月から地球への「エネルギー輸出」

月面基地想像図 エネルギー、酸素、水、食料、建築素材……。これらは月面上で実験もかねて生産されることになるが、やがて「収益や社会への寄与を目的とする生産」に変わる日もくるだろう。

そうした面でもっとも有望視されるのが、エネルギーだろう。この連載の第3回でも述べたように、月の表面にはヘリウム3が数百万トンも存在していると推定されている。ヘリウム3は核融合炉の燃料となる物質で、数百万トンもあれば全人類分×数百~1000年のエネルギーをまかなえるといわれている。ヘリウム3あるいは太陽発電を用いて月面で生産された電気を、レーザなどに換え、地球へと送る技術が確立されれば、安全かつ大量のエネルギーを人類は手にすることができるのだ。

豊富な鉱物資源を利用

月にある鉱物資源の利用は、核融合炉発電よりさらに実現性が高い。アルミニウム、チタン、鉄といった金属の採掘と精製、鉱物資源から作られるガラス、シリコン、セラミックスなどの素材や、月の環境を利用した純粋材料の製造などなど。

これらは地球上での需要が高いばかりでなく、軌道上や月面でのニーズがより見込まれる。宇宙ステーションや月基地の規模は拡大の一途をたどり、建築・造成・保守のための素材は常に求められている状況にあるはずだからだ。

ハイテク部品を作ろうとすると、かなりの設備投資が必要となり、コスト高となってしまうが、素材の生産に限っていえば、月面はかなり有力な舞台と考えられているのである。

朝食はお化け植物のサラダで

食料の生産も、面白い。月面の重力は地球の6分の1。この環境下で育った植物は、地上の6倍の大きさになる可能性がある。1キロ近いトマトやきゅうり、というわけだ。また月面の植物栽培プラントは、内部の環境コントロールを安定して行えるため、生産効率も高くなる。新しもの好きの地球人が、お化け野菜を欲しがり、月からドンドン輸入する、ということも十分に考えられる。

観光もまた、月の資源となるだろう。ロケットやシャトルの安全性が向上し、コストが引き下げられれば「月へ旅行したい」という人が必ず出てくる。月へのシャトルを週に数便飛ばす航空会社が現れ、月面にリゾートホテルが建設されるだろう。それよりも早く、メーカーや商社の月支店が誕生するはずだ。

生産・研究・天体観測が活発に行われ、そのための人員が常に数千人も滞在するようになれば、そこはもうれっきとした都市だ。独自のレジャーや文化、経済、社会システムも作り出されるだろう。月面都市の独立などという大きなことはさすがにいえないが、少なくとも月は、貴重な資源、先端の技術、ビッグマネーが集結する一大経済圏に成長する可能性を秘めているといえる。

参考文献:岩田 勉著
2020年 日本人の月移住計画は もう始まっている

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このページは、1997年4月から1998年3月まで宇宙開発事業団(当時)の機関紙「NASDA NEWS」に連載された、「月がふるさとになる日」を移設したものです。記述内容に当時の状況を反映したものがありますが、オリジナル性を重視し、そのまま掲載しています。