ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は、2020年に打ち上げが予定されているヨーロッパとロシア共同の火星探査「エクソマーズ」の着陸機およびローバーの着陸点について、27日に第4回の検討会議を行うと発表しました。これまでの検討でかなり絞り込んできた着陸点を最終的に2箇所にまで絞り込むのが今回の目的です。
重要な会議ということで、2日間にわたって行われます。場所はオランダ・ノルドバイクにある、ヨーロッパ宇宙技術研究センター(ESTEC)です。

エクソマーズ2020年ローバー

エクソマーズ計画で2020年に打ち上げられる予定のローバーの想像図。(© ESA)

エクソマーズ計画は、火星に2回にわたって探査機の打ち上げを行います。そのうち、第1回の周回機の打ち上げは昨年3月に実施され、10月には軌道に投入されました。しかし残念なことに、周回機と同時に火星に向かい、着陸実験を行った着陸実証機「スキアパレッリ」は行方不明となり、他の火星探査機が撮影した画像データなどから、地上に激突したことがほぼ確実視されています。

この次の段階として、着陸機とローバーの打ち上げが予定されています。なお、本来この第2回めの打ち上げは2018年に行われるはずでしたが、昨年5月、ヨーロッパとロシアは開発の遅れから2年の延期を決定しました
ローバーの目的は、地表の物質を分析し、生命の痕跡、とりわけ有機物や水などを探り、かつての火星がどのような姿であったかを探ることにあります。
ローバーは着陸機から数キロほど移動することが可能で、このような物質が発見されることが期待される場所などを重点的に探査することができます。特に、ローバーには2メートルの深さまで掘削が可能なドリルが搭載されており、これによって、これまであまり調査されてこなかった地下の物質を直接採取、ローバー内部で分析することができます。新たな発見が期待できそうです。

さて、2015年10月に行われた前回の着陸点選定会議で、選定会議のメンバーは3箇所を着陸地点候補と選定し、詳細な調査を実施すべきと結論づけました。この時点ではまだ打ち上げは2018年で、最有力の着陸点として「オクシア高原」(Oxia Planum)が挙げられていました。
しかし、打ち上げが延びたこともあり、選定会議メンバーは改めてこのオクシア高原を候補地の1つとし、他に2つの場所として残っていたアラム尾根 (Aram Dorsum)及びマワース峡谷 (Mawrth Vallis)のうちどちらか1つをもう1つの候補として、いったん2箇所に絞ることにしました。

エクソマーズの3箇所の着陸点候補

エクソマーズの3箇所の着陸点候補。オクシア高原は緑色の点、アラム尾根とマワース峡谷は青い丸で示されている(アラム尾根が下、マワース峡谷が上)。赤い丸で示されたヒパニス峡谷(Hypanis Vallis)は第3回選定会議時点で候補から外れた。© ESA/CartoDB

オクシア高原は全体に平らな地形からなっており、また、これまでの探査で多くの粘土鉱物が存在することがわかっています。粘土鉱物は水中で砂や泥などが堆積してできるものですので、この地形の様子からみて、この平原がもともと大きな湖だったのではないかと考えられます。
アラム尾根は「尾根」と表記していますが、この周辺はわりと平らで、水が流れたような跡が多数みつかっており、またかつて洪水があったと思われる平原に囲まれています。
マワース峡谷にはやはり非常に厚い粘土鉱物の層があることが知られており、かつて多量の水があった場所ではないかと考えられています。

今回の会議では、選定委員がこれまでの検討結果を持ち寄った上で議論し、その候補地点の状況からどのような科学的な成果を期待できるかについて話し合います。また、着陸及びローバー走行の際の問題点がないかどうかについても検討の中に含められます。そして、それぞれの地点について、ローバーを3キロ走行させた場合の模擬ミッションが提案される予定です。
そしてこれらの議論の結果を踏まえ、会議2日目に投票が行われ、最終的に2つに候補地店が絞られます。発表はヨーロッパ時間で28日(火)午後とのことです。

[おことわり] 火星の地名につきましては、国際天文学連合(IAU)の下部組織、惑星システム命名ワーキンググループ(WGPSN)が決定しています。命名は固有の名前と、地形的な特徴を表す単語の組み合わせからなっています。
今回の地名については、日本語版ウィキペディアの記述に沿う形で、Planumを「高原」、Dorsumを「尾根」、Vallisを「峡谷」と記述しています。ただ、地形的な特徴を表す単語についての日本語訳は確定したものではなく、あくまでウィキペディアにおける記述です。日本天文学会や日本惑星科学会などの学会でもこの訳語は定めていません。
さらに、地名の固有の名前についても、月探査情報ステーションの方針に乗っ取り、発音に近い形での記述としましたが、今後より正確な発音が分かればこの部分の変更がありえます。
上記の点をご了承くださいますようお願いいたします。