今年(2017年)は月探査の年になりそう、と新年のごあいさつで申し上げました。そして、月探査の年で大きな話題になりそうなのが、中国の月探査です。中国は今年、同国初となる無人サンプル・リターン探査機「嫦娥5号」を月に打ち上げる予定です。
無人でのサンプル・リターンは1970年代の旧ソ連が挑戦していますが、それ以来となります。そして、今回は旧ソ連の「ルナ」探査機と比べても高性能な探査機を送り込むことになりそうです。まぁ、時代が進歩しているので当然ではありますが。
そのような嫦娥5号の最新情報について、中国の宇宙開発の最新情報を伝えるブログ、レオナード・デービッドさんの「INSIDE OUTER SPACE」に1月2日付で記事が掲載されておりましたので、ご紹介します。

まず上でも述べましたが、月からのサンプルリターンは、旧ソ連が行って以来、40年ぶりとなります。
旧ソ連ではルナ16号が101グラム、ルナ20号が55グラム、ルナ24号が170.1グラム、月からサンプルを回収しています。なお、ルナ24号は、「ルナ」シリーズ最後の探査機です。
これに対して、嫦娥5号は、一部報道では最大で2キログラムもの「大量の」サンプルを地球へと持ち帰ってくるとのことです。
なお、アポロ計画で得られた月の石は全部で約380キログラムもあります。これはやはり、人間が行き、石を大量に持ち帰ってきたという「威力の差」ということがあるのかと思います。

ところで、月の石を持ち帰ることがなぜ重要なのでしょうか。
月の石と一口にいっても、どこの月の石も同じ、というわけではありません。地球の石も場所によって異なりますが、月も多様な地質構造を持っています。さらに、同じ、例えば「玄武岩」という分類がされる石であっても、中の成分は微妙に異なり、このような成分差は、その石の成因を表しています。その場所がどのような地質過程を経て今のようになったのか、それを各場所ごとに明らかにしていくことが、月全体の成因やこれまでの進化を明らかにするためには重要なのです。
「では、上空から探査すればいいじゃないか」と思われるかも知れません。日本の「かぐや」をはじめ、各国の探査機が上空から地質(鉱物の量や元素量など)を調べてきました。しかし、上空から調べられる精度には限界があります。また、地表で得られる石と上空のデータを改めて突き合わせて、上空のデータの正しさを検証することも必要となります(専門用語で「グラウンドトゥルース」といいます)。
少ないサンプルであっても、より正確な測定、そしてより正確な科学的な理解のためには、サンプルは絶対的に必要なのです。そして、いろいろな場所のサンプルこそが求められているものなのです。

さて、嫦娥5号は4部分からなると、中国のメディアでは報じているとのことです。これらはそれぞれ「周回機」「上昇機」「着陸機」「地球帰還モジュール」だそうです。
嫦娥5号の副デザイナー(ミッション全体の統括者と思われます)のRuan Jianhua氏は、中国中央テレビ(CCTV)のネットメディア「CCTV-Plus」のインタビューに答え、「着陸機と上昇機は一体となって月へ着陸し、無人サンプルリターンを実施する。さらに今後は、火星、さらには他の小惑星からのサンプルリターンについても考えていきたい。私たちはより遠いところを目指すことを考えている。」と述べています。

中国の月探査への力の入れようは、この月探査情報ステーション、そして月探査情報ステーションブログの読者の皆様であればご存知かと思いますが、今回の嫦娥5号は、中国月探査の第3段階に入るという意味で非常に重要です。
中国は月探査を3つの段階に分けています。第1段階が「周回」(月の周りを回ってデータを得る)で、これは2007年の嫦娥1号、2010年の嫦娥2号で達成済みです。第2段階は「着陸」(降りて、ローバーを使って直接探査を行う)で、こちらは2013年の嫦娥3号で一定の成功をみました。さらに、2018年には、史上初の月の裏側への着陸を狙う嫦娥4号が控えています。
そして第3段階はサンプルリターンで、これが嫦娥5号です。
中国国家国防科技局(中国宇宙開発において、その実施機関である中国国家航天局の上に存在する組織)のTian Yulong長官は、昨年「月探査に終わりはない」と述べており、中国は月探査を国家的事業として継続していこうという意志を持っていることを示しています。そして、Tian長官は「嫦娥5号は第3段階の開始を意味するものであるが、それによって探査が終了するということではない」とも述べています。
この言葉は非常に意味が深いものです。第3段階が終わったあと、中国がいよいよ有人月探査を目指すのか、それとも嫦娥6号(情報がほとんど出てきていません)のことを意味しているのか、慎重に考える必要がありそうです。

このTian長官によると、「我々は中長期的な月探査機開発に向けた検討の実証の初期段階にある。また非常に革新的な機能を持った月探査機、例えば月の極地域(南極あるいは北極)への着陸を行えるような探査機の提案を行っている。これらは特別な業務が終了したあと(編集長注: 嫦娥5号のことか?)に実施されるだろう」と述べています。
月の極地域は、水の存在や「永遠の昼」(電力供給に都合がいい)などの存在から、月面基地に最適な場所とされています。アメリカは2019年に月南極への着陸を目指すRPMという探査機の打ち上げを目指しています。また、アメリカの民間企業「シャックルトン・エナジー」も、月南極への基地設置を目指しています。ここに中国が加わる可能性もあるというわけです。

Tian長官はさらに、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)やその他の国と「月面基地を構築し、科学探査を行うことを検討しており、これは将来人間が月に到達した際、技術的、あるいは資源という側面から重要になるだろう。」と述べています。
Tian長官の発言をみる限りでは、月面基地(当然有人です)の構築を中国は一応視野に入れているようにみえます。ただ、まだこれは漠然とした内容で、具体的にいつ、どこに、どのような基地を誰と協力して作るのかということはよくわかりません。ただ、無人探査の第3段階が終了すれば、次に有人月探査がやってくるというのは自然な流れであり、問題はそれを中国がいつ決断するかだと、編集長(寺薗)は考えています。

もちろん、有人探査となれば無人とは比較にならないほどの費用も発生しますし、いくら中国が地球低軌道で有人飛行の経験を積み重ねているとしても、距離が圧倒的に長い月となればそう簡単にいかないかも知れません。おそらくそこでヨーロッパと組むという選択肢を持ち出しているのだと思いますが、国際協調という点であればアメリカ主導の動きも出てくるでしょう。とりわけ、トランプ次期政権は共和党政権であり、伝統的に共和党は月回帰の傾向が顕著です。

2017年、ハクト、そしてグーグル・ルナーXプライズにも注目ですが、中国の月探査も新たな段階に入る、ということを忘れないでおきましょう。