構築することができました。フォワン氏によれば、「我々はすでにこの地図を、将来の着陸探査のための候補地探しに使っている。」とのことです。
ともかくもスマート1の探査機器は変わっていました。通常の同種の探査機器に比べて約10分の1も軽量化されていました。カメラはたった2キログラムしかありませんでした。結果として、スマート1の機器のうち、月面の元素や鉱物のマッピングに使われたエックス線スペクトロメータ(D-CIXS)と小型赤外線スペクトロメータ(SIR)は、改良された上で再製造され、2008年打ち上げ予定のインドの月探査機、チャンドラヤーン1に搭載されることになりました。
スマート1の探査は終わりましたが、フォワン氏は、一息ついている場合ではないと感じています。彼はこの探査を、「未来へかける橋」と位置づけており、こう述べています。「我々は栄誉に安住していることはできない。データを解析し、教訓を分析することにより、私たちはスマート1の伝説をさらに前へと進めなければならないのだ。」

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スマート1、探査を終了 (2006年9月3日発表)
本日朝(日本時間では昼過ぎになりましたが)、小さな閃光が月面を照らしました。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の月探査機「スマート1」が、月面の「優秀の湖」領域に激突したからです。この計画通りの衝突によって、新しい宇宙技術を試すという目的に加え、月の科学的な探査を1年半にわたって続けるというミッションは、成功裏に終了しました。
スマート1に関わる科学者、技術者、運用担当者は、スマート1の最後の瞬間を、ドイツ・ダルムシュタットにあるヨーロッパ衛星管制センター(ESOC)で、9月2日の夜から3日にかけて(現地時間)見守りました。ESOCで衝突を確認したのは、現地時間で3日の午前7時42分22秒(日本時間午後2時42分22秒)。オーストラリアにあるESAのニューノルシア地上観測極で、スマート1からの信号が突如失われたからです。スマート1がその旅を終えたのは、月面の「優秀の湖」と呼ばれる領域で、南緯34.4度、西経46.2度の地点です。
スマート1が月面に衝突したのは月の表側で、月の明暗境界線(昼の側と夜の側を分ける線)の近くでした。衝突の角度は5〜10度、速度は秒速約2キロメートルと見積もられています。衝突の時間と場所は、地球からの望遠鏡による観測に適するように計画され、夏に何回かの軌道修正が行われました。最後の軌道修正は9月1日に行われました。
世界中のプロ、アマチュアの観測家---南は南アフリカからカナリア諸島、南アメリカ、アメリカ、ハワイ、そしてその他多数の場所から---がこの衝突の瞬間を見守り、かすかな衝突の閃光と、衝突のダイナミクス(力学)や衝突によって吹き上げられた月の表層についての知見を求めてきました。この地上観測により集められたデータは、まさにスマート1の探査終了に対する賛辞ともいえ、また月の科学に対する新たな貢献ともなるはずですが、今後何日かをかけて、解析が行われる予定です。

衝突までの16ヶ月、スマート1は月探査を続けてきました。月表面の地形や鉱物についての情報を、可視光線、赤外線、X線のそれぞれの領域で収集しました。
スマート1の主任科学者であるベルナール・フォワン氏はこう述べています。「遺産として残された、スマート1の非常に価値あるデータは、これから何ヶ月、あるいは何年もかけて解析されていくことになる。これらは月の科学にとって非常に貴重な貢献であり、特に世界が再び月探査に興味を示し始めているときによいタイミングである。」
「スマート1による観測結果では、月が激しい経緯を経て誕生し、進化してきたという定説に疑問を投げかける内容が出ている。」と、フォアン博士は付け加えています。月は今から45億年前、地球に火星サイズの天体が衝突して、その破片から生まれたという説が今は一般的です。「スマート1は大規模、小規模なクレーターを調査し、月を形作った火山活動やテクトニックな活動について調べ、これまでよくわかっていなかった極について新たな知見を得、そして将来の探査の候補地を調べた。」と、フォアン博士は結論付けています。
「ESAがスマート1の科学探査を1年間延長する(当初、スマート1による月面観測は6ヶ月の予定でした)と決定したことで、科学者たちは多様な観測モードで月を調べることができた。」と振り返るのは、スマート1の探査責任者であるゲルハルト・シュベーム(Gerhard Schwehm)氏です。直下視(真下を観測すること)に加え、ターゲットを選定した観測、ポインティング観測、またプッシュブルーム観測(地球観測などでよく行われる、ある領域を長方形に掃くような形で観測すること。スマート1ではカラー画像を取得するために行われた)などが行われました。「観測担当者にとっては非常に大変だったが、今作りつつある観測データのアーカイブは非常に興味深いものとなりそうだ。」(シュベーム氏)

スマート1については、工学的な側面を忘れるわけにはいきません。「スマート1は、工学的な視点から見ても非常に大きな成功を収めた。」(スマート1の計画責任者である、ジュセッペ・ラッカ(Giuseppe Racca)氏)。このスマート1の大きな目標は、イオンエンジン(太陽電気推進)をはじめて惑星間飛行でテストすることでした。また、重力アシストマヌーバを経て、他の天体の重力場に捕捉されました。

スマート1はまた、将来の深宇宙コミュニケーション技術や、自律的な人工衛星の航法技術、科学機器の小型化などの技術を、初めて月周回軌道で実証しました。「探査により、技術的な目的が達成されていくことを見るのは非常に満足だった。そして、月についての科学的な進歩と同時にこれが達成されたのだ。」とラッカ氏は述べています。
一方、スマート1の衛星運用責任者のオクタビオ・カミノ・ラモス (Octavio Camino-Ramos)氏は、「スマート1の運用は非常に複雑だったが、やりがいのある仕事だった。」と振り返っています。「太陽電気推進を実証するための長らせん型地球周回軌道(地球を何度も回るような長楕円型の軌道。スマート1が打ち上げから最初のしばらくのうち周回していた)、放射線への長期にわたる曝露(さらされること)、地球−月系による重力のための強い摂動、そして科学観測目的に最適化された月軌道への投入、こういったことが、我々に対して、低推進型システムと進歩的な運用概念について非常に価値のある経験を我々に与えてくれた。分散したテレメトリ、インターネットを通じた警告システム、高度に自動化された運用など、どれも将来にわたって通用するすばらしいベンチマークだ。」(ラモス氏)

