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マーズ・サイエンス・ラボラトリー
探査機の着陸

■エアバッグではなく、大気を利用して減速
これまで、火星探査機は様々な方法で着陸してきました。最近良く使われた手法は、マーズ・パスファインダーやマーズ・エクスプロレーション・ローバーなどで採用された、エアバッグを使った着陸方法です。探査機をエアバッグでくるみ、バウンドさせながら着陸し、最後にエアバッグをしぼませて中からローバーを出す、という方法です。
しかし、今回のマーズ・サイエンス・ラボラトリーではその方法は使えません。というのも、ローバー自体が重いからです。ローバーだけで900キログラム、大気圏に降下していくシステム全体で2.4トンもの重さがあります。これだけの重さの探査機をエアバッグにくるんだら、弾む衝撃で確実に破裂してしまうでしょう。
そこで今回は、大気を利用して減速、途中ではパラシュートでさらに減速し、最後には逆噴射ロケットを利用して減速、という、複雑でしかも新しい手順を踏むことになりました。

■秒速5.9キロからの減速
探査機が火星の大気圏に突入するときの速度は、秒速5.9キロメートルにも達します。ここから最終的に速度0(正確には着地する際の速度は時速約2.7キロメートル。「ドスン」と降りる感じです)にまで減速するためには、様々な手順が必要になります。
マーズ・サイエンス・ラボラトリーでは、この大気圏突入から着陸までのステージを「大気圏突入・降下・着陸」ステージ(EDL: Entry, Descent and Landing)と呼んでいます。
火星の大気圏突入、といっても、別に大気圏に明確な境界線があるわけではありません。今回のEDLでは、この大気圏突入の目安を、着陸点上空約131.1キロメートルに設定しています(ただし、着陸点の真上から突入するわけではありません。あくまでも目安です)。
この大気圏突入10分前に、地球からずっと一緒に飛行してきた「飛行ステージ」(Cruise Stage)が切り離されます。また、着陸の状況を記録する機器であるMSL大気突入・降下・着陸測定装置 (MEDLI)が稼働を開始します。
その1分後、後部保護板(バックシェル)についている小型スラスターを使って、探査機の回転を止めます。そして、熱シールドが正面…大気に突入する方向を向くようにします。 この姿勢変更後、後部保護板から2つのおもし(バランスウェイト)が切り離され、探査機は重心位置を調整し、大気圏に突入する最適な角度に調整されます。

■大気圏突入から着陸までの「恐怖の7分間」
探査機がいよいよ大気圏に突入してから着陸するまで、予定では403秒、約7分間です。この間、探査機は様々なことを探査機自身が判断して(自律して)行わなければなりません。1つでも間違う、あるいはすべきことが実行されなかったら、その時点で探査機は大気の中で破壊され、探査は不可能となります。この時間は、「恐怖の7分間」と呼ばれます。
大気圏に突入すると、後部保護板に搭載されている小型スラスターで姿勢を調整しながら高度を下げていきます。高度の下げ方は、最後の着陸までを含めるとちょうど「S」の字に似た形になります。この方法を使うと、探査機が水平方向に流される距離を減らすことができます。
また、大気中の風によって流される分も調整しながら、探査機は一気に高度を下げていきます。このときの動きは探査機に内蔵されているジャイロスコープの情報を元にしています。
大気との摩擦や空力加熱などの影響で、探査機は猛烈な高温にさらされます。大気圏突入後約80秒ほどでこの温度がピークに達し、約2100度もの高温が探査機を襲います。その10秒後には減速度がピークになります。
なお、大気圏突入から着陸までどのくらいの時間がかかるかは事前にはわかりません。突入時点での大気高度や大気の濃度、風などの不確定要素があるからです。このあたりを探査機は自分で判断して、着陸点を目指して降りていくわけです。いまのところ、最短で369秒、最長では460秒と見積もられています。

■パラシュートを展開し減速
大気圏を摩擦によって減速し終わると、今度はパラシュートが展開されます。パラシュート展開の数秒前に後部保護板が切り離されます。また、残っていた4つのおもしも切り離され、再度探査機は姿勢を調整することになります。
パラシュートの展開は大気圏突入後255秒、このときの速度は秒速405メートル(時速1458キロメートル)、高度は大体11キロくらいです。
さらにパラシュート展開から約24秒後に、熱シールドが切り離されます。このときの高度は約8キロ、速度は秒速125キロメートル(時速450キロメートル)です。ここから火星降下撮像装置による撮像が始まります。
探査機は、地上までの距離や自身の速度を測りながら、降下を続けていきます。

■宙吊り方式「スカイクレーン」による着陸
熱シールド分離から約80秒後、探査機は「降下ステージ」(着陸装置部分とローバー本体)と「バックシェル」(降下制御装置)の2つに分離します。この時点で、地上からの高度は約1.4キロメートル、速度はまだ秒速80メートル(時速288キロメートル)もあります。
ここから、降下ステージに搭載された8つの逆噴射ロケットエンジン(「火星着陸エンジン」と呼ばれます)が稼動し、火星への動力降下を行います。ここでは減速にロケットを使用するわけです。
このエンジンの動作によって、探査機の速度は秒速0.75メートル(時速約2.7キロメートル)まで最終的に減速されます。降下ステージは着陸までこの速度を保ち続けます。
そして、8つのエンジンのうち4つが停止し、ローバーを吊るしているナイロンのロープがゆっくりと伸ばされていきます。この時点で、探査機はエンジン部分からぶら下げられたような形になっています。この状態は「スカイクレーン」と呼ばれます。このような特異な形での着陸は、ロケットエンジンの噴射によって、火星の砂が巻き上げられ、探査機などに入り込んで異常動作を起こすことを防ぐために考えだされたものです。
この時点で高さ20メートル。ここからローバーを結んでいるロープが徐々に伸びて、地上へとローバーを下ろしていきます。この間約12秒ほどです。
探査機が着陸を感知すると、ロープが自動的に切断され、降下ステージは飛び去っていきます。少なくともローバーから150メートル以上離れたところへと飛び去るように設計されていますが、おそらくはその2倍以上遠くへと飛ぶことでしょう。
そして、ローバーのコンピューターが「EDLモード」から「地上モード」へと切り替わり、最初の動作を開始します。この時点で火星現地時間では午後3時ころになると予定されています。

降下手順
マーズ・サイエンス・ラボラトリーの降下手順
(出典: Mars Science Laboratory Launch Presskit)
(クリックするとより大きな図が表示されます。サイズ: 1.2MB)


マーズ・サイエンス・ラボラトリーの降下についての説明ビデオ(NASA/JPL)
 

上記ビデオの日本語字幕版 (字幕: @lizard_isana)

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