これまで打ち上げ予定が確定していなかった、…というより、「打ち上げ」という噂が出ては延期になっていたインドの月探査機「チャンドラヤーン2」ですが、どうも今度は確実なようです。
ウェブサイト「mashable」(マッシャブル)や、インドのニュースサイト「News Nation」(ニューズ・ネーション)などによると、今回の打ち上げ時期についてはインド宇宙機関(ISRO)のキラン・クマール総裁が、3月1日に開催されたベルス大学(Vels University)での会合で発表したものです。それによると、チャンドラヤーン2は来年の早い時期、おそらくは第1四半期の打ち上げの可能性が高いとのことです。また、ISROは現在、月着陸用のエンジン(小型ロケット)の試験を実施しているとのことです。
クマール総裁は、月着陸実験のため、人工的なクレーターを作成し、技術者たちが試験を行っていると述べています。

同じく総裁によると、探査機はインド国内3箇所で地上試験が実施されており、「打ち上げ準備は整いつつある」と述べています。

ニューズ・ネーションによると、チャンドラヤーン2は周回機、着陸機およびローバーから構成され、打ち上げはGSLV Mk.IIロケットで行われるとのことです。周回軌道からの観測を行うほか、軟着陸の試験も実施、最終的にはローバーを月面に走らせる予定です。
総裁によれば、この「無人での月軟着陸を実現するため、推力を調整できるエンジン(小型ロケット)を開発している」とのことで、これが上記の試験中のエンジンなのではないかと推測されます。

インドは2008年10月に、初の月探査機となる「チャンドラヤーン1」を打ち上げました。チャンドラヤーン1は月を周回する周回機で、11の科学観測機器を搭載するという非常に野心的な探査機でした。しかし、本来の寿命(2年)に届かない9ヶ月(2009年8月)に探査機に異常が生じ、これ以上の観測ができなくなりました。
ただ、搭載されたアメリカの観測装置のデータから、月面に多くの水(といっても正確にはOH基=ヒドロキシ基)が存在することが明らかになるなど、一定の成果をあげています。

チャンドラヤーン2については、2013年ころから開発、打ち上げの噂がありましたが、最初に述べた通り伸びに伸びてしまっています。これについては着陸機の影響が大きいようです。
当初はこの着陸機はロシアから提供されるということだったようですが、途中から自主開発の着陸機(おそらくはローバーも含めて)に切り替えられ、それで打ち上げが伸びているのではないかと考えられます。
ただ、今回の情報、すなわち2018年第1四半期の打ち上げはかなり確度が高いものと考えられます。

1つは発言者です。 ISRO総裁が明言しているということは、時期が多少前後するとしても、打ち上げが近いことを示唆するものと考えられます。試験についても場所などが明言されており、実際に開発が急ピッチで進んでいることが考えられます。
2つ目はタイミングです。このブログでもたびたびお伝えしている通り、2017年末を締め切りとする月着陸レース「グーグル・ルナーXプライズ」が、現在最終段階を迎えています。このレースに最終的に勝ち残っているチームに、インドのチーム「チーム・インダス」があります。このチームは日本のチーム「ハクト」のローバー「ソラト」と相乗りして(というか、ロケットはインドのPSLVなので、日本チームが乗せてもらう形になりますが)今年末に月への打ち上げを目指しています。
つまり、技術的にはインドは月着陸を十分行える(チーム・インダスの構成はわかりませんが、ISRO技術者との交流もあると考えてよいでしょう)実力を持っているとみて間違いありませんし、国としても民間チームとしても技術が熟成していると考えてよいでしょう。

さて、2018年第1四半期にチャンドラヤーン2が月へ向かうとなりますと、その前にグーグル・ルナーXプライズの各ローバーが月面着陸しており、一部は月面での活動を続けている可能性もあります。
さらに、中国の月着陸機「嫦娥3号」およびそのローバー「玉兎」もまだ活躍を続けています。来年初めころは、月面で多数のローバーが同時に活躍しているという状況も十分に考えられます。楽しみです。

なお、ニューズ・ネーション紙によれば、以前から噂があるISROの金星探査計画については総裁は議論は続いているもののまだ完全に固まっているわけではないと述べています。こちらも方も要注目です。