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月を知ろう

月に関する研究発表
第2回パネルディスカッション「月面車」


No. 1 2000年12月25日【月】02:29 市川 誠
 パネラーの一人の清水建設(株)宇宙開発室の市川です。
 8月まで宇宙開発事業団で「月面ローバ」の研究とNASAの有人火星探査ミッションの調査を行っていました。現在は、宇宙開発事業団の客員開発部員として研究に継続して参加しています。

 パネルディスカッションを進めるにあたって、月面の移動探査に興味を持たれるできる限り多くの方に参加していただきたいと思います。

 そこで最初は月探査の現状の認識のお話をさせていただきます。
 ご専門の方は既にご存知の内容と思いますが、このパネルディスカッションをできる限り多くの方に楽しんでいただけるように、ということでご理解ください。
 この現状認識の後は「どんなことをやってみたい」とか、「それを実現させるにはどうしたらよいだろうか」とか、皆さんの発言をいただきながら、議論をすすめていきたいと思います。

 では、話題に入りましょう。

* * * * *

 地球の上を歩くように、月面を探査できたら、どんなにいいだろうと思いませんか?
 でも、30年前のアポロ計画のように人類が再び、月の上を立つにはもう少し時間がかかりそうです。ローバのパネルディスカッションをはじめるにあたって、まずは有人月探査のことを少しおさらいしたいと思います。

1. 月探査の方法
 有人月探査ミッションの実現のためにアメリカで1960年前後に考えられた主なものには次のものがあります。そしてこれらの方法からLORが選定されました。

1) Direct flight
 巨大なロケットの上段の宇宙機を月の軌道に投入してから月へ着陸,あるいは軌道に入らず,直接,月へ着陸させ,探査が終わった後,その宇宙機全体を地球に帰還させる方法.当時,ドッキングを行うことは非常にリスクが高いと考えられていたため,このような内容が検討されました.

2) Earth-Orbit Rendezvous (EOR)
 Direct flightに対抗するものがVon BraunのグループのEORでこれは地球の周回軌道上で月の探査機を組み立てるもので,月へ向かう以降はDirect flightと同じ計画です.Direct flightに必要な巨大ロケットを用いないでも有人月探査を実現できる案とされました.

3) Lunar-Orbit Rendezvous (LOR)
月の軌道に宇宙機を送り込み,そこで小さな着陸機を切り離して月へ着陸させ,離陸機により月の軌道上でランデブー・ドッキングして地球に帰還するというものです.開発期間,実現のためのコストも上記の2つに比較して安いですが,宇宙空間でのドッキングが実証されていないことからリスクが高いと考えられていました.

4) JPL案
 宇宙飛行士が月に到着する前に,月の表面に無人ロケットを打上げ,そこで帰還機を自動的に組み立てるという案.リスクが高すぎるということで取り上げられませんで した.
しかし、今日、アメリカで有人火星探査の検討が行われていますが、その方法として考えられている"Mars Direct"に通じるアイディアといえます.

2. 有人月探査に必要なロケット
 LORは巨大ロケットを用いないでよいですが、それでも今日の感覚からいっても大きなロケットがアポロ計画で使用されました。
 SATRUN Vブースターロケットがそれです。これはNASAジョンソン宇宙センターを紹介する時に映像として必ず出てきますので、皆さんもご記憶にあると思います。
 次に日本のH-IIの第1段のLE-7、スペースシャトルのSSMEとSATRUN Vを比較してみましょう。

表1 ロケットの比較
---------------------------------------------------------------
エンジン型式 LE-7(Japan) SSME(USA) F-1(USA)
ロケット名 H-II Space Shuttle Saturn V (1st stage)
推進薬 液酸/液水 液酸/液水 液酸/ケロシン
推力(t) 110 213 689
比推力(秒) 446 453 304
---------------------------------------------------------------

 スペースシャトルではSSMEを3基クラスター化して使用していますが、Saturn VエンジンはSSMEの約3倍の推力のF-1エンジンを5基もクラスター化しているのですから、その巨大さは理解できますね。
 残念ながら、アメリカにはF-1エンジンの製造設備は既に存在していません。
 エンジンの製造には巨費が必要なことから、人類が再び月の上に立つまでには、もう少し時間がかかりそうです。

3. ローバの可能性
 人類による探査は直ぐには実現できませんが、現在の科学技術の発達により、ロボットの一種ともいえるローバを月に送ることは可能です。このローバに搭載したカメラによって月の表面の姿を撮影したり、掘削装置などにより月表面にあるまだ発見されていない月の岩を探査できるかもしれません。
 そしてこのようなローバなら日本が現在保有するH-IIロケットで月へ送り込むことができるのですね。

 パネルディスカッションの最初のお話はこれ位にしましょう。

 次はローバの歴史や、現在、提案されている月のローバの探査について紹介したいと思います。

【参考文献】
Jonathan Allday : "Apollo in Perspective - Spaceflight Then and Now",
2000, IOP Publishing

No. 2 2000年12月25日【月】09:45 寺薗 淳也
こんにちは。私は第2回パネルディスカッション「月面車」のコーディネータを努めさせて頂きます。寺薗と申します。
これから1ヶ月ほど、ディスカッションで皆さまとお付き合いをさせて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。

世紀をまたぐ期間のシンポジウムということで、私としてもずいぶん感慨深いものがあります。また、この期間中、1月10日には皆既月食があります。月に思いを馳せる機会が一杯ありそうです。ぜひ、皆さまも夜空の月を眺めながら、このパネルディスカッションにご参加のほど、よろしくお願いいたします。

今頃の時期は、寒いですが…

No. 3 2000年12月25日【月】17:30 市川 誠
市川@shimzです.
さて,ディスカッションの前の話題提供として,ローバの現状について少し紹介します.

