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月を知ろう

月に関する研究発表
4.月の科学ラウンドテーブル
司会: 国立天文台 唐牛 宏
出席: 東京大学 佐々木晶
茨城大学 坪井昌人
地質調査所 富樫茂子
宇宙科学研究所 藤原 顕


唐牛: ただいまご紹介に預かりました、国立天文台の唐牛です。早速ですが今日のこのラウンドテーブルにご出席の皆さんのご紹介をしたいと思います。
私から向かって、いちばん左手に宇宙科学研究所の藤原さん。月の科学の専門家で、特にクレーターの研究や月の起源に関する研究をしていらっしゃいます。
隣が通産省工業技術院地質調査所の富樫さんで、富樫さんは月の岩石とか鉱物とか、月のものにたいへん興味を持って、研究を進めておられる方です。
私の右隣が茨城大学の坪井さんで、坪井さんは私と同様、天文学者でして、野辺山の電波天文観測所で育って茨城大学に移っておられる、日本の天文学の若いリーダーです。
その向こうが東大の佐々木さんで、佐々木さんも月の地殻構造とか月の起源について研究を進めておられる専門家です。
このラウンドテーブルの司会を私が仰せつかったのには理由がございまして、先ほどの事業団の松井理事長からお話がありましたように、この間の宇宙開発委員会の指導で進めてきた月探査の調査研究には科学の部会がございまして、宇宙研の水谷さんと天文台の海部が主にリードしてきたんですけれど、この2人とも今日はどうしようもない事情があって欠席で、急遽、私がピンチヒッターという事情がございます。
先ほどから松尾先生その他のお話にもありますように、今日のシンポジウムは、この間の月探査の調査研究、あるいはその前の長期ヴィジョンのお話を皆さんに返していって、今後の検討材料にするというようなバックグラウンドがあるように思われますけれども、私たち5人はそういう議論に参加していない人もいますし、ほとんど初対面の人もたくさんいますし、あまりとらわれずに、ざっくばらんに、ある意味では何が飛び出すかわからない危険もはらんでおりますけれども、そういう議論にするしかないんじゃないかと、また準備もたいへん不足しておりまして、想定問答その他、何もやっておりません。
それで、この間の調査研究その他の議論の中でいわれておりますことは、月の科学には2つあって、1つは「月そのものの科学」であると、もう1つは「月からの科学」ということで、これはいろいろ将来の可能性をはらんでおるんですけれど、現在は主に天文学、月面天文台を展開して、そこから天文学をするというのを「月からの科学」の主要なものと位置付けて、それ以外の月面での物理実験であるとか、月面での例えばバイオとかさまざまな研究的な活動は、ここでの検討の対象としていないという状況です。
先ほどのタイムテーブルにありましたように、フェイズ1、フェイズ2があって月からの科学は2030年。でもまだ具体的な調査、建設の可能性の検討とかいって、2030年というと、この中のかなりの人が月よりももっと遠くの世界へ行っちゃうことになるわけですけれども、したがって、そういうタイムテーブルにとらわれずに、われわれ、自分たちが何をやりたいと思っているかというのを皆さんにお話していただければなぁと思っております。
まず私自身が主に関心を持っております月面の天文学という話から少しさせていただきますが、1つはまず月の科学が十分なされて、そのうえで月面を利用した月面の天文学という順序は当然のことであろうと思います。われわれが例えば、私自身の話で恐縮ですけれども、ハワイの山の上で望遠鏡を作るとなると、その土地も含めていくつかの候補についてサイトテストというものをやります。それはどういうものかというと、そこに簡単な機械を持ち込んで、気象条件であるとか、大気を通して観測した時にどういう星の像が得られるのか、あるいは地盤、地震の可能性その他について、現地へ行って泊まり込んで1年間、場合によっては数年間の調査をいたします。やはりそういうフェーズが月においても当然必要であるわけでして、それが月の科学を行なっている中で、同時並行的に、月の科学の中でいろんな知識が出てくるんじゃないかと思うわけです。
