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マーズ・エクスプロレーション・ローバ トピックス

2006年1月31日 18:30更新

2003年12月以降のトピックスを掲載しています。
写真は全てNASAによるものです。
「発表」とあるのは、その日に発表された文書であるという意味です。
Photo: NASA/JPL, または Photo: NASA/JPL/Cornell、Photo: NASA/JPL/Cornell/USGS

2年め、ローバには消耗の兆候も (2006年1月24日発表)
2台のローバは、2年を経過してもまだまだ順調に動いています。両方のローバとも、それぞれが担当するエリアでの岩の探査を続けています。このローバが集めた地質学的な情報は、太古の火星には液体の水が存在し、ひょっとしたら生命が棲むことができた環境があったかもしれないということを示しています。
「ローバの旅がさらに延長されたことによって、科学者のコミュニティが、はるか未来に向けて新しい発見を続けることができるようになった。」と述べているのは、NASAの科学探査本部の副本部長であるマリー・クリーブ (Mary Cleave)氏です。
「旅」は確かに延長されています。3度目になる延長探査によって、ローバの探査期限は(今のところ)2006年の9月になっています。もちろん、そこまで持ちこたえればの話ではありますが。最初の探査期間が着陸してから3ヶ月だったことを考えると本当に驚異的です。ローバは、もともと設定されていた成功の基準をはるかに超えて岩石の探査を続けています。
1月3日(アメリカ現地時間)、「スピリット」は2度目の誕生日を、着陸点であるグセフ・クレーターの中で迎えました。最初のうちは、「スピリット」は大量の水の痕跡を発見することができず、グセフ・クレーターの過去を明らかにする鍵と期待されていた丘は地平線のかなたのこぶにしか過ぎませんでした。しかし、計画の8倍にも及ぶ行程により、「スピリット」は丘の頂上へと上り、いろいろな種類の岩を調べ、ついに過去の水と関連していると思われる鉱物を発見したのです。

さすがに2年も動かしていると消耗の兆候もみえはじめて来ていますが、2台のローバとも最大限の能力を発揮して動いています。「スピリット」は、岩石研磨装置の刃が消耗し、これ以上岩を削れなくなってしまいました。しかし、ワイヤでできたブラシの部分では、ゆるく覆われた岩などは削ることができます。もともと、岩石研磨装置は岩を3つ削ることを目標に作られていましたが、削った岩は15個にも及びました。
「オポチュニティ」の方は、8ヶ月前に右前輪を駆動するモーターが止まってしまいました。ロボットアームの肩の部分についているモーターには、モーターの中の巻線が一部壊れている兆候があります。しかし、車輪についてはその他の3つのモーターは正常で、ロボットアームの肩のモーターも、余計に電流を流せば動作させることはできます。もっとも、このモーターがなくても、アーム自体は動作するのですが。
現在火星では、この2台のローバに加え、2001マーズ・オデッセイマーズ・グローバル・サーベイヤ、そしてヨーロッパのマーズ・エクスプレスという3機の周回機が働いています。地上での観測と上空からの観測は、互いに相補いあう点が多いのです。また、科学的な側面ばかりではなく、ローバからのデータを載せた電波をこれらの探査機がリレーするなどの役割も果たしています。

「オポチュニティ」も1火星年を迎える (2005年12月6日12:00)
本当に「丈夫で元気」としか言いようがありません。2台のローバは、着陸してからの活動期日が揃って1火星年(687日)を迎えます。「スピリット」は既に3週間ほど前に1火星年を迎え、「オポチュニティ」はこの12月11日で1火星年に達します。もともとの計画が3ヶ月だったのですから、これは驚異的という言葉を越えているといえるでしょう。
このローバ計画の副責任者のジョン・カラス (John Callas)氏は、「ローバは、火星の全ての季節を経験して、また晩夏に戻ってきた」と述べています。「私たちは、もう一度火星の冬を越す挑戦のために準備をしているところだ。」(同)
両方のローバとも、いろいろな種類の岩を調査し続けています。ローバが集めてきた地質学的な情報は、火星の大昔の環境、例えば、水があった期間や、生命が住めるような環境がどれくらい続いたのかといったことについての証拠を増やしつつあります。
「スピリット」は、「ハズバンド・ヒル」の頂上から降りて、プラットホームのようになっている台地上の地形を調べています。その後、南にある別の丘に向かって、冬の間に太陽電池の出力が最大になるようにする予定です。
スティーブ・スクワイヤーズ教授は、「ローバの移動速度は、発見と同じ量だけ生き残れるようにしている。しかし、ハズバンド・ヒルの地質は魅力的で驚くべきものであり、私たちを考えさせ、喜ばせている。この砂とゆるく岩に覆われた地形についてはかなりの知見を得た。今後は折りをみて、その下にある岩の層を調べてみたい。」
岩石を調べたところ、6種類以上の異なった組成と特徴の岩石が見つかりました。科学者たちは、火星のこの領域について、こんな結論を得ています。「ここは厚く、非常に活発な地質活動があり、火山やいん石の衝突なども頻繁に起きていたようだ。周囲には水があり、ところどころには温泉も湧き出ていただろう。別の場合には、水は微量だった可能性もある。」(スクワイヤーズ教授)
「スピリット」の電力供給が順調なことから、研究者たちはローバを夜にも活躍させています。1つは、ハレー彗星の通り道に生じる流星雨の観測です。「予想できなかったボーナスの科学観測ができるようになった。」(ジム・ベル氏。ローバのカメラ担当者)

「オポチュニティ」の方は、エンデュランス・クレーターとビクトリア・クレーターの間にある、岩石の露出部分を調べています。最近では、エンデュランス・クレーターの中で調査したものよりも、さらに若い年代の岩石層に到達しました。エンデュランス・クレーターの中では、もっとも下の層は風によって生成された砂丘として堆積していました。上部の層の中には、水によって堆積したものもあります。これは、乾いた環境からだんだん湿った環境へと移り変わっていったことを示しているようです。
いま、「オポチュニティ」が調べている場所は、ビクトリア・クレーターへ3分の2近く行ったところです。ここはエンデュランス・クレーターよりも若い年代の層と考えれられています。ここの組織をみる限りでは、この岩石層はエンデュランス・クレーターの底の岩に似ていて、固くしまった砂の層のようにみえます。
エンデュランス・クレーターでは鉄に富む粒子が全ての層で多数見つかりました。しかし、この若い層ではほとんどみつかっていません。こういった鉄の微粒子は、水の作用で生じると考えられています。少ない理由としては、この地域が形成されたとき、それほど湿潤な環境ではなかったということです。あるいは、化学組成が異なっていたのかも知れません。

火星は生命にとって過酷な環境だった? (2005年11月29日発表)
火星の上で生命が発生したとしても、相当厳しい環境を生き延びなければならなかった---これが、ローバ「オポチュニティ」が火星の岩を調べた結論です。最新のローバ探査による結論では、火星は生命にとっても(もし発生したとしても)厳しい環境であることが明らかになってきました。ローバの科学責任者であるスティーブ・スクワイヤーズ博士が「これまででもっとも重要な科学的成果」と呼ぶ論文は、これまで出版された論文よりさらに踏み込んで、「オポチュニティ」の成果を分析しています。
科学者の分析によると、「オポチュニティ」が降り立ったメリディアニ平原の環境は強い酸性で酸化的であり、時折湿潤であったとみられています。このような環境は生命にとっては過酷であると考えられます。

