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月を知ろう

月に関する研究発表
第1回パネルディスカッション「月の氷」


No. 11 2000年11月22日【水】09:57 出村裕英(NASDA)
> 発言No.8でルナープロスペクターの衝突の話題、
> 発言No.9で月の氷の検出方法・存在形態の話題が出ましたが、
> ちょっと前に戻って整理したいと思います。

(中略)

> 出村さん、春山さん、あるいは金森さん、
> まず、この「永久影」なんですが、月面上ではどのような条件下で
> 存在しうるんでしょうか。

月の自転軸は、黄道面に対して1.5度の傾きしかありません。もし、太陽高度の低い両極に凹地(例えば、衝突クレーター)があれば、年間を通して陽の射さない領域が生じます。地球自転軸は23.4度傾いているので、太陽高度が変化して四季および白夜・極夜が生じているわけです。もちろん、年間を通して暗黒の世界は地球上にはありません。

> それから(2)の条件、つまりこの永久影に「氷がある」ということについて。

いろいろ整理されて詳しい春山さんに振らせて下さい。

あと、金森さん、月レゴリス中の水の存在形態(粒間?非晶質?濃度は?)は月面施設建築材料を議論する上で基礎的な考察をされているかと思います。大まかなイメージを教えて下さい。

No. 12 2000年11月22日【水】19:54 春山純一(NASDA)
 春山@NASDA 月研究室 です。
 川勝さんに整理いただいた点について述べます。

●● 「永久陰」の存在について ●●

◆どういうものが「永久陰」か:
 出村さんが答えられているように、極における低地が永久陰となりえます。

◆永久陰はどのように確認されているか:
 探査機による写真データを重ね合わせたり、地球からのレーダー観測を利用したりして、月の(極)地形形状を把握しそれから、永久陰の領域を推定します。

◆どれくらいの領域が月の永久陰か:
 これまでの研究で、月では
 87.5度以北の北極域には、1000平方km以上の永久陰領域が、
 87.5度以南の南極域には、2000平方km以上の永久陰領域が存在すると推定されています。

◆月ができたときから「永久陰」があったのか:
 月の自転軸が、もし地球のように自転軸が大きく傾いていると、月の夏には極の低地にも太陽が照ることになります。 したがって、永久陰は殆どできないことになります。月が今のように自転軸が黄道面に対してほぼ垂直であることが月に永久陰ができる点で重要です。

 月の自転軸は、できたときからこのように垂直だったかというと、どうやらそうではなさそうです。このように自転軸が定まったのは、20億年前くらいではないかという研究があります。

永久陰の分布等は、SELENE計画で高度計や地形カメラによってかなり詳細に分かってくると期待されます。

No. 13 2000年11月22日【水】20:29 春山純一(NASDA)
 春山@NASDA 月研究室です。
 月の永久陰について、もう少しコメントします。

●●「永久陰」の中の氷について ●●

◆永久陰の中に氷が有る可能性は?
 永久陰の中に氷があるためには、
 1)源があること
  すなわち、水が月に降ってきた、月の上でできた、中から出てきたことが必要です。
 2)水が水のままでいること
  すなわち、降ってきたり、できたり、出てきたりした後、水素と酸素に分かれたり、ほかの物質と反応して水のままで無くなってしまうことが、無いことが必要です。
 3)永久陰まで到達すること
  すなわち、月から飛び出して行ったりしないことが必要です。
 4)永久陰から無くならないこと
  すなわち、せっかく永久陰に入っても、また陰の部分から飛び出したりその中でも反応したりして、失われないことが必要です。

 これらの条件が満たされる必要があります。

これら各項目について、いろいろ議論や研究があります。
次の機会にコメントしたいと思います。

No. 14 2000年11月22日【水】20:39 出村裕英(NASDA)
佐賀県の大学生からの疑問に応えます。

> 私は月について勉強し始めたところなので、非常に興味があります。
> このような形でパネルディスカッションが聞けて、大変うれしく思います。
>  疑問が一つあります。月に液体の水は存在しないと言われていますが、
> 永久影の中の氷が月内部の熱で温められて地下水になったりは
> していないんでしょうか?

温度が上がっても、気圧が高くないと、ガス分子になって逃げてしまいます。もし、地下で圧力を維持する閉じた空間があって、そこにH2Oと三重点温度(273.16K)以上の環境が達成されれば、「地下水」はあり得ます。が...

