ディープインパクト トピックス
記事の日付に「発表」とあるものは、その日に発出されたプレスリリースという意味です。
2005年7月11日 17:00更新
彗星表面は細かい粉でできている? (2005年7月11日17:00)
ディープインパクト探査機から送られてきたデータの初期段階の解析が進んでいます。データからみる限り、弾丸が水星と衝突した直後に放出された物質は、大量の細かい粉のような物質であるということが分かってきました。このことから、水星は粉のような物質で覆われているということが推定されます。探査機の科学グループは、衝突によってえられた何GBというデータの処理に追われています。また、彗星の大きさは、幅5キロ、長さ11キロであることもわかりました。
今回の計画の主任研究者であるマイケル・アハーン氏はこう述べています。「非常に驚いたのは、弾丸が衝突してできた噴煙が不透明で、しかも明るく光を放っていたということだ。これから考えるに、彗星から放出されたちりは非常に細かいもので、例えばタルカムパウダーのようなものだ。海岸の砂よりも細かい。そして、水星の表面は、大抵の人が考えるような、氷の塊ではないということだ。」
さて問題は、このような雪、あるいはたるかむパウダーのような細かい物質が、猛スピードで私たちの太陽系の中をどのように公転しているのか、ということです。
これについて、惑星空間内の衝突の大家であるブラウン大学のピート・シュルツ博士はこうこう耐えています。「これは、その周囲の環境との絡みで考えなければならない。町ぐらいの大きさの物体が、真空の中を飛んでいるのだ。環境が乱されるのは、太陽に近づいて太陽光にあぶられるか、誰かさんが370キロの物体を秒速10キロでぶつけたりしたときだけだ。」
データ解析では、4500枚にものぼる衝突時の写真を1枚1枚見逃さず、作業を続けています。
「私たちは、弾丸の最後の瞬間から、数時間後に撮影された彗星を振り返って撮影された写真まで、その間に撮影されたもの全てを調べている。弾丸の最後の瞬間は注目すべきものだ。直径4メートルの物体が、このように細かい彗星の表面の詳細な部分まで明らかにしてくれている。これまでの彗星探査に比べて、10倍もすばらしいものだ。」(アハーン博士)
弾丸の最後の瞬間は非常に重要です。なぜなら、その後の科学的な発見全てに影響を与えるからです。彗星のどこに、どのような角度で衝突したかを知ることは、そのための最良の出発点になります。技術者たちは、衝突の前に、彗星のコマ(周囲にある物質)の粒子が2つ、想定外の衝突をしたことを確認しています。また、衝突によって、探査機のカメラが回転してしまい、その後姿勢制御システムが元に戻したこともわかりました。弾丸は角度約25度で斜めに衝突したようです。
衝突によって噴出した物質は急速に宇宙空間に広がりました。その速度は秒速5キロメートルにも達しました。科学者たちは、衝突でできたクレーターについて、その正確なサイズを解析しているところです。科学者によれば、もともとの予想の大きい方、つまり、さしわたし50〜250メータくらいだろうということです。
一方で、その衝突の模様を至近距離から撮影した探査機にも期待が集まっています。探査機は現在彗星から3500万キロほど離れており、時速37000キロメートルで遠ざかっています。探査機は現在全体チェックを行っていますが、機器の状態はほぼ正常とみられています。
「すばる望遠鏡」が捉えた彗星の変化 (2005年7月6日17:00)
日本が誇るすばる望遠鏡でも、彗星の変化が捉えられました。
検出装置は、COMICSと呼ばれる冷却中間赤外線分光撮像装置で、色は疑似カラーです。左が衝突前、右が衝突後です。
衝突後の画像では、彗星から何らかの物質が勢いよく放出されている様子が分かります。また、明るさもやや明るくなっているようです。
ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた彗星の劇的な変化 (2005年7月6日15:30)
左の図は、ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた、衝突の前と後でのテンペル1彗星の劇的な変化です。
いちばん左側の淡い点は、衝突の数分前に撮影された映像です。真ん中のやや明るくなった光点は、衝突後15分の自転で撮影されたものです。最初の数分前の点に比べると4倍ほど明るくなっています。天文学者たちの観測によると、彗星の核のまわりにある雲のようなちりやガスの層が、200キロメートル以上も大きくなったということです。
衝突によってまばゆい閃光が起こり、内部のガスとちりがだんだんと明るくなってきました。その様子もハッブル宇宙望遠鏡は観測しています。いちばん右側の写真は、衝突から約62分後に撮影されたものですが、衝突によって噴出したガスやちりが扇状に広がって外へと向かっている様子がはっきりとわかります。