…このような、「オポチュニティ」の成果をまとめた論文が、「地球惑星科学ジャーナル」(Earth and Planetary Science Letters.通常研究者の会台ではEPSLと略される、地球物理学・惑星科学分野では権威ある雑誌の1つです)に9つの論文にわたって掲載されました。60人の科学者が関わっています。論文では、地球上での過酷な環境と火星上の環境との比較も行われています。
論文の共著者でもあるハーバード大学のアンドリュー・クノール(Andrew Knoll)博士はこう述べています。「火星の他の場所で進化した、あるいは古い時期に進化した生命がもしあったとして、それらはメリディアニ平原の状況に適応しただろう。しかし、生命が進化するのに欠かせないと考えられる、地球上で起きたような化学反応は、メリディアニ平原では起こらなかっただろう。」
科学者は、エンデュランス・クレーターの内部に約6〜7メートルにわたって堆積した岩石層の分析を行いました。その結果、3つの部分に分かれることがわかりました。いちばん下層で、古い地層は、乾いた砂丘のような場所で堆積した兆候を示していました。中間層は、風によって運ばれた砂のようなものでした。この2つの層は、もともとあった水が蒸発した後、形成されたものと考えてもいいでしょう。そしていちばん上の地層の中には、みずによって堆積したと考えられる層もありますが、「オポチュニティ」が以前小さなクレーターで見つけた層との関連が指摘されています。
この3つの領域の物質は、堆積した前と後で水に触れたことが分かっています。層ができる前に、水により層が変質したという科学的な証拠を科学者が見つけ出しています。科学者たちは、層ができてから層の中を通過したと思われる酸性の水について、どのような効果を及ぼしたか、特に岩石の中に含まれる赤鉄鉱(ヘマタイト)に富む小粒の形成にどう関係したか解析しています。
実験、及び理論的な解析から、岩石層が酸性の水により変質したことは間違いないと思われます。ニューヨーク州立大学の研究者であるニコラス・トスカ(Nicholas Tosca)氏によれば、「研究室で火星の岩を使って分析を行った。火星の岩に酸性の液を注ぎ込んだ。理論的なモデルによると、この液が蒸発してできたものは、メリディアニ平原でみつかった者と非常に似たものになるはずである。」と述べています。
メリディアニ平原の岩石がこのような変化を受けたのは、35〜40億年前と考えられます。この場所は時折水がある塩の平原で、周囲を砂丘に囲まれていたと考えられています。ちょうどアメリカ・ニューメキシコ州のホワイトサンズ(空軍基地やミサイルテスト場として有名です)が似たような環境として挙げられます。論文の共著者で、スペインの宇宙生物学センター(Centro de Astrobiologia)のデビッド・フェルナンデス・レモーラ(David Fernandez-Remolar)博士をはじめとする科学者は、化学的、あるいは鉱物的な環境については、スペインにある酸性の川が流れる盆地、リオ・ティント (Rio Tinto)がよく似ているということです。
このリオ・ティントには多くの種類の微生物が生息しており、それが火星のメリディアニ平原でも生命が存在し得たという理由になっています。しかし、リオ・ティントに生息する微生物は、より低酸性で生物にとってより暮らしやすい環境から移ってきたものと思われます。そのため、メリディアニ平原でも、生命が存在したとしても、それは他から移ってきたものだと考えられるわけです。
先ほどのクノール氏に言葉です。「火星の生命の見通しについて語るときには十分に気をつけなければならない。私たちは火星という家から送り届けられたほんの小さな小包しかみていない。『オポチュニティ』が調べた火星の岩石は、長い火星の歴史の中の本の一部かもしれないのだ。」

「スピリット」、科学的に重要な山登りを完了 (2005年9月1日発表)
頂上直前でのミニパノラマ 火星の丘の上に上りながら、「スピリット」は、科学者たちが興味を抱きそうな、火星の過去の環境に関係すると思われる写真を送って来ています。
「画像が送られてきて、全周に地平線がみえるのが分かったとき、そのイメージの1ビット1ビットが、私が地球の山に登ったときと同じ興奮を与えた。」というのは、ローバの計画担当者のクリス・レジャー氏の言葉です。
「スピリット」が上った丘「ハズバンド・ヒル」(Husband Hill)の高さは、周囲から測って約82メートル。着陸点からは106メートルほど高いところにあります。「『スピリット』は火星の丘の上に上り、周囲をみおろすパノラマ写真を送ってきたが、それができるからということを証明するために丘に上ったわけではない。このローバーは火星の歴史と環境について基礎的な事柄を調べるためにあるのだ。」という点を強調するのは、NASAの火星探査プログラム長のダグ・マッキストン氏です。
ハズバンド・ヒルの尾根は、「スピリット」に南へ向かういいルートを与えました。「スピリット」の着陸直後、着陸点からは、この丘が東側に7つの峰としてみえました。そこで、NASAはこの丘に「コロンビア・ヒル」という名前を提案しました。このコロンビアとは、2003年2月に悲劇的な事故に見舞われたスペースシャトルの名前です。そして、そのいちばん高い峰が、そのときの船長リック・ハズバンドに因んで、ハズバンド・ヒルと名付けられたのです。
この山に向かって走っている間、「スピリット」は水に関する証拠をほとんど見つけられませんでした。着陸してから5ヶ月、山裾に着いたあたりから、岩には水の証拠がより多く発見されるようになります。
「山登りは科学目的である」というのは、スティーブ・スクワイヤーズ教授です。「『スピリット』が高度を上げるたび、私たちは異なる種類の岩石をみつけた。それから、どんな地質学者でもやることをやった…ルートをたどるために見晴らしのよい地点へと上がったのだ。」
ハズバンドヒルからのパノラマ 左の写真が、頂上からのパノラマ写真です。ローバのわだちの跡もみえるかと思います。また、他の峰も、窪みの向こう側にみえているのが分かります。 研究者たちは、南側にある岩層が突き出した棚のようになっている場所へのルート、また、「ホームプレート」と名付けられた、おそらくは古い岩か埋まったクレーターと思われる場所へのルートを探しています。なお、この頂上からのパノラマのムービーもご覧頂けます(…18.4MB、…53.1MB)

もともと、「スピリット」が着陸したグセフ・クレーターは、その形が一度湖になったことがあるのではないかという可能性を持っていることから、着陸点として選定されました。この湖の底には、火山性の堆積物が覆っていました。しかし、科学者たちによれば、丘の部分にはより古い地層が露出しているのではないか、という期待を述べていました。
ワシントン大学(セントルイス校)のレイ・アービンソン氏は、「岩が水によって変質しているという特徴をたくさん見つけている。私たちが欲しいのは、どの層がいちばん上にあったかということだ。それを知るためには、できるだけ高いところに上って、層の傾きを測ることである。層の順序を理解することは、ドリルで穴を開けて岩石の層をみることと同じことなのだ。」
現時点で、「スピリット」の総走行距離は4827メートル、「オポチュニティ」の総走行距離は5737メートルにも達しています。

