このブログでもたびたび取り上げてきていますが、韓国は2020年に月探査機(おそらくは着陸機とローバー)を打ち上げるという野心的な計画を持っています。これについては、実現できるのかどうかという点について専門家や内外の国民の間からも議論が出ているところですが、このほど、韓国大手新聞のハンギョレ新聞が、この月探査計画の実現性に疑問を呈する記事を発表しました。

韓国の月着陸船の想像図

韓国の月着陸船の想像図 (中央メディアより)

『セヌリ党の「半分の真実」月探査公約、「二番煎じ」「無賃乗車」』というかなり刺激的なタイトルがつけられたこの記事では、現在韓国が進めている月探査計画について、与党であるセヌリ党が示した内容を元に検証を行っています。
ここで出てくる計画では、2016〜2018年にNASAと共同で月探査機(周回機)を打ち上げ、2018〜2020年に韓国独自ロケットで月探査機(着陸船・ローバー)を打ち上げるというものです。今年はすでに2016年、しかももうその4分の1が経ってしまっていますから、その周回機にしてもすでに何らかの形になっていなければ到底間に合わないと思うのですが、今のところそのような話はありません。

記事では、この月探査計画について、「時間が問題」として、ロケット開発にかかる時間が少なすぎる(つまり、計画全体が急ぎすぎ)と疑問を呈しています。また予算についても少なすぎるとして、アメリカとの比較を挙げています(私(=編集長)としては、いきなりアメリカと比較するのはややおかしいと思うのですが)。
最終的に、韓国航空宇宙研究院(KARI)の月探査事業団長である崔杞ヒョク氏は「予算があれば達成不可能ではない」とするものの、匿名の宇宙工学専門家は「ロケット開発には多くの試行錯誤が伴い、政府の一貫した関心が必要だ。予算を投入したからといってできることではない」と計画実現に否定的な見解を述べています。これが、記事の見出しにあった「半分の真実」という意味です。

記事ではさらに、もともと2025年に実現させるとしていた月探査を、現在の朴槿恵政権が2020年に大幅に前倒ししたことにも触れています。その点を称して記事では「二番煎じ」であり「無賃乗車」と述べているわけです(「無賃乗車」というのは私も意味がよくわからないのですが)。

このブログでも韓国の月探査計画についてはことあるごとにずっと追いかけてきましたが、宇宙先進国が必ず経る、失敗を繰り返す段階を抜きにして一気に成果だけを得る、というのは、少なくとも自主技術開発という点を尊重するのであれば不可能であると私も思います。逆に、自主技術開発を抜きにするのであれば、何のためにわざわざ月探査を行うのか、その意義が問われてきます。
記事では、月探査にはこの3年間(2016〜2019年)に1978億2000万ウォン(日本円では約198億円)、ロケット開発(韓国型のロケットということで、KSLV-IIを指すものと思われます)には10年間で1兆9572億ウォン(日本円で約1911億円)もの巨費が投じられると述べています。ですから、この巨費を通して何を韓国が実現するのか、「宇宙強国」というスローガンだけではない、その先にある宇宙開発を含めた技術構想をしっかりと立てて欲しいと、韓国政府には思います。無理をすれば、そのつけは何倍にもなって返ってきます。