ふたご座流星群による月面衝突閃光が捉えられる (2007年12月27日19:00)
12月14〜15日にかけて、ふたご座流星群の流星体によるものとみられる月面衝突閃光(月面に流星群の小物体が衝突した際に生じた閃光現象)が捉えられました。これまで、しし座流星群、ペルセウス座流星群に関しては閃光の存在が確かめられていましたが、ふたご座流星群でははじめての確認となります。
今回の観測は、電気通信大学の柳澤正久教授が呼びかけ人となって、日本のアマチュア天文家などによる広範囲の観測ネットワークによって確認されました。4例の発光が確認され、そのうち3例は別の地点からの観測でも同じ位置にあることが確認されたことから、間違いなく月面における閃光であることがわかりました。
また、神戸大学の阿部新助助教は、兵庫県立西はりま天文台で観測を行い、世界ではじめてカラーにより閃光を観測しました。
これらの閃光は月面のグリマルディ・クレーターの周辺で発生したことがわかっています。今回の閃光は明るいものが多いことから、かなり大きな小物体が衝突したことが考えられます。
月面にクレーターができた瞬間を捉える (2006年6月15日22:00)
クレーターというのは、「月面(月・惑星の地表面)にいん石などが衝突してできるもの」というのは、惑星科学を少しでも学習した人にとっては常識です。では、その現場を見たことがあるか? といわれると、そういう幸運(?)な人は相当珍しいと思われます。
最近、ちょうどクレーターができるところ、つまり月面での衝突現象を、運良く望遠鏡が捉えることができました。NASAの天文学者が、2006年5月2日、月面で何かが衝突して発光するという現象を捉えたのです。推定されるクレーターの大きさは、直径14メートル、深さ3メートルという小さなものですが、紛れもないクレーターです。
衝突した場所は、月の「雲の海」と呼ばれる領域で、衝突により発せられたエネルギーは170億ジュール(TNT火薬4トン相当)にも及ぶ大きいものでした。「衝突により巨大な火の玉が発生し、われわれはそれを口径10インチの天体望遠鏡を使って、ビデオカメラに収めることができた。」(アラバマ州ハンツビルにある、NASAいん石環境オフィスのビル・クック (Bill Cooke)氏)
下のアニメーションでは、右下の方に一瞬明るく光る衝突による火の玉がみえています(video-recorded by MSFC engineers Heather McNamara and Danielle Moser / Photo by NASA)。
このビデオは7倍のスローモーションで再生したものです。肉眼で見ることはちょっと難しいのです。「火の玉が光っていたのはわずか0.4秒の間だった。私たちのチームの学生メンバーである、ビラノバ大学のニック・ホロン(Nick Hollon)氏が、この光を見つけたのだ。」(クック氏)。
閃光の時間間隔とその明るさ(等級にして7等級)を考慮に入れた上で、クック氏はこの衝突によるエネルギー、クレーターの大きさ、そしていん石の大きさと衝突速度を算出することができました。いん石の大きさは25センチメートルほどで、衝突速度は秒速38キロメートルであったと見積もられています。
もし同じいん石が地球に衝突したとしても、まず地表には届かなかったでしょう。「地球の大気層がわれわれを守ってくれている。このくらいの大きさのいん石だったら大気中でばらばらになって、空中で大きな火球を作るだろうが、クレーターを作るまでには至らない。」(クック氏)。しかし、月面には空気がありませんので、いん石がそのまま突っ込んできます。小さいいん石であっても大きな衝突を起こし、破片を遠くまで撒き散らすことになります。
2004年にNASAが発表した新宇宙政策によると、NASAは宇宙飛行士を月に送り込むことになっています。彼らに、こういったいん石がぶつかるという危険はないのでしょうか?
「それこそがわれわれの知りたいことなのだ」とクック氏は述べています。「どれくらいのいん石が毎日月面に落ちているかは誰も知らない問題だ。閃光をずっとモニターすることによって、どれくらい頻繁に、そしてどれくらい大きな衝突が起きているかを知ることができるのだ。」(クック氏)
いまのところ、この課題は研究途上といえます。マーシャル宇宙センターのロブ・サッグス (Rob Suggs)とウェズリー・スイフト (Wesley Swift)両氏が開発した、コンピュータ制御の望遠鏡により、クック氏のグループは夜側の月面をずっと監視し続けています。それによれば「月の欠け方が15%〜50%のとき、衝突は一月(ひとつき)に10回ほど」とのことです。
2人が昨年11月7日、望遠鏡をテストしていたところ、はじめて閃光を観測することができました。エンケ彗星のかけらが雨の海 (Mare Imbrium) を直撃した様子を捉えました。このときは直径3メートルくらいのクレーターができたと推定されています。
5月2日の衝突は、定常監視が始まってから2つめの衝突で、たった20時間の監視の中で起きた衝突ということになります。今回の場合、いん石は何らかの彗星や小惑星に関係したわけではなく、「散発的な」衝突とみられています。
「(観測の)いい始まりになった」とクック氏。しかし、まだやるべき仕事はたくさん残っています。彼自身は通年観測ができるようにしたいと思っており、特に月が著名な流星群の中を通り抜けるときの観測に期待しています。「この観測によって、(月面への衝突に関する)よい統計的な基礎ができるだろう。」
流星雨の時期に月面を歩き回ることは危険なのか? いん石から守るために、月面の建物にはどのくらいの厚さの壁が必要なのか? 月には、地球で走られていない、独自の流星雨があるのか?…その答えは、閃光に期待することにしましょう。