「ESAの科学プログラムにとって、スマート1は大きな成功を示し、技術的な面、及び科学的な面の両方において、投資に対する非常に良好な利益を得ることができた。いまや、世界中の人々が月に向かおうとしているようにみえる。将来的な科学探査は、この小さな探査機によって得られた技術的、運用上の経験によって大きな恩恵を受けることだろう。そして、スマート1によって集められた科学的なデータは、すでに私たちが今まさに持っている月の描像を変えようとしているのだ。」(ESAの科学主任、サウスウッド教授)。

スマート1、月面に激突 (2006年9月3日発表)
スマート1は、当初の予定通り、ヨーロッパ中央時間9月3日7時42分22秒(日本時間9月3日午後2時42分22秒)、月面に衝突しました。衝突した場所は、西経46.2度、南緯34.4度とみられています。
詳しい情報は明らかになり次第お伝えいたします。
ESAの記事へ (英語)

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月面衝突の地上観測に参加を! (2006年8月17日発表)
もしあなたがプロ、またはアマチュアの天文学者で、スマート1の最後の探査に協力しようと考えているとしたら、ぜひ、ESAのスマート1月面衝突地上観測キャンペーンに参加して下さい。
スマート1の予測衝突地点
スマート1の衝突地点予想図。赤い線はスマート1の軌道。いちばん確率が高い衝突点は、南緯36.4度、西経46.3度。(真ん中の赤い線の印がしてある場所。写真をクリックするとより大きな画像が表示されます。)

他の月探査機と同じように、スマート1探査機もその観測の最後に、その科学観測を月面への衝突という形で締めくくることになります。衝突が起こると予想されている位置は、月面の南半球の中ほどの位置にあたる「優秀の湖」(Lake of Excellence)付近であると推測されています。7月末の軌道微修正によって、スマート1の衝突時間は、2006年9月3日の午前7時41分(中部ヨーロッパ時間。日本時間では午後2時41分)、また月の地形に予想外のものがあった場合、それより少し前、午前2時36分(同。日本時間では午前9時36分)と確定しました。
もし衝突が予定通り日本時間の午後2時41分に起きた場合、その位置は南緯36.44度、西経46.25度となります。また日本時間午前9時36分に衝突が起こる場合、衝突位置は南緯36.4度、西経43.5度となります。
この「優秀の湖」は科学的見地からみても非常に興味深いところです。ここは高地に囲まれた火山岩の平原で、また鉱物の不均一性があることでも知られています。
スマート1の主任科学者、ベルナール・フォアン氏は、「私たちが地上観測を呼びかけているのは、衝突の物理、探査機の蒸気の発散状況、舞い上がった表面の土の鉱物学などを調べるためである。私たちは衝突とそれに関連した噴出物の早い段階での映像を求めている。またスペクトル観測によって、例えば衝突地域の鉱物組成などについての手がかりを得られればよいと考えている。」と述べています。
「秒速2キロメートルでの衝突がエネルギーとしては控えめだったとしても、太陽光が届いていれば、アマチュア天文家が使うような望遠鏡や双眼鏡で、衝突によるちりの舞い上がりは充分観測可能である。その衝突時間に観測が行えないような観測地点では、放出されたちりによる衝突前後の違いについての観測を行って欲しい。」(フォアン氏)

既に、世界中の多くの天文台が、観測に参加することを表明しています。主なところでは、超長基線電波干渉計(VLBI=Very Long Baseline Interferometry)のネットワークや電波天文台、南アフリカ大規模望遠鏡(SALT: South Africa Large Telescope)、スペイン・アンダルシアのカラアルト(Calar Alto)天文台、カナリア諸島(スペイン)のテネリフェにあるESAの光学地上観測局、ブラジルのカリリ(Cariri)天文台、アルゼンチン国立望遠鏡、フロリダのロボティック望遠鏡、NASAの赤外線望遠鏡IRTF、そしてわが日本のすばる望遠鏡も観測体制に入っています。この他にもアマチュアの観測網、そしてODINと呼ばれる宇宙の観測網でも観測が行われます。
ESAの記事へ (英語)

ヨーロッパ、月を再発見する −スマート1、成果のまとめ− (2006年8月16日発表)
ヨーロッパも月にたどり着いたといってよいでしょう。9月3日の早朝(ヨーロッパ時間で7時41分、日本時間では午後2時41分)、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機スマート1は月面に衝突し、長かった探査の旅を終えることとなります。

全ての物語の始まりは、2003年9月までさかのぼります。スマート1はヨーロッパのロケット、アリアン5により、この月に南米フランス領ギアナのクールー打ち上げ基地から月に向けて出発しました。スマート1は、重さわずか366キログラムの無人の探査機で、本体の大きさは一辺約1メートルの正方形をしています。この本体に、長さ14メートルの太陽電池パネルがついています(パネルは打ち上げ時には畳まれています)。
打ち上げ後地球を回る楕円軌道に入り、探査機に搭載された力強いキセノンイオンの電気噴射(イオンエンジン)によるゆっくりとした、しかし継続的な加速によって、その軌道を少しずつ大きくし、地球から遠くなる軌道になって行きました。最終的に、打ち上げから14ヵ月後という長い旅を経て、探査機は月の重力につかまり、月の周りを回る軌道に入りました。
このエンジンの特徴はなんといってもその顕著な効率にあります。月と地球の間の距離は直線距離で385000キロメートルありますが、スマート1が地球の周りを回りながら、ちょうどらせん状に月に到達した軌道の合計距離は約1億キロメートルにも達します。しかし、その間に消費した燃料はたった60リットルなのです。探査機は2004年11月に月の重力につかまり、2005年2月から、月の極を回る楕円軌道を回りながら、月の科学観測を開始しました。スマート1は現在のところ唯一の月周回人工衛星であり、2007年以降の国際的な月探査機の打ち上げラッシュに向けて道を開いたといえるでしょう。
物語はエンディングに近づいています。9月2日から3日にかけて、強力な望遠鏡で月面を眺めると、かなり特別なハプニングをみることになるでしょう。これまでの月探査機と同様に、スマート1はその探査を、いささか荒っぽい着陸(衝突)によって終えようとしています。スマート1が着陸(衝突)すると思われる領域は「優秀の湖」(Lake of Excellence、ラテン語名ではLacus Excellentiae)と呼ばれる南半球中部の地域にあり、その衝突時間はヨーロッパ中央時で7時41分(日本時間で午後2時41分)、または地形の状況によってはその約5時間前と推定されています。