この扇状のちりやガスは、時速1800キロメートルほどのスピードで広がっています。衝突から大体1時間後ということもあって、この扇は1800キロメートルほど広がっているということになります。
彗星探査機ロゼッタが捉えた衝突 (2005年7月6日15:00)
ESAが打ち上げた彗星探査機ロゼッタに搭載されている、侠客カメラOSIRISが捉えた衝突の映像が届きました。左の絵は静止画ですが、 こちらをクリックするとアニメーションとなった動画をみることができます。
アニメーションは、衝突の前後にかけて、約5分おきに撮影した映像になります。色は疑似的につけたもので、本物の色ではありません。
このアニメーションでは、衝突に伴って明るさが急激に大きくなる様子はそれほどはっきりとみえませんが、詳細に解析することによって、明るさが大きくなっていることが明らかになっています。
X線望遠鏡が捉えた衝突の瞬間 (2005年7月6日14:00)
ヨーロッパの宇宙X線望遠鏡、XMM-Newtonも、衝突の映像を撮影しました。動画になっていますので、 ここをクリックするとみることができます。
撮影は、衝突の2分前から、衝突7分後まで行われています。衝突の直後から、彗星が急に明るくなっている様子が分かります。
撮影自体は光学モニターに青フィルターをかけて行われました。他の光学モニターのデータも、この後地上に送信される予定です。また、他の測定装置のデータにより、衝突のより詳細な様子が解明できると期待されます。
ヨーロッパではじめて捉えられたディープインパクトの閃光 (2005年7月6日12:30)
ヨーロッパからの最初の衝突の映像は、ハワイのマウイ島にあるフォーク望遠鏡(北)で捉えたものでした。
写真をみますと、彗星から放出された物質がぼうっと写っているのがみえます。
フォーク望遠鏡は、より高性能な望遠鏡を作るための研究プロジェクトで設置されており、このハワイと、もう1ヶ所はオーストラリアのサイディングスプリングスに設置されています。高さ8メートル、主鏡の直径は2メートルで、視野は30分角になります。
衝突の詳細が少しずつ明らかに (2005年7月5日18:40)
猛スピードで激突したディープインパクトの弾丸は、これまた猛烈な光を放ちました。この強烈な光は、探査機そのものが搭載していた2つのカメラにとって十分な光となりました。
今回の衝突について、惑星空間での衝突現象の専門家であるブラウン大学のピート・シュルツ (Pete Schultz)教授はこうコメントしています。「秒速10キロで2つのものがぶつかったら、大きな閃光が出ることは避けられない。この衝突で発生した熱は少なくとも数千度にまで達し、どんなものでも赤熱するくらいの温度に達している。本質的に、私たちは白熱したフラッシュ光を1秒以内の間に作り出してしまったのだ。」
この強力な閃光は、ディープインパクトのチームにとっても驚きでした。そして、その光に照らされて映し出された写真から、彗星の驚くべき様子が少しずつ分かってきました。
計画責任者であるリック・グラミエール氏は、「写真は雄弁だというが、もし私たちが7月4日の朝に撮影したものを少しでもみれば、百科事典を丸ごと書けるくらいだと思う。」
7月4日に開かれた記者会見の席では、弾丸から撮影された最後の瞬間の映像が公開されました。弾丸から送られてきた映像は、衝突の3秒前で停止していました。
マイケル・アハーン博士の分析によると、最後に撮影された映像は、彗星の表面から30キロ上空で撮影されたものであろうということです。「この距離からだと、彗星表面のさしわたし4メートルの物体を識別することが可能だ。私がこの計画に加わったとき、私は彗星をクローズアップでみたいと思っていた。とんでもないって? ど派手にね。」
ディープインパクト計画に加わっている科学者は、単に写真をみているだけではありません。この計画の飛行制御チームは、弾丸の最後の数時間の飛行コースを解析しています。弾丸の最初のロケット噴射からリアルタイムで飛行コースをモニターしていましたが、それによると、弾丸は当初の軌道からそれて飛んでいったようです。
航法チームのシャアム・バスカラン (Shyam Bhaskaran)氏によれば、「弾丸の飛行プログラムによって、最初の軌道修正の際に弾丸は約7キロ本来の軌道からずれてしまった。これは想定の範囲内であったが、私たちが期待していたものとはあまりいえなかった。その後、2回め、3回目の軌道修正によって、正しい軌道に戻った」とのことです。
ディープインパクト、ついに標的へ (2005年7月5日17:10)
172日、4億3000万キロの旅の後に、ディープインパクトはついに標的のテンペル1彗星への衝突に成功しました。衝突は、日本時間で7月4日午後2時52分頃に起きました。
