メッセンジャー 探査の概要
地球を離れるメッセンジャー探査機(想像図) (写真: NASA, JHU/APL, CIW)
■謎の多い惑星、水星
水星は、太陽にいちばん近い惑星です。惑星としては冥王星に次いで小さい天体ですが、この惑星には我々人類の探査はまだ十分には届いていません。これまでに探査機が訪れたのは、約30年ほど前に行われたマリナー10号の探査だけでした。この探査では、水星表面の約60パーセントほどしか写真に収めることができませんでした。人類は水星表面の4割を、まだみたことがなかったのです。
水星表面がどのような物質からできているのかもよく分かっていません。さらに、水星には磁場があることがわかっており、そのことから内部には巨大な金属のコアがあると推定されていますが、それがどのくらいの大きさなのか、またどのようにしてできてきたのかもわかっていないのです。
水星のでき方や成り立ちを知ることは、太陽系のでき方を知るためにも非常に重要なことです。しかし、探査対象として水星は非常に難しいものでした。メッセンジャーは、この謎の多い惑星の環境の解明に挑む探査計画です。
なお、メッセンジャー(MESSENGER)は、"Mercury Surface, Space Environment, Geochemistry and Ranging" (水星地表・宇宙環境・地球化学及び距離測定)の略です。
■各種探査機器を装備、謎の惑星に挑む
メッセンジャーには、水星の様々な謎を解明するため、各種の探査機器を備えています。
広角と狭角の2種類のカメラを搭載し、水星の地表を撮影します。ガンマ線やエックス線スペクトロメータにより、地表に存在する元素の割合や種類を測定します。そして、水星の磁場を調べるための磁力計も装備します。
この他にも、地形の起伏を測るためのレーザ高度計や、水星周辺のプラズマ環境を調べるプラズマスペクトロメータなど、小さい探査機にもかかわらず各種の装備を搭載しています。
■NASAのディスカバリー計画の一環の探査
メッセンジャーは、NASAの太陽系探査プログラムである「ディスカバリー計画」の1つとして計画されました。このディスカバリー計画は、なるべく安上がりに、早く科学的な探査を行うことを目的として、各大学や研究所などから出された計画を検討し、適切なものを採用する、というプログラムです。
そのため、メッセンジャーを実際に作っているのは、主にジョン・ホプキンス大学(JHU)の応用物理学研究所(APL)とカーネギー研究所(CIW)になります。
■水星への長い旅
水星は一見、地球からも近そうにみえます。しかし水星への旅は技術的に非常に難しい問題を伴います。
まず、強烈な熱です。太陽に近いために、探査機は猛烈な熱を受けることになります。それを克服するために、メッセンジャーには太陽光を遮蔽するシールド(板)を装備する他、様々な工夫を行っています。
また、太陽に近いところを回っているため、公転する速度が速く、それに追いつくためには探査機の速度が速くなければなりません。水星の公転速度に追いつくためには、地球でのロケットの打ち上げによる力だけではどうしても足りません。
そのため、メッセンジャーは「スイングバイ」という技術を使って、金星や水星、地球の重力を利用して加速します。
2005年8月には地球、2006年10月と2007年6月には金星の重力を利用してスイングバイを行いました。そして2008年1月と10月には、水星のそばを通り過ぎ(フライバイ)、スイングバイを行いました。こうして十分に加速したあと、2011年3月に水星の回りを周る軌道に入り、本格的な探査が開始されました。
水星を回りながら観測を行うのは、当初は約1年間の予定でしたが、探査機の状態が良好だったため、探査は延長され、約4年間にわたって水星のまわりを回りながら探査を続けました。しかし、燃料が尽きるなど、探査機の寿命が近づいたため、NASAはメッセンジャー探査を終わらせることとし、2015年4月30日(アメリカ東部夏時間。日本時間では5月1日)に、探査機は水星表面に制御衝突して探査を終了しました。
今後、これまでに得られた膨大なデータの解析が科学者によって行われ、水星に関する新たな謎の発見は今後も続いていくと思われます。また、2016年打ち上げ予定の、日本とヨーロッパ合同の水星探査、べ日・コロンボにも、水星探査の使命は引き継がれることになるでしょう。
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