物語は最終章に
16ヶ月にわたり、スマート1は最低高度300キロ、最高高度3000キロの月の極周回楕円軌道を回りながら、科学観測を続けてきました。その成果にあふれた旅もほぼ終わりを迎えつつあります。探査機の近月点(月に最も近い点、すなわち最低高度の点)は現在300キロを切っており、特定の観測ポイントに照準を合わせて観測を行っています。探査機はそこで「死ぬ」ことになります。
スマート1の科学観測責任者、ベルナール・フォワン氏によると、「衝突速度は比較的ゆっくり(秒速2キロメートル、時速に直すと約7200キロメートル)なので、スマート1が作るクレーターは小さく、直径3〜10メートルくらいのものになるだろう。1キログラムくらいのいん石が衝突してできたクレーターで、月面はすでに大きな影響を受けている。」ということです。
ドイツ・ダルムシュタットにあるヨーロッパ衛星管制センター(ESOC)では、衝突の瞬間を段階的に観測する予定です。

スマート1の最後の飛行制御
今年6月、EORCの飛行管制担当者が、月衝突の時間と場所を最適化するために、何回かのスラスタ噴射を実行しました。2005年に全てのキセノン(イオンエンジンの燃料)を使い切っているため、姿勢制御用のスラスタを利用して姿勢制御を行わなければなりませんでした。
この軌道変更により、本来8月半ば、月の裏側に予定されていた月面衝突の位置と場所が変わりました。現在のところ、衝突は表側になる予定で、時刻は9月3日の午前7時41分(ヨーロッパ中央時刻。日本時間では午後2時41分)となる予定です。
「飛行管制担当者と飛行力学の技術者は軌道変更の結果を解析し、予測をより細かくした。最終の軌道変更は8月25日に予定されているが、これがさらに影響を及ぼすことも考えられる。」(ESOCの衛星運用責任者のオクタビオ・カミノ・ラモス(Octavio Camino-Ramos)氏)。
衝突の前、そしてその間、大型望遠鏡による観測が行われます。目的は以下のようなものです。
  • 衝突の物理の研究(放出される物質や重さ、ダイナミクスやエネルギーなど)
  • 衝突によって放出された物質のスペクトルを調べることによる、月表面物質の解析
  • 技術評価: 将来的な衝突体による実験(例えば、地球に向かってくる小惑星の軌道をそらすための人工衛星)に向けて、探査機の衝突についてよりよい理解を得る。

スマート1はなぜ「スマート」なのか?
スマート1には、ハイテクを駆使した機器と、最先端科学を結集した探査装置が搭載されています。例えば、スマート1に搭載されているイオンエンジンは、常に電気を帯びた粒子(イオン)を噴出することによって動作し、探査機を前進させる力を生み出します。エンジンを駆動させるエネルギーは太陽電池パネルから生み出されます。従って、この駆動方式は「太陽発電推進」ということができます。このイオンエンジンは小さな推進力を生み出すので、探査機をどちらかというとゆっくりと前進させます。スマート1の加速度は毎秒毎秒0.2ミリメートルという遅さで、その加速量ははがきくらいの重さにしか過ぎません。
スマート1の場合、必ずしも急いで月に行く必要もなければ、月まで直行する必要もありません。なぜかというと、今回ESAははじめて、惑星間飛行などに使われる電気推進システムをテストしたかったからです。打ち上げ後、スマート1は地球を回る楕円軌道に入りました。その後、探査機はイオンエンジンを噴射し、その楕円軌道の高度を少しずつ高くしていきました。そして、月の軌道面の方向へと傾きを変えていきました。
毎月毎月、こうしてスマート1は月へと近づいていきました。このらせん軌道の旅の距離は合計で1億キロメートルを越えました。ちなみに、もし月へまっすぐ行くとすれば大体25万〜40万キロくらいの距離です。
スマート1が目的地に近づくと、月の重力を利用して、月の重力場に捕まる位置へと進んでいきました。これは2004年11月のことです。月の重力場に入り、スマート1は2005年1月に月を周回する最終的な楕円軌道に入りました。この軌道は、近月点(月面にいちばん近い点)が高さ300キロ、遠月点(月面からいちばん遠い点)が高さ3000キロという軌道で、この軌道を回りながら、スマート1は月の科学観測を行ってきました。

スマート1で我々が学んだこと
これまでに数多くの探査機が月に行っているにもかかわらず、月については数多くの科学的な疑問が謎のまま残ってきました。特に、月の起源と進化、そしてこの岩だらけの天体を形作ってきたプロセス(テクトニクスや火山活動、衝突や侵食など)が大きな疑問として残ってきました。
今回、スマート1により、ヨーロッパ、そして世界中の科学者たちが、これまでに得られたものでもっとも精密な月面写真と、最も詳しい月の鉱物分布を得ることができました。X線を利用した測定器を使って、軌道上からはじめて、月面にカルシウムとマグネシウムが存在していることを確認しました。また、鉱物の変化の様子を、クレーターの中央丘から淵まで、また火山性の平原や大規模衝突によってできたクレーターなどについて調べることができました。スマート1はまた、衝突クレーターや火山性の地形、溶岩チューブなどを調べ、極地域についても詳しく調べることができました。さらに、スマート1は、北極地域に、太陽の光が常に当たっている(冬でも)領域を発見しました。
スマート1は月の極上空を飛び、月全休の写真を撮ることに成功しました。もちろん、よく知られていない月の裏側も含まれています。科学者にとっては、極は特に興味深い対象です。なぜなら、極地域はこれまでほとんど探査されてきたことがなかったからです。さらに、極地域の地形の中には、これまで全ての月着陸船が着陸した月の赤道領域と明らかに違う地形の特徴が発見されています。

こうして、スマート1によって、ヨーロッパは将来にわたって国際的な月探査の潮流の中で非常に重要な役割を担うことができ、これまで収集されてきたデータによって、その潮流に大きな貢献をすることができました。スマート1による経験とデータは、将来の月探査をアシストすることとなり、特にスマート1の赤外線測定器とX線測定器を再利用する、インドのチャンドラヤーン計画において威力を発揮することでしょう。
スマート1には、これまで月面近くでは使われたことがなかった新しい機器が搭載されていました。これらの、小型カメラや赤外線スペクトロメータ、X線スペクトロメータなどは、月の観測や研究に大いに役立ちました。
スマート1の太陽電池パネルには、先進的なガリウム−ヒ素型の太陽電池が使われていました。また、スマート1にはOBANと呼ばれる新しい航法システムがテスト目的で搭載され、将来は地上からの制御を必要とせず、探査機自身が正しい道筋を進むことができる可能性を示しました。
スマート1による月探査においてテストされた機器や手法は、将来的にESAが日本(JAXA)と共同で行う水星探査計画、ベピコロンボにも役立てられる予定です。