いままでの月に関するそういうことが全然ないかというと、これはかなりありまして、これはこの間の検討でもあまり紹介されておりませんでしたけれども、主にアポロのデータをもとにして、NASAの依頼を受けたアメリカのニューメキシコ大学のグループが、月からの、いわゆる月面天文台のフィージビリティに関して突っ込んだ議論をしております。これがほとんど世界で唯一あるものなんですけれど、月のレゴリスの様子からどのような建築物、月面に根のはえた望遠鏡が建設可能であるか、その時の機械的構造はどうしたらいいか、0に近いけれども0ではない大気のようなものがあるわけですけれども、太陽風がやってきてトラップされたものがどのような状況になってて天文学の観測に妨げがないかとか、先ほどの松尾先生の基調講演にもありました長い基線を張った超長基の干渉計を組む時に、振動はどうなっているか、月震というのがありますけれど、これの影響がどうであるか。あるいはこれも先ほどの秋葉所長のお話にありましたが、環境、特に温度環境が夜だけのクレーターの中に行くとどうなっているか、というような基本的な調査があります。これは非常に分厚い資料になってたくさん残っておりますけれども、その中でいわれていることは、繰り返しになりますが、月は、大きなシングルディッシュ、つまり大きな望遠鏡を構えるよりも、干渉計にして小さい、1mとか2m、光の場合だとそれを何kmというスパンに亘って干渉計を組むような極限の分解能を求めるのが、いちばんいいところで、これは月がそういう意味では観測の究極の場所ではないだろうかというふうな結論になっております。それから月の裏に行くと、太陽系の中でいちばん地球からプロテクトされた、低周波の電波観測にとって最適のところであるというふうな極めて面白いレポートの結論も出ております。
そういうわけで、電磁波の波長でいうと電波からX線にいたるまで、場合によっては重力波の探査ということに関する基本的なレポートが出ているわけですけれども、これは見てみると、もちろんアポロをベースにしておりますので、何十人と出かけて行ってほとんど地上と同じように土木工事をして望遠鏡を作るというふうな基本的なプランになっておりますので、われわれの現在考えている「無人でどこまでできるのか」というスタンスとは全然違うわけですので、このことも今日の「月の科学」「月からの科学」の中で、月探査の調査研究の範囲から逸脱するかも知れませんが、科学をやるうえで、無人でどこまでできるのか、有人でどういういいことがあるのか、私個人としても皆さんにお話していただきたいなと思っております。
というわけで、いま天文学者も月に対する関心を、また持ち始めている。「また」というのは実を申しますと私は月を見離してからだいぶなりまして、これを地球物理学者と惑星科学者に明け渡してしまっていたわけですけれども、いまのような月面からの観測というものを考え出すと、また月そのものに単にプラットフォームとしてだけではなくて、月そのものの物理状態、生い立ち、進化ということに関する興味を、もう1回、持ち直す時期にきているんじゃないかというのが正直な印象です。
このような「月の科学」「月からの科学」ということをほとんどいっしょにしたようなというか、非常に初期の段階から考えているのが、これは国立天文台がいま提案して事業団と宇宙研の初期の協力で月に行く時のアイディアとして出している「ライフ」という、電波源を月面に何個か配置して地上から相対VLBIという手段でもって観測して、月の秤動という、月の形状が球形からズレているので太陽や地球の重力場でフラフラ動くのを観測しながら、月の内部の構造に対する理解を深めるという極めてユニークな観測を提案しております。このような観測をすることを、いまや天文学者も提案するようになったということで、大いに月の科学に対する興味をこれからもみんなで持っていきたいと思っております。
たぶん、この会場の参加者あるいは一般の方々においても、月に対する興味はもちろんさまざまある。ただし月の科学、月はいったい何なんだ、地球との関係あるいは太陽系の生成との関係でどういう面白いことがあるのかということを、まずお互いに議論することから始めるのがいちばんいいのではないかと思っているわけです。
それで早速ですが、月の科学の面白さ、自分としては月のどういうところが興味があってやりたいと思っていらっしゃるのか、藤原さんから、いかがでしょうか?
 