「この計画への挑戦とチームワークが計画を成功に導いた。みんな、誇りに思ってよいと思う。」と、計画責任者のリック・グラミエール氏は喜びを語っています。「今回の計画は本当に『大当たり』だ。明日からさらに数日たてば、私たちは太陽系の起源についてより多くを知ることになるだろう。」と話すのは、NASAの太陽系部門長のアンディ・ダンツラー (Andy Dantzler)氏です。
実際に衝突が確認されたのは、衝突した時刻の5分後、アメリカ東部時間で午前1時57分のことです。探査機の中解像度カメラが捉えた映像が、科学チームのコンピュータのスクリーンに映し出された瞬間、それが衝突の紛れもない証拠となりました。
この計画の主任科学者であるマイケル・アハーン博士はこう語ります。「映像は間違いなく壮観な衝突を示していた。たくさんのデータに囲まれて、私たちは長い夜を過ごすことになるが、これは私たちが待ち望んでいたことだ。あまりに沢山のことがあり過ぎてどこから手をつけていいかわからないくらいだ。」
弾丸は目標に向かって非常に「きれいに」飛んでいったようです。本計画の航法担当者であるJPLのシャアム・バスカラン (Shyam Bhaskaran)氏によると、予備的な解析では、弾丸は衝突の90分前、35分前、12分半前に軌道制御を行った模様です。
衝突の瞬間、弾丸は秒速10キロの衝突速度が持つエネルギーで一瞬にして蒸気と化したようです。その瞬間を、探査機は脇をフライバイしながら観測していました。その後14分間にわたって、探査機は彗星のデータを集めつづけた後、探査機は「シールドモード」と呼ばれるモードに入りました。これは一種の防御姿勢を取るモードで、彗星の核のまわりにあるコマの内部を通過する際、核やコマから噴出してくるちりなどから探査機を守るためのモードになります。このシールドモードが終了したのは午前2時32分(アメリカ東部時間)で、再び探査機と地上との通信が回復しました。「彗星への最接近とシールドモードは、この最高の1日に設けられた限界である。間もなく、この最接近時のデータをすべて地上へと送信し、まとめて科学チームに引き渡すことになる。」(リック・グラミエール氏)
計画の最大の山場を乗り越え、見事に「衝突」を果たしたチームにも、ちょっとした安堵感が漂っているような感じです。
弾丸、彗星に命中 (2005年7月4日18:00)
左の画像は、ディープインパクト探査機から放出された弾丸が衝突して明るく輝く、テンペル1彗星です(NASA TVより)。この画像でみる限り、衝突は成功したと考えてよさそうです。
Photo: NASA
弾丸の切り離しに成功 (2005年7月4日16:00)
ディープインパクト探査機は、7月3日午前2時7分(アメリカ東部時間。日本時間では、7月3日午後3時7分)に、弾丸の切り離しに成功しました。切り離し時点での弾丸の位置は、彗星から約88万キロで、衝突は7月4日午前1時52分(アメリカ東部時間。日本時間では、7月3日午後2時52分)に起こる予定です。
切り離しの6時間前、探査機は第4回目の軌道変更を無事終了しました。その直後から、弾丸に関わる技術者たちは、最後の準備段階に入りました。この準備段階の最後は、弾丸に搭載されている電池をONにすることです。実際、弾丸は太陽電池を積んでいません。どのみち弾丸が働く時間は短いので、電力は電池で十分なのです。
弾丸を探査機から切り離すためには、分離用の火薬が使われます。意外に思われるかも知れませんが、宇宙でのいろいろな物体の切り離しには、火薬がもっとも信頼できる手段なのです。この切り離しにより、2つの探査機は秒速35センチメートルずつ離れていくことになります。
そして、切り離してからすぐ行わなければいけないのが、探査機の減速です。そのままの軌道をとると探査機もぶつかってしまいますので、探査機搭載のスラスタを噴射して軌道を変更します。
ディープインパクトの技術者たちは、弾丸のSバンドアンテナが探査機と正常に通信できることを確認しています。弾丸から送られてくる映像は、全てこの電波を通して、探査機を中継してから送られてきます。
彗星は非常に活発的なようで、7月2日午前1時34分(アメリカ太平洋時間。日本時間では同日午後5時34分)にもまた爆発現象(アウトバースト)が確認されました。ここ3週間で4度目となります。このうち3回の爆発は彗星の太陽光が当たっている同じ面で起きていますが、必ずしも太陽が当たっているときに常に爆発が起きているわけではないというところが奇妙です。
さて、あとは何が起こるのか、期待して待っていましょう。
7月4日の「花火」に備える (2005年7月4日16:30)
ディープインパクト探査機は、最後のチェックを終了して、テンペル1彗星に向かって飛行を続けています。
