冥王星探査を終え、次の探査目標であるカイパーベルト天体に向かっているニューホライズンズ探査機が、2月7日(アメリカ東部時間)に「セーフモード」に一時陥ったことが、探査チームの記事でわかりました。
セーフモード状態は約24時間続き、現在は回復しているとのことです。

冥王星上空を飛行するニューホライズンズ探査機

冥王星上空を飛行するニューホライズンズ探査機の想像図 (Photo: NASA/JHUAPL/SwRI)

セーフモードとは、探査機に重大な異常が発生した場合、探査機側で自動的に取る退避状態のことです。「セーフホールド」「セーフホールドモード」と呼ばれることもあります。通常の月・惑星探査機がこのモードに入った場合、基本的に探査機は最低限必要とされる機器以外の機器の電源を切り、アンテナを自動的に地球方向に向け、その状態に陥っていることを地球側に伝えます。
かつて、小惑星探査機「はやぶさ」が、自身の燃料漏れによってこのモードに入り、その後電源が途絶え、46日間行方不明になったことをご存じの方も多いでしょう。

今回のセーフモードの原因は、人為的なものでした。探査機に送られた指令(コマンド)が完全に送信できず、探査機が指令された通りの動作ができなかったためです。「はやぶさ」と同様、ニューホライズンズもアンテナを地球に向けた体制を取り、地球からの指令受信を待っている状態になっています。

現在ニューホライズンズは、次の目的地であるカイパーベルト天体2014 MU69へ向かって飛行中ですが、なにしろ人類が作った最速の惑星探査機ですから、2015年の冥王星最接近のときからさらに地球からの距離が長くなっています。現時点で、地球からの電波の往復には10時間半もの時間がかかるということで、復旧確認を難しくしている原因になっています。距離にすると57億キロも離れているそうです。
なお、ミッションチームでは、12日(現地時間)には平常運用に戻れる見通しだと述べています。

ジェット推進研究所(JPL)の研究者で、ニューホライズンズのミッション運用管理者であるアリス・ボーマン氏は、「ニューホライズンズが迅速に回復できているのは、他のミッションが自分たちの通信時間を削って、NASAの深宇宙通信網(DSN: Deep Space Network)の時間を提供してくれているからだ」と、他のミッションに感謝の意を表しています。
NASAは、遠い天体と通信するためのアンテナ網を持っており、これがDSNです。アメリカ・カリフォルニア州、スペイン・マドリード近郊、オーストラリア・キャンベラ近郊にそれぞれアンテナがあり、常に深宇宙の探査機と交信できる(つまり、どれかのアンテナが探査機を捉えている)状態を維持しています。
日本の月・惑星探査機(それこそ「はやぶさ」も)も、やはりこのDSNを使わせてもらっています。日本単独ではさすがにそこまでのアンテナ網は築けないからです。
それでも、緊急事態となれば、やはり窮地に陥っている探査機が優先ということで、他のミッションが本当は貴重な自分たちの通信時間を削り、ニューホライズンズに割り当てているというわけです。
「DSNを使うミッションではこれはよくあることだ。困難に直面したときは互いに支え合う、それが深宇宙ミッションだ。」(ボーマン氏)

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