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マーズ・サイエンス・ラボラトリー
搭載機器

マーズ・サイエンス・ラボラトリーは、これまで火星に着陸した探査機の中でも最大のものです。この大きさをいかして、数多くの探査機器が搭載されています。
この探査機の科学機器の特徴は、これまでの着陸機やローバーに搭載されてきたものをさらに高性能化したものが多いということです。火星探査に関してアメリカがそれだけ経験を積んできたことの証ともいえますが、一方では、着実な成果を挙げられるような機器を選び、手堅く成果を得ることを考えているということもいえます。
以下に挙げる11個の装置(ローバーには10個、熱シールドに1個)は、いずれも高性能、あるいは初搭載の装置となっており、また多数の装置でサンプルや周辺環境を分析するというコンセプトは、まさに「火星化学実験室」(マーズ・サイエンス・ラボラトリーの直訳)という名前にぴったりです。

MSLマストカメラ
Mast Camera (Mastcam)
ローバー「キュリオシティ」のマストの先端に設置されるカメラで、メガピクセル単位の画素を持つカメラ2台から構成されます。右側は広角レンズとなっており、風景の撮影に適した構造となっています。従来のカメラの3倍以上の解像度を誇る点が特徴です。左側のカメラは中間視野のレンズを持ち、近接撮影に適しています。カメラのレンズの高さは地上から約2メートルの位置にあります。
これらのカメラを用いて、ローバー周辺の様子や岩、石、砂などの撮影を行い、ローバー周辺の地質的な状況を明らかにすることに役立つデータを取得します。静止画だけでなく、ビデオ撮影を行うこともでき、1秒間の4〜7フレームの速度で、720ピクセル(縦幅)のいわゆる「高解像度」動画を撮影することができます。
また、このマストカメラに加えて、マーズ・サイエンス・ラボラトリーには、火星降下カメラ(Mars Descent Camera)と火星拡大鏡撮像装置(Mars Hand Lens Imager)という、さらに2つのカメラが搭載されています。この2つのカメラも、マストカメラとほぼ同様の設計になっています。
 
化学分析カメラ
Chemistry and Camera (ChemCam)
この装置は、ローバー「キュリオシティ」のマストの先端に設置された、岩石研磨用レーザー照射装置とカメラ装置、さらにはローバー内部に設置されたスペクトロメーターとデータ分析装置からなります。
レーザー照射装置は、サンプルから7メートルも離れたところからレーザーを照射し、そのサンプルを高熱で気化(プラズマ化)します。この状態で発せられる光のスペクトルを観測することにより、その物質の分析を行うわけです。
一方、この装置には望遠カメラが搭載されています。直径11センチのレンズを持つ望遠カメラは、物質の様子を詳細に撮影するとともに、1024ピクセル四方という高解像度での記録(ただし白黒)を残します。
強烈なレーザー光で穴を開けることで、表面の風化した岩層や砂などを一気に取り除き、岩石の新鮮な面を観測することが可能になります。また、岩石の中に水が含まれていれば、水素と酸素として検出されますので、岩石に水があるか、またあればどのくらいの量になるかを調べることも加納です。
 
アルファ粒子・X線スペクトロメーター
Alpha Particle X-Ray Spectrometer (APXS)
ローバー「キュリオシティ」のロボットアームに搭載されます。同様の装置は、これまでのローバー(マーズ・パスファインダーのローバー「ソジャーナ」やマーズ・エクスプロレーション・ローバーの「スピリット」「オポチュニティ」)にも搭載されていましたが、今回の装置は、これまでの装置に比べて大幅に感度が上がっています。また、向きの自由度が向上するなど、使い勝手も大きく向上しています。X線スペクトロメーターでは、同じだけの情報を得る時間が3分の1にまで短縮できているほか、
APXSのセンサー部分はお菓子の容器くらいの大きさで、アーム先端に設置されます。
この装置は、アルファ粒子(ヘリウム原子)とX線を先端から放出し、サンプルからの反射を測定することで、鉄やイオウといった元素の検出、及び量の同定を行います。なお、このアルファ線源としてキュリウムが用いられています。データはローバー内部の分析装置で分析されます。
また、今回のAPXSは、「自動測位モード」と呼ばれる動作モードを持つ点が大きな特徴です。内蔵のソフトウェアで、装置の対象物への接近、測定、十分な測定結果が得られたかどうかの判断、そして測定終了までをほぼ全自動でこなせるという優れたシステムです。
本装置は、カナダ宇宙庁が製造しています。
 