「オポチュニティ」、砂地から抜けだす (2005年6月6日12:00)
「オポチュニティ」が、砂地から抜けだしたことを確認できる映像が地上に送られたとき、ローバの技術者や監督者たちは一斉に歓声をあげました。
約1億7400万キロ離れたところで、ローバチームは「オポチュニティ」を脱出させるために、ほぼ5週間にわたって格闘を続けていました。縁の部分まで表面の小さな砂丘に入り込んでしまった6つの車輪を動かすための作業は、非常に忍耐を要するものでした。
「神経がまいってしまいそうなここ数週間の作業の後、ローバチームはようやく、半分砂丘に埋まった全ての車輪が脱出したのを確認して、ホッとしているところである。」と述べたのは、JPLのローバ移動技術者のジェフリー・ビーシアデッキ (Jeffrey Biesiadecki)氏です。
4月26日、波状の砂丘を走行していたときに、「オポチュニティ」は走行が難しい状態に陥りました。その次の週には、ローバは1メートル動くために、192メートル分の車輪の回転が必要になりました。ローバチームは5月13日から6月4日にかけて、慎重に走行距離を伸ばすようにしてきました。
「どうすれば『オポチュニティ』が砂から抜け出せるか、注意深くテストした。そのあと、根気よくテストから戦術を練った。私たちは、『オポチュニティ』がまた科学観測で忙しい日々を早く送ることを願っている。」(前述のビーシアデッキ氏)
「オポチュニティ」の次の仕事は、この地域を調査して、ローバが簡単に乗り越えられたその他の多数の砂丘と、今回の砂丘の何が違うのかを調べることです。「この地域を調査したら、この先の領域についてももっと安全に走行することができる。」と、計画主任のジム・エリクソン氏は述べています。
「スピリット」も「オポチュニティ」も、過酷な火星環境で考えられたよりも長く動作しています。現在は、延長ミッション期間に入っています。
コーネル大学のスティーブ・スクワイヤーズ教授はこう述べています。「私たちが最初にやるべきなのは、この地域を詳しく調べることだ。それが終わったら、十分に気をつけつつ、再び南へ向けて進むことになるだろう。南には科学的に重要なものがあり、わたしたちが行く理由もある。」

「オポチュニティ」の脱出作業続く (2005年5月24日発表)
さて、もう1台の「オポチュニティ」の方ですが、砂地からの脱出作業はもう3週間も続いています。4月26日に砂地にはまり込んでから、脱出を試みてきましたが、ローバはその間にわずか11インチ(約20センチ)しか動かないという有り様です。もし砂地のスリップがなければ、157フィート(約30メートル)も動けていたはずです。JPLの火星ローバの計画主任であるジム・エリクソン氏は、「もし『オポチュニティ』が自由になったら、まず最初にやることは、これまで普通に乗り越えてきたいくつもの砂丘と、今回の砂丘とがどのように違うのかをよく調べることだろう。」と述べています。

「スピリット」が見つけた岩層 (2005年5月24日発表)
「『スピリット』は、ついにかなりしっかりした地質学的な証拠をつかんだ。」と語るのは、スティーブ・スクワイヤーズ教授です。教授によると、「スピリット」が撮影した写真の中に、爆発でできた石が水によって変質したものが連続的に堆積している証拠がみつかったということです。
2台のローバは、火星の厳しい環境の中で、予想をはるかに超える長い期間にわたって動き続けています。「オポチュニティ」の方は、着陸してからすぐに、かつて海があったことを示す層状の岩を見つけることができましたが、それに遅れること1年、「スピリット」の方も同じような証拠を見つけたというわけです。
「ここ数週間で、私たちはコロンビア・ヒルの地質に関しての混乱した状態から、層序学的に正当な地層の積み重なり方、そしてこの層のでき方に関するはっきりとした作業仮説を立てることができるまでに至った。」(スクワイヤーズ教授)。
「スピリット」はここ数ヶ月間にわたって、コロンビア・ヒルの中でももっとも高いハズバンド・ヒルの斜面を登ってきました。斜面は、岩層の角度と極めて近い角度になっていたので、この岩層の発見が難しかったようです。「スピリット」は、中間到着地点の「ラリーの展望所」(Larry's Lookout)に到着し、丘上りを続けています。「物事がよく分かったのは、重大なタイミングだった。『スピリット』が後ろを振り返ったとき、岩層がみえた。そしてそれが、全てのきっかけだった。」(スクワイヤーズ教授)
「スピリット」は、メスセラ(Methuselah)、ジブシート(Jibsheeto)、そしてラリーの展望所の3つの岩層を調べています。岩の中にはイルメナイトという鉱物が含まれているものありますが、これはいままでの「スピリット」の探査では発見されていないものです。「イルメナイトは二酸化チタンからなる鉱物で、マグマが結晶化するときにできるものだ。この鉱物があるということは、火山性の岩石がグセフ・クレーター(「スピリット」が着陸した場所)に広く分布していることを示すものだ。」(ローバ科学チームメンバーのディック・モリス博士)
別々の層から得られた岩が似たような組成(チタンに富み、塩素が少ない)を持っているということは、似たような起源を持つことが考えられます。しかし、岩石中の鉱物が、水やその他の作用によってどのくらい変質するかは、その岩層によって異なります。また、層の構成も異なっています。メスセラでは、岩には薄い膜状の組織があることが分かっています。ジブシートでは、球根状の粒子が並んでいます。ラリーの展望所では、岩は全体に塊状で、その中に細かいスケールの構造が少しあります。
「これらの現象をいちばんよく説明できる仮説は、われわれは、火山から噴出した灰や岩が、異なる様相で堆積した様子をみているというものである。こういった岩などが衝突によってできた可能性は完全にぬぐい去れるものではないが、少なくとも、ある時期グセフクレーターは非常に活動的だったということはいえる。大きな爆発的なイベントが起き、そのまわりにはたくさんの水があったはずだ。」(スクワイヤーズ教授)

火星ローバを地上でテスト (2005年5月6日発表)
ローバ「オポチュニティ」の車輪が小さな砂丘でスピンして動けなくなったという事態を受けて、技術者たちは、地上に火星の地表を模擬した場所を作り、ローバのシミュレーションを行っています。「オポチュニティ」にコマンドを送る前に、十分なテストが行われ、砂丘を抜け出し、走り続けられるようにする努力が続けられています。
先週、「オポチュニティ」がホイールのハブの深さまで砂にはまってしまったのを受けて、JPLのローバチームでは、様々な砂っぽい、あるいは粉っぽい物質を組み合わせ、地上で火星をもっともよく模擬するような物質を作ってきました。4月26日に砂にはまりこんでからは、ローバチームでは「オポチュニティ」に対し車輪を回転させるような命令を出していません。
JPLのローバプロジェクト責任者であるジム・エリクソン氏は、「我々は慎重に進むことにした。そのため、来週、あるいはそのあとまでは、砂丘を抜け出すことをしない。『オポチュニティ』も『スピリット』も、皆の想像を越えて長い間科学的な調査を続けてきている。ローバを大切に扱っていくことで、この先何ヶ月にもわたってさらにローバを動かすことができるようになる。これまでのテストでは、『オポチュニティ』が砂丘を脱出することについては楽観的にみている。しかし、その能力がどれだけ確かかどうか、われわれはもう少しテストをする必要がある。」と述べています。

