月面を動くために、今のところいちばん有効な道具はローバーです。しかし、ローバーだけが表面を動く道具ではありません。

いろいろな移動道具が考えられていますが、そのうち1つが、小型のロケットを組み込んだ移動装置です。これは、月面を離陸し、比較的低空を飛行して、月面の別の場所へと移動することができる装置です。
移動距離は、ローバーよりは長く取ることができ、月面を自由に移動できるためには欠かせない道具になるとみられています。また、乗員も数人以上、将来的には十数人〜数十人にできるかも知れません。いわば、「月面バス」としての用途が期待されます。
ただ、実用化のためには、効率のよいロケットエンジン、誘導技術、人を乗せて安全に動くことができるための各種技術の開発などが必要です。

また、小型であることを重視するという観点であれば、もう1つ別の方法があります。車輪やクローラー(無限軌道。いわゆる「キャタピラー」®)を使って表面を移動するのではなく、自分の回転で飛び上がって移動する、という仕組みです。
この仕組みを使ったのが、「はやぶさ」に搭載された超小型ローバー「ミネルバ」です。
ミネルバは、内部に回転させるための装置を備え、自分自身の力でジャンプして、小惑星表面を跳ねるという仕組みで動くことになっていました。
このような仕組みの移動装置を、「跳ねる」という意味の英語から「ホッパー」と呼びます(いわゆる「ホップ・ステップ・ジャンプ」の「ホップ」です)。
ホッパーは仕組みが単純で、故障も少なく、また小型化することが可能です。さらにジャンプする距離が工夫できれば、比較的長い距離を移動させることもできます。
一方、ホップするためには重力が小さい方が有利です。「はやぶさ」の場合、着陸した小惑星イトカワの重力は地球の10万分の1でした。一方、月は地球の6分の1。地球より小さいとはいえ、イトカワよりははるかに大きな重力です。それだけ、ホップさせる装置も大がかりになりますので、月で実現させるには、効率よいホップのための装置の開発、搭載していく装置(あるいはシステム全体)の小型化などが必要でしょう。
また、人間を乗せるほど大型化するというのはおそらく非常に困難でしょう。従って、ホッパーの用途は、例えばローバーに乗せておき、ローバーでは探査が困難な場所(深いクレーターの中や、谷の下など)に放り込んで補助的な探査を行う、というようなことになるでしょう。

もっと遠い将来、月面に人が定住するようになり、大きなコミュニティができてくれば、例えば月面鉄道(鉄のレールの上ではなく、リニアモーターカーのような移動手段になる可能性もあります)のような、より大規模な輸送手段も開発されてくるでしょう。
今のところはまだまだSFの中の話に過ぎませんが、いつの日かそういったものを目にする時代が来る、そういう期待をしていきましょう。


■注

「キャタピラー」は、日本ではキャタピラージャパン社の登録商標です。また、Catapillar はアメリカ・キャタピラー社の登録商標です。