火星拡大鏡撮像装置
Mars Hand Lens Imager (MAHLI)
この装置は、やはりローバー「キュリオシティ」のアームの先頭に設置されていますが、方向を自由に変えることができます。岩石や砂などの様子をズームアップして撮影することが可能です。場合によっては周囲の風景の撮影も行えますし、さらには自由度を生かしてローバー自身を撮影することさえできます。
「拡大鏡」の名がついている通り、地表の細かい様子、例えば砂の中に含まれる結晶の構造や岩石の構造、岩相の細かい様子などを撮影することが可能です。これにより、ローバー周辺の地史や、地質構造などをより詳しく知ることができます。
このカメラの解像度は最大0.5ミリメートルにも達し(1メートルの距離から撮影した場合)、岩石の細かい構造を知るのに十分な性能を持っています。
 
化学・鉱物分析装置
Chemistroy and Mineralogy (CheMin)
この装置は、X線回折という手法を使って、粉末状になったサンプルの中に含まれる鉱物の種類や量を調べることを目的としています。X線回折を使って、火星のサンプルを測定するというのは、実は火星探査でははじめての試みです。
X線回折とは、X線をサンプルに当てた際に、X線がサンプル内の結晶構造などで反射される様子を調べるものです。鉱物はそれぞれ固有の構造を持っていますので、その面でどのように反射されるかを知ることができます。これを利用して、どのような鉱物が存在するか、また量がどのくらいになるのかを知ることができるというものです。
この化学・鉱物分析装置は、ローバーの全面部に設置されており、普段はカバーが被せられています。装置自体の大きさは25センチの立方体で、重さは10キログラムほどです。
ローバーは、搭載されているドリルやスコップなどを使ってサンプルを採取し、筒状の投入口からサンプルを流し込みます。投入されたサンプルは、150マイクロメートル以下のものだけがふるいにかけて通されます。
装置内には合計32個の分析用の筒が設置されており、これらの筒にサンプルが入ると、X線が照射され、その光の反射の様子を測定することになります。なお、32個の分析筒のうち、5個は地球から持っていった参考測定用の資料が搭載されていますので、合計で27個の筒に火星のサンプルが入って測定されることになります。
今回、X線回折の技術を使うことで、サンプル内のたった3パーセントの鉱物も同定することができるなど、測定精度が著しく向上します。また、似たような鉱物があったとしてもそれらを適切に区別できるなど、測定の質の面でも性能が上がります。鉱物、とりわけリン酸塩鉱物や炭酸塩鉱物、硫化物やケイ酸塩鉱物などの同定に威力を発揮することでしょう。
 