「オポチュニティ」がスリップしてしまったのは、火星での第446日目、予定ではその日は90メートル走るところ、40メートルの地点でした。その時点ではローバはバックしました。ローバチームでは、車輪の潤滑剤がよく行き渡るように、前進と後退を繰り返しました。ローバの車輪は目標地点に到着するまでに充分なくらい回ったのですが、結局2、3センチ前に動いただけでした。さらに、予定されていた走行の最後で方向転換をしようとしたところ、ローバは正常に方向転換できないことを検知し、停止しました。
「オポチュニティ」は、高さ約30センチ、幅2.5メートルほどの柔らかい砂(細長い砂丘、あるいは砂の紋)の間にいると推定されています。「これまでいくつもの砂紋を越えてきたが、今回のは事情が違うようだ。ちょっと高く、また表面で15度ほどと、勾配がきつい。」と、JPLのローバ移動技術者のマーク・マイモーン(Mark Maimone)氏は述べています。
先週、技術者たちは、JPLのローバテスト施設内に、砂を使って実際の砂丘を模したコースを完成させ、試験用のテスト用ローバを火星上のローバに近い位置に置きました。テスト用ローバは問題なく駆動し、胴体の深さまで潜ってしまっても問題なく走ることができました。しかし、このテストに使用した砂は、実際に「オポチュニティ」が出合っている細かく緩い火星の砂よりも強い摩擦力を発揮しているようです。このテストを主導したJPLの技術者リック・ウェルチ氏は、「もう少し、『オポチュニティ』がいる場所に近い物質でテストをすることが必要だ。どちらかというともっとふわふわした物質で、車輪の上で固まるようなものだ。」と述べています。
いろいろと実験を繰り返した結果、技術者と科学者たちはちょうどよい砂を見つけ出すことができました。それは、子どもたちがよく遊ぶ砂場の砂に、プールなどのフィルターに使う「珪藻」、さらにモルタルに使う粘土の粉を混ぜたものです。さてその後、彼らはホームセンターに向かいまして、2トンにも及ぶ火星の模擬砂を混ぜることができるような袋や箱を買ってきました。火星の地面により近いモデルを作るためです。
ローバ科学チームのメンバーであるコーネル大学のロバート・サリバン (Robert Sullivan)博士は、技術者たちと共に、火星からの画像に基づいて、テストコースに砂をできるだけ火星に似せた形でセットするようにしました。「車輪が穴に埋まってしまったとき、私たちが使っている素材だと車輪にへばりついて、滑り止めになっているすき間を埋めてしまうことが分かった。『オポチュニティ』が陥っている状況と全く同じで、いい兆候だ。」
このより粉っぽい物質による実験で、テスト用のローバが最初に車輪が空転した位置から砂を脱することができることが分かりました。もちろん、実際に「オポチュニティ」に移動のための指令を出す前には、より多くのテスト、分析及び計画立案が必要になりますが。
こうしている間にも、「オポチュニティ」は「エッチド・テレイン」と名付けられた周辺領域をカメラを使って探査しています。既に着陸してから15ヶ月経過し、総走行距離は5.35キロメートルにも達しています。

なお、もう1台のローバ「スピリット」は、このローバとしてははじめての露出岩「メスセラ」(Methuselah)を探査しています。また、火星の旋風を捉えた短い映像も撮影しました。総走行距離は4.31キロに達しています。 JPLのプレスリリース

火星から送られてきた最新360度パノラマ (2005年4月29日発表)
ローバ「スピリット」が撮影した、360度パノラマが送られてきました。場所は、現在「スピリット」が挑んでいるハズバンド・ヒルへの丘登りの途中です。(なお、QuickTime VRを利用した360度パノラマの映像、ナレーションと英語字幕つきの映像もあります)。
「スピリット」からのパノラマ写真 撮影地点は仮に「ラリーの展望台」(Larry's Lookout)と名付けられています。ちょうどハズバンド・ヒルへの上りの中間地点くらいになります。ハズバンド・ヒルはこのパノラマ正面にみえており、高さは45メートル、距離はここから200メートルほどです。中央部の白っぽい岩が出ている部分は「カンバーランド尾根」(Cumberland ridge)、その左側の谷は「テネシー谷」(Tennessee Valley)と名付けられています。「スピリット」がずっと登ってきた「西尾根」(West Spur)は、写真右側にみえています(わだちの跡が続いているのがおわかりでしょう)。
コーネル大学のジム・ベル博士は、こう述べています。「この地点にたどり着くために、『スピリット』とローバチームは何週間にもわたって困難な努力を続けてきた。ごつごつした岩と谷間の地形は、『西尾根」とよく似ているようにみえるが、化学組成や鉱物組成はまったく違っている。特に、露出している岩の周辺や、ローバの車輪によって地下の物質が露出している場所では、これまで測定されたこともないくらい高濃度の硫黄が観測されている。」
「スピリット」のパノラマカメラは、2月27日から3月2日にかけて300枚の個別の写真を送ってきました。これを数週間かけて合成してできたのが、このパノラマ写真というわけです。

「スピリット」が捉えた火星のつむじ風 (2005年4月22日18:00)
以前のトピックスで、「スピリット」が火星表面に起こるつむじ風を捉えたという記事をお伝えしましたが、そのつむじ風の映像を撮影することに成功しました。
火星のつむじ風 捉えられたつむじ風は2種類ありますが、左ではそのうちの1つの写真を示しています。1つをクリックすると、つむじ風の連続アニメーションが表示されます(約1.5MB)。これらのつむじ風の写真は、4月15日と18日に撮影されたものですが、これまで捉えられた火星のつむじ風よりもより大きな動きを示しています。
「火星表面でみられた風による現象の中でこれまでにいちばんいい画像だ」と評したのは、ローバチームのメンバーで大気科学者でもある、テキサスA&M大学のマーク・レモン(Mark Lemmon)博士です。
「スピリット」は、搭載カメラで常につむじ風の発生をチェックしています。カメラにつむじ風が捉えられはじめたのは先月からになります。レモン博士らは、こういった画像によって、つむじ風がどのように発生し、火星大気が火星の地表とどのように関連しているのかがわかると期待しています。特に映像として得られたことで、これまでよりもはっきりと原因の追究ができるのではないかと述べています。

