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月を知ろう

月に関する研究発表
5.「バイオスフィア2」の経験について
President,Paragon SDC Dr.Taber MacCallum
紹介: 宇宙科学研究所 秋葉鐐二郎


秋葉(マッカラム氏の紹介)

宇宙研の秋葉でございます。マッカラムさんのご紹介ということでお引き受けしたんですが、実は私、マッカラムさんと前からの知り合いというわけではございません。たまたまこの4月に、この「バイオスフィア2」を見る機会に恵まれまして、その時にご案内いただいたというだけのご縁であります。紹介ということになると履歴書くらい送ってくださいとお願いしたところ、ここに送ってこられました。まずこれを見て、私、戸惑ってしまいましたのが、日本の履歴書と違っておりまして、日本の履歴書だと上から順番にちょっと読めばご紹介になるんですが、まずはどこの大学を出てどうなさったということが、ほとんど触れられていません。これでユニバーシティを卒業したということを書いてあるのは、国際宇宙大学の卒業だと書いてございます。だいたいそのほかは、いろいろな専門事項につきまして、いろんな大学の専修コースとか企業のいろいろな教育コースで学ばれてきたという、日本ではそういうことではなかなか人材が育たないようなところでございますので、それはまず日本では得難い方であろうと思います。

現在は、このプログラムにあったと思いますがパラゴン・スペース・デベロップメント・コーポレーションという会社の社長さんでございまして、この会社が現在バイオスフィア2の運用をしているというわけであります。建設は既に終わっておるわけですが、そのあとこれを使うといったようなことでアクティビティを続けているということでございます。この社長さんになられるにつきましては、それに先立ちまして本日ご講演の内容にありますように2年間の、この中での生活というのを過ごされたという点が特筆すべきご経歴であるわけです。

そのほか職歴というところを見ますと、スキューバダイビングの先生をやっておられる。それからもう1つは大阪にありますイングリッシュ・ワールドというバイリンガル・イングリッシュ・スクールのインストラクターもやっておられるということが職歴に書いてあります。このスキューバダイビング、趣味という以上のものでございまして、深海探査船でしょうか、リサーチヴェッセル・ヘラキュリトゥスというのがあるそうですが、それが沈んじゃったのを引き上げて、いろんな調査活動をやられているといったようなことでございまして、このバイオスフィア2に興味を持たれたというのも、そういう深海の作業船のような閉じられた空間の中で、何人かの人間が一種の危険にさらされながらそこで仕事をしていくという点の類似性に惹かれて、バイオスフィア2という計画に参加したとおっしゃっています。

そういうことで、私、バイオスフィア2を見た時の感想は、ともかくこういうことはアメリカでなくてはできない計画だなぁということを感じました。これは国がやった計画ではございませんで、1企業といいますか、1人の金持ちがこれに投資してやった計画だということで、非常に巨大な計画であります。こういう計画自体、アメリカでなくちゃできないということでありますし、ここで2年間も過ごした、実験に参加された方々、この方々、マッカラムさんを見るようにアメリカという土壌じゃなきゃ出てこない、そういう人たちによってなされた、たいへん魅力的な、われわれ日本人ではできないという意味でたいへん啓発的な仕事だというふうに思っております。

私ばかり喋っても何にもなりません。なるべくたくさんのお話をマッカラムさんに聞きたいと思います。バイリンガルで通訳もあるそうでございますけれど、英語学校の先生のお話ですので、英語そのものでお聞きになるという方もかなりおられていいんじゃないかと思います。内容もともかくアメリカンスピリットに啓発されるということも、たいへん大きな意味じゃないかと思っております。

ご紹介を終わらせていただきます。

マッカラム氏の講演(日本語訳)

まずはじめに今回、私をお招きいただきまして、またご丁寧な私の紹介も兼ねて私の経歴などについてもお話しくださいました秋葉教授、そして宇宙開発事業団理事長の松井さま、ありがとうございます。

私、今回、日本に参りましてこのバイオスフィア2での体験のお話をさせていただきますのは、初めてのことになるわけですが、まず最初にこのプロジェクトの全容についてお話させていただこうと思います。

こちらがバイオスフィア2の全容でございます。ここにいくつか白いドームがありますけれど、これらはチャンバーと呼ばれておりまして、空気の容量により収縮するダイヤフラム式のドームであります。そして農耕作業などを行なうエリア、そして人間の居留地区、アパート、ラボ、厨房設備等が含まれております。こちらは熱帯雨林、海洋、湿地帯、サバンナそしてソーン・スクラブ、これはサバンナおよび砂漠地帯との中間領域、推移帯というわけです。人間居住地区、そして農作物の生産エリアが荒野に接続していきますが、分離させることもできます。こちらのホワイトドームですが、こちらは空気の温度の上下によりまして、その大きさが変化するので、我々は「肺(ラング)」と呼びました。