スマート1、月表側への衝突軌道に入る (2006年7月19日発表)
7月2日、一連の2週間にわたる軌道制御が終了し、スマート1は月表側への衝突軌道へと軌道を変更しました。これは、探査の終了時に科学的成果を最大にするための試みであります。

6月19日、ドイツ・ダルムシュタットにあるヨーロッパ衛星管制センター(ESOC)にいる衛星の管制官は、月衝突の時間と場所を最適なものにするため、2週間にわたるスラスタ(衛星搭載の小型ロケット)の噴射を開始しました。最後に衝突によって衛星探査を終了するという方法はこれまで多くの探査計画で採用されてきた方法であり(例えば、ルナープロスペクター、ひてんなどがそうです)、衝突の効果に伴う科学的な成果を集めるための方法としても有効です。(例えば、ルナープロスペクターは、月の氷の有無を確かめるために月面に衝突し、その衝突で上がった煙の中に水蒸気が見つかるかどうかを世界中の天文学者が観測しました。)
今回終了した軌道変更は、520回のリアクションホイール(衛星の姿勢制御装置)の「オフローディング」からなります。これらを、予定の74周回よりも早く、66周回で済むことができました。「リアクションホイールのオフローディング」とは、衛星の中にある回転しているホイールを、スラスタの噴射によって運動量(弾み)の変化を与え、最終的には衛星の速度を変更するものです。
今回の断続的な軌道変更により、もともと8月半ばに月の裏側に衝突する予定だった軌道が変更されました。現在のところ、衝突は表側で起こり、時間は世界時で9月3日の5時41分(日本時間では午後2時41分)の予定です。
スマート1の衛星管制主任のオクタビオ・カミノ−ラモス (Octavio Camino-Ramos)氏は、「衛星管制官と飛行力学技術者は、今回の一連の軌道変更の結果について確認を行っており、推定をより絞り込んでいる。さらに、調節のための軌道変更を、7月27日・28日、8月25日、及び9月1日・2日に行う予定である。」と述べています。

今回の軌道変更により、スマート1の軌道が決まったことで、世界中のアマチュア・プロの天体観測家が、月の協調観測とスマート1の衝突の観測を希望しています。
「私たちは世界中の天文観測者、アマチュアの観測者に、最後の衝突まで含めて月の協調観測を呼びかけている。」と協調するのは、スマート1の計画責任者であるベルナール・フォアン氏です。彼はさらに付け加えてこうも述べています。「すでに公表されている予定衝突時刻の前、世界時で9月2日の19時40分から9月3日の0時40分までの間(日本時間では9月3日の4時40分から9時40分)、スマート1は月の表面からわずか2キロ上空を通過する…現在知られている月の地形によれば、だが。しかし、もし知られていない何らかの山のような地形があれば、その前に衝突が起こる可能性もある。」
ESAの記事へ (英語)

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巧妙な燃料消費で寿命を伸ばす (2005年9月26日発表)
スマート1は、エンジンである電気推進(イオンエンジン)巧みな燃料消費によって、軌道上の寿命を伸ばしつつあります。
2005年2月、スマート1は1年間の探査期間の延長が認められました。しかし、実際にスマート1がそこまで維持できるかどうかは、燃料の残りの量にかかっています。もし残りの燃料を使わずにスマート1をそのまま放っておくと、2006年の5月以前のどこかの時点で計画は終了してしまうことになります。ESAのエンジニアと飛行技術者たちは、イオンエンジンは残りの燃料をすべて使い切ることができないことに気づいていました。燃料タンク内の圧力を適正に保つためには、およそ2キログラムの燃料を残しておく必要があるのです。
しかし、ESAの技術者とエンジン製作メーカとの間での作業の結果、エンジンの寿命を伸ばす方法を見つけることに成功しました。この方法をシミュレーションしてみたところ、燃料の最後の「一滴」まで使い切ることができ、約1年間の寿命を達成できることが分かりました。
2005年8月から始まる一連の軌道変更により、観測を2006年7月まで行うことが可能になります。イオンエンジンは9月17日に停止し、現在のところ、10月1日から再開される科学観測を待っている状態です。この軌道変更により、より複雑な科学館側臥行えるようになりました。近月点は以前よりもより赤道に近くなり、一年を通じていままでより良い太陽高度での観測ができるようになりました。
「今回の探査で、ESAは電気推進と制御に関する貴重な経験を得た。将来の惑星探査にも役立つだろう。」と、スマート1の運用責任者のオクタビオ・カミノ・ラモス氏は語っています。
この先、スマート1は月の重力や太陽、地球の摂動などにより自然に設定される軌道を離れることになります。現在のところ、解析によれば、2006年8月半ば頃、スマート1探査機は月面に激突して探査を終えることになります。
スマート1の計画主任科学者であるベルナール・フォワン氏は、「最初の科学探査の時期である3〜7月にかけては、月をシンプルに観測することによって探査機や測定器が月の環境に耐えられることを確認する時期であった。10月から始まる観測期では、より複雑な科学観測を行う予定だ。特に複数波長での観測、月の表面の鉱物組成を探ること、極地域の太陽光が当たる地域の観測、氷の探索、将来的な国際月探査計画の準備、(衝突直前の)低高度での観測が私たちの目標だ。」と語っています。
この秋からは、探査機は「プッシュブルーム」(push broom)と呼ばれる観測を行います。同じ領域の写真を何枚もの異なる色フィルタをかけて撮影して、カラーの画像を合成するというものです。
ESAの記事へ (英語)

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スマート1、カッシーニを捉える (2005年6月21日 13:00)
カッシーニ・クレーター…といっても、まさか、土星を周回しているカッシーニ/ホイヘンス探査機を、スマート1のカメラが捉えたわけではありません。
左の写真は、2005年1月19日に撮影された、月面のカッシーニ・クレーター(Cassini Crater)です。カッシーニ・クレーターは雨の海の縁に面していて、直径が約57キロメートル。中に2つのクレーターがあります。この2つのうち大きい方は直径が17キロあります。
もちろん、このカッシーニ・クレーターは、土星の輪の「カッシーニの間隙」を発見して、探査機の名前に付けられたカッシーニから名前を取っています。
ESAの記事 (英語)
写真: ESA/SPACE-X Space Exploration Institute