火星サンプル分析装置
Sample Analysis at Mars (SAM)
火星サンプル分析装置は、火星表面のサンプルを3つの装置で分析します。特にこの装置では、生命につながる有機物の発見や、生命に関連の深い元素の発見を目指します。また、同位体元素の比率を調べることで、火星の過去の進化の歴史などを知ることができます。
この装置は、ローバー「キュリオシティ」に搭載されている10の装置のうちで最も大きなもので、全体の大きさは電子レンジほどもあります。内部には1000度にまで加熱する装置もありますが、当然莫大な電力を使うわけにもいきません。この加熱装置が使う電力はたった40ワットというものです。
  • 質量分析計
    ガス内の分子の質量を測定することで、窒素、リン、硫黄、酸素や炭素、水素といった、生命を構成する元素がサンプル内にどのくらい存在するのかを知ることができます。
  • レーザースペクトロメーター
    レーザー光の吸収具合を調べるスペクトロメーターです。メタンや二酸化炭素、水蒸気などの量を知ることができるほか、炭素の同位体(炭素12と炭素13)、酸素の同位体(酸素16と酸素18)の比率を知ることができます。同位体の比率は、惑星がどのような進化をたどってきたかを知る上で重要な手がかりとなります。とりわけ、火星大気がどのような過程をたどっていまの分量にまで少なくなったかを知るためのヒントを与えてくれるでしょう。
  • ガスクロマトグラフィー
    地球上での化学分析にもよく使われる道具ですが、特に有機物の検出に威力を発揮します。いろいろな物質が混ざったガスをこの装置に通すことで、ガス1つ1つの成分を知ることができ、その中から特に有機物に関連した成分などを識別することも可能になります。
火星サンプル分析装置には、このサンプル分析を補助するための道具として、サンプルの分離・操作のためのシステムが搭載されています。ポンプやガスタンク、圧力計やオーブン、温度モニターなどが搭載されています。52ある小型バルブから、サンプルを加熱して得られる気体が直接この分析装置へと送り込まれる仕掛けになっています。
ロボットアームに搭載された収集装置で集められたサンプルは、このサンプル分析装置用の入り口から中へと送り込まれます。装置内には74個のサンプルホルダーがあり、このホルダーごと1000度まで加熱することができるようになっています(なお、いくつかのホルダーは校正用に使われます)。
さらに、9つのサンプルホルダーでは、化学薬品を利用して内部の物質を「誘導体」と呼ばれる別の化合物へと変化させる手法での分析が行えるようになっています。
 
ローバー環境監視ステーション
Rover Environmental Monitoring Station (REMS)
環境監視ステーションの名の通り、この装置は、火星表面の環境、すなわち天候を記録し、毎日、あるいは季節ごとの差を知るための装置です。
この装置が測定できるのは、風速、風向、大気圧、相対湿度、大気温度、地表温度、紫外線照射量です。測定は5分おきに行われ、最低でも1火星年にわたって観測を行う予定です。
風速、温度及び湿度のセンサーはマストの中間部に設置されており、気圧センサーはローバー内部、紫外線センサーはローバーの上部デッキに設置されています。
この装置の観測により、火星の気候の変化や、温度・湿度などの状況を知ることができ、将来的に火星に人間が到着した際に、滞在に役立つデータを提供することにもつながります。 この装置はスペインにより開発されました。
 
高エネルギー粒子測定装置
Radiation Assessment Detector (RAD)
この装置は、火星地表に到着する高エネルギー粒子を測定するものです。太陽や外宇宙からやってくるこういった粒子の量を調べることで、生命に有害なこれらの粒子の総量を推計し、将来の火星での有人活動の参考にすることができます。
また、この着陸点付近の環境が本当に生命にとって望ましいものであるかどうかも知ることができます。こういった粒子の存在は、火星にもし生命がいたとした場合には、それらの生命にとっても有害であると考えられるからです。
装置の大きさは約1.7キログラムで、上部を向いた大型の望遠鏡がローバーの左前方部に搭載されています。この望遠鏡で集められた粒子が内部の検出装置で計量される仕組みです。また、この装置は中性子やガンマ線も検出することができます。これらは火星の大気、あるいは火星の地下からやってくるものです。
実際、火星の放射線環境についてはまだよくわかっていない面が多いのです。2001マーズ・オデッセイは、「火星放射線環境実験装置」という、この装置と同様の機能を持つ装置を搭載していますが、2001マーズ・オデッセイは周回機、すなわち地表ではなく火星の上空での観測を行っており、地表での放射線量は大気の量などを考慮したモデル計算によるところが大となっています。しかし、実際にはそのモデルも不確実性が大きいの現状で、今回の装置で、地表の放射線量が実際に定量的に測定されることが大きく期待されています。
 