「彗星との衝突が近づいている。この計画の大きな山場にさしかかった。これまで何年もかけて行ってきた探査機のデザインやトレーニング、シミュレーションを経て、私たちは欲しいものを得られるところまできた。飛行チーム、科学チーム共に計画のために働いており、衝突に向けてGOを出せる状態になっている。」と、計画責任者のリック・グラミエール氏は語っています。
見守る人の多くが気がつかないことですが、計画はいくつかの山場を超えてきています。6月23日には、探査機は3度目の軌道変更を行い、探査機のスピードを時速20キロほど変えています。
計画担当者は、このディープインパクト計画を6つの段階に分けています。打ち上げ、機器作動、飛行、彗星接近、衝突、そしてデータ再生の6段階です。このうち、もっとも山場となる「衝突」段階は約5日間で、彗星への最後のアプローチ、そして地球へのデータ送信などが含まれています。
「弾丸の発射に向けて、放出前チェックは完了した。弾丸は発射から衝突まで24時間しか作動しないが、非常に重要な役目を負っている。」と、計画責任者のデーブ・スペンサー(Dave Spencer)氏は語っています。
弾丸は自律操縦装置を備えており、衝突までに彗星の方向へ向けて自動で飛んでいくことになっています。衝突によって、彗星内部の新鮮な物質が放出されることを、科学者は期待しています。
「これがディープインパクトの真骨頂なのだ。私たちが知りたいのは、彗星の中に何があるかだ。」(マイケル・アハーン博士)
地上、宇宙の数多くの望遠鏡が見守る中で、間もなく、宇宙で壮大な「花火」が上がろうとしています。
探査機が彗星の核の「爆発」を観測 (2005年6月29日18:00)
ディープインパクト探査機が、目的地のテンペル1彗星からの、短時間で活動的な爆発現象(outburst=アウトバースト)を観測しました。この爆発現象により、彗星の核の周囲にある「コマ」と呼ばれる部分の明るさと大きさが一時的に大きくなりました。
爆発現象が観測されたのは6月22日のことです。この日、彗星の明るさが異常に強くなりましたが、2週間の間で、観測されたのはこれが2回目のことでした。これより小さい爆発現象は、探査機をはじめ、ハッブル宇宙望遠鏡、及び地上観測でも確認されました。6月14日のことです。
この14日の爆発現象に比べ、22日の爆発現象は6倍も大きなものでしたが、それによって放出された物質は、半日ほどで消散してしまいました。探査機に搭載されたスペクトロメータのデータによると、彗星のコマに含まれる水の量が、22日の爆発現象の最中には2倍になり、さらに二酸化炭素などの他のガス成分の量はそれ以上に増大しました。
ディープインパクト計画の主任研究者のマイケル・アハーン博士は、こうコメントしています。「このような爆発現象自体は、多くの彗星でみられる現象で決して珍しいものではない。しかし望遠鏡でこのような現象を観測できるような十分な時間がないため、詳細にわたる観測は難しかった。既に探査機の観測機器が彗星を十分に捉えられるにもかかわらず、もし今回観測し損なったら非常に残念なことだったであろう。」
ディープインパクト計画の共同研究者であるジェシカ・サンシャイン (Jessica Sunshine)氏も、この爆発現象がよくあることであるという見方をしています。「(爆発現象は)太陽に近づきつつある彗星が暖められてよく起こす現象であると考えなければならない。」実際、テンペル1彗星は既に近日点(軌道の中でもっとも太陽に近いところ)の近くにいます。
ESAの彗星探査機ロゼッタも観測 (2005年6月20日発表)
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げた水星探査機「ロゼッタ」も、ディープインパクトによる衝突現象の観測網に加わることになりました。
ロゼッタに搭載されている高感度の観測機器で、衝突前後のテンペル1彗星の変化を観測することになります。彗星からは8000万キロも離れた地点からの観測になります。
衛星の位置は、彗星に対してたいようと直角の位置になります。この位置は、ロゼッタが搭載しているマイクロ波スペクトロメータや、可視光・赤外線スペクトロメータにとって好ましい位置でもあります。可視光・赤外線スペクトロメータは彗星から放出される熱を観測することで、放出されたちりの成分についての情報を得ます。
さらに、ロゼッタには紫外線観測装置が搭載されていますが、これは衝突によって放出されたガスの成分を調べるのに最適な装置です。また、オシリス(OSIRIS)という撮像システムは、地上観測のデータなどと組み合わせることで、立体的にちりなどのようすをモニターすることができるようになっています。
ロゼッタは、衝突の前からテンペル1彗星を観測し続けます。観測開始は6月29日で、最初の段階では彗星の全体像やコマ(彗星の核の周囲部分)の観測になります。
衝突についての本格的な観測は、衝突前15分から開始します。衝突後1時間半まで短い周期での観測を行い、その後はゆっくりとした観測周期に移行します。