電力回復の後押しを受けて (2005年4月10日22:40)
「オポチュニティ」に比べると、「スピリット」の旅は大変です。はるかにでこぼことしたところを走っているのですから。
現在、「スピリット」は、「ハズバンド・ヒル」という丘に向けて、岩だらけの斜面への上りに挑んでいます。幸いなことに、3月9日の突然の電力回復、さらに、障害があった右前輪の回復により、数ヶ月前よりは長い距離を一度に走れるようになりました。JPLの計画主任であるエミリー・イールケマ (Emily Eelkema)氏は、「電力が2倍になった。これで毎日より多くの時間にわたって運用できるようになった。そのため、より長い距離を走ることができ、そのために観測の時間も増えている。」と述べています。
さて、この電力の急上昇は、「スピリット」にとっても危機を脱する幸福な材料となっています。火星は今、南半球の春を迎えつつあり、太陽は次第に南に向かっています。もし太陽電池パネルが風で「洗われる」ことがなく、電力が回復しなかったとしたら、今上っている斜面は北向きなので、上り終わると思われる5月はじめまでに、「スピリット」は危機的な電力不足に陥っていたかも知れません。

「オポチュニティ」の「未知への旅」 (2005年4月10日22:00)
「オポチュニティ」は、サッカー場数個分の長さがある領域「エッチド・プレーン」(Etched Plain: 日本語に直訳すると「くっきりと彫りつけられた平原」)を探査しています。科学者たちは、この領域で、風によってゆっくりと削られた岩がみつかるのではないかと期待しています。また、これまでみつかったとは違う年代にできた岩がみつかるかも知れません。「これは未知への旅だ。まったく新しい、未知への。」と述べているのは、ローバ科学機器の責任者、スティーブ・スクワイヤーズ博士です。
この「エッチド・プレーン」に到着するため、ローバ運用者は、ローバをより速く動かすことになりました。そのため、「オポチュニティ」は、総走行距離で、先に火星に到着した「スピリット」を上回ることになりました。「オポチュニティ」の総走行距離は既に4.9キロに達しており、もともとの目標の8倍にも達しています。3月20日には、「オポチュニティ」は1日の走行距離としては「火星記録」となる、220メートルを記録しました。なお、走行距離の推定は数パーセントの誤差があります。
これだけ長距離を一気に走れたのは、この平原が「まるで東海岸のビーチのように」平らで滑らかである(「オポチュニティ」の最近数週間の運用担当者、ジェフ・ファブレット (Jeff Favretto)氏)ことが幸いしています。また、「オポチュニティ」の太陽電池パネルが、十分な発電量を供給できていることも大きなポイントです。もっとも、今や「スピリット」の太陽電池パネルの方がきれいなのですが。

ローバ探査、3度目の期間延長へ (2005年4月10日21:10)
もう既に着陸してから1年3ヶ月が経とうとしているマーズ・エクスプロレーション・ローバですが、NASAはこのほど、探査期間の3度目に延長を決定しました。今回はさらに、1年半(18ヶ月)まで探査期間を延長することが認められています。
NASAの科学計画担当の副長官代理であるガッセム・アスラー (Ghassem Asrar) 博士は、「ローバは既に、過去に火星に大量の水があり、生命を育んだかもしれないという重要な発見を成し遂げている。私たちは、この探査計画を2006年9月まで延長し、これだけ重要な探査機が順調に探査を続け、そして貴重な探検が続けられるようにしていきたい。」と述べています。
もともと、2台のローバに与えられた基本探査期間は3ヶ月でした。そこから、2度にわたり合計11ヶ月にわたる延長期間が設定されました。ここまで「長持ち」するとは、ローバチームの面々もほとんど考えていなかったでしょう。
しかし、チームメンバーは慎重な構えを崩していません。ローバの計画主任であるジム・エリクソン博士は、「両ローバとも、どこかが壊れて明日止まってしまうかもしれない。もう既に両ローバとも、本来の想定寿命を大幅に超えて動いているので、どこかの部品が消耗して止まってしまうということは、いつ何時起るとも限らない。しかし、現時点では、両ローバとも非常に良好な状態で動いている。私たちとしては、2台のローバをできるだけ動かし、貴重な科学的成果が得られるようにローバを活用していきたい。」と述べています。
NASAの火星探査計画担当部長であるダグ・マッキション (Doug McCuistion)氏は、こう述べてローバの成果を称えています。「『スピリット』と『オポチュニティ』は、何年にもわたって手が届かなかった目標に手を伸ばしている。2台のローバの探査計画の成功は、NASAの将来火星探査計画、とりわけ火星からのサンプルリターンや有人火星探査といった野心的な計画への関与をさらに強めていくことになるだろう。」
実際、2台のローバとも、予定期間をはるかに上回る運用で一部に不具合もみられます。「スピリット」は、岩石研磨装置の研磨用の刃が摩滅してしまっているという兆候がみられます。もともと、岩を3つ削るというのが計画であったのが、その5倍以上の岩を削っていることが原因ではないかと思われます。今のところ、数週間後に予定されている次の岩石研磨までは、この「スピリット」の研磨装置の消耗具合を知ることはできません。
一方、もう1台の「オポチュニティ」についても、既にお伝えした通り、小型熱放射スペクトロメータに障害が発生しています。こちらも、何回か試験を行ったにもかかわらず、相変わらず動作できない状態が続いています。他の機器は順調に運用中です。

「スピリット」の電力が突如2倍に回復 (2005年4月8日16:40)
※記事自体は3月15日のものです。
動き続けるマーズローバですが、電力が回復した「オポチュニティ」に続き、1号機「スピリット」でも電力回復現象がみられました。
3月9日、「スピリット」の太陽電池の出力が、突然跳ね上がりました。1日あたりの電力供給量が約2倍にまで上昇したのです。この3日前、「スピリット」に搭載されているカメラのレンズに付着していた砂ぼこりが吹き飛ばされていることが確認されました。カメラについている砂ぼこりは、写真でもはっきりとわかるくらいでしたが、「スピリット」の動作そのものについては影響を与えませんでした。
左側のカメラレンズの砂ぼこりは、電力が回復した日に消えてしまっていることがわかっています。ローバチームでは、「スピリット」の電力回復は、「オポチュニティ」で昨年10月に起きたのと同様、強い風によって太陽電池に積もった砂が吹き飛ばされたためなのではないかとにらんでいます。
もともと、2台のローバの寿命は、太陽電池の発電量によると考えられてきました。火星の大気中には、地面から巻き上げられた砂が大量に舞っています。これらが太陽電池の上に徐々に降り積もっていくと、電池の発電量が減り、やがて太陽電池の出力ではローバの動作をまかなえなくなる、と考えられてきました。
しかし現実には、その砂が吹き飛ばされて、太陽電池の出力が増していたということになります。
「スピリット」は、火星の上の旋風(つむじ風)を3月10日に撮影していますが、その翌日の映像を見ると、太陽電池の上に積もっていた砂がすっかりきれいになっているのが分かりました。