中性子アルベド測定装置
Dynamic Albedo of Neutrons (DAN)
この装置は、ローバーのすぐ下にある岩石(土)の中の中性子量を測定するものです。
この装置の特徴として、単に量だけではなく、中性子の散乱量も調べることができるという点があります。この特徴を利用し、ローバー直下約50センチメートルまでの深さの水素の量を測定することができます。
水素が検出されれば、それは水の存在を示唆することになり、この装置は火星表面、あるいは浅い地下における水の存在量を、ローバーで走り回りながら広範囲にわたって調べることができる装置です。
この装置は、ローバー後部に搭載された中性子発射装置からパルス状に発射される中性子の反射を捉え、記録します。この装置に「アルベド」(反射率)という名前がついているのは、そのためです。
この装置はロシア連邦宇宙局とNASAとで共同開発されました。
 
火星降下撮像装置
Mars Descent Imager (MARDI)
この装置は、その名の通り、マーズ・サイエンス・ラボラトリーが火星地表へ向けて降下する最後の数分間に、地表の様子を撮影するためのものです。科学的な意味合いはもちろん、正しい(予定した)着陸場所へ探査機が向かっているか、また探査機の高度がどのくらいかを知るという意味でも重要な装置です。この装置は数百枚の静止画画像を撮影するほか、ビデオ映像も撮影することになっています。
火星降下撮像装置には、8ギガバイトのフラッシュメモリーが内蔵されており、1600×1200ピクセルの画像、及び1秒間に4フレームの動画を撮影できます。この仕様はMSLマストカメラなどと同様です。軽量画像(サムネイル画像)及び数枚のサンプル画像はその日のうちに地球へと伝送されます。
さらに、ビデオはそのままユーチューブに流すことができるほどの精度で撮影され、後日、フル解像度のものが地球へと伝送されます。このビデオから、探査機の着陸の様子(熱シールドの分離や地表の様子)などがわかります。ただ、探査機は最終的にパラシュートを開いて落下し、その際に大きく揺れることが予想されます。そのため、そのタイミングではビデオ映像は大きくぶれる可能性があります。
パラシュートが切り離されれば、今度は逆噴射のロケットエンジンの振動が記録されることになります。ビデオは最後の着陸の瞬間まで撮影を続ける予定です。
探査機が大気の中を通過している状況を撮影するというのははじめてのことであり、火星の大気についての知見が得られることも期待されます。特に、探査機の動きなどを通して風速などを知ることができますし、将来同様の着陸探査を行う際にも大きな参考資料となることでしょう。
火星降下撮像装置は、一旦着陸すると今度は最高解像度1.5ミリメートルで地表を撮影する装置になります。地質学的な情報を得られることはもちろん、ローバーの走行情報なども得ることができます。
 
MSL大気突入・降下・着陸測定装置
MSL Entry, Descent and Landing Instrument (MEDLI)
この装置はローバーではなく、ローバーを火星大気突入時の熱から守る熱シールドに搭載されます。7つの圧力センサーと複数の温度センサーからなるこの装置は、火星大気の最上層突入の10分前から作動し、1秒間に8回の割合で情報を記録していきます。そして、パラシュートが開くタイミング、すなわち大気突入後約4分まで作動し、熱シールドがどのような圧力や温度にさらされたのかを記録していきます。
もちろん、これは工学的な記録としても大いに役立ち、将来の探査の際の貴重な情報となるでしょう。科学的な面でも、火星の大気モデルの構築、とりわけ火星上層大気についての新たな情報の取得に大いに貢献することになります。
今回、マーズ・サイエンス・ラボラトリーは、火星上層大気に、なんと秒速6.1キロメートルという超高速で突入します。これだけの高速で突入すれば、いくらか整体気が薄いとはいえ、とてつもない大気からの圧力と温度にさらされることになります。こういった環境にさらされる探査機がどのような状態になるのかを知ることは、火星をはじめ、大気のある天体への探査を将来行う、あるいは地球への帰還を行う(「はやぶさ」の例を思い出して下さい)際にも役立ちます。

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