月面のカルシウムを探して (2005年6月21日 12:00)
月にもカルシウムがあります。それも、かなり広範に分布しています。それを捉えるのもスマート1の役割です。
どうやって捉えるのでしょうか? それを担う機器が、X線スペクトロメータです。
どのような原理で、月面のカルシウムを検知するのでしょう? そのヒントは、太陽光です。太陽からはさまざまな光が出ています。私たちが目にする可視光線や、紫外線、さらにはX線が出ています。
月面にもX線が降り注いでいますが、それが月面の元素(例えば、カルシウム)に当たると、その元素独特のX線を出すことになります。これを「蛍光X線」といいますが、上空にある探査機でそれを捉えることで、月面にどのような元素がどのくらいあるかを調べることができる、というわけです。これは、セレーネに搭載されている蛍光X線スペクトロメータと全く同じ原理です。
太陽光が強くなれば、検出の精度が上がります。太陽光が強いときは、太陽がフレアと呼ばれる活動を行っている時期です。そこで、この活動期を利用して、カルシウムの検出が試みられました。
蛍光X線でカルシウムを捉える
スマート1が月面で捉えたカルシウム
(写真: ESA/D-CIXS)
左上の図は、太陽光の強度です。右上の図が、観測を行った領域で、大体、北緯15〜45度、東経60度付近になります。そして、この領域で測定した発生した蛍光X線の生データが、左下の図になります。これを解析した最終的なアウトプットが、右下の図になります。アルミニウム(Al)やケイ素(Si)に比べても、カルシウム(Ca)の量が多いことが注目されます。
なぜこれだけ多くのカルシウムが存在するかということについては、今後の科学者たちの活躍を待たなければなりませんが、いずれにしても、小さなスマート1が早速挙げた大きな成果といえるでしょう。
ESAの記事へ (英語)

月の北極の「永遠の昼」を探せ (2005年4月18日 17:00)
スマート1は月観測軌道に入る前の2005年はじめから、月の極の観測をはじめています。
月は、自転軸の方向きが約1.5度しかありません(地球は23.4度)。自転軸の傾きが小さいため、月の極地方のクレーターの中には、底の部分に太陽の光が差し込まず、「永遠の闇」となっている場所があると考えられています。そういった場所には氷(水)があるかも知れないということで、科学者の注目を集めています。
一方、このようなクレーターの縁のような高くなった部分には、太陽の光が長時間当たり続ける場所があると考えられています。このことを最初に指摘したのは、有名な天文学者でもあり作家でもあったカミュ・フラマリオンで、1879年のことです。彼はこのような場所を「永遠の昼の峰」と名付けています。
さて、自転軸の方向きが小さいことから、月はほとんどの場所で目立った季節変化を示すことはありません。しかし、極地域では、太陽光の当たり方によって大きな違いが出てきます。月の北半球での冬至は大体1月24日なので、この時期は極の観測にはあまり都合がよくありません。しかし、スマート1の観測チームは、アメリカのアリゾナ大学の天文学者と協力して、北極付近のクレーターの観測を行いました。
月の極地域
月の極地域
上の2枚の写真が、スマート1によって撮影された月の北極地域の写真です。上は12月29日、下は2005年1月19日に撮影されたものです。両方とも高さは約5000キロメートル付近からの撮影で、極地域に多数存在するクレーターが写っています。
特に、2枚め(下)の写真に注目すると、真っ暗な領域の中に、クレーターの縁が明るく光っている部分があります。この場所は、ひょっとすると「永遠の昼」かも知れません。また、極地域にはクレーターが多いことから、月の中でも比較的古い場所であるということが分かります。クレーターの縁が投げかける長い影が写真からもよく読み取れます。
この写真を撮った高精度月カメラ(AMIE)の機器主任責任者であるスペースX (Space-X)のジャン・リュック・ジョセット (Jean-Luc Josset)氏は、「この写真は、スマート1のカメラが、低い太陽高度(明るさ)でも十分な撮影能力を有することを示したものといえる。それはまた、将来の探査の候補地を決めるという能力でもある。」と述べています。
スマート1の計画責任者であるベルナール・フォワン博士は、「スマート1は、月が自転している間、月の極地域の写真を撮って、季節的な変化を調べる。それによって、長時間にわたって日が当たっている場所を調べようと考えている。もし永遠の昼の峰が確かめられれば、あるいは常に太陽光が当たっているような対になった場所があれば、将来的にその場所に太陽電池を設置し、ロボット、あるいは有人探査などを行うためのエネルギー源にすることができるだろう。」と述べています。
ESAの記事 (英語)

いよいよ探査開始 (2005年3月2日 21:00)
ヨーロッパが、ついに月探査をはじめました。
2月25日(ヨーロッパ現地時間)、スマート1は月の観測軌道に入り、観測を開始しました。スマート1の計画主任科学者であるベルナール・フォアン博士は、「私たちの目的は、月の表面の性質や科学組成を、極軌道(月の南極と北極付近を通る軌道)から調べることにある。撮影された写真をモザイク上につなぎ合わせることで、高解像度の月の地図を作ることもできる。」と述べています。極軌道を通ることにより、月自身の自転によって月のいろいろな位置を写真に撮ることができます。
スマート1の運用技術者であるジム・ボルプ (Jim Volp)氏によると、探査機の制御は、遠く離れたところから自動車を運転するようなものだったといいます。「私たちはエンジンや部品の心配はしていなかったが、乗客…つまり、科学機器については非常に気を遣っていた。科学機器によっては探査機に別々の場所を向いて欲しいものもあったし、片方が左を向いているとき、もう片方が右をみているというものもある。それらをすべて調和をとりながら動かさなければならないのだ。」
スマート1は、昨年11月中ごろには月を回る軌道に到着していました。プロジェクトチーム、科学者チームの士気は高まっています。探査機の軌道は、観測を行うために低い軌道になっています。
もともと、スマート1の観測期間は半年間でしたが、エンジンの効率がよく、燃料がまだ充分残っていることから、1年間延長され、合計で1年半にわたって月を観測することになりました。スマート1が搭載しているエンジンは、イオンエンジンというもので、キセノンをイオン化し、それを電気的に加速して噴射するものです。噴射される燃料の量はわずか7グラムで、はがきほどの重さしかありません。それを継続的に噴射することによって、次第に月に近づくことができたわけです。そのために、2003年9月末の打ち上げから、1年2ヶ月かけることになりました。