藤原: まず最初にお断りしておきたいんですが、唐牛さんから最初に月のプロであるかのようなご紹介を受けましたが、私自身、月について直接に研究したことは実はありません。むしろ小天体についての研究が現在のところ中心になっています。月については、ある意味ではアマチュア的観点から非常に興味を持っているわけです。そういう観点で少しお話させていただきたいと思います。
月と申しましても、月そのもの、月がどうしてできたかということは、やはり基本的には解明すべき第一の問題であろうと思います。ご存知と思いますが、月の成因としては、いくつかあるわけですね。ずっと昔には月は地球から分裂してできたという考え方、月ができる時に地球も同じような環境の中で同時にできあがって、お互いの周りを回るようになった、外から月がキャプチャーで入る、それから最近では火星サイズのものが地球にぶつかって、破片から月ができたというふうな説が非常に有力であると考えられているわけです。実はそういうもの、どれをとっても現在の月に関して得られているデータの拘束状況を全部満足しているというものはないわけです。アポロなんかで得られた観測条件、あるいは理論的な考察からの結果と矛盾するわけです。ですから月を本格的にやろうという場合には、この理論のどれであるかということを、やはり腰を据えて決着をつけるというくらいの考えでやる必要があると思っています。
地球よりたぶん、月のほうが簡単だと思うんですが、地球でさえ起源あるいは成り立ちということに関しては非常に時間と労力がかかっているわけですから、月の場合もたぶん非常に難しいと思うんですが、着実に一歩一歩、力を積み上げていって決着をつけるという心構えで考えていきたいと思っています。
月の科学でどういうことをやったらいいかということなんですが、私自身が重要と考えているのは、月の内部といいますか全体がどういうものであるか、全体がとういうものであるか、組成、構造、中身がどういうものであるかということが明らかになるということが必要になると思います。アポロで得られた結果というのは表面のごく僅かですし、しかも表面のごく限られた部分です。ですから全体的に、表面はもちろんのこと内部に関しても十分な、グローバルな結果を出すということが非常に大事だと思います。内部を知るといいますと重要なのは、従来からいわれておりますように月の内部に鉄のコアがあるかという問題、それから放射性、つまりウランとかトリウムといった熱源がどれくらいあるのかを調べて、つまり地震波の研究と内部からの熱の放射の問題。もう1つ内部を知るための基本的な問題としては、地盤の問題があります。アポロで持ち帰られた岩石には、強い磁場を示すものが報告されております。そういうものがグローバルに、月全体としてどういうふうになっているかを調べることが大事じゃないかと考えます。
もう1つ表面に関していいますと、私、実はこれまで実験室で衝突の実験、つまり惑星ができあがる時には小さなダストから固体になって、微惑星と呼ばれる固体の粒子になる、天体になる。さらにそういうものが集積して惑星にまでできあがっていくんですが、そういう時はお互いのものが衝突してできあがっていくんですが、そういうことに関わる衝突の実験をやっていたもんですから、表面の衝突クレーターとかの問題に関しては非常に個人的に興味があります。月を見ますとクレーターがいっぱいあるわけで、そういうクレーターが時代とともにどういうふうにできあがっていったのかというのも、表面を調べるという意味では非常に大事であると考えています。
 
唐牛: どうもありがとうございます。佐々木さんもたぶん、起源論というか、いまの藤原さんのおっしゃったのと同じような興味をお持ちで別のアプローチをされていると思いますが、少しお願いできますか。
 
