1.開会挨拶
宇宙開発事業団 松井 隆
皆さん、おはようございます。宇宙開発事業団の松井でございます。本日のシンポジウム「ふたたび月へ」第2回の開催にあたりまして主催者の一人としてご挨拶申し上げたいと思います。
本日はご多用のところ、多数の皆様ご出席いただきまして、誠にありがとうございます。厚く御礼申し上げます。昨年の9月に第1回のシンポジウム「ふたたび月へ」を開催いたしましたところ、非常に多数の皆様にご参加をいただきました。そこで皆様から月に寄せる思いであるとか、科学的観点から見た月の意義、さらには人類の将来にとっての月の利用可能性等々につきまして活発な議論が展開され、非常に貴重なご意見をたまわったわけでございます。それを踏まえまして私ども宇宙開発事業団と宇宙科学研究所が相談いたしまして、やはり月への意識というものを、一過性のものではなくて、より永続的なものにしたい、さらに月の本格的な構想を確立することが必要ではないだろうか、特にその後の1年間の進捗状況についてもご報告する必要がある。ということで、第2回目のシンポジウムを開催した次第であります。
皆さんご存知の通り、昨年の7月でございますか、宇宙開発委員会におかれまして、長期ヴィジョンというものをまとめられたわけでございます。その長期ヴィジョンを、現在、政策大綱にすべく検討が進められているわけでございますけれど、長期ヴィジョンで非常に大きな問題のひとつとして「月への志向、月をどうするか」という問題があったわけでございます。その後、宇宙開発委員会におかれましては、月の探査に関する調査研究を委託調査なさいました。これは宇宙科学研究所の松尾教授が中心になりまして、日本の月に関する技術者、科学者にお集まりいただきまして、いろいろと進められたわけでございます。その中で1つのグループが「月の科学探査に関する調査」ということで、これは水谷先生が中心になってやられたわけです。もう1つが「月の利用可能性」といったテーマについて、これは宇宙開発事業団の石澤理事が主査になってまとめたわけでございます。今日はその2つのラウンドテーブルがございますけれど、そこでの議論を皆様によくおわかりいただけるんではないだろうか、なるべくそれを再現するようにしたいというふうに考えてございます。
それからプロジェクトにつきましてはご存知の通り宇宙科学研究所の「ルナA」でございますか、これが着々と進んでおります。これは月に3つのペネトレータを打ち込みまして、地震波の測定とか熱流動、そういった月の内部構造を知る、さらに月の起源であるとか、あるいは進化の過程、そういうものを解明しようという、日本の月の探査の時代の幕開けにふさわしい立派なプロジェクトでございます。平成9年の打上げに向け着々と進んでいると聞いています。また私ども宇宙開発事業団も、昨年の長期ヴィジョンの検討結果、それからこういったシンポジウム、そういったものの結果を受けまして、今年、月周回観測、それから着陸実験衛星の研究という形で、宇宙開発委員会に提案申しあげまして、それが認められました。現在、予算要求という話になっておりますけれど、認められた暁には、ぜひこれを宇宙科学研究所と密接な協力のもとに進めたいというふうに考えておるわけでございます。
世界的に見ますと、米国においても、皆さんご存知の通り「クレメンタイン」がミッションを終了したわけでございまして、現在、データ解析を進めているというふうに聞いております。それから「ディスカバリー計画」の一環としての「ルナ・プロスペクター」、それから月探査計画というものが進められていると聞いております。順調にいけば、再来年に探査機の打上げというふうになるようでございます。またヨーロッパでも「ホライズン2000」という中長期計画がございまして、この中に「モノ計画」が入ってございますし、さらに月探査計画を目的とする「レダ計画」がございまして、予算が認められたと聞いております。
私ども宇宙開発事業団におきましても、ご存知の通り約10年くらいになりますか、月の周回観測、ローバー、サンプルリターン、月面の拠点から月面の基地、そういった課題につきまして概念の検討とか、あるいは試験、あるいは技術開発等が進められているわけでございます。一方、輸送系につきましてはご存知の通りH-IIが完成いたしました。これが出来上がりますと、約2トンの物が月へ持って行けることになるわけです。ご存知の通り、昨年の2月に1号機、8月に2号機、今年の3月に3号機と打ち上げました。2号機につきましてはペイロードの「きく6号」が予定された円軌道に到達できなかったわけでございますが、これは、ロケット側というより衛星側のアポジモーターの問題だったわけでございます。ロケットのほうから見ますと、そういう意味で3機の試験機、すべて予定通りに軌道投入に成功したということで輸送系もほぼまとまりつつあるんじゃないかと思っております。ただ問題は、H-IIにつきましては値段が高いということで、半分以下の値段でできるよう、新たなプロジェクトをスタートしようと思っているところでございます。
