民間資金で月に探査機を送り込む賞金レース「グーグル・ルナーXプライズ」(GLXP)に加わっている日本で唯一のチーム「ハクト」はこのほど、月面で使用する接着剤に関し、接着剤メーカーのセメダインとパートナー契約を結ぶと発表しました。
このパートナー契約においては、セメダインが、ハクトが月面に送り込むローバーに使用するための接着剤の開発を行い、ハクトの月面探査を支援するということになります。

ハクトのローバー (プリフライトモデル3)

ハクトのローバー。飛行前最終段階にあたる「プリフライトモデル」3となっている。(写真: ispace)

接着剤は、探査機においても各所に使用されます。通常は溶接やボルト締めなども多く使われますが、それでも重量の軽減や機器開発・組み立ての柔軟性を確保するという意味で、接着剤を使うことは非常に便利です。
ただ、月面は非常に過酷な環境です。温度は太陽の光が当たる昼まで100度、当たらない夜間はマイナス100度になります。こういった環境に耐えられる接着剤の開発は実はかなりの技術的な挑戦となります。また、打ち上げの際には大きな振動がかかりますから、接着力が不足してしまったら接着した部品が剥がれてしまい、大変なことになります。
その他にも、真空や月の細かい砂(レゴリス)など、宇宙には地球とは全く違う挑戦が待ち構えています。それらを克服し、ハクトをつきに無事に送り届け、かつローバーを月面で走らせることができるための接着剤の開発パートナーとして、日本でも接着剤メーカーとして有数の実績を誇るセメダインが選ばれたというわけです。

ハクトのローバーでは、電子部品の接着はもちろんのこと、打ち上げ時の振動に耐えるため、及び月面の砂の侵入を防ぐためのコーティング加工(ポッティング加工とも呼ばれます。開いている部分などを接着剤で塞ぎ、密封するとともに、クッションの役割も果たします)などに接着剤が使用される予定です。
今後、月面に実際に飛行するローバー(フライトモデル)の開発に際し、接着剤の開発、及びその真空や極端な温度下での耐性、また探査機組み立ての際の作業のやりやすさの評価などを、ハクトとセメダインが共同で行っていくことになります。

セメダインの岩切浩社長は、ハクトのミッションを支えることを誇りに思うとした上で、「セメダインは、オールジャパンの力を結集したHAKUTOのパートナーとして、これまで培ってきた接着技術で力強くサポートしていきます。」と述べ、日本の技術力を月の挑戦に活かせることに大きな期待を寄せています。
ハクトの開発元である株式会社ispaceの袴田武史代表は、「セメダインの民生品の技術を積極的に活用し、従来のスタイルに捉われない宇宙開発の新しい形になるでしょう。」とコメントしており、ハクトそのものが新たな宇宙ミッションのスタイルを切り開く上で、今回のパートナー提携が大きな前進であることを述べています。

ハクトのパートナーは、セメダインを加え、現在以下の通りとなっています。

これからハクトのローバーの開発は、いよいよ月面に実際に飛行する期待の開発へと進んでいきます。この挑戦が実り、日本の技術が月に「一番乗り」を果たす日を私も期待したいと思います。