佐々木: 順番がたぶんいちばん最後になると思って安心していたんで急にフラれてビビっているんですけれども……。私は現在、地質学教室というところで惑星地質学というものに興味を持って学生さんといっしょに研究を始めているんですが、もともとは太陽系の起源とか原始惑星の大気などを研究する理論的な研究を行なっていました。アメリカにポスドクでいるうちに、アリゾナ大学にいたんですが、何となく少し洗脳されてしまいまして、惑星地質というのは面白い分野であるし、あまり日本でもやっていませんし、日本で探査をやっていく時には非常に重要な分野になると、なかば確信犯のように自分の興味もありましたけれど、そういう分野に入っていったわけです。
いま私が興味を持っていることでお話したいことが2つあって、1つは月の表面をもう1回見直すことは惑星地質の全体にとって重要であるということと、もう1つは月の形成とかそのあとの進化に関わって月と地球の関係を考えることが重要であるということです。
最初のほうなんですが、惑星の地質というと実際は地質というより地質と地形学をミックスしたようなものなんですが、現在、アメリカ、ソ連が飛ばした探査機によって、月のほかに火星、金星、それと外惑星の氷衛星の表面の多く、彗星もあります、その表面の地形、あるいは場合によってはコンポジション、構成成分等についてもわかっています。まず多くの共通する特徴として多くの天体が隕石の衝突孔、クレーターで覆われている。皆さんご存知のように月の表面にはたくさんクレーターがあります。ほかの天体のクレーターの研究にとって、月のクレーターの研究は大きな基本になったわけです。ほかの天体に行ってみますと、そのほかにも褶曲でできた山地とか、あるいは断層、溶岩の流れ、あるいは溶岩で削り取ったチャンネルのような地形がたくさん見られるわですけれど、よくよく戻って考えてみると、そういった地形のかなりの部分が月の海といった地域に見られています。現在もそういった地形の非常に高精度なデータは、月の一部で得られています。月といえども、ごく一部で数mの解像度、場合によってはアポロの宇宙飛行士が降りていますから、もっと高い解像度で直接のデータが取られていますけれど、全体のデータで平均で30m程度、場合によっては100mより悪い解像度でしか得られていません。もう一度ほかの天体の地形、恐らくほとんどの天体は20mより悪い解像度でしか得られていないんですけれど、そういった天体の地形を見直すうえで、月での研究というのはもう1回、見直されるべきだと私は思っています。
これは月の海の表面なんですが、上が表面の地形で、左下に書いてある長さが50kmです。下に書いてあるのはレーダーで地下の反射面を見るという手法を使って内部の反射面を見ているんですけれど、レーダーによって深さ1km、2kmのところに反射面があることがわかっています。その反射面が右側で褶曲でできた山地があるんですが、反射面が上がっています。その左側でちょうどラインがクレーターを横切っていますが、その下で乱れています。そのほかにもいくつかの断層とかで反射面が変化していることがわかります。こういった内部構造に関して情報が得られているのは、いまのところ月だけです。月についても、こういった電波のレーダーによる反射のデータは、ごく一部の測線にしか得られていなくて、全体としては得られていません。
先ほど藤原さんが内部構造、コアとか、その外側のマントル構造が重要だとおっしゃいましたけれど、それに加えてこの表層近くの構造、海の内部構造あるいはレーダーの波長によっては表面のレゴリスの厚さとかその性質までも、その情報を得ることができます。こういった構造は、惑星の地質にとって、月のみならず、ほかの天体の表面の地質の形成にとっても重要なインフォメーションを与えると私は考えています。それだけではなくて、月の表面で活動する時に、まずどこに降りたらいいか、どこにものを建てたらいいか、どこに地震計を置いたらいいか、そういったことに関しても、こういった月のベーシックな地質・地形というのは重要な情報になると思います。
もう1つは、月と地球との関係というと大袈裟ですけれど、先ほど藤原先生が月の起源論についていくつかいわれましたけれども、昔、月の研究といえば、月が地球に捕獲されてできたということで、軌道計算をちょっとやってみたことがあって、そこに大気のガス抵抗を入れたらどうなるかとか、計算をしてみたことがあるんですが、その起源論はいろいろあるんですが、いずれにしても形成直後の月は地球から非常に近いところに存在したはずです。現在、地球と月の距離はだいたい38万kmですけれども、できた直後は4万km以下、地球の半径の数倍以下のところにあったはずです。空を見れば、現在の10倍大きい月があるわけですね。日食とか月食も頻繁に、たぶん毎日のように起きたというのが40億年前か45億年前か、天文学者は非常に喜ぶかも知れませんが。そういう時代だったわけです。それだけ月と地球が近い。
じゃあ何で遠くなったかというと、それは月と地球との間で潮汐相互作用というものが働くわけです。潮汐力というのは海を盛り上げたり下げたりということで、ご存知だと思いますけれど、それと同じように固体の月と地球を、お互いの重力で変形させます。すると地球は自転していますから、常に同じところが出っ張っているわけにはいかなくて、その変形を戻そうと内部に摩擦が働きます。その結果、内部にエネルギーが発生して、もう1つは地球の自転の効果が月に渡されます。その結果、地球の自転速度は少し遅くなって月はだんだんだんだん遠くなっていきます。そういった効果が1つ重要なのは、長い地球の歴史の中で、1日の長さ、あるいは潮汐の大きさということは地球の表面の変化に重要な影響を及ぼしているはずなんですが、地球が形成された直後、あるいは月が形成された直後に、月と地球が非常に近いところにあったとすると、その潮汐摩擦によって発するエネルギーが月と地球の内部で重要な加熱源になります。そうすると形成機構がどんな形であったにしても、初期の月の内部が地球との相互作用によってかなり溶かされていた可能性がある。その時には、ほかの内部加熱の機構と違いまして潮汐の加熱というのは非常に地域的にアンバランスになる可能性がある。もしかすると月の海とか高地といった違いが、潮汐加熱あるいはそのあとの地球と月との関係で月の海、高地が現在の位置に、地球は常に海側しか見ていませんけれど、それがいつ固定されたのか、そういうことについて私はけっこう興味を持っています。
そういうことを調べるためには1つは、藤原先生のいわれたような内部構造のデータをもうちょっと集めて正確な非対称性を知るというのと、もう1つはこれから富樫先生が話されると思いますけれども、物質的に月でどういった火成活動が繰り広げられていたかという情報がぜひ欲しいというのが私の意見です。
 