このような閉鎖型の生態系システムが最初に研究されましたのは1960年代当初のことでございます。これはグレア・フォルサム教授によって開発がなされたもので、私も参加しましたが、太洋水を基本にしたシステムで、意図的にシステムを混乱させて不安定なものにしようとしたのですが、すぐ安定してしまいました。これらの過去の経験というものが、このバイオスフィア2の建設、テストモジュールの計画段階から生かされているわけです。ここではリンダ・レイという人間が試験モジュールの中で3週間、生活した模様を写真に写しております。地球上と同じ生態系をこういったドームの中に再現して、そこで生きてみようとした。それがバイオスフィアでの目標でした。

試験段階ですが、このテストモジュールを使いましていろいろな試験が行われました。その間に我々は、ヴェネズエラあるいはフランス領ガイアナ、メキシコなどで植物を採集しました。それらをバイオスフィア2の中に移植していったわけであります。

こちらはバイオスフィア2の底の部分に使われるステンレススチール製のライナーです。約3/16インチほどの厚さで6XNステンレスです。バイオスフィア全体の底部分をつかさどっているのが、このステンレススチールです。

こちらがライナー部の縫い目です。ここでまず高圧下で水流試験を行ないまして水洩れについて試験を行なったわけであります。そして床部分の工事から始まりまして、順次、先ほどもご覧いただきました植物や動物を各種属ごとに移植していったわけです。これは熱帯雨林を構築しようとしているところです。

こちらは湿地帯構成のためのブロックです。このようにブロック移送、すなわち湿地土壌というものをブロック化してバイオスフィア2内に移植していったわけです。この湿地帯の土壌はフロリダで採集されまして、トラックでアリゾナに移送いたしました。1つのプログラムは1mです。

海洋部に関しても同じように珊瑚礁の採集を実際に行ない、ブロック化し、それらをブロックごとに移植するという方法を採用しました。前以て10%の海水を満たした海洋エリアをバイオスフィア2の中に作り、特別輸送用のシングルストラットのトラックを使って移送しました。そして次に、エリアを組立てた後にその上に構造物をつくり、クレーンを使用して順次1枚ずつガラスを張っていくという作業が行なわれたわけであります。

これは砂漠の熱の影響を受けない夜間に作業を行ないました。これも工事中の現場ですが、こちらは容積の変わるチャンバーです。これについては詳しく後ほど説明しますが、エネルギーセンターがここにあります。エネルギーセンターでバイオスフィア2に必要なエネルギーが作られます。

これはトンネルです。このトンネルにおりまして、バイオスフィア2と容積可変性のチペンバーとがつながれているわけです。非常に重要なことは空気が収縮したり膨張したりしなければなりません。圧力が変わるあるいは湿度が変わる、温度が変わる、それに応じて空気の容量が変化できるようになっていなければなりません。この大きなパン(ナベ状のもの)はタンクの端と接続していて、バイオスフィア2の下の部分とがつながれていまして、大きな風船のような構造になっておりまして、温度や空気の圧力の変化にともなって収縮したり膨張したりします。ソーサーの真中にパンと呼ばれる部分がありますけれども、容積の変化にともなって上下に動きます。構造をおおっている膜が上のほうにありまして、外側と中側との間の圧力の差をコントロールできるようになっております。

我々は年間8%以下のリークレートを得ることができました。トレースガスを測定して、圧力をコントロールできたからです。もしこれについてより詳しい話をお聞きになりたい方がいらっしゃいましたら、後ほどご質問いただければ詳しく説明したいと思います。

これはエネルギーセンターです。バイオスフィア2は非常に熱を持ちやすいものです。太陽の光が常に当たっておりますので、バイオスフィア2の中は温度が上がりやすい、ちょうどオーブンのようになってしまうということなので、熱をどう処理するか、バイオスフィア2の内部の熱交換というのが、常に1分半ごとに行なわれております。気温が下がりますと水分が吸収されまして、水滴となったものが飲料水、シャワー用水等にも利用されます。冷たい水となって放熱に使われると同時に、そこでできた水滴を利用して、その水を使うというわけです。冷水の供給、冷房だけで2メガワットの電力が必要としました。
 それから最終的にバイオスフィア2の設計、建築を行ないました。これができあがった段階で大きなパーティーを行ないました。われわれは2年間ここで住むことになるわけですが、その前日の夜にパーティーを行ないました。

91年の9月26日、8人のクルーが入っていきました。93年まで2年間、住み続けたわけであります。バイオスフィア2の中に23か月くらいいたわけです。1人1人紹介いたしますと、これはアビゲール・アリー、これはDr.ロイ・ウォルフォードという医師です。ジェーン・ポインター、この人は農産物・飲料のマネージャー、それから私自身です。私は分析化学を担当しておりました。空気が安全なように、あるいは飲料水が安全に供給できるようにということを分析しておりました。リンダ・レイは荒野のバイオーム担当でした。それからマーク・ネルソンは廃棄物の再利用と通信の担当、サリー・シルバーストーンはキャプテンで食品加工のマネージャー、マーク・バンツリオットが副キャプテンで技術系のマネージャーでした。