こうして、ロゼッタは世界規模の観測網に宇宙から加わって、この壮大な実験を見守ることになります。
衝突のタイムラインが明らかに (2005年6月9日発表)
彗星に弾丸がぶつかる…とはいっても、それはどのように起こるのでしょうか? このほど、NASAから、弾丸の衝突についての詳細なスケジュールが明かされました。
打ち上げから173日後、4億3000万キロの旅を経て、7月3日、いよいよ探査機は彗星に近づきます。
この日の朝、彗星に向けて、幅1メートルの弾丸が放たれます。ここから22時間かけて、弾丸は彗星に近づき、そして衝突することになります。彗星との衝突は地球から1億3300万キロ離れた地点で起こり、衝突の瞬間には探査機そのものは彗星から約500キロ離れたところを飛んでいることになります。
彗星の速度は時速37100キロメートル(秒速約10.3キロメートル)という高速です。東京から大阪まで1分もかからずに飛んでしまうという凄まじいスピードです。衝突の2時間前から、弾丸は自動制御モードに入ります。自分自身で彗星をみつけ、搭載されているスラスタ(小型ロケット)で彗星へと突進していくわけです。
これがどれくらい難しいことなのか、JPLの計画責任者、リック・グラミエールに語ってもらいましょう。「スラスタを3回噴射して彗星に近づく。彗星を山の大きさとすれば弾丸はワイン樽くらいの大きさに過ぎない。この山が毎時37000キロで近づいてくるんだ。」
そして、7月4日の午前1時52分(アメリカ東部時間。日本時間では、同じ4日の14時52分)に彗星に衝突。生成されるクレーターの大きさは、いえくらいか、あるいはサッカー場くらいの大きさになるかも知れません。深さは2〜14階のビルくらいになるでしょう。クレーターからは氷やちりの破片が飛ばされ、周辺の物質を剥ぎ取ります。探査機は約13分間にわたって写真やスペクトルなどのデータを取ります。その後彗星からのちりなどに絶えて飛行しなければなりません。
「弾丸の最後の24時間で、彗星科学史上もっともすばらしいデータが得られる。衝突の後に得られるデータによっては、これまでの話ががらっと変わってしまうかもしれない。彗星の核については私たちは限られた知識しか持っていないし、いつでもそれを知りたいと思っている。」(計画主任研究者のマイケル・アハーン博士)
いよいよ衝突まで1ヶ月を切りました。計画責任者のリック・グラミエール博士は、「私たちは細い糸を針に通そうとしているようなものだ。大きな科学的な報酬を得られる旅の中で、私たちはこれまでに経験のない距離とスピードに挑むことになるのだ。」
NASAの宇宙望遠鏡も観測網に加わる (2005年6月2日発表)
壮大な宇宙の衝突に、宇宙からの目が加わることになりました。
NASAが現在宇宙に持っている2つの望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー望遠鏡が、この宇宙の壮大な衝突の観測に加わります。この2つの望遠鏡は、宇宙の眼として活躍し、既に2004年のはじめから、ターゲットとなるテンペル1彗星の大きさや形、反射率や自転周期などの観測を行ってきました。これらの観測データは、ディープインパクト探査機の観測や衝突への軌道修正などにも役立てられます。
ジョンホプキンス大学応用物理学研究所でテンペル1彗星をスピッツァー望遠鏡で観測するチームのリーダーであるカリー・リセ (Carey Lisse)博士は、「(観測によって)私たちのテンペル1彗星のモデルがほんの少し変わっただけで、弾丸の衝突やカメラの露出時間などの決定に重大な影響が加わるのだ。」と述べています。
地上からの従来の観測では、テンペル1彗星は暗く長方形に近い形をしており、幅が数キロメートルあると推定されてきました。スピッツァー望遠鏡による観測では、このくすんだ色の彗星はさしわたし14×4キロメートルくらいの大きさがあることがわかりました。おおざっぱな比較ですが、伊豆諸島の八丈島と同じくらいの大きさです。
「スピッツァー望遠鏡には、彗星の大きさを特定してもらうことが重要だった。私たちが近づいていったときに、彗星が本当にどんな姿をしているのかを知ることになるだろう。」とコメントしているのは、ディープインパクト計画の主任研究者のマイケル・アハーン博士です。
一方、弾丸が切り離されると、弾丸は彗星の太陽光が当たっている面へと向かっていきますが、正確に衝突させるためには、JPLの軌道計算者たちは、彗星の大きさと反射率を知っておく必要があります。地球の表面からは彗星の表面をみることができないので、スピッツァー望遠鏡の赤外線の「眼」に期待しているわけです。