衝突破砕物のレゴリス層は空隙が多いので、着陸していろいろ漁れる深度にそんな場は無さそうです。液体の地下水は期待できません。

より深部ならあり得るか、という問いもありえるので、発展します。

月に水が無い、というのには、実は2つのレベルがあります。先に紹介したのは、月面温度圧力環境と、小さい脱出速度(月質量/重力の束縛)から「表面に水があるには永久影でないと」というものでした。月回収試料の分析によると、「岩石組成レベルでも」、水がみつかりません。花崗岩と呼ばれるものもありますが、含水鉱物(黒雲母とか)は、ごっそり抜け落ちています。月には水以外にも、カリウム・ナトリウムといった揮発性元素にも乏しいことが知られていて、月の起源を考える上で、重要な制約条件とされています。

つまり、月内部には、脱ガスできる水すら、はなっから無い、と考えるのが大勢です。

No. 15 2000年11月22日【水】20:46 春山純一(NASDA)
春山@NASDA 月研究室 です。

永久陰の中の氷について、簡単ですがまとめてみました。議論のネタにしてください。

◆水の源は?
 水があるとすると、いくつかの可能性が考えられます。
 1)レゴリス(月の砂)中の鉄による太陽風の還元:
   月の上の酸化鉄と太陽風の水素が反応して水が生成される。
 2)水を含む宇宙塵による供給:
   宇宙には、たとえば彗星からまき散らされた塵が存在します。
   これらには水分子が存在しています。隕石にも水分子が含まれています。これらが供給源となる。
 3)彗星による供給
   彗星は、雪玉のようなものと考えられています。こうした彗星が降ってくれば、おおくの水が供給される。
 4)内部からの噴出:
   水分子は、月の形成時には非常に微量だが存在し月が形成した後に、月の内部から噴出した。

 水は、まだ確実に発見されたとは言えませんが、もし有るとすると、どのような供給源だったのか、非常に興味深い問題です。
 逆に、もし月に水があるとすると、水の調査から、月や惑星の形成、過去の太陽系の状態について大きなヒントが与えられるかもしれません。

◆水は、そのまま水でいられるか? 
 水分子は、宇宙空間のようなところで太陽の紫外線をもろに浴びるとおおよそ1日で水素と酸素に分かれてしまいます。光乖離という現象です。
 このため、太陽にさらされていると、水がなかなか存在できないということになります。

 また、水分子は暖められると活発に動きます。月の重力が小さいので、暖められすぎると、水分子は月から逃げてしまいます。したがって、やはり太陽にさらされすぎたり、さらに熱いところにいすぎたりすると、水は月になかなか存在できない、ということになります。

 こうした意味で、太陽にさらされず且つ冷たい「永久陰」は水が存在するには好条件のところとなるのです。

 なお、佐賀県の男性がコメントされていたような「液体の」水が存在するのは可能性が低いかと思います。理由は、水の液体の相が存在できる温度-圧力条件がなかなか達成できなさそうであることが理由です。

 「水」というとき、「液体の」という誤解があるかもしれません。必ずしも、水は「液相の水」のことではないので、ご注意ください。

◆水は永久陰に到達するか
 月の表面に水分子が存在したとすると、水分子は「適度に」暖められると、月の表面を移動していくことが考えられます。うまい具合に移動を重ね、永久陰に到達するとそこで「落ち着く」可能性があります。

 この「水(分子)は移動して永久陰に到達する」という考えについては、移動の際にかなり光乖離してしまうこと、月の砂と結合してしまって、なかなか移動がされない、などの点が指摘されています。
 永久陰の近くに彗星などが落ちて、水分子がすぐに永久陰に到達することも可能性は低いですが、考えられますが、詳細については、今後の研究が待たれます。

◆水は、永久陰にとどまるか
 最近の研究では、「永久陰」は数K(-270℃近く)といった「超低温」ではなく、100度Kくらいに暖まるところもあることがわかってきました。太陽光が、クレーターの壁に反射したりして、永久陰部分といえども暖められるのです。この温度は、水の「昇華」を考えるときに重要です。宇宙の時の長さから言うと、低温でわずかでも昇華していくと無くなってしまうのです。
 1mの厚さの氷は、150K(-120℃程度)だと、数10億年以内に昇華仕切ってしまいます。
 小さなクレーター(10kmサイズ)ですと、この壁からの反射の効果がきき、水は億年といった長い時間には、無くなるだろうという研究結果があります。

 ただし、出村さんも述べているように、氷の上にうっすらとでも月の砂(レゴリス)がかぶっていると、この暖められる効果が減少し、水(分子)が存在し続けることができそうです。

◆水の存在形態
 水が「永久陰」に存在するとすると、「水は永久陰に到達するか」の所でも述べたように、何かしらの形で月表面に供給された水分子が暖められて移動していったと考えるのが素直なようです。そうすると、永久陰の中での水は「霜」のような形ではないかと思われます。

 また、ルナープロスペクターの中性子線計測器のデータから水の存在を仮定して得られる「月の砂中の水の存在比」は、1%のオーダーです。

 非常に局所的に氷の固まりがあることは、永久陰への供給機構やデータの解釈をもとに考えると、(完全には否定できないものの)、かなり可能性が低いと思います。

以上です。

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