五代: ええ。宇宙開発事業団のほうでですね、技術基盤というんでしょうか、まず1番目に、この1年間で3機、H-IIロケットを完全に成功させました。現在それを改良しようという計画が既にスタートしておりまして、これは1番目にコストを下げよう、半分以下にしようというのがございますし、それからそれをファミリー化して、5割増し、あるいは倍くらいの打上げ能力を持たせようということです。
コストを下げるということについてちょっとお話しますと、宇宙開発の予算を非常に有効に使うと。もちろん宇宙開発の予算は、いま日本で2000億ですが、これを3000億、4000億にすると、それはわれわれも努力しますし、こういうことが望ましい方向ではありますが、それが増えなきゃ月探査はできないかというとそうではない。そのために資金を有効に利用したいということで、輸送系というのはやっぱり、どうしてもお金が高いですから、それからまず下げましょう。こういう主旨で半分以下にする。同じように全部半分以下にすれば、同じ資金でもって倍のことができるわけです。いろんな多様なことができるだろう。その最初として実はH-IIの改良というのをしているわけです。そうしますとコストのほうでいいますと、お金がこちらのほうからもゆとりが出てくる可能性がありますし、能力的にいえば先ほどの話のように、2トンの静止衛星が月へ行くということとほぼ同じですし、それの1/6くらいは月面に降りる。そこのロビーの月面車というのも、ゆうに降ろせるわけであります。
それ以外にもちろん、月探査にはいろんな技術がいりますが、事業団で1本の柱として地球観測衛星シリーズをやっております。3機ありますし、このあともずっとシリーズが続きます。もちろん地球のほうを眺めるセンサーと月を眺めるセンサーとは違いますから、そういう開発は必要でありますが、地球観測衛星技術というものは、月の観測技術の非常なベースとなっていると思っております。それからETS-Z、技術試験衛星Z号というのも計画しておりますが、これは宇宙空間で無人でランデブードッキング、あるいはロボット技術の試験をするというのも着々と進んでおります。またインフラとしては宇宙科学研究所の臼田の大きなトラッキングのアンテナがございますが、それに事業団のほうがかなり大きなネットワークを持っています。もちろん世界との共同でネットワークというのは構成されるわけですが、そういうインフラも整っている。それから月探査というのは将来は当然、国際協力でしょうが、国際協力の非常に大きな例として、いま宇宙ステーション計画を進めている。
いろんなことを考えますと、月探査の周辺、基盤技術だけではなくて、いろんな絡みとかも整ってきているんではないかと、こう思っているわけです。
総合的・段階的で、一過性でなくて、継続的に進めていくというのは皆さん基本的には同じ考えだと思うんですが。あと私が考えるのは、先ほどH-IIのコストダウンの時に申しましたけれど、じゃあ月探査のお金をどこから持ってくるんだという話がありますが、日本の宇宙予算、少なくとも日本でまとめれば2000億あるわけです。いま、だいたいその10%を宇宙科学研究所で使って、いろんな多方面の宇宙科学を研究されておりますが、それと別に、いわゆる月・惑星というようなものに、10%くらい出すのは、ともかく資金の効率的な運用ということを図り、また資金・予算の増大をだんだん図っていく、これは段階的だと思うんですが、周りの理解を得ながら進めていくということがあるとできるんではないか。予算がないからなかなかスタートできないというんではなくて、私は、いまの段階でまずスタートするべきだし、できると思っておりますが、その辺、先生どうでしょうか?
 