月の表面の地質や化学組成を調べることで、スマート1は月の誕生や進化のなぞに迫ることができると期待されています。月の南極の暗い地域をはじめてみることによって、月に水(氷)が存在するかどうか、という疑問にも答えることができるでしょう。水はおそらく、小惑星か彗星によってもたらされていると考えられています。
「南極地域にはクレーターが存在する。このクレーターの中には、底の方に太陽の光が当たらないものがある(太陽の入射角が極地域では低いため)。そのような場所では、温度は太陽系内でももっとも低いと考えられる。おそらくマイナス200度くらいになっているのではないか。そういう場所であれば、永遠に氷を捉えておくことも可能だ。しかし、クレーターの縁や、丘のような場所では、ずっと日が当たり続けている場所もある。」(フォワン博士)
そうだとすれば、この先、さらに詳細な探査を行う価値があるでしょう。「ずっと日が当たりつづけている領域と、氷が存在する領域は、将来の探査に大きなインパクトを与えるだろう。この地域にローバを送りこみ、永遠に日が当たる領域に太陽電池を設営して月面基地を造りあげれば、クレーターの中の氷から水を取り出して使うこともできるようになる。」(フォワン博士)
スマート1のデータは、他の世界の月探査を行っている研究者にも公開される予定になっています。「それによって、スマート1は次世代の月の無人・有人探査の計画を作成するために大いに役立つことになるだろう。」と、フォワン博士は語っています。彼、そしてスマート1のチームにとって、月面を将来、再び歩くことは決して遠い夢物語ではありません。すぐ先の話なのです。

そして、私たち日本の月探査チームにとっても、スマート1のデータは役立つことでしょう。これから明らかにされていく月の姿に、私たちもわくわくしています。どのようなデータが出てくるのか、楽しみに見守りたいと思います。
ESAの記事 (英語)

探査期間を1年延長 (2005年2月17日 11:40)
スマート1の探査期間が、当初の半年から1年半に延長されました。もともとの予定では探査終了が2005年8月でしたが、これが2006年8月までになりました。
この探査延長は、2月10日、ESAの科学プログラム委員会で満場一致で可決されました。探査が1年延長されることによって、月の全面を高解像度で撮影するチャンスがより広がり、また撮影できる範囲も広くなることになります。また、ステレオ撮影などを行うことによって、月の地形をより詳しく明らかにできるでしょう。異なる角度からの写真撮影によって、月表面の砂(レゴリス)の性質を知ることができたり、将来的な着陸探査のための候補地探しもできることになります。さらに、延長探査のために新しく策定される軌道は、より安定したもので、燃料消費も少なくて済みます。
この延長探査は、大きく6ヶ月ずつ2つの時期に分かれます。まず前半は南半球の探査を中心として行い、異なる角度での写真撮影や、ステレオ撮影、極地域の撮影などが中心になります。後半の6ヶ月では、赤道地域及び北半球の一部を高解像度で撮影します。特定の対象を引き続き高解像度で撮影したり、将来の国際的な月探査計画に関係するような観測も行います。

2月9〜10日、スマート1搭載のイオンエンジンが停止していたため、燃料の残量を正確に調べることが可能になりました。また、高度1000〜45000キロメートルからの観測も行われました。
スマート1搭載の観測機器は全て順調に動いており、イオンエンジンも噴射を再開しています。2月の末には、月の観測軌道に入る予定になっています。
ESAの記事 (英語)

スマート1が撮影した月表面の写真 (2005年1月29日 21:00)
スマート1に搭載されている高精度月小型カメラ (AMIE) によってテスト撮影された、月表面のクローズアップ写真が公開されました。(以下4枚の写真は、Photo: ESA/Space-X, Space Exploration Institute)
スマート1は2004年11月15日(ヨーロッパ現地時間、以下同じ)に月周回軌道に入り、約2ヶ月にわたって軌道変更及び機器テストを行ってきました。月の重力に捉えられてから最初の4日間は、軌道が不安定になって月面に激突するという危険もある非常に厳しい状況でした。そのため、電気推進エンジンを噴射して軌道を安定化させる作業が行われました。
電気推進システムは2004年12月29日まで作動し、それから4日間はエンジンが止められたため、観測機器による観測が可能となりました。前の記事にあるように、電気推進エンジンは1月12日に一旦停止され、スマート1は2月9日まで、中解像度による月の観測を行うことになっています。
AMIEが捉えたムーシュ・クレーター付近の写真 左の写真は、月の経度0度付近にあるムーシュ・クレーター (Mouchez) を捉えたものです。以下、写真はすべて2004年12月29日に撮影されたものです。
スマート1の計画主任科学者であり、昨年日本でも講演を行ったベルナール・フォアン (Bernard Foing) 博士は、「一連の月の試験撮像は、高度1000〜5000キロメートルから、電気推進エンジンが停止している間に行われた。2月9日にエンジン噴射が再開されるまで、さらに多くの試験観測を行う予定だ。スマート1は2月28日に、高度300〜3000キロの観測周回軌道に到達し、約5ヶ月にわたって科学観測を行う予定だ。」と述べています。
ブリアンション・クレーターとパスカル・クレーター 左の写真は、月の北緯75度付近を撮影したものです。この写真の中で最も大きいクレーター(中央左)は、ブリアンション・クレーター (Brianchon) というクレーターで、北緯75度、西経86度付近に位置します。また、2番目に大きなクレーター(中央)はパスカル・クレーター (Pascal) で、北緯74度、西経70度付近にあります。
太陽高度が低いことから、影の長さを利用して、科学者たちがクレーターの縁の高さを計算することができます。
AMIEの機器主任責任者であるスペースX (Space-X)のジャン・リュック・ジョセット (Jean-Luc Josset)氏は、この写真について「AMIEが月の上でも順調に作動していることを示す最初の証拠だ。」と述べています。
ピタゴラス・クレーター さらに写真を何枚か貼りあわせることで、地域全体のよりはっきりした像が浮かび上がってきます。左の写真は、北緯60度、西経60度付近にある、ピタゴラス・クレーター (Pythagoras) のクローズアップ写真です。何枚かの写真を張り合わせることで全体像が明らかになってきます。このクレーターは直径約120キロ、深さ5キロという大きなクレーターで、写真ではクレーターの中央丘が影を落としている様子もはっきりとみることができます。
撮影写真の重ね合わせ さらに多数の写真を重ねあわせることで、全体像がよりはっきりしてきます。左の写真の撮影高度は約4000キロ。最初の写真にあるムーシュ・クレーターが右上、3枚目の写真にあるピタゴラス・クレーターは左下にあります。
科学者たちは、このように写真をつなぎ合わせていくことによって、月全体の中解像度の写真地図が作れるのではないかと期待しています。さらに、探査の後期にはもっと低い高さからの写真が得られることで、それも含めた詳細な月の全体写真が得られるとも考えています。
ESAの記事 (英語)