可視光線で遠くから彗星の反射光だけみていると、小さな彗星であっても非常に強く輝くため、大きくみえるばかりか、中の様子はよくわかりません。赤外線で観測することで、彗星が発する熱を測定し、その大きさと反射率を決めることができるのです。サイズが分かれば、スピッツァーとハッブルのデータから反射率は計算することができます。計算の結果、反射率はわずか数%であることがわかりました。
カリー・リセ博士は、「反射率を知ることで、どのようにカメラをセットアップすればよいかがわかる。写真家のように、とる前にその物体のことを知っておくことが重要なのだ。」と述べています。
さまざまな望遠鏡の観測により、テンペル1彗星の自転周期も分かってきました。ほぼ2日で自転しているようです。この観測には、2つの宇宙望遠鏡に加え、ハワイのマウナケアにあるハワイ大学の望遠鏡も加わっています。
実際の衝突のときには、スピッツァー、ハッブルに加え、チャンドラ宇宙望遠鏡(X線)をはじめ、地上の少なくとも30の望遠鏡が観測を行う予定です。
ヨーロッパも衝突観測に協力 (2005年5月30日発表)
ディープインパクト計画の特徴は、探査機からだけでなく、他の探査機や宇宙望遠鏡、さらには地上の望遠鏡も加わった壮大な観測網によって、衝突現象を観測しようという計画があるということです。この観測網には、ヨーロッパも加わっています。
ESAの探査機のうち、彗星探査機のロゼッタ(Rosetta)と、宇宙望遠鏡のXMM-ニュートン(XMM-Newton)がまず観測に加わります。ハッブル宇宙望遠鏡などと共に、宇宙から衝突の様子を見守ります。
チリにある ヨーロッパ南方天文台(ESO: European Southern Observatory)の超大型望遠鏡(VLT: Very Large Telescope)
も観測に参加します。また、ESAが所有する、カナリア諸島テネリフェにある望遠鏡でも観測を行います。なお、左の写真は、ESOで捉えたテンペル1彗星です。
このうちロゼッタは、観測の「本命」とみなされています。観測位置がよいばかりでなく、衝突を詳細に捉えられる各種観測装置を搭載しているからです。
彗星は、よく「汚れた雪玉」といわれますが、これまでの探査や観測にもか関わらず、実際の姿が詳細に分かっているというわけではありません。今回のディープインパクト探査では、彗星内部の物質について新たな知識が得られることが期待されています。もっとも、よく分かっていないということは「衝突後どうなるか」ということもよく分かっていないということです。サッカー場くらいの大きなクレーターができるという人もいれば、弾丸は彗星に吸い込まれるように吸収されて最後にはばらばらになるという人もいます。
ディープインパクトの衝突に備えるため、天文学者の2つのチームが既にESOの望遠鏡を使って観測を行っています。衝突前の状況をモニターするために、月1回のペースで観測を行っています(望遠鏡は、ESOのNTT(New Technology Telescope)を使用)。ESOの望遠鏡は衝突後も観測を行うことにになっています。
小規模軌道修正を実行 (2005年5月13日発表)
ディープインパクト探査機は、2回目の小規模軌道修正を実施し、成功しました。
エンジンの噴射は5月4日に95秒間行われ、探査機のスピードを時速18.2キロメートルだけ変更しました。探査機の状態は順調で、「今回の軌道変更はまるで教科書通りだ。探査機はどんぴしゃりの位置に来ている。」と、ディープインパクト計画の計画責任者、リック・グラミエール氏は述べています。
軌道がぴったりでなければいけない理由は、その計画の大胆さにあります。ディープインパクト探査機は、7月4日、ニューヨークのマンハッタン島ほどの大きさもあるテンペル1彗星に、弾丸をぶつけることになります。また、探査機自身も、そこから500キロ離れたところでその衝突の模様を見守ります。正確な衝突のためには正確な軌道が必要というわけです。衝突の時間はアメリカ東部時間で7月4日の1時52分(日本時間では4日の14時52分)となります。
ディープインパクト計画の主任研究者であるマイケル・アハーン氏は、「この軌道変更で、私たちの仲間であるハッブル宇宙望遠鏡は衝突の砂かぶり席に座ることになった。チャンドラ宇宙望遠鏡や素ピッツァー宇宙望遠鏡、そしてたくさんの地上望遠鏡の観測によって、衝突の模様が明らかになるであろう。」
ディープインパクト探査機、目的地の彗星の写真を撮る (2005年4月30日21:30更新)
ディープインパクト探査機は、目的地であるテンペル1彗星に向けて飛行しています。あと69日で到着というところで、探査機から彗星の写真を撮影することに成功しました。
テンペル1彗星の写真は、これから10週間にわたって数多く撮られることになりますが、この写真により、ディープインパクトの運用担当者や技術者、科学者たちは、彗星との最接近に向けて、最終的な軌道を決めるために大いに役立つことになります。