1. 月のローバの現状
 これまでに月へいったローバは2種類あります.
ひとつはApollo 15(1971年), 16, 17で使用された人類初の月の自動車といえるLunar Roving Vehicle (LRV) です.
そしてもうひとつは,ソ連の月着陸機Lunaと一緒に月へいったLunokhodという無線操縦のローバです.

LRVについては,
NASAのWebにApollo Lunar Surface Journal

http://www.hq.nasa.gov/office/pao/History/alsj/frame.html

の中に

"Spacecraft, Suits, and Rovers"
Lunar Roving Vehicle Operations Handbook

という項目で紹介されたり,

http://www.nasm.edu/apollo/lrv/lrv.htm

に関係する記述があります.
Apollo Lunar Surface JournalのサイトはApollo programについて詳細に紹介され,内容の更新が続けられているようですのが,Apolloミッションについてご興味のある方,必見です.

Lunokhodについては,NSSDC Master Catalog/Spacecraft Query Formの中に

Luna 17/Lunokhod 1
http://nssdc.gsfc.nasa.gov/nmc/tmp/1970-095A.html

Luna 21/Lunokhod 2
http://nssdc.gsfc.nasa.gov/nmc/tmp/1973-001A.html

として紹介されています.

月のローバではありませんが,1997年のアメリカ合衆国の独立記念日に火星に着陸したMars Pathfinderに搭載されたSojournerについては皆さん,ご記憶に新しいと思います.
Mars Microrover Photo Galleryという次のサイトにはSojournerを含めてこれまでのNASAのローバ研究に関する様ざまな画像が含まれています.

http://mpfwww.jpl.nasa.gov/rovercom/pixt.html


2. ローバによる月探査の提案
 ローバによる月探査はこれまでに様ざまなものが提案されています.
 次の2つは,Webで読むことができるLunaCorpとRobotics Institute of Carnegie Mellon University の共同提案内容です.

The Apollo Grand Tour
http://www.lunacorp.com/grandapollo.html

The IceBreaker Moon Rover
http://www.lunacorp.com/icebreaker.html

* * * *

 これは月面ローバに限定したものではないのですが,

SPACE EDUCATORS' HANDBOOK
http://vesuvius.jsc.nasa.gov/er/seh/spaceid.htm

は何かを調べたいとき,役に立ちますね.

No. 4 2000年12月26日【火】15:51 市川 誠
市川です.

埼玉県の男性から,「スペースシャトルとISS,そして20m級の軌道間往復船(電気推進)を組み合わせることで早期に有人月探査ができるのではないか?」というコメントをいただきました.

私が月面車のディスカッションに入る前のお話のつもりで書いたアポロ計画に際して検討された有人月探査の方法の紹介が誤解を生んでしまったようです.

本パネルディスカッション会場は「月面車」をテーマにしています.
よろしくお願いします.

なお,送っていただいた文面から意図されたシステム構成を理解したとは言いがたいですが,考えなければならないことを少しお話しします.

地球の周囲にはバンアレン帯と呼ばれる高エネルギー荷電粒子が存在するのはご存知ですね.このような環境は人間の健康のためにもよくありませんし,また,宇宙機に搭載の電子機器などにダメージを与えることになります.よってこの領域はできる限り短時間に通過することが望ましいといえます.
このような観点からも宇宙機の推進方式を考えねばならないですね.

では,『月面車』に関するディスカッションに皆さんが参加されることをお待ちします.既に冬休みモードに入っている方も多いと思いますが・・・.

No. 5 2000年12月26日【火】17:11 永井 智哉
こんにちは。はじめまして。第2回パネルディスカッション「月面車」のパネラーをします永井智哉@国立天文台です。

このページにて、皆さんといろいろ議論していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

寺薗さんの挨拶にあったように、世紀をまたぐシンポジウムになるのですね。

1月10日未明にある皆既月食があります。早朝で寒い時期ですが是非見てみてください。

また、私の参加している、インターネットによる天文普及を目指すライブ!エクリプス実行委員会(実行委員長:尾久土正己 みさと天文台台長)は、今回も皆既月食をインターネットで生中継します。この中継は動画と静止画で国内6地点から同時に行います。静止画では、撮影地によって空の中での月の位置が異なる様を見比べられるように、インターネットならではの工夫を凝らします。このプロジェクトは日本の産業界、政府機関、学術団体が支援しています。

ホームページのアドレスはhttp://www.live-eclipse.org/

詳細は以下の通りです。

1. 1月10日の皆既月食について

■皆既月食とは
地球の影の中に満月がすっぽり入る現象。太陽-地球-月が一直線に並んだときに起こる。白く輝く満月が影の中に入ると赤銅色になるのが見どころ。観測地によって空の中での月の位置が異なり、東の観測地の方が月は地平線に近く見える。

■皆既月食のおこる日時
月食は、地域によらず同時に進行する。日本時間:2001年1月10日 午前3時42分〜6時59分(3時間17分)、皆既月食となるのは午前4時49分〜5時51分(1時間2分)
グリニッジ標準時(日本時間マイナス9時間):2001年1月 9日 午後6時42分〜9時59分、皆既月食は午後7時49分〜8時51分

■皆既月食が見えるエリア
日本から東南アジア、インド、中東、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ北東部まで。日本では全国各地で見られる。

■月食中に星食
月食の起きている最中に、月の後ろ側を恒星が通過する星食が観測される。皆既月食中に星食が観測できるのはきわめてまれ。今回隠される星は3.4等の明るさで特に明るい恒星ではないが、皆既中で月面が暗くなっているため観測しやすくなっている。
星食が起こる時刻は観測地によって異なるが、東京では午前4時20分に月に隠され、午前5時15分に月から現れる。

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