あまり予想していなかった思わぬところ、ただいわれてみるとそうかなというところから、驚くべきニュースが入ってきました。

朝日新聞の記事によると、情報通信研究機構(NICT)や東京大学が、2020年に火星を周回する超小型衛星を打ち上げることを検討しているとのことです。
もし成功すれば、日本でははじめて火星周回軌道へ探査機を投入できることになります。

記事によると、総務省の専門家会議でこの計画が承認されたとのことです。なお、NICTは総務省が所管する国立研究開発法人です。
同じく記事によると、衛星には火星表面の水分などを検出できる装置を搭載した超小型衛星で、火星表面(深さ数十センチくらい)の水分や酸素の検出を目指すということです。
打ち上げロケットは未定と記事では述べています。費用は数億〜数十億とのことです。

現時点で、総務省、NICT、東京大学のウェブページには情報がありません。

短い記事から情報を読み解くのは困難ですが、いくつか推測してみましょう。
まず、記事では打ち上げロケットは「未定」とのことですが、恐らくはH-IIAロケットへの相乗りの形で打ち上げられるのではないでしょうか。2020年にはアラブ首長国連邦(UAE)の火星探査衛星「アル・アマル」の打ち上げをH-IIAロケットで行う予定になっており、このロケットに相乗りして同じ火星を目指すというのが自然です。
次に、搭載されるセンサーについては、単なるスペクトロメーターではなく、電波を使ったレーダーのようなもの、恐らくは超小型のレーダーではないかと思われます。
スペクトロメーターでは、火星表面の水分などの分布は解明できても、その下にある岩石や砂の水分などの分布はわかりません。地下の様子をみるためには、地下に到達できる電波を使ってその反射をみるという仕組みが最も適切です。実際、月探査衛星「かぐや」では、地下数十キロまでの様子をみるために「レーダサウンダー」という電波を発射する装置が搭載されています。こちらは地殻の構造を知ることがが主な目的でしたが、似たような方法を使うことを想定しているのではないでしょうか。
また、NICTは電波を利用した宇宙通信の実績を数多く積んでいます。超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)や今年1月に運用を終了した技術試験衛星「きく8号」などはJAXAとNICTが共同で開発した衛星であり、特に衛星通信技術や超高速通信技術などではNICTの高い技術が活かされています。
今回の火星周回衛星でどのような技術が使われるのかがはまだわかりませんが、NICTのこれまで培った宇宙通信技術が余すところなく使われるとともに、おそらくは実験的にさらに高度な技術を試すということも考えられるでしょう。
また、東京大学は、これまで小型衛星打ち上げについては数多くの実績があります。最近は、超小型の金星探査衛星「UNITEC-1」(予定した軌道に入ったものの通信途絶)の全体統括として関わった経験もあります。さらに、最近日本経済新聞で報道された内容ですが、2018年にアメリカから月着陸衛星(もちろん超小型衛星です)「オモテナシ」と「エクレウス」を打ち上げるという記事も出ています。編集長(寺薗)もメンバーはよく存じ上げておりますが、実力派十分にあるといえるでしょう。

いずれにしてもまだ報道は朝日新聞のみです。続報を待つとともに、日本としてこの試みが成功することを期待したいと思います。