ディープインパクト計画の主任研究者であるマイケル・アハーン博士は、「彗星の最初の画像を私たちの探査機から得られたのは非常にすばらしいことだ。5月からは毎日観測を行い、距離が近づくにつれて、テンペル1彗星の姿はより鮮明なものになるだろう。今はまだ数ピクセルを占めるに過ぎないが、7月4日の最接近に向けて、より良い彗星の像が撮影できるはずだ。」と述べています。
彗星の像は、4月25日、探査機に搭載された中解像度カメラにより撮影されました。彗星を捕らえるために、カメラは11等星までの観測を行いました。「文字通り、これから航法や科学目的で撮影する何千枚という写真の、第1枚目になった。」と、JPLのプログラム副部長のケユル・パテル (Keyur Patel)氏は述べています。「私たちの目標は、長さ1メートルの探査機をさしわたし6.5キロメートルの彗星に衝突させることだ。速度は秒速約10.2キロメートル。地球からは1336万キロ離れている。彗星をできるだけ早くみつけることで、彗星へのナビゲーションがより明確に行える。」
初期飛行段階を終了、定常飛行段階へ (2005年3月28日19:10)
ディープインパクト探査機は、初期飛行段階を過ぎて、定常飛行段階に移ってきています。
ディープインパクト探査機を担当している飛行計画者は、ディープインパクトの飛行を5段階に分けています。現在の定常飛行段階は、彗星に衝突する7月4日の60日前まで続きます。
1月12日(アメリカ東部現地時間)の打ち上げ後、探査機はすぐに初期飛行段階に入りました。この段階では、探査機の各システムの基本的な機能の確認を行いました。探査機の自律飛行システムが起動され、月と木星をターゲットにしてテストが行われました。
探査機のハイゲインアンテナ(彗星の衝突の画像を送信するアンテナ)も起動され、正常に操作が行われることが確認されました。また、軌道の変更も行われました。この軌道変更が非常に精度よく行われたので、当初予定されていた、3月31日の軌道変更はキャンセルとなりました。
もう1つの初期飛行段階での作業としては、高解像度カメラの中に溜まっている水分を蒸発させる「ベークアウト」(bake-out…温度を上げることによって中の水分を追い出す作業)があります。この水分は、探査機が打ち上げ場にあったとき、そして大気中を上昇していたときに吸着されたものです。
このベークアウトが完了してから、カメラの試験撮像が行われました。その結果、望遠鏡の焦点が完璧には合っていないということがわかりました。そのため、この焦点をより正確に合わせて、望遠鏡の能力を上げるための特別チームが編成されました。今後、何回かテストが行われて、装置の性能についてさらに情報が得られることになる予定です。
さて、ディープインパクト探査機は3種類の測定装置を搭載しています。カメラ、赤外線スペクトロメータからなる高解像度カメラ、及び中解像度カメラ。もう1つ、弾丸追尾センサーには副センサーが搭載されています。この副センサーと中解像度カメラは当初予定通りの機能を発揮していることが確かめられました。
これらのカメラは、探査機がテンペル1彗星の脇を時速3万7000キロで通過するときにも、彗星の様子を捉えることになります。
ディープインパクト探査機の主任研究者であるメリーランド大学のマイケル・アハーン (Michael A'Hearn) 博士は、「私たちは、各装置のデータを検査するまさに最初の段階にある。赤外線スペクトロメータは非常にすばらしい動作をしているようだが、高解像度カメラの解像度が今のままにとどまったとしても、これまでにない彗星の写真が得られることになるだろう。もちろん、最高の解像度が得られることを期待してはいるが。」
ディープインパクトの計画主任である、JPLのリック・グラミエール (Rick Grammier)氏は、「カメラの解像度の問題は7月4日の衝突には何の影響もない。科学者、技術者の誰もが、彗星との遭遇を心待ちにしている。」と語っています。
ディープインパクト探査機は、彗星の上空を通過する探査機と、彗星に衝突する弾丸の2つの部分からなっています。この弾丸が彗星に衝突して生じるクレーターは、幅は家からサッカー場くらいの大きさ、深さは2〜14階建ての建物に相当するものになると考えられています。この衝突によって、氷やちりが放出され、地下にある物質がわかると考えられます。
この衝突を捉えるのは、探査機の機上のカメラだけではありません。ハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡、チャンドラ宇宙望遠鏡、さらには地上の大型望遠鏡も、この衝突の模様を捉えることになっています。
また、彗星の内部の物質は、太陽系の初期からほとんど変質していないと考えられるので、太陽系のでき方に関する基礎的な問題に、答えを出すのではないかと期待されています。
