中国政府機関の広報活動を担う国務院新聞弁公室は、27日、「2016年の中国の宇宙活動」(原題: China’s Space Activities in 2016)という文章を発表しました。

この文書は内容が5つに分かれており、

  1. 中国の宇宙開発の目的、ビジョン及び原則
  2. 2011年からの大きな前進項目
  3. 次の5年間に向けての主要課題
  4. 開発に向けてポリシー及び手段
  5. 国際的な情報交換及び協力

から成り立っています。おそらくですが、中国の宇宙開発の5カ年計画の最終年が今年だったので、それのまとめの文章ではないかと思います。

全文はかなり長いため、本サイトで重要となる、月・惑星探査についての部分だけをとりあえずまとめます。

まず第2章「2011年からの大きな前進項目」の中には、深宇宙探査について1節が割り当てられています。

2012年12月、嫦娥2号が小惑星トータティスに接近し、観測を実施した。2013年12月には嫦娥3号が月表面への軟着陸にはじめて成功し、現時点でも月表面の探査を実施している。2014年11月には、(将来的な月探査第3段階のサンプルリターン計画に備えて)大気圏再突入実験機の運用に成功。大気圏再突入と第2宇宙速度領域での探査機の運用の実績を積んだ。
月探査では、月の高解像度画像を得ることにより人類社会に大きな貢献を果たしている。また、月表面の形態学、構造、表面の物質組成、月表面環境、月からの天文観測などの研究も実施できている。

また、第3章の「次の5年間に向けての主要課題」にも、同じく深宇宙探査についての1節が設けられています。

中国は引き続き月探査計画を着実に実施していく。その中で、無人でのサンプル採集及び回収、地球への機関帰還を行う。これまで計画されてきた通り、中国の月探査の方針「周回、着陸、サンプルリターン」という3段階での探査進展に基づき、2017年末にはサンプルリターン機である嫦娥5号を打ち上げる。さらに、2018年をめどに嫦娥4号を打ち上げ(編集長注: 号数の順番が入れ替わっていますがこれで間違いありません)、史上初の月の裏側への無人軟着陸を実施する(編集長注: 嫦娥3号及び4号が着陸機、嫦娥5号及び6号がサンプルリターン機です。打ち上げ順が逆になってしまったのはこの号数の付け方の問題です)。嫦娥4号では着陸点付近の調査及びラグランジュ点(L2点)との通信を実施する。これらの月探査により、研究室における月サンプルの研究が可能となることが期待される。また、地質学的な調査・研究や、低周波の天文学観測も(編集長注: 月の裏側は地球からの雑音が届かないため、電波天文学観測に適しているとされます)実施し、月の起源と進化を明らかにする。
中国は初の火星探査を実施し、周回・着陸・ローバー探査のキーテクノロジーを習得する。最初の火星探査機を2020年に打ち上げるが、これはローバーと周回機からなる。さらに、火星からのサンプルリターン、小惑星探査、木星系探査、他の惑星のフライバイ探査について検討を進める。状況が許せば、太陽系の起源と進化、あるいは生命の探求に関わる関連プロジェクトも実施する。

この他に、国際協力の章では、上記、月の裏側への着陸を目指す嫦娥4号に、オランダが開発した機器を搭載していくことが記されています。

今回の文書自体は、これまで伝えられてきた情報と大きく異なる部分はありませんが、嫦娥5号、嫦娥4号、火星探査について中国政府が公式に進めることを明らかにしたということは大きいと思います。
またさらに、2020年火星探査にとどまることなく、将来の小惑星や木星系(木星本体及びその衛星)などへの探査に言及していることにも留意した方がよいでしょう。

ちょっと気になることがあるとすれば、嫦娥4号についてです。実施時期について、文章では英語で”around 2018″と書かれています。嫦娥5合の方はもう少しはっきり「2017年の終わりまでに」(英語では”by the end of 2017″)となっているのと比べますと、若干曖昧さを残したものとなっています。これが単に「もう少し先だから」確定を避けているだけなのか、開発の難航を示唆しているものなのか、あまり深読みするのは避けたいと思いますが、気をつけてみていく項目ではないかと思います。

もう1つは「嫦娥6号」です。
中国はこれまで、月探査は2機の探査機を「ペア」にして探査を行ってきました。上記の通り、中国は第1段階を「周回」、第2段階を「着陸」、第3段階を「サンプルリターン」として探査を進めており、2つ目の機体(具体的には号数で偶数のもの)は本来は1つ目の機体(号数で奇数のもの)の失敗に備えた予備機体で、そちらが成功すればより挑戦的なミッションに割り当てることになっています。
例えば、周回機である嫦娥2号は、月を周回したあと深宇宙探査機として活用され、上述のように地球から5000万キロ離れた小惑星トータティスへの接近及び観測を実施しています。嫦娥4号は、成功した(している)嫦娥3号の予備機であり、だからこそ史上初の月の裏側への着陸という大胆な探査を実施できるのです。
ところが、今回の文書では嫦娥6号の話が出てきていません。少なくともこれまでの中国の月探査であれば何らかの開発を行っているはずなのですが、「嫦娥6号」の文字すら出てこないというのは私としてはかなりの違和感を感じます。
編集長(寺薗)としては、月サンプルリターン機は嫦娥5号だけで、6号を作らない可能性を考えています。これは、2020年の火星探査機開発のための人的、あるいは予算的なリソースを確保するためかも知れません。

また、有人月探査についてはほとんど触れておらず、第3章の一節、有人飛行の節(の一部)でこう述べているにとどまっています。

我々はこれらの(編集長注: 宇宙ステーション「天宮」などでの長期滞在技術を指すと思われる)技術を活用し、有人宇宙飛行のレベルを引き上げ、将来的に月周辺空間(cislunar space)への探査を行うための技術に道を開く努力を行う。

逆にいえば「月周辺空間」に触れているという点は重要といえば重要ですが、もう少し積極的に述べるかと思っていたので、編集長としてはやや拍子抜けです。

以上、これらの文書は、今後の中国の宇宙開発(2017年〜2021年)を規定するものとなります。この文章は中国の宇宙開発が非常に広範な分野にわたっていることを示すものであり、中国の宇宙開発を知る上では一読しておくことが必要でしょう。