五代: ええ。宇宙開発事業団のほうでですね、技術基盤というんでしょうか、まず1番目に、この1年間で3機、H-IIロケットを完全に成功させました。現在それを改良しようという計画が既にスタートしておりまして、これは1番目にコストを下げよう、半分以下にしようというのがございますし、それからそれをファミリー化して、5割増し、あるいは倍くらいの打上げ能力を持たせようということです。
コストを下げるということについてちょっとお話しますと、宇宙開発の予算を非常に有効に使うと。もちろん宇宙開発の予算は、いま日本で2000億ですが、これを3000億、4000億にすると、それはわれわれも努力しますし、こういうことが望ましい方向ではありますが、それが増えなきゃ月探査はできないかというとそうではない。そのために資金を有効に利用したいということで、輸送系というのはやっぱり、どうしてもお金が高いですから、それからまず下げましょう。こういう主旨で半分以下にする。同じように全部半分以下にすれば、同じ資金でもって倍のことができるわけです。いろんな多様なことができるだろう。その最初として実はH-IIの改良というのをしているわけです。そうしますとコストのほうでいいますと、お金がこちらのほうからもゆとりが出てくる可能性がありますし、能力的にいえば先ほどの話のように、2トンの静止衛星が月へ行くということとほぼ同じですし、それの1/6くらいは月面に降りる。そこのロビーの月面車というのも、ゆうに降ろせるわけであります。
それ以外にもちろん、月探査にはいろんな技術がいりますが、事業団で1本の柱として地球観測衛星シリーズをやっております。3機ありますし、このあともずっとシリーズが続きます。もちろん地球のほうを眺めるセンサーと月を眺めるセンサーとは違いますから、そういう開発は必要でありますが、地球観測衛星技術というものは、月の観測技術の非常なベースとなっていると思っております。それからETS-Z、技術試験衛星Z号というのも計画しておりますが、これは宇宙空間で無人でランデブードッキング、あるいはロボット技術の試験をするというのも着々と進んでおります。またインフラとしては宇宙科学研究所の臼田の大きなトラッキングのアンテナがございますが、それに事業団のほうがかなり大きなネットワークを持っています。もちろん世界との共同でネットワークというのは構成されるわけですが、そういうインフラも整っている。それから月探査というのは将来は当然、国際協力でしょうが、国際協力の非常に大きな例として、いま宇宙ステーション計画を進めている。
いろんなことを考えますと、月探査の周辺、基盤技術だけではなくて、いろんな絡みとかも整ってきているんではないかと、こう思っているわけです。
総合的・段階的で、一過性でなくて、継続的に進めていくというのは皆さん基本的には同じ考えだと思うんですが。あと私が考えるのは、先ほどH-IIのコストダウンの時に申しましたけれど、じゃあ月探査のお金をどこから持ってくるんだという話がありますが、日本の宇宙予算、少なくとも日本でまとめれば2000億あるわけです。いま、だいたいその10%を宇宙科学研究所で使って、いろんな多方面の宇宙科学を研究されておりますが、それと別に、いわゆる月・惑星というようなものに、10%くらい出すのは、ともかく資金の効率的な運用ということを図り、また資金・予算の増大をだんだん図っていく、これは段階的だと思うんですが、周りの理解を得ながら進めていくということがあるとできるんではないか。予算がないからなかなかスタートできないというんではなくて、私は、いまの段階でまずスタートするべきだし、できると思っておりますが、その辺、先生どうでしょうか?
 