オポチュニティの測定装置を一部停止 (2005年4月7日17:30)
※記事自体は3月15日のものです。
NASAでは、ローバ「オポチュニティ」に搭載されている小型熱放射スペクトロメータについて、データ取得に問題があるため、専門家が問題を解決するまで、使用を一時停止することになりました。そして、機器の診断テストを行うことになりました。なお、「オポチュニティ」の他の機器には異常はありません。また、もう1台のローバ「スピリット」についても、機器に問題は発生していません。
技術者たちが「オポチュニティ」の測定装置に発生した問題を解決している間にも、ローバ自身は旅を続けており、現在は「ボストーク」と名付けられたクレーターの調査をしています。
問題が発生したのは、3月3〜4日にかけてでした。「オポチュニティ」は、小型熱放射スペクトロメータについて、17個のデータを地球に送ってきたのですが、その他の8つについてはデータが不完全な状態で送られてきました。この小型熱放射スペクトロメータは、ローバのいちばん高いところに立てられたマスト(棒)の上から、遠くにある岩の熱赤外線放射を調べることができる装置です。
データが送られなかったことについて、科学者たちは、スペクトロメータのデータそのものに問題があると考えています。1つの原因として考えられるのが、スペクトロメータ内部の鏡に動作開始を知らせるスイッチの不良です。他に、この鏡が一定の速度で動いていない可能性も考えられます。「もし(原因が)スイッチにあるなら、予備のスイッチを使うこともできる」と、このスペクトロメータの主席科学者のフィル・クリステンセン (Phil Christensen) 博士は述べています。同時に博士は、もし根本的な原因が分からないようであれば、今の不十分な状態のまま機器の運用を続ける考えを示しています。

もっとも、このスペクトロメータが使えなくなったからといって、ローバ自体が使えなくなったわけではありません。実際NASAでは、スペクトロメータが使えなくなった場合の危険性について10ヶ月ほど前に検討したことがありますが、今回の問題は、そのときに検討したほどの危険性ではないとみられています。当時の問題は、ローバが受ける太陽光の量が(火星の冬に近づくために)少なくなり、それを避けるためにローバを「冬眠」させることで、エネルギー消費を抑えるというものでした。このとき、スペクトロメータを暖めるヒータも止まってしまうため、スペクトロメータが動かなくなるという危険性が考えられました。しかし、結局のところスペクトロメータは冬を乗り切って動いています。
なお、ローバチームとしては、もう1台のローバ「スピリット」の小型熱放射スペクトロメータはそのまま動作させる予定です。

偶然がみつけた塩っぽい砂 (2005年3月15日11:40)
パソ・ロブルス それは偶然、丘上り中の「スピリット」の車輪が跳ね上がったことから始まりました。その砂が、科学者たちの興味を引きました。「まったくの偶然だった。『驚いたなぁ。なんて明るい色の砂だろう。行く前にちょっと調べてみようか。』」(スティーブ・スクワイヤーズ博士)。
こうしてみつかった砂は、「パソ・ロブルス」(Paso Robles)と名付けられました。調べてみたところ、この砂がこれまで調べたどの岩よりも多くの塩分を含んでいることが分かりました。「スピリット」の計測器による調査の結果、この塩分は主に塩化鉄で、鉱物の中に水分が閉じ込められていることも分かりました。また、リンも多量に含まれています。「これがどのようなことを意味しているのか調べているところだ。間違いなくいえることは、これだけ多量の塩分があるということは、水がすぐ近くにあったということだ。」(スクワイヤーズ博士)

「オポチュニティ」、またも走行距離記録を更新 (2005年3月15日11:00)
とても1年以上経ったローバの動きとは思えません。ローバ「オポチュニティ」は、2月19日に、1日の走行距離記録を再び更新し、177.5メートルを記録しました。この日を含む3日連続での移動距離は、実は2台のローバが最初の70日に移動した距離を超えるものです。また、直前に記録した移動距離156メートルを、約13%上回るものです。
この移動に先立ち、NASAの技術者たちは、ローバに搭載されている走行用のソフトウェアを取り替えました。これにより、ローバ上のソフトウェアの性能が一段と向上しました。
この長距離走行は、いつものように、まず「目をつぶった状態での」走行からスタートしました。この状態では、ローバは指示された目的地に向かって、あらかじめ用意された智頭のとおりに進みます。この走行が走行距離のほとんどをカバーしています。残りは、ローバの「自律走行モード」を使って進みました。約2メートルおきに障害物を検知し、それを自動的に避けながらルートを自分自身で決め、先に進むというものです。
翌日は、搭載された新しいソフトウェアの出番となりました。この日はソフトウェアの性能を試す意味もあってか、ローバの自律走行に約4時間にわたって任せることにしました。
ローバは障害物検知などを見事にこなしただけではなく、移動距離はサッカー場ほどの広さにも達しました。太陽電池パネルがきれいな状態になっていたことから、「オポチュニティ」には移動用に十分な電力が供給され、さらに火星の春が近づいて、日が長くなっていることもいい影響として働きました。1日数時間にわたってローバを動かせるようになってきています。
さて、3日目になりまして、自律走行はますます好調で、109メートルの走行を記録しました。3日間での総走行距離は390メートルとなりました。もともと、「計画の成功基準」の1つに、「ローバが600メートル走行すること」というのがありましたから、その半分以上の距離を(1年以上も経った)ローバが走り切ってしまったというのは驚異でもあります。
こうして、「オポチュニティ」のこれまでの総走行距離はとうとう3キロを超え、3014メートルとなりました。もちろん、一足先に火星に降り立った「スピリット」の方が長く、こちらは4キロを超え、4157メートルに達しました。まだまだ走りそうです。

オポチュニティ、走行距離記録を更新 (2005年2月22日16:30)
「オポチュニティ」は、顕微鏡カメラを使って、自分自身が着陸のときに切り離した耐熱板を調査しています。今回は耐熱板に岩石研磨装置で穴を開けて、内部にどのような変化が起きたかを調べています。研究者たちは、将来の探査機の性能向上につながるのではないかと期待しています。
JPLの探査機工学の専門家であるクリスティン・スザライ (Christine Szalai)氏は、「私たちは耐熱板の物質を調べて、どの程度奥まで焼け焦げているかを見定めようと思っている。ぱっとみたところ、あまり驚くべきものはなかった。今後数ヶ月にわたって、耐熱板の性能について調べてみたい。」と述べています。
「オポチュニティ」は耐熱板の探査を終了し、新たな目的地に向けて南へと走っています。1月28日には、1日の走行距離としては最高記録となる154.65メートルを記録しました。しかし、30日にはそれをさらに超え、1日あたり156.55メートルも走りました。両日の最初の90メートルは、探査機自身が判断するのではなく、周回衛星から作成された地図をもとにして走行しました。残りは、探査機自身が判断しながら走る自律走行でした。探査機は自分で障害物を避け、ルートを選択して走ったわけです。
ローバの走行経路プランナーのフランク・ハートマン氏は、「今(オポチュニティが)走っている平原は非常に平らで、遠くまで見渡すことができる。『オポチュニティ』は、今は溝などに出会うと一時停止しているが、数日以内には全開で進める用になると思う。」と述べています。1年経ってもまだまだ大活躍のローバ、これからも成果に期待できそうです。