そういう意味で私どもも、そろそろ本格的月探査の幕開けに必要な技術的基盤が整いつつあるのではないかと感じている次第であります。もちろん「きく6号」の失敗等もございましたから、やはり技術には謙虚でなければならないと、常にそういう気持ちを忘れずにやろうと思っておりますけれど、ほぼそういう時代になってきているのではないかというふうに思っている次第でございます。
同時に、本格的月探査の幕開けとなりますと、もう1つ、大事なことは「なぜ我々は月を目指すのか」「なぜ月をやるか」、そうした月の意義というものがあるわけでございます。これにつきまして、この場の皆さんとともに考えて確認するという作業がどうしても必要なのではないだろうかと思っています。もちろん、当然のことながら月の組成を知る、あるいは月の起源・進化を知る、いわゆる学術的研究の意義は当然あるわけでございまして、そういうことをやることによりまして科学の知見を得られる、あるいは技術の知識が得られるといった波及効果は当然あると思います。さらに最近では、ご存知の通り、よくいわれていますけれど「青少年の科学技術離れ」といわれておりまして、そういうものに対しても、こういったことをやることによりまして、人間の知的好奇心を刺激することによって「青少年の科学技術離れ」を防止するという1つの大きな役に立つのではないだろうかと考えているわけでございますけれど、もう1つ、やはりいちばん大きな点は人類共通に抱えている問題だと思います。つまり人口問題。人口の増殖に端を発するわけでございますけれど、有限な地球、つまり資源問題、エネルギー問題、あるいは環境問題等々、いろいろな問題が出てきているわけでございまして、そういう問題について、われわれは有限の地球の中で賢く生きるのか、あるいは我々の活動領域を月・惑星にまで広げることによって、人間がこれからも永続的に繁栄するのかといった問題。大きな選択だと思いますけれど、そういった問題をわれわれ抱えているわけであります。私としては当然、後者の考えでございますけれど、これにつきましては多くの方々のコンセンサスが必要だということは論を待たないわけでございます。同時にわれわれ、宇宙をやっている人間にとりましては、こういった問題について技術的に可能性があるのかどうか、技術的フィデリティ、さらにできれば経済的・社会的フィディリティもまた提案する、示す義務があるのではないだろうか、そんなふうに思っているわけでございます。
そういった全人類問題でありますから、国際協力は当然となるわけでございます。国際協力といいましても、単に外国からいわれた協力に参加するというだけではなく、やはり日本が自ら主体的な構想を示して協力するということが望まれるわけでございまして、やはりオールジャパン、私どもは宇宙科学研究所と協力をしているわけでございますけれど、宇宙科学研究所、私ども、さらにその他も含めまして、いろんな方々の日本全体としての協力構想、協力体制を作り上げることも大事かと思っております。
こういった問題が多々あるわけでございまして、本日はプロジェクトだけではなくて、そういった問題につきましても、この場で皆さんにご意見をたまわればというふうに考えている次第でございます。また本日は、アメリカのスペース・デベロップメント・コーポレーションのマッカラン博士においでいただいております。マッカラン博士はご承知の通り、後ほど秋葉先生のほうからご紹介があると思いますけれど、これから人類が月でいろんな活動を展開するにあたりましての大事な知識、そういうものをいろいろ教えていただけるのではないかと期待しているわけでございます。
以上、本日のシンポジウムはいろいろと盛沢山なことを計画しておりますけれど、今日1日、「ふたたび月へ」第2回シンポジウムにおきまして、「月への思い」を皆さんに新たにしていただきまして、今日1日、ゆっくり「月への意義」というものを考えていただく、そういう場にしていただくことを期待いたしまして、主催者の挨拶に替えたいといます。どうもありがとうございました。
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