バイオスフィア2の中を見ていきたいと思います。これは熱帯雨林です。熱帯雨林として美しく成長を遂げたものです。これは荒野。非常に美しい荒野を形成した部分です。これは熱帯雨林を覆っている葉っぱです。リンダ・レイが見えます。21日間、テストモジュールで実験した女性ですが、バイオームの維持・メンテナンスを行なっています。いろいろな人間の手作業が必要になります。つまりバイオスフィア2の中での種維持のためのメンテナンス作業が必要になるわけです。これはギャラゴーという霊長類の一種なんですが、大きさとしてはこれくらいですね。何匹かいまして育てられていました。熱帯雨林で子供を育てました。

サバンナ地域に入っていきましょう。これは非常に成長期にあたる、活動の盛んな時期のサバンナです。二酸化炭素を制御・調整しまして、雨季と乾季を作るようにしています。これは過剰となったバイオマスの収穫ですね。腐敗率をコントロールするためです。同じサバンナですが、これは活動が止まっている休眠季にあたります。後で、これが二酸化炭素の量にどのような影響があったかを説明します。これは植物学の研究をしているリンダ・レイ。植物のライフサイクル、物理的な外見がどう変わっていくか等の植物学の研究をしているリンダ・レイです。

これはサバンナと砂漠地帯との間の雨季における推移帯の模様です。こちらは砂漠が乾季を迎えている時の表情です。バイオスフィア2内では水が豊富なので、砂漠がキャルスタルセージスクラブ状態に推移していきました。サバンナ、砂漠、そして海洋へと移行していく推移帯です。特に異なる特徴を持った植物等が、それぞれのバイオームに成長を遂げています。

いま砂漠に雨が降っています。冬は光度が低いので、これら2つのバイオームを活性化して、光合成を最大化しました。外的な照度は自然に変わるので、それを内部的に調整するために、我々は荒野バイオームを利用しました。バイオームの成長によって管理され光度が、変化しない閉鎖システムでは、快適な人間のライフスタイルを確保するために、例えばスペースステーションの内部のように電気が備えられていたり、外部からの光がコントロールできる場合は、荒野など必要はないかもしれません。しかし長い目で見れば、少なくとも美的観点から、荒野も必要となるのではないでしょうか。

こちらが海洋部です。こちらも海洋部、ダイビングを楽しもうとしているところです。実際の海洋の水の維持ですが、藻が繁殖する、この藻のBOD等の活動を上手く利用しながら一定の水質を保っているわけです。また浄水システムも完備されていまして、これらは海面、スクラバーと呼ばれているものですが、一定の照度のもとに海面に藻を繁殖させまして、それを収穫するという、あまり楽しい仕事とはいえませんが、そうやって海水の浄化などを行なってきました。ここはサバンナの岸壁ですが、この裏側にマシンルームがありまして空気の温度の管理を行なっています。これが海洋です。

こちらが湿地帯の写真です。こちらも湿地帯の別のショットです。湿地帯でのサンプリングを行なっています。また上水あるいは潅漑用水等、種々異なる水質を確保していくために完璧な浄水システムというのを完備したわけですが、何といいましても一定の環境を維持するために重要なのは、バイオスフィア2の下に設置されているマシンルームを管理・維持していくということが、たいへん重要です。

こちらが計測機器です。データ収集システムのパネルをご覧いただいています。例えばバイオスフィア2で各ポイントにセンサーが設置されておりますが、それらから送られてくるデータを収集しているシステムです。

これが基本的な人間居住地区のレイアウトです。こちらがアニマル・ベイ、家畜を飼育しているエリアです。ワークショップ、作業場ですね。また倉庫、分析ラボ、そして医療設備、そして図書館。ということで、このバイオスフィア2の都市というものをこの居住地区が形成しているわけです。こちらが工場、作業場ですが、新しい機器を搬入いたしまして、ここで必要な機械加工、製作等を行なっております。こちらが医療システム。通常の場合は基本的な治療あるいは診断等を行うための設備です。こちらは血液検査用の機器になります。こういった、人間が閉鎖的な環境に隔離された場合に血液の状態がどう変化するのかということも、血液採取そして検査機器によって行なってまいりました。ほとんどがスペースステーション用に開発された技術です。こちらは歯科の治療を受けている居住者です。こちらは分析研究室になります。隔離された中でさらに隔離された研究室ということになります。非常に異なる化学物質を扱うということになるので、バイオスフィア2の中をそれらで汚染させないために完璧なシーリングを行なう、つまり隔離された中でさらに再度隔離された状況を作るということは難しかったわけですし、技術的にも多大な構築が必要であったわけですが、この中の設備はガスクロマトグラフィー、その他のマススペクトロフォトメータ、原子吸収スペクトロメーター、イオンクロマトグラフィー等の設備がこの中に収納されています。それからまたオンライン分析機、例えば酸化チッソ、化合物、その他の酸化物、還元物をオンラインで調整できるものであります。それから毒性の強い物質を扱う場合もあります。データシステムはすべて中央のデータベースに結び付けられていまして、コンピュータ処理されております。現在はこのような作業はありきたりですが、80年代半ばには大変な作業でした。


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