「スピリット」がまたみつけた水の証拠 (2005年2月21日 16:30)
本当は「また」を数回繰り返さなければいけないのかも知れませんが、またもや「スピリット」が水の証拠らしきものを発見しました。
しかも今度は、スティーブ・スクワイヤーズ教授(このコーナーを読んでいらっしゃる方にはおなじみと思いますが、ローバの科学責任者)に言わせると「これまで「スピリット」が分析してきた岩でもっとも重要で興味深いもの」だというのですから半端ではありません。
この岩は、「ピース」(Peace: 「平和」の意味)と名付けられた、コロンビア・ヒルに露出していた岩です。「この岩は山の基本的な部分を構成しているものだろう。水がこの岩を変成させるのに重要な役割を持っていたということを、この岩が証拠づけてくれる。」と、先ほどのスクワイヤーズ教授は述べています。
なぜここまでのことがいえるかというと、この「ピース」は、これまで「スピリット」が分析してきたどの岩よりも、硫酸塩を多く含んでいたからです。
硫酸塩は、水と非常に関係が深い物質です。グセフ・クレーターでみつかった岩にも多くの硫黄分が含まれていましたが、それは表面に転がっていたものでした。今回の岩は、教授が述べていたように山の基本部分を構成するものです。その、地中奥深くにあったと思われる岩に大量の硫酸塩(硫黄分)が含まれていたということは、水による変成が地下の深くにまで及んでいたことを示す重要な証拠です。また、マグネシウム塩と思われる、大量のマグネシウムの存在も確認されました。
この「ピース」には、鉱物として、かんらん石、輝石、磁鉄鉱などが見つかりました。いずれも、火山岩によく含まれる鉱物です。また、岩石は砂粒ほどの大きさの粒子の間を鉱物がのりのようにつないでいるという構造をしていました。
「まるで、一度細かく砕かれた火山岩が、もう一度硫酸塩分とマグネシウム塩分に富む接着物質の中で堆積して硬くなったようにみえる。」と、スクワイヤーズ教授は述べています。では、この塩分はどこからきたのか? 今のところ2つの可能性が考えられています。
1つは、硫酸塩やマグネシウム塩が溶けた水の中で、こういった火山岩の破片が堆積したというもの。堆積の過程でこういった塩分が徐々に析出して、今のような姿になったというものです。もう1つは、マグネシウムに富む鉱物を含む岩が、風化の過程で硫酸と反応して、今のような姿になったというものです。ただ、いずれの仮説でも水の存在が重要になります。

オポチュニティ、鉄いん石を発見 (2005年1月21日16:30)
火星ローバ「オポチュニティ」が、火星の表面で鉄いん石を発見しました。他の惑星でいん石がみつかったのははじめてのことです。
火星表面のいん石 いん石は全体に穴が開いており、大きさはバスケットボールくらい。ローバ搭載のスペクトロメータの分析によると、全体が鉄とニッケルでできています。地球上に落下するいん石のほとんどが岩のようなもの(石質いん石)で、金属からなる鉄いん石の割合はそう多くありません。その鉄隕石が落下して作ったクレーターの例の1つが、アメリカ・アリゾナ州にあるバリンジャーいん石孔です。
このいん石は、「オポチュニティ」が調査目標にしていた、落下時に落とした耐熱板の近くで見つかりました。「ものすごく驚いた。まさかと思った。」というのは、ローバの主任研究者であるスティーブ・スクワイヤーズ博士です。「まさか、私たちの分析装置で、火星外から来た岩を分析することになるとは思わなかった。いん石がどこからやってきたのかが興味深い。おそらく、鉄と岩石が分離するくらいに進化した惑星、または微惑星が壊れて、そこからやってきたものではないか。」
ローバチームの科学者たちは、早速、火星の表面上にある岩のうちいくつかが石質いん石なのではないかと考えはじめています。「火星は、鉄いん石よりも石質いん石の方が数が多いはずだ。私たちは今まで火星表面に多くの丸石をみてきたが、そのうちの一部が実際にいん石なのかもしれない。ポイントは、いん石から何をみつけるかではない…いん石は地球上にもたくさんあるからだ。このいん石が、メリディアニ平原(「オポチュニティ」の着陸地点)についてどのようなことを教えてくれるかだ。」(スクワイヤーズ博士)。

表面に露出しているいん石の数は、この平原が徐々に浸食されているのか、あるいは形成されつつあるのかを教えてくれるよい指標になります。
また、いん石がもしたくさんある場所があれば、別の探査の可能性も広がってくるでしょう。「火星の表面にもしいん石の宝庫のような場所があれば、私たちにとって新たな研究の可能性が広がることになる。例えば、将来的には有人火星探査計画によって、そういった場所からいん石を持ち帰って来るということもできるかも知れない。」(NASAの主席科学者、ジム・ガービン博士)。
このいん石は、耐熱板(ヒート・シールド=heat shield)に因んで「ヒート・シールド・ロック」と名付けられました。小型熱放射スペクトロメータによる最初の分析では、金属分が多くみつけられ、先週になって、これがいん石なのではないかという見方が強まりました。ローバが近くに寄って、さらにメスバウワースペクトロメータとX線スペクトロメータで分析した結果、週末になっていん石であるという結論に達しました。

「オポチュニティ」は、現在までの走行距離が2.01キロメートルに達し、最近になってローバの後方障害物検知カメラに、ちりによるまだら模様の汚れが出ている以外は、順調に動いています。「オポチュニティ」は、今後南にある「ボストーク」と呼ばれるクレーターへ向かう予定です。 「スピリット」は、既に4.05キロの総走行距離を記録しました。引き続き、ハズバンド・ヒルへの上りに挑んでいます。

ボストークを目指せ (2005年1月5日14:00)
ボストーク・クレーター 「オポチュニティ」の次の目的地は、現在探査が終了しつつあるエンデュランス・クレーターから南に約1.2キロメートル離れた、通称「ボストーク」(Vostok)クレーターになりそうです。また、その途中にある小さなクレーターも調査する予定です。
左の写真が、そのボストーク・クレーターの位置図です。上にあるのがエンデュランス・クレーター、そこから南の方へずっと下っていくと、ボストーク・クレーターになります。その途中に、「オポチュニティ」自身が着陸時に切り離した耐熱板を調査する予定です。


One Year on Mars (2005年1月5日10:30)
マーズ・エクスプロレーション・ローバのこれまで1年間の動きを振り返った、"One Year on Mars"というFlashアニメーションが、NASAウェブサイトで公開されています。NASAトップページ右側のコーナー "EXPLORING THE UNIVERSE" にあります。
また、同じコーナーでは、「スピリット」の技術者へのインタビューや、「火星の人気写真10枚」といったページもあります。