ディープインパクト、月を写す (2005年3月28日17:40)
上の写真は、打ち上げから4日後の1月16日、ディープインパクト探査機に搭載されたカメラとスペクトロメータ、望遠鏡のテストのために撮影された月の写真です。月からの距離は約165万キロメートル、地球からは約127万キロメートル離れたところで撮影されました。
探査機の状態は正常 (2005年1月14日10:20)
昨日(日本時間)打ち上げられたディープインパクトは、探査機の状態も正常で、順調に飛行を続けています。
打ち上げ後、ロケットから切り離されてしばらくの間、探査機は「セーフモード」と呼ばれる状態に入っていました。探査機のいちばん基本的な部分を除いて全ての機器の電源がオフになったまま、地球からの指令を待っているという状態です。このモードに入ったまま、探査機は自動的に太陽電池パネルを展開し、宇宙空間での定常状態になりました。今はセーフモードを脱しています。
ディープインパクトの打ち上げ成功
(2005年1月13日9:30初回更新、同日16:50最新更新)
ディープインパクト探査機は、1月12日午後1時47分(アメリカ東部時間。日本時間では、1月13日午前3時47分)、アメリカ・フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から、デルタIIロケットにより打ち上げに成功しました。いよいよ、目的の「テンペル第1彗星」に向けた4億3000万キロの旅が始まります。
探査機からの情報では、既に太陽電池パネルも太陽の方を向いており、電力状態は正常で、地球からの次の指令を待っているところのようです。
ディープインパクトの特徴は、探査機本体から発射される弾丸です。弾丸は彗星に衝突し、サッカー場くらいの広さ(そして2〜14階建のビルくらいの深さ)のクレーターを作るとみられています。そのとき、クレーターから氷やちりなどが放出される様子は、探査機本体からだけではなく、ハッブル宇宙望遠鏡、チャンドラ宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡、そして地上の多数の望遠鏡で観測されることになっています。
彗星が衝突する7月4日はアメリカの独立記念日でもあります。半年後、私たちは彗星の内部に、そして彗星のなぞに、どこまで迫れるでしょうか。楽しみです。
ディープインパクトの打ち上げ近づく (2004年12月22日14:50)
ディープインパクトの打ち上げは、2005年1月12日(アメリカ東部時間)に予定されています。場所はケープカナベラル空軍基地。ここから打ち上げられた探査機は、約6ヶ月かけて、4300万キロ飛行し、テンペル第1彗星に近づき、その核に弾丸を撃ちこみます。
「このミッションはたいへんエキサイティングなものだ。私たちは皆、国の誕生日(アメリカの独立記念日)に、天体上ではじめての花火が打ち上がるのをみることができるのだ」とは、このディープインパクト計画の責任者であるNASA/JPLのリック・グラミエール (Rick Grammier)氏です。
実際にこの「花火」を作り出すのは、探査機に搭載された、銅製の重さ372キログラムの弾丸です。この弾丸はスタジアムくらいの大きさの穴を開けることになります。
この計画には科学者も大いに期待しています。「私たちは彗星の核についてはほとんど何も知らないのだ。そこで、イベントを確実に捉えられる特別な装置(カメラ)が必要なのだ。その核がどんなものであったとしても。」(メリーランド大学の天文学教授マイケル・アハーン(Michael A'Hearn)博士)。
この衝突を捉える目は、探査機に搭載されているカメラだけではありません。NASAのチャンドラ衛星、ハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡も動員されます。そして地上では、天文学者、アマチュアの観測者もそのときを見つめます。
NASAの太陽系部門の副部門長であるアンディー・ダンツラー(Andy Dantzler)氏は、この計画の意義について「ディープインパクトは、大胆で革新的、そしてエキサイティングな計画だ。私たち自身の起源に挑戦しようという、これまでにないミッションである」と述べています。
では、これだけの物体が衝突すると、彗星はどうなってしまうのか? JPLの小天体専門家、ドン・ヨーマンス(Don Yeomans)博士の解説です。「天文学的にいえば、ボーイング767に蚊が近づくようなものだ。彗星の軌道を変えることはない。テンペル第1彗星が、今後将来にわたって地球に危険を及ぼすこともない。」
多くの人の期待を背負って、ディープインパクトの打ち上げは、あと3週間後に迫っています。
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