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月を知ろう

月に関する研究発表
3.月面基地建設のシナリオ(1)
宇宙科学研究所 教授 河島信樹

プログラムの順番と少し異なりますが、いま秋葉所長の基調演説にございました月惑星協会の作りましたシナリオを中心に、月面基地建設・運用のシナリオをお話ししたいと思いますが、私がその長期ヴィジョン段階で取り上げていただきました、そのシナリオのできるまでの経過ならびにその特色・意義のようなことをお話しして、技術的な本当の建設のシナリオ、これを岩田さんにお願いしたいと思います。そのあと、有人活動を中心としたところを大坪さんにお願いしたいと思います。

我が国の月面基地の建設に関するスタディは各所で行われてきたわけでありますが、その中で我々がやりました「月面基地と月資源利用研究会」、これは2年ほど前に亡くなられました大林教授を中心に1988年から1990年、足掛け3年にわたりまして行った研究会であります。これまでの色々な宇宙開発に関する研究会の中では際立って大きな研究会でございまして、民間20社の協力を得まして、民間ならびに官学の研究者約200名が参加して2年間にわたって行いました。我が国で初めての本格的な月面基地研究活動であるといえると思います。当時、非常に話題になりましたヘリウム3、これは21世紀、クリーンな核融合燃料ということで期待されているもののひとつであります。いろいろとスタディしますと現実にはまだ、地上の核融合炉開発に課題がありまして、本当に実現するかどうかということは、まだ必ずしも予断を許さないところがありますが、世界各地でそういうスタディが行われておりまして、我が国でも11月には国際シンポジウムが行われると聞いております。核融合炉関係者の中からも一応期待はされているわけであります。

それからアメリカを中心に月から有人火星へという「SEI計画」、SPACE EXPLORATIONINITIATIVE、SDIの次だということでレーガンからブッシュにかけてそういう計画が話題になった時代であります。だいたい200人の研究者が2年間にわたって行いまして、2300ページにおよぶ立派な報告書ができております。現在でもまだ一部ございますのでご希望の方は未来工学研究所にお問い合わせいただきたいと思います。

「月面基地と月資源利用研究会」の他に、我が国でも最近、例えば材料科学技術振興財団で「ルナエナジーパーク」というような研究会が行われておりますし、特にエネルギーを中心とした利用というようなことも行われておりますし、それから宇宙開発事業団はかなり長い期間にわたって月面基地建設に関しては地味な研究を続けてきておられます。今回の「月面基地建設のシナリオ」の母体となりました月惑星協会といいますのは、この「月面基地と月資源利用研究会」が母体になりまして、それをさらに発展的に拡大しようと始めた研究会でありますが、世の中を取り巻く情勢は必ずしもそれをサポートするものではなかったのであります。

1991年11月から月惑星協会代表幹事を齊藤先生と、それから三菱重工の飯田会長にお願いしまして、やはり民間技術者の支援で、いわゆるこういう宇宙開発というのはかなり大きな事業でありますから、どうしても官のいろんな方針にとらわれる、そういうことにとらわれない自由な活動ができるという風な活動をしてまいりました。現在のところ、色々な研究会を中心にした活動をやっておりまして、例えば月面天文台を作るにはどうしたらいいかとか、あるいは宇宙における微生物コントロールをどうするか、あるいは原子力ロケット推進への利用、それから宇宙におけるマイクロマシンの利用と地球外建築といった、そういう研究会を作って活動を続けております。そうしている時に、いま秋葉所長の基調講演にありました無人ロボットを活用した有人月面基地建設というお話が今年の3月に秋葉所長の方からご提案がありました。これは現在パラレルに進んでおります、ヨーロッパでも同じような構想が独立に行われておりますが、それとはまったく独立に提案されたものでありまして、年間1000億、30年かけて無人ロボットで有人基地を作ろうというのが特色です。これのスタディが月惑星協会に依頼されました。先ほど申しました「月面基地とその資源の利用」という、そういう研究会の成果がここに生かされまして、そして非常に短時間に原案を作りまして、長期ヴィジョン懇談会の第2分科会にご提案いたしました。その中で前向きに取り上げられて、最終的には先ほどお話にありましたように長期ヴィジョン懇談会の報告書の中にもかなり取り入れられております。

月面基地というものを考える時に非常に短期的な視野に立って議論しますと、例えば何のために作るんだということを突き詰めて考える、それも非常に短期的な視野に立って考える、何に利用するのか、あるいは例えば科学的な観測をする時にやはり地球軌道の方がいいというような別の方法との比較を短期的な視野で行いますと、どうしてもネガティブな方向に向かってしまいます。だから月面基地はまだなかなか実現しない、こういうものに対しては一般には日本人は、すぐ目の前に来ないと動いてくれない、だから新しい流れにすぐ先頭についていける人というのはたくさんいるんですけれども、世界をリードするその先端を作っていく人たちが欠けているということだと思います。いま特に日本が経済力を持って、要求されるものは新しい流れを作り出す、宇宙開発のリーダーシップをとる、ということだと思います。

もちろん何のためにやるかということは十分議論されなければいけませんが、やはり実際に具体的にどうやって作るんだ、本当に何ができるんだということを定義しないで、ただ先に何のために作るとか、短期的な議論ばかりでは前向きに進まないと思います。

月惑星協会が作りました、この「月面基地建設のシナリオ」というのは、国民ひとりあたり年間1000円、これが多いか少ないかということがたぶん今日のパネルディスカッションの主題になると思いますが、割合短期的にまとめ上げられたものでありますから、まだこれから改良すべきところはたくさんあります。特に大きな課題としては、宇宙でのロボット技術の極限を追求する、それから1000円で30年、3兆円といいますと、かなり大きな額ではありますが、しかしそれでも課題としては、宇宙への展開を飛躍的に安くしないとできない数字であります。これをいかにしてやっていくか。こういう大きなふたつのテーマを持った課題でありまして、月面基地でなく、宇宙開発全体をリードする、そういう主題であると思います。

これから岩田さんと、それから大坪さんに具体的なシナリオについて細かくご説明いただきますが、これをバネに月面基地がぜひ前向きに進んでいきたいと思います。


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