サンプル回収機構
小惑星を相手にするための、独特のサンプル回収方式
「はやぶさ」の最大の任務は、小惑星イトカワの表面に下り、その表面の物質を回収することです。
しかし、小惑星の表面がどのようになっているのかは、実際にたどり着いてみなければわかりません。固い岩になっているかも知れませんし、厚い砂に覆われているかも知れません。このため、回収しようとする物質を限定したやり方、例えば砂だと考えてすくい取るようなやり方ですと、固い岩で表面ができている場合には失敗することになります。
さらに、小惑星は非常に小さいので、その重力もわずかしかありません。小惑星イトカワの重力は地球の重力の約10万分の1で、事実上重力はないといってもよいでしょう。こういうところでは、例えばかき取るような機構ですと、その反動で探査機が動いてしまい、うまくサンプルをとることができないどころか、探査機がどこかへいってしまうことになりかねません。
そしてもちろん、はるか彼方の小惑星に行くためですから、軽量であることはもちろん、空気のない宇宙空間でも確実に動作することが必要です。
このような条件を満たすサンプル回収機構として、探査チームが作り上げたのが、きわめて独特なやり方、すなわち「小惑星表面に弾丸を発射し、その反動で巻き上がった破片を回収する」という方法です。
サンプラーホーンから、弾丸を小惑星へ撃ち込む
「はやぶさ」の特徴的な姿として、探査機の下のところに長く伸びた筒状のものがあります。これがサンプル回収機構の本体、「サンプラーホーン」です。
このサンプラーホーンの奥には、弾丸(プロジェクタイル=projectileといいます)を発射する装置が収められています。「はやぶさ」本体が小惑星の表面に近づくと、サンプラーホーンのいちばん下の部分は小惑星の表面すれすれまで接近します。そのタイミングで、約5グラムの弾丸は火薬によって秒速300メートルというものすごい速さで小惑星の表面へと撃ち込まれます。
そして、弾丸がぶつかった衝撃で飛び散った表面の物質の破片は、サンプラーホーンを伝わって「はやぶさ」の内部へと入っていきます(重力がきわめて小さいので、飛び散った破片が上の方へと飛んでいきやすいということにも注意して下さい)。
サンプラーホーンの奥には、弾丸発射装置のほかに、サンプルを回収するための搬送機構があります。この搬送機構により、探査機内部に導かれた破片は試料コンテナの中に入り、さらにそのコンテナが回収用カプセルの中へと送り込まれ、密封されます。
サンプルは採れた?
2005年11月末、「はやぶさ」はサンプル採集を実行しました。司令通りに小惑星イトカワの表面へ降下した「はやぶさ」は、所定の動作に従って表面へ舞い降り、指定されたタイミングで弾丸を発射した…ようにみえました。
しかし、弾丸が発射されたかどうかを知ることができるのは、衛星から伝わってきた発射信号によってのみです。そして、結果としてその発射信号は確認できませんでした。
ただ、これでサンプル回収が失敗したと考えるのは早計です。発射信号がうまく送られていなかった(つまり、弾丸が正常に発射された)可能性も考えられます。また仮に弾丸が発射されていなかったとしても、探査機が接近した衝撃で小惑星表面の砂が舞い上げられ、わずかではあるかも知れませんがサンプル機構の中に入り込んだ可能性も十分に考えられます。
いずれにしても、サンプルが回収できたかどうかは、地上で回収カプセルを開封し、中身を確認するまでの「お楽しみ」ということになりそうです。
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