ローバ、ついに1周年を迎える (2005年1月4日10:00初回更新、15:10最新更新)
トピックス更新日付に「2005年」が入るとは、着陸時点で誰が予想できたでしょうか。2台のローバのうち、1号機「スピリット」が、着陸してから1周年を迎えることとなりました。
2台のローバは、「スピリット」が1月4日(日本時間)、「オポチュニティ」が1月25日(日本時間)に着陸しました。当初の稼働予定が3ヶ月でしたから、この実績はまさに驚異的といえます。
「『スピリット』が着陸した夜に、緊張の糸を切ってしまうことも可能だっただろう。」と語るのは、NASAのオキーフ長官です。「着陸のときの不安感を思い出すと、ローバがまだまだ順調に動いていることで、今この瞬間が私たちにとってよりエキサイティングに感じられる。ローバは一般の人々の興味を惹きつけただけではなく、宇宙開発のビジョンを進めるために大いに役立った。」実際、NASAウェブサイトの中で、この火星ローバのページは、実に90億ヒットという驚異的な数字を集めています。
JPL所長のチャールズ・エラーチ (Charles Elachi)氏の言葉です。「1年前には、火星ローバの1周年を祝うとはほとんど思っていなかった。2台のローバの成功は、何百人ものチームメンバーが、自分たちの知識と働きをチームのために捧げた、その成果である。」
ローバ計画主任研究者のジム・エリクソン氏の言葉。「2台のローバは時代にぴったりの形をしている。2台とも、火星の冬のいちばんひどい時期を見事に切り抜け、そしてもうすぐ春がやって来ようとしている。2台とも、探査を続けるための確固たる地位を築いている。ただ、保証はできないが。」

2台のローバのうち、「オポチュニティ」は、自らが着陸の途中で切り捨てた耐熱板が落ちている場所に向かって走っています。この耐熱板の焼け焦げ具合を調べることで、火星の大気がどの程度の摩擦熱を与えたかがわかるのです。これは将来の探査にもきっと役立つことでしょう。
「スピリット」の方は、コロンビア・ヒルの探検中です。12月には、これまでまったくみられなかったような岩を発見しました。いろいろな鉱物がごちゃまぜになった「ウイッシュストーン」(Wishstone)と「ウィッシングウェル」(Wishing Well)と名付けられた標本は、爆発でできたようにみえ、おそらくは火山、または隕石の衝突でできたものと考えられます。しかも、これまで調査してきたどの岩よりもリンに富んでいるという特徴があります。水に関係したものであるかも知れません。

今年の8月には、次の火星探査機「マーズ・リコナイサンス・オービタ」が打ち上げられる予定です。ちょうど時計が時を刻むように、火星探査のチャンスは、火星と地球の位置関係に従って、必ず26ヶ月おきにやってきます。「ここしばらくの間にある全ての探査のチャンスに、私たちは火星に探査機を飛ばし、ローバが発見した事実にさらに発見を重ねようと思っている。」(NASAの火星探査計画の主任研究者、フィル・ナデリ(Firouz Naderi)博士)。
NASA主席科学者のジム・ガービン博士の言葉です。「火星はその謎で私たちを惹きつけて来た。地球に最も近い姿をもつ惑星であり、多くの人々が、生命がいたかどうかの鍵が火星に存在すると信じている。ローバの探査により、火星はかつて水が豊富にある環境だということがわかり、生命に適した環境であることが判明した。これまでの発見を超えて、ローバは私たちの探査の歩みをまた一歩進めた。私たちは火星をロボットを使って探検しつづけるが、いずれは人間が降り立って探査する時が来るだろう。」

雲と霜を見た「オポチュニティ」 (2005年1月5日10:00)
※記事自体は12月13日のものです。また、他のトピックスを先に掲載したため、更新時間が前後しています。

ローバ2号機「オポチュニティ」は、これまで約半年にわたって探査を続けてきたエンデュランス・クレーターから出て、再びメリディアニ平原に戻る準備をはじめています。そんな中、ローバは珍しく、火星の雲と霜を目撃しました。
火星の雲 左の写真が、第290日に撮影された雲の写真です。これは「オポチュニティ」の大気観測中にみつかったもので、観測者にいわせると「壮観な雲だった」とのことです。「火星に天気があることを劇的に思い出させるものだった。晴れの日もあれば曇りの日もあるのだ。」(ローバ科学チームメンバーのミカエル・ウォルフ (Michael Wolff)博士)。
さて、火星にある水蒸気の一部は、火星の北半球が夏のときに、北極から南極へ移動していきます。地球のように赤道で大気の対流が仕切られている天体と違い、火星は「全球気候」の惑星なのです。この水蒸気の移動に伴って、メリディアニ平原でも水蒸気の量が増え、表面付近の温度が低いこととあいまって、雲や霜が出てくる模様です。
火星の雲 朝になると、霜はローバそのものにも降ってきます。左の写真は、ローバに降った霜です。2つの写真のうち、本来黒い棒(右)に霜が降って白くなっている(左)様子が分かります。ここのところ、「オポチュニティ」の発電量が回復するという奇妙な現象もみられていますが、これと霜の関係も、現在科学者たちが調べています。
エンデュランス・クレーターの最後の探検として、「バーンズ・クリフ」(Burns Cliff)と呼ばれる崖を詳細に探査する計画が立てられています。おなじみ、ローバ主任科学者のスティーブ・スクワイヤーズ博士によると、崖の下の方では、岩の層は最終的に風によって運ばれたような特徴がみえるということです。上の方は水によって運ばれたものかも知れません。この組み合わせは、この岩層を作った場所が、深い海のようなものではなく、水がある環境と乾いた環境を交互に繰り返していたとみられています。

「スピリット」、またも水の証拠をみつける (2005年1月4日16:10)
※記事自体は12月13日のものです。また、他のトピックスを先に掲載したため、更新時間が前後しています。

「スピリット」がコロンビア・ヒルで発見した岩石の中に、水の作用でできた鉱物があることがわかりました。
この鉱物は、針鉄鉱(しんてっこう: goethite)というもので、水に関係した鉱物です。針鉄鉱の方は水(液体の水、水蒸気、氷)があればできますが、2号機「オポチュニティ」の着陸地点に大量に分布している赤鉄鉱(ヘマタイト: hematite)は、水があればできるものの、必ず水が必要、というわけではありません。
この鉱物は、コロンビア・ヒルの「西尾根」で発見されました。「スピリット」自身は、今この尾根を上って、頂上の「ハズバンド・ヒル」へ向かおうとしています。
ここで大きな問題となるのが、水が(オポチュニティ着陸地点のように)表面に溜まっていたのか、あるいは地下にだけあったのかということです。ワシントン大学セントルイス校のレイ・アービッドソン博士は、「コロンビア・ヒルに上がって、岩の種類を特徴づけることができれば、水が火星の表面を流れていたのかどうかどうかの更なる証拠、さらには、岩石が水の中、あるいは流れの中でできたという岩石組織や鉱物学、化学的な証拠を探すことができるようになるはずだ」と述べています。
一方、以前から問題になっている「スピリット」の車輪ですが、不調の車輪の動きを他の5つの車輪に肩代わりさせることで、不調の車輪をなるべく使わない運用を続けています。ただ、基本的に2台のローバは順調で、「おそらく、1月には2台とも私たちと共に1周年を迎えられるだろう」と、ローバ計画責任者であるジム・エリクソン氏は述べています。

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