マーズ・サイエンス・ラボラトリー 探査の概要
■赤い星を目指す、第3世代のローバー
マーズ・サイエンス・ラボラトリーは、NASAが2011年秋に打ち上げたローバー(火星面車)です。
これまで、火星には2回にわたり、3台のローバーが送られました。1997年のマーズ・パスファインダー、2004年のマーズ・エクスプロレーション・ローバー(2台)です。
これらのローバーは、火星の地表を調べることにより、火星にかつて(あるいはいま)水が存在した(する)かどうかを調べる、という大きな任務を背負っていました。そして、マーズ・エクスプロレーション・ローバーは、ついに火星にかつてかなり多くの水が存在したという証拠を発見することに成功しました。
一方、技術面でいえば、火星表面を長時間にわたり探査し、自律的に動く技術を開発することにより、将来の月・惑星探査において、ローバーを有効活用するための技術を習得することにも役立ちました。そして、なんといっても、到着から7年以上経過してもいまだに動き続けているマーズ・エクスプロレーション・ローバー「オポチュニティ」は、驚異的ともいえる性能を発揮しています。
これらの「先輩」ローバーの成果を踏まえて、第3世代の火星ローバーとして火星に赴くこのマーズ・サイエンス・ラボラトリーは、これまでのローバーに比べて性能を格段に向上させ、火星の究極の謎、「生命が存在した(している)か」に挑むことになります。
■さらに大きく、さらに賢く、さらに意欲的に
今回のマーズ・サイエンス・ラボラトリーで送られるローバーは、過去の3台のローバーに比べても大きさが格段に大きくなりました。
今回のローバー「キュリオシティ」(英語でcuriosity「好奇心」という意味)は、先代のマーズ・エクスプロレーション・ローバーに比べて、長さが2倍、重さが5倍という大きなものです。
このような大きくなったローバーには、さらに優れた頭脳(コンピューター)と共に、これまでのローバーに比べても数多くの測定装置が搭載されています。名前が「ラボラトリー」(研究室)と名付けられている通り、取得したサンプルを内部で分析する装置を搭載し、これまでのローバーのように、ロボットアームの先につけた分析装置で分析するという方式から、格段の進歩を果たしました。
その一方で、動くためのカメラや、測定装置などには、これまでのローバーでの経験やデザインが十分に活かされています。
一方、これだけの大きさのローバーとなると、従来のように、エアバッグを利用してバウンドして着陸するのにはあまりにも重すぎることになります。そのため、このマーズ・サイエンス・ラボラトリーでは、逆噴射を利用して着陸するという、オーソドックスではあるがやや困難なやり方での着陸に挑むことになります。
探査機は、着陸の前、火星の大気圏を降下するときにはロケットの逆噴射で減速し、着陸3分前にパラシュートを開きます。また、火星への接近などには新たな軌道でのチャレンジを行うなど、新たな技術への挑戦も行われます。
■究極の謎「火星の生命」の探査へ
2000年代の火星探査により、過去、火星にかなり大量の水が存在したこと、また、そのような水が現在でも氷として、特に両極の極冠地域に蓄積されているということがわかってきました。
生命の誕生に重要な役割を果たす水が、少なくとも過去大量に存在したということは、火星に生命がいる(いた)かどうかという究極の疑問に対して、好意的な方向に働いてはいます。
とはいっても、実際に火星全体がそのような環境だったわけであるかどうかはわかっていません。私たちがローバーで調べたのは、広大な火星表面の3カ所だけだからです。
マーズ・サイエンス・ラボラトリーは、数多くの分析機器を駆使し、火星の過去の姿をより詳細に明らかにすることを目指します。それは生命の存在の問題にも大きな進展をもたらすでしょうし、火星が過去どのような進化(歴史)を経てきたのか、また現在なぜこのような環境にあるのか、といった問題について、より詳細な答えを出すことができるでしょう。
さらには、2010年代以降に予定されている、火星からのサンプルリターン探査についても、そのための基礎資料を提供することが期待されます。
■打ち上げは2011年、2012年夏に着陸
マーズ・サイエンス・ラボラトリーは、2004年に計画にゴーサインが出され、科学者チームによる検討が重ねられてきました。
しかし、ローバーの開発に関しては困難が発生し、当初予定されていた2009年の打ち上げを2年間延期する(次の火星探査の好機まで延ばす)という苦渋の決断がなされました。
2011年11月27日に打ち上げられ、2012年8月6日に無事、火星に着陸しました。2012年12月現在、精力的に火星地表で探査を実施しています。
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