秋葉: 私は経済学者でも何でもございませんが、やはり最近のいろいろな経済事情を関心を持って聞いておりますと、これからどういうところへお金を使っていくかということがたいへん大事だという議論から、科学技術への投資が少しずつ重視されてきたというのは、まさに正しい方向ではないかと思うんですね。その中の1つに、やはり月の探査という、月活動への人間の活動の展開というものも含めて考えていただくというと、こういう予算というのは自然に出てくるのではないかなと思っております。
 
五代: 非常に大きな公共投資的なこともあるでしょうし、人類の基盤に非常に関わるということがだんだん理解されていけば、お金もいただけるんではないか。ただできることからやっていくということをしていかないと、お金がいただけたからスタートするというのでは、なかなかスタートできないかなと思っています。
月探査という非常に大きな問題は、国内ではもちろんオールジャパンでやるということで、したがってこういうシンポジウムも開かれていますが、実際に宇宙科学研究所さんが、先駆け的に月の探査、さっきの「はごろも」、「ひてん」、「ルナA」というのをされますし、そのあとはできるだけ、オールジャパン体制でやるようにということで、実際にもいろんなシナリオ、あるいは宇宙科学研究所と宇宙開発事業団の話し合いとか、前向きに進めているわけです。
国際協力との関係は、先生はどのようにお考えでしょう?
 
秋葉: いま国内の体制というお話がございました。確かに体制を作って、人を、という順番もあるのかも知れませんけれども、やはりいちばん育ちにくいのは人の問題ですね。ですから、この辺で、たいへん大きな関心をいま呼びつつあるので、これから大きくなっていく、というわけで、予算が大きくなっていくのに合わせて、人が育っていくのを大いに期待するわけです。
一方、欧米、特にアメリカはアポロ計画の話では、そういった人の面では、現在豊富に持っておるという状況にあるわけですから、実質的な面としてそういう人たちの能力を活用していくということが国際協力のポイントになるんじゃないかなぁという気がしているんですね。
 
五代: そうですね。月探査というのも宇宙ステーション計画に続いての平和的な国際共同事業の大きなサンプルになるんではないかと思います。いまステップを踏んでという中に有人を目指すけれど、それを無人で作っていくという1つのシナリオがあるんですが、やはり最終的、最終的というのもおかしいんですが、いまや宇宙飛行士も、秋山さん、事業団で毛利、向井、それからもうすぐ若田飛行士が飛びますし土井飛行士も飛ぶでしょう。さらに、ご存知のように次の宇宙飛行士の募集もしておるというわけで、日本の輸送系に乗っているわけではありませんが、着々と有人宇宙についても日本は経験を積み重ねて実績をあげておると思います。またJEM、宇宙ステーション計画というものがもうすぐ本格的になりますが、本格的有人宇宙活動という時代ももうすぐだと思います。月探査もいずれはこの有人基地というものになるのは当然だと思います。地球人というのは宇宙人でありますし、宇宙というのはそういう意味では人間の活動領域だと。いままでどうしても、私たち輸送系をやっておりますと、貨物輸送だけしているわけですね。人工衛星とか探査機とか。人が乗る、乗って行くというのが当然その次にあるとわれわれ思っております。
月の魅力という、最初に映画の話からいたしましたが、あれは一過性のアポロと、それから人類のいちばんもとの夢の月世界旅行というようなことがありますが、いよいよわれわれも月へ、本格的に月探査に向かって進む時期ではないかと思うんですが。最後に先生、そういう点から、何かひとこと、いかがでしょうか。
 
秋葉: おっしゃるように有人という段階までいけば、本当に多くの方の支持を得られると思うんです。大いに期待はしたいわけですけれど、先ほどアメリカから、ワークショップの際のお話ですけれど、確かにそういう面はあるけれど、有人ということで失敗をしたら、この影響は致命的なものになるということを、非常に強くいわれたわけですね。その辺は確かにその通りで、まずは無人で、人が向こうへ行ってともかく生きていられるという状況を作ってから行くというのがやはり基本じゃないかなと思いますね。いずれにしても、そういうことで月へどんどん人が行けるという時代が、30年後にくるように、ぜひそうしていただきたいと念願しております。
 
五代: そうですね。われわれ、協力していい方向へ進めたいと思っております。
どうも今日はありがとうございました。

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