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ミッチェル・ロンドン氏インタビュー

民間による月面軟着陸を目指しているアメリカの会社、アストロボティック・テクノロジー社の最高経営責任者(CEO)、ミッチェル・ロンドン (Mitchell London)氏が、このほど来日しました。その折に行ったインタビューを掲載しま す。

●ミッチェル・ロンドン氏の経歴 (アストロボティック・テクノロジーのウェブサイトより、抜粋訳)
ミッチェル・ロンドン氏写真 ミッチェル・ロンドン氏は約20年間にわたる技術系ビジネスのキャリアを持っています。ロンドン氏は以前はマイクロソフト社の社員で、同社のウィンドウズ基本システムの初期段階での開発に際して重要な役割を果たしました。
その後、コネクトソフト社 (ConectSoft, Inc.)を創設し、最高経営責任者となりました。同社は、電気通信や技術サービスなどの複数事業部からなる会社です。1996年8月にはこの会社を投資会社に約2000万ドルで売却しました。その後、技術系の会社を中心に投資やアドバイスを行っています。
ロンドン氏はカーネギー・メロン大学 (CMU) で学生として勉強していた際に、CMUロボティックス・クラブを立ち上げました。その際に、たまたま、現在の最高技術責任者となっているウイリアム "レッド" ウィットカー博士に、クラブのアドバイザーになるようにお願いしたというのが2人の縁の始まりです。それ以来、博士とは技術的な交流を続けており、CMUの自律走行車開発チームの「レッドチーム」を代表して、資金集めや開発への協力などを行ってきました。

<インタビュー日時>2008年2月2日
<聞き手>寺薗 淳也 (月探査情報ステーション編集長)


---まず、今回の来日の目的について教えて下さい。

今回日本に来たのは、日本が月探査に対して、どのようなポテンシャルを持っているかどうか、自分自身の目で確かめたかったからです。
今回の旅程では世界を回ってきており、日本は最後の訪問地になります。旅程の中で実は、いちばん重要な場所はインドでした。我々が計画している月着陸機の打ち上げについて、現在打ち上げ機を探しているところですが、その重要なターゲットとして、インドが持っているPSLVを候補に考えています。今回はインド宇宙機関(ISRO)の関係者とも会い、この点について話し合いました。

---インドというと、今年4月頃をめどに月探査機「チャンドラヤーン」を打ち上げるなど、月探査に熱心な国ですね。そのあたりとの関係はあるのですか?

今回インドを訪れた際には、チャンドラヤーン計画の総責任者とも会いました。

インタビュー風景

---いま、アストロボティック・テクノロジー社で考えている月着陸機の開発計画は、どのような体制で進めるのですか?

我々のチームは、基本的にはカーネギー・メロン大学 (CMU) のメンバーを中心としていますが、アリゾナ大学(The University of Arizona)のメンバーも加わっています。総勢で50名ほどの人員で、開発を行っています。この50名の人員の中には、CMUの大学院生なども関わっています。
このほど、新たにトニー・スピアー (Tony Spear)氏が加わることになります。
彼は、1997年に火星に着陸し、火星の移動探査の先陣を切ったマーズ・パスファインダ計画の総責任者を務め、計画を大きな成功に導いた人物です。我々は、彼のこれまでの経験を大いに評価しています。その経験を生かして、彼には今回の計画のプロジェクト・マネージャに就任してもらいたいと思っています。

(訳注: 2008年2月4日付のプレスリリースにて、トニー・スピアー氏をプロジェクト・マネージャに迎え入れることが発表されました。)

---マーズ・パスファインダは、確かに大成功を収めましたね。

マーズ・パスファインダは、近年の火星探査の基盤を作る、大きな成功を収めました。なぜ成功したかというと、それは、これまでの探査と異なり、「早く、よりよく、安く」(Faster, Better, Cheaper)という新しい考え方に基づいたミッションを立案し、実行したからです。
ミッションに何年もかけることで、規模をいたずらに膨張させ、時間がかかってしまうというのがこれまでのパターンでした。スピアー氏が手がけたマーズ・パスファインダーは、その流れを逆転させ、素早くミッションを実行できるようにした、という点を我々は高く評価しています。

---というと、ロンドンさんが今回手がけている月軟着陸計画についても、同じようなことを考えているんですか?

はい。我々の計画では、2009年7月20日、つまり、アポロ11号が月に着陸してからちょうど40年目を迎える日に、探査機を月面に着陸させます。場所はもちろん、アポロ11号が着陸した「静かの海」です。
そして、ローバを走らせ、着陸点の様子を地球に送信することを考えています。この計画は「トランキリティ・トレック」(Tranquility Trek: Tranquilityは、月面の「静かの海」の英語名称であるSea of Tranquilityにちなんでいる)と名付けました。いまから18ヶ月で探査機を作り、月に打ち上げるんですよ。

---それは驚きました。グーグル・ルナー・Xプライズでは、2012年(最終期限は2014年。ただ賞金を満額受け取ることができるのは2012年)までに探査機を打ち上げるということになっていたので、もっと着陸は先のことだと思っていたのですが。

18ヶ月(1年半)というサイクルは、ビジネスにとっても重要なサイクルなのです。私たちは悠長に構えることなく、このサイクルに乗って、ミッションを実施したいと考えているのです。
トニー・スピアー氏をプロジェクト・マネージャに迎えたのは、彼がこのような短期での宇宙探査機の開発経験を持っていて、それを十分に活かせると考えたからです。
私たちは、自分たちのことを「輸送業」(Logistic Supplier)と考えています。月へ(ローバを)運ぶ輸送業といったところでしょうか。輸送業は、買い手(乗り手)がいてはじめて成り立つものです。乗り手の意志を最大限に発揮させるという意味でも、素早く開発して素早く打ち上げることが重要だと思うのです。

---18ヶ月での開発ということは、すでにローバはかなりの部分の開発が進んでいるということでしょうか?

