疑惑

アポロの宇宙飛行士が撮影した写真には、星が全然写っていない。空気がないなら、空は真っ暗なはず。じゃ、星はどこにあるの?


真実

星はあったのです。でも、星の光は弱すぎて見えなかったのです。

この、星が全然写っていないという事実は、アポロの月着陸が嘘だという人が、第一の証拠として挙げてくることです。科学の立場から考えると恥ずかしくなるくらいあさはかな主張なのですが、でも、それなりに常識に訴える魅力のあるもののようです。というのは、地球上で空が真っ暗ならば、私たちは星を見ることができます。そこで、月でも同じように、空が真っ暗ならば星が見えるのだろうと思い込みがちになります。

しかし、実際にはそうではありません。まず、月を取り巻く環境は地球のそれとは極端に違います。そのため、地球上で通用する私たちの常識は、月面上ではうまく通用しないのです。後々にも頻繁に言われることですが、「月の常識」は「地球の常識」とは違うということを、しっかりと認識しておきましょう。

「月の常識」の第一としては、月の表面には空気がないことです。地球上では、ぶ厚い大気が太陽光を散乱させ、空全体に拡散させています。それで、地球では、昼間の空は明るいのです。太陽光がなければ、空は真っ暗になり、(つまり、夜に)星が見えるようになるわけです。しかし、月には大気が存在しないので、月の「空」は太陽の光を拡散できず、常に真っ暗に見えます。例え太陽が空高く昇っていたとしても、月から見える空は、真っ暗に見えます。ですから、月からは、日中でも星を見ることができるはずです。

ではなぜ、アポロの写真には星が写っていなかったのか。それにお答えする為に、仮にあなたが宇宙飛行士となって月面を訪れていると想定します。そして、あなたは仲間の宇宙飛行士の写真を撮ろうと試みていると想定してください。全てのアポロの月着陸は、月時間でいう朝に行なわれたので、太陽は常に地平線のちょっと上あたりで輝いているはずです。そのような条件で、あなたはカメラをどのようにセットするでしょうか?考慮にいれるべきは、太陽に照らされた明るい月面の風景、そして、あなたの仲間が着ている白い宇宙服も、やはり太陽の光で滅茶苦茶明るく見えるという点です。つまり、明るい被写体を明るい背景の中で上手く露出オーバーせずに撮影するには、露出時間を短くしなければなりません。また、光量を絞る必要もあるでしょう。これはちょうど、陽の光がさんさんと降り注いでいる日にあなたが外を歩いている時、あなたの瞳孔が縮まって、眼の中にあまり光がはいらないようにするのと一緒です。

要は、仮定された条件下で撮影された月面写真は、常に明るい被写体を撮影するようにセットされているわけです。しかし、暗い空に見える星々のみかけの明るさは、非常にかすかなものです。露出時間が短かい場合、もしくは、光量を絞りによって落している場合、星の像がフィルム上に焼付けられるだけの十分な時間がないことになります。つまり、月の空が常に暗いとか、月には空気がないとかいうような事は、なぜ月面写真に星が写っていないのかという理由に起因しているわけではまったくなしで、もっと単純にいってしまうと、ただ写真の露出時間が短すぎたというのが、月の空の写真に星が写っていないことの理由なのです。現に、もしあなたが (地球上で)真っ暗な夜に外へ出掛けて、宇宙飛行士が撮ったときと全くおなじような設定で写真撮影をしたとすれば、あなたの写真には、やはり星は夜空に写っていないでしょう。

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「月の雑学 第3話」は、いくつかのページを除き、Phil Plait氏によるサイト"Bad Astronomy"内にある、"Fox TV and the Apollo Moon Hoax"の内容をもとにしています。 「月の雑学 第3話」を作るにあたり、翻訳及び内容の使用を快諾していただいたPhil Plait氏、及びサイトの内容をご紹介いただいた、MITの石橋和紀さんに感謝いたします。
 なお、「月の雑学 第3話」の内容につきましては、Phil Plait氏は責任を持ちません。記述内容についてはあくまで、月探査情報ステーション主催者が責任を負うものとします。

 


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