最終月軌道へアプローチ (2005年1月29日 20:00)
スマート1は現在、最終的な観測を行うための周回軌道へのアプローチを続けていますが、1月10日から電気推進エンジンを停止しています。このために日程に若干の遅れが生じる模様です。エンジンを止めているのは、燃料の残りの量の問題と、延長探査計画により正確さを期すためということです。
本来であれば、スマート1は2005年1月の終わりから半年間(7月まで)の探査を行う予定です。この期間が終了すると、探査機は地球の重力の影響(摂動)を受けて、軌道が不安定になって月面に激突してしまうことになります。それを避けるためには、エンジンを噴射して軌道を保っていく必要があります。
ヨーロッパ衛星管制センター(ESOC)の軌道チームでは、最終軌道に達した段階での燃料を、以下の3つの方法で推定しています。
  • 燃料(キセノン)の流量…これまでの燃料消費量の合計では、最終軌道に達した時点での残り燃料の量は10.8キログラム。
  • 燃料(キセノン)の圧力と、熱絞り弁(thermothrottle)の流量から、公式によって求めた残り燃料の量…9.6キログラム。
  • 燃料(キセノン)タンクのガス圧力、体積、温度から、期待を理想期待と想定して求めた残り燃料の量…7.8キログラム
さらに、燃料のうち1.8キログラムは使用できないため、最悪の場合、最終月軌道に到達した時点で燃料が残り5キログラムを切るという状態になってしまいます。
先ほど述べた、期間終了後の軌道変更にはおよそ4キログラムの燃料が必要と見積もられています。運用チームでは、その量をさらに最少にできるように、計算を続けています。
今のところ、エンジンの再噴射は1月18日に予定され、その後約10日間かけて、最終月軌道に到達する予定です。
ESAの記事 (英語)

スマート1、月軌道へ到着 (2004年11月18日 12:00)
11月15日(ヨーロッパ現地時間)、「スマート1」はついに、月軌道に到達しました。
スマート1は、11月15日午後6時48分(ヨーロッパ中央時)、月から約5000キロメートルの距離に近づきました。これがスマート1にとってははじめての「近月点通過」となります。
この近月点接近に先立ち、午後6時24分(同)、スマート1搭載のイオンエンジンが噴射され、軌道修正が行われました。これから約4日間にわたってエンジンが噴射され、その後小規模な噴射を何回か経て、月を周回する軌道に最終的に乗ることになります。1月半ば頃には、スマート1は月の南極300キロ付近と月の北極3000キロ付近を通る周回軌道に入り、本格的に科学観測を開始します。
スマート1は、次第に高度を上げていく形で月に近づきましたので、意外と長距離の飛行を行っています。この月到達までに飛行した距離は合計8400万キロメートルにも及びます。また、今回の月軌道投入は、イオンエンジン搭載の探査機としてははじめて、他の天体の重力による軌道に入るという成果を生み出したことになります。

地球から月への飛行中、スマート1は搭載機器の実験や、超長距離通信の実験などを行いました。特にカメラでは、地球の画像を捉えたほか、2回の月食を宇宙から撮影しました。スマート1は月に到達するまでに地球を332周し、3700時間にわたってイオンエンジンを稼働させました。にもかかわらず燃料(キセノン)の消費量はたった59キログラムでした。エンジンの調子は極めて順調で、当初の予定より2ヶ月ほど早く、月軌道に到達することができました。
燃料もやや余り気味なので、この燃料を使って、さらに延長ミッションや低い軌道への遷移など、さまざまな計画が練られています。
AMIEが捉えた月 この月接近の前に、SMART-1搭載のカメラ(AMIE)が捉えた月の画像が公開されています。左側は、10月28日に距離約60万キロから捉えた月、右側は、11月12日(新月の日)に距離約6万キロから捉えた月です。この12日のわずかにみえている月に写っているのは、月の裏側の北極付近です。もちろん、ヨーロッパの探査機で月の裏側をみたのはこのスマート1がはじめてとなります。

いよいよ月へ (2004年11月10日 17:00)
11月15日の月軌道到着へ向け、スマート1は順調に軌道を飛行しています。
10月25日には、搭載しているイオンエンジンの最後の噴射を行いました。この噴射により小さな軌道修正を行ったスマート1は、あとはエンジンを噴射せずに月へ向けて飛行して行きます。
イオンエンジンの作動時間は、これまでの累計で3648時間にも達しました。消費した燃料(キセノン)の量は58.8キログラムということです。たったこれだけの燃料で月軌道に(13ヶ月かかるとはいえ)到達できるのですから、イオンエンジンがいかに効率のよいエンジンであるかがわかるかと思います。
月まで、本当にもう少しです。
ESAの記事へ (英語)

祝・スマート1の1周年 (2004年9月30日 18:10)
スマート1は、打ち上げから1周年を迎えました。スマート1の飛行は順調、機器も正常で、11月なかばの月周回軌道投入に向けて、飛行を続けています。
この計画の第1フェーズ(衛星の基本機能の試験)は無事終了しました。搭載されている電気推進(イオンエンジン)は打ち上げ3日後から機能しはじめ、スマート1の高度を徐々に上げる役割を果たしています。既にイオンエンジンは3300時間にわたって動作し続けており、飛行距離は7800万キロに達しています。地球を周回する軌道にあるためにこれだけの距離を飛行しているのですが、この飛行距離は実は、月と地球間の距離の約200倍にあたります。
これだけ飛行しているにもかかわらず、消費した推進剤の量はたったの52キログラムしかありません。電気推進が非常に効率のよい推進手段だということがよくわかります。