インタビュー風景

はい。我々のローバはすでにプロトタイプが完成しています。形は、四角の上に三角柱が乗ったような形をしており、いちばん上には地球との交信を行うためのアンテナが設置されています。総重量は1050キログラムです。
ローバの表面にはびっしりと、太陽電池の小型パネルが敷き詰められています。
太陽電池は高効率タイプのものを使用しています。また、上の三角柱の部分からは2つのカメラが突き出ていて、写真撮影などを行えるようになっています。
ローバの車輪は、月面の砂などの環境を考慮して、金属の網(メッシュ)を使っています。ローバは4輪です。

---このローバの開発でいちばん苦労された点はどのようなところですか?

いちばんの問題は、エンジンの供給など、打ち上げに関するものです。
そのほかにも、どのような部品を選ぶかといった問題や、電源の供給など、様々な問題がありました。それらを少しずつ解決しています。

---先ほど、インドのロケットを打ち上げに使用するということをおっしゃっていましたが、これは決定なのですか?

いえ、まだ決めてはいません。今のところ、インドのPSLVのほかにも、アテナロケット (Athena)を候補として考えています。このどちらにするか、この2月に最終決定を行う予定です。

---今回のローバ開発に際して、アメリカの航空宇宙大手のレイセオン社が共同で参画していますが、彼らの役割はどのようなところなのでしょうか?

もともとレイセオン社は、ミサイルなどの開発を通して、誘導制御技術に優れた実績を持っています。例えば、巡航ミサイル「トマホーク」は、高速で飛行しながら、地上の地形をマッピングし、それを次々に解析しながら、目標地点へと飛行します。このような技術は、今回の私たちの月着陸機にも大いに活かせるのです。
今回の月着陸機は無人ですし、空港のように誘導装置が月面にあるわけでもありません。月の地形をカメラで捉え、その特徴を解析しつつ、目標地点へと降りていくことが必要になるわけです。このような技術は基本的に、同じような技術だということがいえます。
私たちの月着陸では、センチメートルオーダーの精度での着陸を考えています。

---センチメートル! それはまたすごい精度ですね。

確かに。でもよく考えてみると、それほど非現実的ということではありません。
例えば、最近よく話題に上るミサイル防衛システム(MD)があります。これは、超音速で大気圏外を飛行するミサイルを、地上から迎撃ミサイルで防衛するというシステムです。超音速で飛行している物体を捉える精度が必要になるわけですが、我々はすでにそのような技術を手にしているわけです。

インタビュー風景

---なるほど。それでは、今回のローバ計画のあと、もうちょっと長期的な計画をお持ちでしたら、教えていただきたいのですが。

今のところ、2011年には、月の南極への着陸を考えています。大きさとしては、NASAが行うスカウト・ミッション(小規模な月・惑星探査計画)の大きさを想定しています。
また、2014年より前には、やはり着陸機を月面に降ろすことを考えています。この着陸機には、現地で酸素を製造する装置を搭載していく予定です。

---それはどのような目的なのですか?

将来的に月面基地を構築する際には、酸素は必ず必要になります。それを現地で製造できるようなプラントが、おそらくは必要になるでしょう。
私たちの着陸機に搭載する酸素製造装置は、そのような酸素製造過程を実証するような小型のパイロットプラントです。大きさはおそらくスーツケース大くらいでしょう。
この装置の中に月のレゴリス(表土)を入れ、750度くらいに暖めることで、酸素を作り出すことができます。そのような装置の実証を行うことを考えています。

---お話を伺っていると、計画が非常に速いテンポで進んでいることに驚かされます。アメリカの公式の計画でも着陸はまだアナウンスされていませんし、他の国(中国や日本など)も構想は持っていても、着陸は2010年以降になるようですよね。

先ほどもいいましたが、私たちは「輸送業」です。早く確実に現地へ到達できることが大事なのです。私たちのミッションは、「早く、よりよく、安く」のコンセプトを十分に活かしたいと思っています。小さい探査機で、頻繁に月に着陸させることの方が望ましいという考え方ですね。

---最後になりましたが、私自身も科学者であり、科学の視点から今回の計画には大変興味があります。科学的な面での貢献といったことについてはどのようにお考えですか?

私たちのローバは、科学目的という点でも十分に役立つと思います。科学者が、自分たちの観測機器をローバに搭載し、科学的な観測を行う、といったことも可能だと思います。

---今日は大変ホットな話題をうかがうことができました。ありがとうございました。



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