技術研究は着々と進められている

 月の調査、調査結果の地球科学へのフィードバック、月に存在する資源の利用、月での医学研究…。これまでは月を目指し、月を利用することの意味を述べてきた。これらを実現するためには、もちろんそれを可能にする技術が必要だ。
 実は、人類の技術レベルは月面基地実現に十分な域に達している。月面ロボットの研究開発はすでに始まっているし、月面での建設・加工技術などは地上のものをほぼそのまま応用できる。「いますぐ月面基地を作れ」といわれれば、できないことはないのだ。

NASAによる月面基地計画

 もっとも、計画を滞りなく実現させるためには綿密なプランニングが重要だ。これについても、すでにかなり細かなレベルまで立案されている。たとえば月面基地・火星探査についてNASAがまとめた「サリー・ライド・レポート」では、次の3つの段階で月面基地の建設を進めることとしている。

(1)ロボットによる月探査
(2)6人の宇宙飛行士を送り込んで 基地の設営と居住用設備の拡充
(3)基地の拡充と実験・観測の開始

 2010年以降には滞在人口100人、月面工場の操業開始といった計画になっており、もしプラン通りに実現できれば、われわれが生きている間に「月の住民」が誕生することになるわけだ。

日本製のプロジェクトもある

月面天文台想像図 日本でも月を目指すシナリオが月惑星協会などによって作られている。この「月面基地建設のシナリオ」は、2024年までの約30年間を3つの期間にわけ、NASAの計画と同様、無人探査から有人基地へと段階的に進めていこうというプランだ。

(1)無人探査の段階
 どこに月面基地を作るのが最適なのかを、まず調べなければならない。月周回衛星からの観測、月着陸機や月面ローバによる探査が実施され、データが集められることになる。
(2)無人システムの建設と運用
 次にくるのが無人の月面基地を建設する段階だ。月面に送り込んだロボットを地上から遠隔操作し、エネルギー供給や通信のためのプラント・設備などを作ることになる。
(3)有人システムの建設
 無人システムを基盤として、人間が暮らせる設備を作っていく段階だ。居住用と食料生産用の小さな建物(モジュール)が建てられることになる。

 そしていよいよ宇宙飛行士を送り込む段階。すなわち「月の日本人」の誕生だ。また、基地建設と同時に月の探査、月面天体観測施設の設置、月環境利用実験も並行して進められることになるだろう。
 そしてシナリオの第1章は、もうスタートしている。それが月探査周回衛星計画「SELENE PROJECT」だ。

参考文献:岩田 勉著
2020年 日本人の月移住計画は もう始まっている

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このページは、1997年4月から1998年3月まで宇宙開発事業団(当時)の機関紙「NASDA NEWS」に連載された、「月がふるさとになる日」を移設したものです。記述内容に当時の状況を反映したものがありますが、オリジナル性を重視し、そのまま掲載しています。