スマート1は、飛行中に通信関係の2つの実験を行い、成功しました。1つは、32ギガヘルツのKaバンドと呼ばれる帯域での通信実験です。このように非常に高い周波数の通信が宇宙でできることで、今後より多くのデータを宇宙から送受信できる可能性が広がったことになります。
もう1つは、レーザによる通信です。ESAがスペイン領カナリア諸島のテネリフェに持っているレーザ通信用の施設と通信を行うことができました。もともと、レーザによる通信はヨーロッパが世界をリードしている分野です(アルテミス(ARTEMIS)という衛星を持っており、日本もOICETS (オイセッツ)という衛星と通信実験を行う予定になっています)。ただ、今回はアルテミスとは違い、かなりの速度で動いている衛星とのレーザ通信でした。これによって、レーザ通信の応用範囲がまた1つ広がったことになります。
こうして順調に任務をこなしているスマート1の次の重要任務は、11月なかばの月軌道投入ということになります。

スマート1が撮影した地球の写真2枚 (2004年8月17日 16:50)
スマート1は地球のまわりを相変わらず回りながら、徐々に高度を上げています。現在、遠地点は20万キロを超え、月までの距離の半分になりました。
AMIEが捉えたインド洋、アフリカ、中近東 高精度小型月カメラ(AMIE)が、また地球の写真を撮像して送ってきました。1枚めは左の写真で、左側から、アフリカ大陸〜地中海、アラビア半島、ペルシャ湾付近、インド洋、インド亜大陸・スリランカが非常にくっきりと写っています。白黒ではありますが、AMIEの実力発揮というところですね。
AMIEが捉えた南太平洋 こちらの写真は、2004年7月8日、地球から15万キロ離れたところから撮影した画像です。今度は、太平洋が中心に写っています。ちょうど南太平洋地域ということで、小さい島々はなかなか写っていませんが、写真のいちばん下の部分には、オーストラリア大陸が写っています。

スマート1は、いろいろ小さいトラブルはあるものの、全体としては順調に進んでいます。月の重力圏へ捉えられるのは11月15日の予定で、その後軌道を少しずつ変え、来年の1月なかばくらいには、本格的な月観測をはじめる予定です。

スマート1、ヨーロッパとアフリカを撮影 (2004年7月2日 17:50)
スマート1は、地球を回る軌道を回りながら、次第に遠地点を上げていっています。既に地球を310周し、全ての機器が順調に作動し、またイオンエンジンも正常に動作しています。
AMIEが捉えたヨーロッパ・アフリカ地域 左の写真は、スマート1に搭載されている高精度月小型カメラ (AMIE)が撮影した、ヨーロッパとアフリカ地域です。高度は約7万キロで、ちょうどジブラルタル海峡付近を中心に、上側にヨーロッパ、下側にアフリカ大陸がみえます。もちろん、この写真は単なる記念写真というわけではなくて、カメラの較正や撮影モードの確認などを兼ねて撮影しているのです。
6月20日までの時点で、搭載されているイオンエンジンの総動作時間は2535時間となりました。イオンエンジンは、連続して動作することにより出力を稼ぎますので、どれだけ長い時間動作するかがポイントになります。この段階で、約40キログラムの燃料(キセノン)を消費しています。
このまま行けば、今年の11月には月の回りを回る軌道に入ることになりそうです。
ESAの記事へ (英語)

スマート1の状態は正常 (2004年2月7日 22:50)
スマート1は地球の回りを回る軌道をとっています。機器の状態は正常で、地球を既に207周しています。
イオンエンジンの動作時間は1705時間に達しました。先週の時点でイオンエンジンの動作を近地点付近に限ったため、遠地点の高度が高くなる効果があり、3月の日食の際に、その中を通る時間を最小限にすることができます。
機器の中でちょっと問題があるのが、スター・トラッカーと呼ばれる装置です。これは、星を観測することにより、星図と突き合わせて、探査機がいまどこにいるかを知るための装置で、たいていの月・惑星探査機に搭載されているものです。ところが、スマート1のスター・トラッカーでは、観測する星が多くなりすぎると負荷が高くなってしまうという問題が発生しています。これを避けるための修正ソフトウェアの準備が進んでおり、イオンエンジンの動作が再開され次第、探査機に送られます。
3週間ほどのイオンエンジン停止期間中は、観測機器の初期動作チェック期間にもあたります。カメラは下のトピックスの通り、1月29日(ヨーロッパ現地時間)にはじめて月の画像を取得しました。その他の機器も、初期チェックが予定されています。
月まではまだ30万キロ以上も離れていますが、来年のいま頃の月到着に向けた準備が既に始まっています。

スマート1の初画像 (2004年2月7日 22:30)
スマート1初画像: 上弦の月 スマート1に搭載されているカメラ(AMIE: 高精度月小型カメラ)の初画像が得られました。上弦の月を捉えた映像です。
写真でみえている海は、上から、晴れの海、静かの海、危難の海、豊かの海、神酒の海となります。
写真掲載ページ (ESA: 英語)

スマート1が地球の放射能帯を脱出 (2004年1月11日 22:00)
1月6日現在、スマート1の状態は良好です。現在、地球の回りを176周したところです。ミッション最初の目標である、地球周辺の放射能帯の突破も、無事に達成できました。
現在、スマート1は、近地点約19000キロメートル、遠地点約56000キロの地球周回軌道を回っています。
電気推進エンジンの総噴射時間はこれまでに1500時間以上にも達しました。さらに、一時期発生していた太陽電池の出力低下もおさまりました。通信、データ処理、搭載ソフトウェア、熱制御の各システムの状態も正常です。

打ち上げに成功 (2003年9月28日 15:30)
スマート1は、9月27日午後8時14分(現地時間…日本時間では、9月28日午前8時14分)、フランス領ギアナ(南米)にあるクールー宇宙基地から、アリアン5ロケットで打ち上げられました。打ち上げは、3機の衛星を同時に打ち上げるもので、スマート1はそのうちの1つでした。現在、地球周回軌道を回っており、衛星の初期チェックを行っています。太陽電池パネルの展開は終わっています。間もなく月に向けて飛行を開始します。
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のジャック・ドルダン長官は、今回の打ち上げについて「ヨーロッパとして誇らしいことだ」と述べ、「再び我々は月に向けて旅立った。しかしこれはまだはじまりに過ぎない。もっと遠くに行くために、我々は準備を進めている」と述べています。
月への飛行は約18ヶ月(1年半)が予定されており、順調に行けば、2005年2月、スマート1は月に到着することになります。


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