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マンガルヤーン
探査の概要

■インド初の火星探査計画は周回探査
マンガルヤーンは、インドではじめてとなる火星探査計画です。「マンガル」(Mangal)とはサンスクリット語で「火星」、「ヤーン」(yaan)とは「乗り物」のことで、文字通り「火星に向かう車」、すなわち火星探査機を意味する言葉です。この命名法は、2008年に打ち上げられたインド初の月探査機「チャンドラヤーン1」と全く同じです。
新興宇宙国であるインドは、月・惑星探査に極めて熱心です。2008年の月探査機の打ち上げに続き、今度は独自技術で開発した火星探査機を、同じく独自技術で開発したロケットで打ち上げようとしています。
これが成功すれば、インドは旧ソ連、アメリカ、日本、ヨーロッパに続いて、自前のロケットで火星に探査機を送り込んだ国となります。さらに周回軌道への投入に成功すれば、日本を飛び越え、旧ソ連、アメリカ、ヨーロッパに次ぐ成功となります。
まさに国の威信がかかった計画で、インドでも大きな注目を浴びています。
インドが月・惑星探査に熱心なのは、新興宇宙国としてのライバルである中国の影響があると考えられます。中国は月探査機を安定して打ち上げていますが、火星探査機となると、ロシアの「フォボス・グルント」に相乗りして打ち上げようとした小型火星探査機「蛍火1号」だけで、しかも相乗り打ち上げに失敗するという状況になっています。
今回の火星探査機の打ち上げ成功で、少なくとも火星探査についてはインドが一歩リードする状況を作り出し、ライバルに差をつける…そういった意図も見え隠れしているようです。
今回のマンガルヤーン計画は、2012年8月にインド政府が正式承認し、かなりのハイペースで開発が行われ、打ち上げにこぎつけたようです。

■深宇宙探査の技術を磨き、火星についての知識を得る
マンガルヤーンの目的は、大きく技術的な目的と科学的な目的に分かれます。
技術的な面では、なんといっても深宇宙探査技術の獲得が大きな目的となっています。特に、通信に時間がかかる深宇宙では、探査機を自律的に運用することが必須です。そのような技術が獲得できれば、火星や小惑星の探査ではもちろんのこと、月などの比較的近いところでの探査でも技術的に大変有利になります。
また、こういった深宇宙探査を行うことで、通信、管制、衛星制御など、衛星を運用していくあらゆる面で大きな経験が蓄積されます。このような経験は、月・惑星探査だけではなく、今後インドが「宇宙大国」として育っていく際にも有利に働くでしょう。
インドは、かつて月探査機チャンドラヤーン1では本来の探査期間より前に探査機が通信途絶しミッション終了を余儀なくされたという苦い経験を持っています。今回の探査にはその反省が生かされているようです。
探査機はチャンドラヤーン1とは違い、探査機器が5つしか搭載されていません。多数の科学機器を搭載することでシステムが複雑になることを避け、システム全体をシンプルな構成にすることを狙っているように思われます。

搭載される科学機器については、カメラ、中性分子分析装置、スペクトロメーターなど、基本的ながら厳選された様子が伺えます。この中では注目はメタン検出装置(MSM)でしょう。
マーズ・エクスプレスの探査から、火星大気内にメタンが存在していることが明らかになりました。このメタンはその量から火山起源とは考えにくく、生命の存在を示唆するもの、あるいは生命起源であることを示唆するものとも考えられています。
しかし一方では、最近のマーズ・サイエンス・ラボラトリーの観測によって、メタンの存在が否定されるなど、非常に議論が分かれる問題でもあります。この問題に決着をつけることができれば、火星の生命についての議論を進めることができることはもちろん、火星大気の成り立ちやその進化などに大きな貢献ができると期待されています。
マンガルヤーンに搭載されている科学機器は、他の火星探査機と比べて若干地味ではありますが、火星の地表の様子、大気の組成・状態など、火星でもっとも知りたい内容をしっかりと観測できるという点で注目されます。

■約10ヶ月かけて火星へ、300日の探査
マンガルヤーンは11月5日に打ち上げられました。
打ち上げてからしばらくは地球周回軌道にとどまり、11月30日に地球周回軌道を脱出、火星への軌道に乗ります。こうして火星へ約10ヶ月の飛行を行ったあと、2014年の9月24日に火星周回軌道へと入る予定です。
このマンガルヤーンの軌道で特徴的なのは、他の多くの探査機がほぼ円軌道であるのに対し、非常に極端な楕円軌道である点です。火星にもっとも近い点が約360キロメートルなのに対し、火星からもっとも遠い点は8万キロメートルもあります。
ただ、円軌道に投入する場合には多量の燃料を使うのに対し、楕円軌道であればそれほど燃料を消費することなく済みます。そのため、今回はまずは探査機をしっかりと周回させることを優先し、このような軌道を選択したものと思われます。
探査機が火星周回軌道に入ってからは、探査機は約300日間(火星の1年は687日なので、その約半分ということになります)にわたっての観測を実施する予定です。
インドとしては、最初に無理に高度な技術を達成するのではなく、確実な成功を狙った形で火星に探査機を送り込もうとしているのでしょう。国家の威信をかけたこの探査の成否に、注目したいところです。


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