純民間資金で月面に最初に到達したチームに賞金を授与する技術開発競争「グーグル・ルナーXプライズ」(GLXP)に日本から唯一参加しているチーム「ハクト」は、2月24日に日本科学未来館で記者会見を行い、ローバーの打ち上げ計画を発表しました。
発表によりますと、ハクトのローバー「テトリス」と「ムーンレイカー」(両機は一体となって動きます)は、別のGLXPエントリーチームであるアストロボティックのローバー及び着陸機と共に、アメリカのスペースX社のロケット「ファルコン9」で打ち上げられる予定です。時期は2016年後半とされています。
GLXPの賞金期限は2016年末の月面到達なので、時期としては適切といえるでしょう。

打ち上げロケットは、アメリカの宇宙ベンチャー企業「スペースX」が開発したロケット「ファルコン9」(ファルコン・ナイン)で、着陸予定地は月面の「死の湖」と呼ばれる場所です。
死の湖は、「湖」と呼ばれるくらいで、月の海の中では小さなものではありますが、直径は約150キロあり、その意味では決して小さいわけではありません。場所は北緯45度、東経27度で、月の表側、比較的地球からもアクセスがしやすい場所といえるでしょう。

今回ハクトの2台のローバーは、このファルコン9にアストロボティックの着陸機「グリフィン」、ローバー「アンディ」と共に乗り込みます。つまり、具越同舟、とまではいいませんが、互いにライバルである2つのチームのローバーが、同じロケットで月に向かうという、一見ちょっとありそうにないことを行います。
ただ、ロケット打ち上げの手配には巨額の費用が必要になります。とりわけ目標が月となると大型のロケットが必要になる一方、例えば相乗りでの打ち上げを目指したとしても、条件に合う打ち上げがなかなかみつからないことも考えられます。その点、ライバルであっても相乗りであれば打ち上げ費用を折半できますし、手配も容易です。
そこで、誰しもが思う疑問は「両方ともにミッションを達成してしまったら、賞金はどうなるのか」ということです。この場合、Xプライズ財団から支払われる賞金2000万ドルは両者で折半ということになると、ハクトでは述べています。
なお、このようなチーム同士の連携はグーグル・ルナーXプライズでははじめてとのことです。

さて、この着陸地点「死の湖」ですが、ここには月面で月探査機「かぐや」が発見した縦穴が存在することがわかっています。ハクトのローバーは、この縦穴に潜って探査を行うことを目指していますので、この場所はまさに行くべき場所であるといえるでしょう。

記者会見の席で、アストロボティックの最高経営責任者(CEO)であるジョン・ソーントン氏は、彼(のチーム)が「月面でのNASCARレース」を夢見ていたと語り、多くのチームが同時に月面に降り立ち、レースを展開することを夢見ていたと語りました。そのうえで、ハクトが彼らと同時に降り立つことで、このレースが一歩前進したと喜びを語っています。
NASCARレースはアメリカで人気の自動車レースで、多くの車がひしめき合いながらサーキットを回る様子はアメリカのお茶の間でも人気を博しています。

また、チーム・ハクトの袴田武史代表は、先日の中間証発表の際に、IHIが新たなスポンサー企業になったことに加え、今回打ち上げが決まったことを「非常に大きな前進」と評価、その上で、「彼ら(アストロボティック)のローバーと競う世界初の月面レースに、今からとてもワクワクしています。」と抱負を語っています。

アストロボティックは、グーグル・ルナーXプライズの中間賞でも多くの賞を獲得した、いわば「一番人気」のグループです。手強い相手と同居して月へ向かうことになるハクトの活躍を、私も期待したいと思います。

なお、このアストロボティックは、以前ご紹介した、ポカリスエットを月面へ運ぶ計画にも関与しています。民間企業として将来的に月輸送を担うことになるとすれば、極めて革新的なことになります。